手の届かない君に。

平塚冴子

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3学期

町娘の告白2

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会議室の前にやって来た。
「すぅ、はぁ。」
深呼吸して、金井先生に視線を合わせた。
金井先生は頷くと、会議室のドアに手をかけた。

コンコン。
「金井と武本先生です。」
「おう、今開ける。」
中から清水先生の声が聞こえてきた。

ガチャン!
鍵を開けて清水先生が現れた。
「お前等以外いないな。入れ!」
金井先生と僕は会議室に滑り込んだ。

会議室奥の椅子に葉月が申し訳なさそうに、肩をすぼめて座っていた。
「とにかく座れ。」
葉月の右に清水先生、左に金井先生、斜め正面の下がった席に僕は座った。

「こういうことは、金井先生の専門だ。
金井先生が主導でお願いします。」
清水先生が金井先生にお願いした。
「はい。わかりました。」
金井先生はそう言って、体ごと葉月の方を向いた。

「まずはアレコレ聞いたりしませんから、自分の話したい順番で話して下さい。
ゆっくりで構いません。
休憩したい時も言って下さい。」
金井先生は優しく、葉月の目を見て話した。
葉月はうつむき加減で、上目使いで金井先生を見て一呼吸置くと、ゆっくりと話し始めた。

「まずは、土曜日の夜は助けて頂いてありがとうございました。
えっ…と、どこから話せばいいのか。
3学期の始め…ううん、違うかな。
それ以前から、私は武本先生に振られていたのに…認めたくなかった。
プライドがジャマしたのかな。
そして、3学期には入ってすぐに…気が付いてしまったの…武本先生の好きな人の存在に。」

何か針のむしろってのはこの事かな。
やっぱり、僕のせいで葉月は…。

「武本先生の気持ちがハッキリして、どうしようもない時に…ちょうど里中先輩に声をかけられました。
悩んでるってわかったみたいで。
私…思わず寂しいって。
武本先生の事を忘れたいのに忘れられないって言ったんです。
そしたら…。
携帯電話を渡されました。」

「携帯電話ですか?それは里中さんから渡されたんですね。
相手を覚えてますか?」
金井先生の目が鋭く光った。

「里中さんから渡されました。でも。
相手は声を変えているようでしたし、名前も名乗りませんでした。
そして…。」

『男なんてみんな同じよ。
貴方が男を知らないから、忘れられないのよ。
武本先生に似た優しい男を紹介するわ。
男を知れば、今の悩みなんて下らないって判るわよ。
そして、下らない男から大金を支払わせるわ。
貴方は経験とその大金で、武本先生を忘れなさい。』

「正確ではありませんが、この様な内容の電話だったと思います。」
僕を引き合いに出しやがったのか…最悪だ!
僕をネタに葉月に売春行為に誘うなんて!

思わず頭を抱え込んだ。
僕の知らない所で、そんなやり取りをされていた事に憤りを隠せない。
くそっ!
だいたい…あのオッさんのどこが僕に似てるんだよ!どういう観点からだよ!って…そこは置いておかなきゃダメだよな。

「その…電話の時にハイって返事をしてしまって。
後になって、冷静に考えたら怖くなったんです。
でも、こんな事…友達にも話せないし。
どうしたらいいか迷ってるうちに、話しがドンドン進んで行って…。
断れなくなって来て…武本先生に助けて貰いたくて、あのメモを…。」
「サイトを閲覧するメモですね。」
「あのサイトを見れば、同じような事をやっている生徒もいるのがわかるから、安心しなさいって教えられました。
中に…知ってる子もいて。」
「なるほど…。他の参加者の情報を見せて、秘密を持ってるのは自分だけじゃないと、思わせる為に…。
手が込んでますね。相変わらず。」
「そして…金曜日に連絡が来て。
相手が見つかったから、土曜日の夜を開けとけって…。
大金はもう、預かってるから後戻りは出来ないと言われました。
怖くて…怖くて…。
で、武本先生は事情を理解してくれてる筈と判断して、連絡を取る方法を考えたら…。
田宮さんの連絡先を聞くのが1番だと思いました。」
「えっ…つまり。
葉月さんは…武本先生が真朝と繋がってると知っていたんですか?」
金井先生がこちらをチラチラ見ながら質問した。
「知っていた…というのとは違います。
でも、おそらくそうであろうと、確信していました。」

ははは~。
金井先生と清水先生の視線が僕に集中した。
そうですよ!バレバレでしたよ!
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