手の届かない君に。

平塚冴子

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3学期

王子の価値

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「おーっす!今夜、楽しみだな!」
職員室に入るなり、テンション高い清水先生が肩を組んできた。
「おはようございます。喜びすぎですよ。」
「バーカ。
こういう時くらいしか、キャバクラなんて行けね~だろ。
お前だってまだ、安月給だろ!」
「いいですね。テンション高くて。
僕なんか朝からダダ下がりですよ。」
僕は溜息をつきながら、自席についた。
「んん?朝から何かしらあったのか?
頼れる先輩に話してみなさい!」
頼れるって…自分で言うな。まったく。

「魔女に襲撃されました。」
「はああ?襲撃?」
「姫の目の前で、いきなりデープキスされました。
もう、犯された気分ですよ!」
「ぶほっ!お前…遊ばれてんなぁ。ははは。」
清水先生は指を差して腹を抱えて笑った。
「笑わないでくださいよ。
もう、呪いでもかけられたかと思ったんですから。」
「呪いね…確かに奴の呪いはハンパないからな。
姫の呪縛はそう簡単には解けないぞ。」
「そうですね。
でも、何とかします。絶対に。」
「おっ!言うね~。ふふん最近のお前、いい感じだよ。。
そういう面でも、今夜は楽しみだな。」
「僕も楽しみにしてますよ。」
僕と清水先生は朝のミーティングの為に席を立った。

来週半ばの実力テストの簡単な打ち合わせが行われ、ミーティングは終了した。
はぁ。できれば、朝のやり直しがてら放課後に1度、田宮に会っておきたいんだが…。
また…魔女がいたりしたら…。
今日はあいにく1年4組の授業もない。
食堂も今日は人が多いし…おそらく金井先生も一緒だろう。
手ェ繋ぐだけでもいいから…エネルギー補給…したかったな。
魔女のお陰で憂鬱になりそうだった。

「んん?どうした?魔女の事まだ気にしてんのかよ。」
「あ…いえ。
今日は1年4組の授業無いんだなって…。
すいません。公私混同ですよね。」

わかってる。
けど…ここ最近、彼女の近くにいる事が多くて…それに慣れてしまってたから…。
余計に…恋しい…。

「公私混同。結構じゃねー?
人を好きになるってのに常識に囚われるなわざ、本気の恋じゃねぇ。」
「清水先生…。」
「ほらよ。旧資料室のカギ。
俺は使わねーから、お前持っておけ。」
「えっ…。」
「問題起きたら自己責任!
これだけ胸に刻んでおけ!」
「はい!ありがとうございます。」

旧資料室…これなら…田宮美月も…金井先生もいない…。
中休み…いや昼休み…昼食後…。
僕は田宮にメッセージを送った。

『昼食後の昼休み、旧資料室で待ってる。』

送信してすぐに返信が入った。

『わかりました。行きます。』

「よし!」
ガッツポーズを思わずしてしまった。
僕のテンションは再び上昇し始めた。


職員室から廊下に出てホームルームへと向かう途中で何か違和感を感じた。
「武本先生!今日お昼一緒に食べましょう!」
「お弁当作って来ました。」
「私も一緒に!」
何だ何だ?
急に1・2年の女子が数人、僕に誘いをかけて来た。
いや…ええ~~?勘弁してくれよ!
何でお前等の、お遊びに付き合わなきゃなんないんだ?
田宮と会う前に女子に囲まれて弁当?
うわー!彼女に見られるよな…100%見られるよ!
かといって、こんなに…断るのもな…。
後々、個々で来られてもそれはそれで大迷惑だ!
えーい!くそっ!
「じ、じゃあ。皆んな食堂でな。」
はははは~~。自爆しそう。
なんだろ、これが魔女の呪いか?
今日はあちこち地雷だらけだ!

「それは、価値が上がってるからですよ。
気をつけて下さいね。
それだけ、他の人の目が先生に行く事になります。
行動に注意しないと、彼女に迷惑がかかりますよ。」
朝のホームルーム後、葉月に指摘されてしまった。
「価値が上がるって…?」
「この前のスキー体験合宿とかで生徒とのコミュニケーション取ってたじゃないですか。
担任クラス放っておいて。」
葉月はチクリと言った。
「うっ!すまん…その。」
こっちは告白で頭いっぱいだったんだよ。
「バレンタインデーも近いので、ほのかに人気的価値が上がったんです。」
「困る!そんな価値が上がっても!」
「プッ。でしょうね。
ま、1時的ですよ。
バレンタインデー過ぎれば熱も冷めますよ。」
「バレンタインデー過ぎ…って。」
嘘だろ~何だよ!この、急なモテ期は!
こんなんじゃ…バレンタインデーは絶望的になりそうだ。
「だったら、宣言したらいかが?
僕には結婚を前提とした恋人がいます!って。」
「結婚!?お前!相手知ってて…!」
「ふふふ。
でも、ハッキリ言わないと、勘違いさせるのも可哀想ですよ。
わかってますよね。先生。」
「あ…その事は本当に…すまないと思ってる。」
「ま、経験を無駄にしないで下さい。」
葉月はそう言い残して前を歩いて行った。

そうだ…これくらい何だ。
僕自身がしっかりしてればいいんだ。
僕の心は揺るぎないものだから。

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