手の届かない君に。

平塚冴子

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3学期

姫を巡る攻防

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翌日の旧理科準備室は一触即発の状態だった。
金井先生が早朝から乗り込んで来たのだ。
僕は取りあえず椅子に座らせて、コーヒーを差し出した。
「いい香りですね。」
「どうも。」
僕はなるべく冷静さを保とうとしていた。
「実はですね。
ロバート先生からスキー体験合宿について、少々聞きまして。」
「そうですか。
で…何か気になる事でも?」
「かなりありましたね。
武本先生はちょくちょく、姿が見えなくなるとか?
特に2日目の観光では行方不明状態に。
新年会でも席を外したまま、戻らなかったとか?」
「それが何か?問題は起こっていませんが。」
僕は腕組みをして金井先生に負けないようにした。
黒縁メガネを通して金井先生を真っ直ぐに見据えた。

「どうやら、今のあなたに遠回しに言うのは無意味なようだ。
単刀直入に言います。
田宮 真朝とどこに行って何をしていたんですか?」
金井先生は立ち上がり椅子に座った僕を見下ろした。
「それを聞いてどうするんです?」
「これからの対応を考えますよ。
僕はどうしても彼女を僕の物にしたい。」
「彼女は物じゃない!」
「僕の質問に答えて下さい。
でなければ…ここから向こうの部屋に行きます。
今、彼女のいる旧理科室に。」
…確かにそれはマズい…。
今まで僕がずっとここに居た事もおそらくバラすつもりだろう。
金井先生は本気だ。
ヒシヒシと圧を感じる。

「金井先生の考えてるような下世話な事は一切ありませんよ。
この前、言った通り。
彼女にきちんと告白しました。
僕の本当の気持ちを洗いざらいにね。」
「それだけにしては時間的におかしいと言ってるんですよ。
ごまかしはやめて頂きたい。」
旧理科準備室の空気は張り詰めて痛いくらいだった。

「写真を…撮りました。」
「写真?…彼女は写真は嫌いだと。
必要最低限の物しか撮らないと言ってましたよ。
どうやったんですか?」
「…2人だけの秘密なので言えません。
彼女と約束してます。
撮った写真も同じです。
誰にも見せられません。
ま、いかがわしい写真ではない事だけは保証しますよ。」
「本当にあなたは色々と姑息な手を使いますね。
ドンくさい振りをして手を出すのが早かったり、陰で彼女をコントロールですか?」
「コントロールしてる訳じゃない。
金井先生、あなたは自分の気持ちばかり押し付けて彼女を理解していない!
カウンセラーなら、まずは理解して下さい彼女の事を!」
「…痛いところを突いてきますね。」
金井先生は急にトーンダウンした。
…どうしたんだ?

「彼女に関しては…どうしても感情が先走ってしまうんですよ。
いつも通りの冷静な判断が出来ないんですよ。
もどかしさや…苛立ちが邪魔をするんです。」
「それは…期待してしまってるからです。」

それは…極当たり前のことなんだ。
恋をすれば普通なら相手に自分を好きになって貰って、お互いに触れ合って…けれど、そんな期待は彼女には酷な事になってしまう。
彼女の重荷にしかならないんだ。

僕はそっと立ち上がり、中扉の小窓に目をやった。
彼女はスケッチブックに何やら描いていた。
「あのままの…変わらない彼女。
それをまずは受け止めないと…。
彼女の時間は止まってるようにゆっくりだ。
こちらの時間に合わせようとしても無理なんですよ。」
確か…彼女の《勉強会》の友達も言っていた。
小学生の時と変わらず時間が止まってるようだと。
そして…僕もそれを感じていたはずだ…。
心地よい…ゆっくりと流れる時間…。

「やはり…久瀬君が言っていた通りですか…。
あなたはスタートの時点で彼女に近い…。
今になって、よくわかりますよ。
これは…運命だと思いますか?」
「どうでしょうね。
僕はともかく、彼女はそんなの認めないと思いますよ。
僕と彼女の出逢いが運命だなんて…。」
僕は中扉に寄りかかり、目を伏せた。

「武本先生…あなたは…。
いえ、何でもありません。
そろそろミーティング時間では?」
金井先生は何かを言おうとしてやめてしまった。
「ああ、そうですね。
もう、そんな時間なんですね。」

僕と金井先生はそっと旧理科準備室を出た。
旧理科室には彼女が何も知らないままで、そこにいる。
背中に彼女の存在を感じたまま、僕は廊下を歩いた。
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