手の届かない君に。

平塚冴子

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3学期

王子の恋の駆け引き4

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「これから書く例題を和訳してくれ。」
そして、いよいよ黒板に向かいワザと右腕に着けたブレスレットをチラ見せした。
内心ドキドキだったけど、なるべく表情に出さないように顔の筋肉に力を入れた。

例題を書き終えてゆっくりと振り返った。
右目の端っこで彼女の様子を確認する。

えっ…?

クスクスと笑われてる…?
どういう反応だ?
照れてるとか、赤くなるじゃなくて…クスクス?
んんんんん?

アレは…面白いって事か?
どういう風に取ったらいいんだ?
アレは好きな人にする態度なのか?

僕は予想外の反応に混乱した。
嫌いではないけど…。
やっぱり、恋愛的感情じゃないのかな…。

終業のチャイムも鳴り終わった。
授業を終えて、少し落ち込み気に教壇で出席簿や教科書を整えた。

「真朝行くよー!次家庭科室!」
「うん。待って!」
ふと見上げると、田宮が牧田に左手を振った。

キラリ。

ドキッ!
「あ…!」
今、確かにブレザーの袖の下に見えた。
金色の…僕と同じ…ブレスレット。
『M.T』の文字がハッキリ見えた。

さっきまで、地の底まで落ちていたテンションが一気に頭のてっぺんまで急上昇した。
アドレナリンが僕の中で大爆発を起こしていた。
よっしゃああ!
同じ事…考えてたんだ…だから…笑ってたんだ。
なんだよ!まったく!
てっきり僕の独りよがりだったのかもって、思っちまったよ!

もー!最高だ!
禁断症状なんて一気に吹っ飛んだ。
心が繋がり始めてる…!
これほど興奮する事があるだろうか。
同じ事考えてたなんて!

この連休の間…君も、僕の事を考えてくれていたんだ…嘘みたいだ。
現実なんだ…僕はちゃんと、君の心に近づいて行けてるんだな。

僕は口の緩みを抑えながら、職員室に向かっていった。
足取りは半分スキップ状態だった気がする。
まさに、浮き足立っていた。

2人だけの合図みたいだった。
あの1年4組の教室で、僕と君にだけわかる合図。
帰ったら、久瀬に連絡入れよう。
あ、安東にもお礼を言わなきゃな。

もう…シカトしなくてもいいよな…。
早く2人で話したい…。
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