手の届かない君に。

平塚冴子

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3学期

スキー体験合宿2日目その5

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久瀬の指示で3時過ぎまでは牧田達とお土産などの買い物をした。
途中、他の生徒とも合ったが、怪しまれたりはしなかった。
3時半を過ぎて集合時間まで残り少ない。
「そろそろ車に戻って。
最後のイベントあるって。」
牧田が僕に耳打ちした。
「イベント…?」
気にはなったが、とりあえず言う通りに田宮に声を掛けた。
「石井に気付かれないように駐車場に戻るぞ。」
「えっ…あ、はい。」
僕等はそっとその場を離れた。

行き先のわからないままジャガーは走り出した。
運転手に聞いても、久瀬に口止めされてるようだ。
「にしても…大丈夫かな?時間が…。」
「そうですね~。
っていうか、そもそもの意図がわかりません。
午前中の写真も何の意図があったのでしょう?」
「意図って…。」
この恋愛鈍感娘が!
わかれよ!察してくれよ~!
「だから…その。
写真全然撮らないってのもどうかと…。
いや…そうじゃない…。」

ダメだまた言い訳しようとしてしまった。
言い訳なんかいらないんだ…。

彼女は首を傾げて僕を見た。
「僕が欲しかったんだ。
田宮の写真…。
その…普通じゃ撮らせてくれないだろ。」
僕は素直な気持ちで答えた。
「そうですね…確かに、いつもならすぐに断ってました。
特に携帯の写真なんかは…。」
「嫌だったら…ごめん。
でも、そうでもしなきゃ…。」
「嫌だなんて…。
絶対にウェディングドレスなんて着る日は来ないと思ってましたから。
嬉しかったですよ。
お姫様気分を味わえて…。
いい思い出になりました。」
彼女は少しはにかんで僕を見た。
彼女の命のタイムリミットは18歳…頭を久瀬のセリフがよぎった。
「…田宮…。」
僕は彼女の手の上にそっと自分の手を重ねた。

「到着です。」
運転手が車を止めて言った。
車を降りてみるとそこには湖が広がっていた。
「湖を見せたかったのか?」
「どうでしょうね。」
とりあえず辺りまで2人で行ってみる。
「気を付けろよ、湖の中入ったらかなり冷たいぞ。」
「…本当。冷たい!」
彼女は湖の水に手を入れて冷たさを確認した。

「あ…。」
辺りが急な変化を始めた…。
色が…暖かい薄いオレンジ色…だんだんと濃さを増していく。
「夕焼け…綺麗…。」
彼女も立ち上がって湖に反射する夕日に目を奪われた。

オレンジ色が僕等を染めていく…濃く…この世界を暖かな色に…。

自然と僕等は手を繋いでいた。
どちらからともなくだった…。
でも、しっかりとお互いの存在を確認し合うかのように握った。
時間が止まった空間で…僕等2人だけの…空間の中…お互いの気持ちが寄り添った気がした。

「あのさ…田宮…。」
これは告白のチャンスだと僕は思った。
僕はゴクリと唾を飲み込んで意を決して彼女に向き直った。
「何ですか?」
無邪気な彼女の笑顔が僕に勇気をくれる…。
「僕は…。」

ブルルルブルルル
清水先生からの電話だった。
「教師が集合時間に遅れてどうすんだよ!ボケ!今何処だ?」
…何ていうタイミングで電話してくるんだよ!
「あ…。えーと。
田宮とその…湖に。」
「えっ…!そっか…なら仕方ないか。
ってか、ちゃんと前もって連絡入れろ!」
「はい。すいません。
すぐに戻ります。」
「ホテルに直接戻れ!今、点呼取ったり確認作業してる。
なんとか時間稼ぎするから運が良ければホテルで待ってましたって言い訳出来る。
わかったら速攻帰れ!」
「はい。ありがとうございます。」
僕は電話を切る田宮を連れて車に飛び乗った。

運転手に速攻ホテルを目指して貰った。
結局、告白は出来なかった。
くそっ!最高のシュチュエーションだったのに!
時間の無さが悔やまれた。

慌てて車に乗ったせいか、僕等の手は握られたままだった。
何となくてを外すタイミングが掴めなかったし…このままでいたいと思ってしまう自分もいて。
彼女も、何も言わずに手を握ったままでいてくれてる。
僕の右手と彼女の左手が自然と繋がってる事が嬉しかった。
僕は繋いだ手を僕の方に引き寄せた。
左手で繋いだ彼女の手を撫でた。
「先生…?」
「手…この感触が…好きだなって…。」
「セクハラですか?」
げっ…ヤバ…そうなるのかな…?
「そう、思うか?」
「いいえ…。確かに嫌ではないです。
先生と手を繋ぐのは…。」
「ありがとう。」
「ふふふ。」
車はホテルに到着した。
車から降りると、バスが来るのが見えた。
「とりあえずホテルに入るぞ!」
僕等は速攻でホテルに入って、先に待ってました感をだした。
「具合悪くなって先に帰りましたで通すぞ!
多分、清水先生も乗っかってくれるはずだから。」
彼女は頷くとロビーのソファーに横になって、具合悪く見えるように偽装した。

バスから降りた生徒達がゾロゾロ入って来た。
清水先生が僕の顔を見てホッとした表情を見せた。 
ロバ先生もこちらに気が付いたようだ。
「田宮さん、大丈夫なんですか?
武本先生。」
「あ、はい。貧血のようで…。」
「先に帰るなら連絡して下さいね。
心配しましたよ。
…武本先生が迷子になったと。」
「この歳で迷子扱いですか?」
「うぷぷっ。冗談ですよ。」
なんとかごまかせたようだった。
牧田は柱の陰からピースサインを送ってよこした。
「あー。武本。
じっくり話し聞かせろよ。」
清水先生が耳元で囁いた。
…尋問って事だよな…やっぱり。
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