手の届かない君に。

平塚冴子

文字の大きさ
210 / 302
3学期

王子の宣言

しおりを挟む
廊下に出ると、隣のクラスから出て来た清水先生と鉢合わせた。
「おい!何だありゃ。お前の人気急上昇だぞ。」
廊下でざわつきながら、僕に声を掛ける女生徒達に清水先生は驚いていた。
「それについて、お願いがあります。
今日の昼休み、僕と一緒に彼女達と食堂で食事して下さい。」
「俺を巻き込む気かよ。」
「いえ、ちゃんとした態度を取るつもりではいますが…相手も子供だし…サポートして欲しいんです。」
「ったく。仕方ねーな。
お前には貸しが多いな。」
「そのうち、キチンと返します!」
「そのうちどころか、今夜の話し…色々聞き出してやるからな。
告白の話し聞いてないし。
覚悟しておけよ!」
「げっ…。」
やっぱり、魔女の呪いだろこれはぁあ!
くそっ!
やっぱり、早く田宮から元気を貰いたい。

昼休みに入り、僕と清水先生は食堂に向かった。
途中の廊下から既に何人かの女生徒がついて来ていた。
「武本先生は、お弁当作って来てますから、これを食べて下さい。」
「全員のは食べられないし、君1人のを食べるのも何だ。
今日は食堂の食事を取るよ。」
僕はやんわりと手作り弁当を拒否した。
隣の清水先生は肩を震わせて笑いを堪えていた。

食堂のテーブルに着くとザッと10人ほどの女生徒に囲まれた。
おいおい、一気に来たな…。
「こりゃ、全員相手したら身体持たね~な。
ふはははは。」
清水先生は僕をイジって喜んだ。
「武本先生って、今お付き合いしてる人いないんですよね。」
「葉月さんも違うって…。フリーですよね。」
「どんなタイプの女の子好きですか?」
あ~。またこういう、恋のイメージだけで寄ってくる奴ら。
基本苦手なんだよ。
君らみたいな相手を知りもいないで、イメージ先行で寄ってくるの。
でも…ほとんどの女子って、こういうのなんだろうな…。
田宮が飛び抜けて違ってる…つくづくそう思う。

「あの…。残念だけど…僕は君達の誰とも教師と生徒の関係以上になる気はない。
ハッキリ言って、困ってる。
僕には…。
一生一緒にいたいと思える女性がいる!」
きゃーきゃー騒いでいた生徒が水を打ったように静まり返る。

「誰です?」
「大学生?」
「教師仲間?」
再びザワザワし始めたところで、清水先生が口を挟んだ。
「嘘じゃないぞ。
俺も知ってる女だ。
お前等と違ってオスに尻尾振ったりしない女だ。」
キツめなその言葉に、女生徒達は引いた。
「期待させてしまったならごめん…。
でも…。これだけは譲れないんだ。」
僕は真剣なまなざしで彼女達に言った。

「な~んだ。フリーじゃないじゃん!」
「誰よ!武本フリーっつたの!」
彼女達は浅はかな考えだったせいもあり、皆んなすぐに納得してくれたようだ。
葉月にも感謝しないとだな。
始めから僕も、香苗や葉月に対してこうしていれば良かったんだ。
始めから…自分が田宮を好きな事を認めていたら、傷つく人は出なかったんだ。
改めて、自分の不甲斐なさを反省した。

そんな昼食を終えて、僕は周りを気にしながら旧資料室を目指した。
3時間目の中休みに鍵を開けておいて正解だったな。
少し遅れてる気がする。
さっきの光景は彼女も目撃したのかな…。

ガラガラ…。
旧資料室を開けると、彼女はやはり先に来ていた。
狭い埃っぽい部屋の向こうの窓辺で、肘をついて外を見ていた。

「遅れたかな…すまない。待たせて。」
「いえ。先生こそ、彼女達をおいて来て大丈夫なんですか?」
やっぱり、見られてた!
「あれは…違うんだ…。
その…。」
僕は慌てて、彼女の真後ろまで歩いた。
「せっかく、モテてるのに…何で私なんですか?」
「えっ…。何でって。」
「う~ん。可愛い子や、綺麗な子が男の人って好きなんじゃないかな?って…。
わざわざ、私を選ぶなんて…どうなのかなって…。」
「だから!どうして自分をそんなに下に見るんだ!」
僕は思わず、背後から彼女を抱きしめた。

「僕は君じゃなきゃダメなんだ!君しか…僕には君しかいないんだ。」
「…そう…なんですか…。
それでは…仕方ありませんね。」
彼女は小さな声で呟いた。
「ああ。どうしようもないんだ。
この気持ちは変えられない…。」
彼女は僕の顔の下でゆっくりと頭を斜めにして、僕の右肩に頭をもたれ掛けた。
背後から抱きしめてる僕の手に、自分の手をそっと重ねた。
僕は彼女の首筋に顔を埋めるようにして、目を閉じた。
彼女の香りが僕を包み込んでいた。

「この部屋…少し寒いですね。」
「ん…寒いな。」
僕等はお互いの体温で温めあっていた。

「今朝はごめんなさい。
姉は心配性だから…。
先生は…姉とキスするの嫌でした?」
「ん…嫌だった。
キスは君としたい…。」
僕は重ねた手の指を絡めながら言った。
「先生が学校で言っちゃダメなセリフですよ。
今のセリフ。ふふふ。」
「ん…そうだな。
本当…そうだな…。ははは。」

この気持ちいい感覚…止まっ時間の中で…2人だけが触れ合える…そんな不思議な感覚。
これが…僕の心に幸せをくれる…。
君しか出来ない事なんだ…。
他の誰でもない…君にしか…。

僕は彼女に勇気を貰い、午後の授業へと向かった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...