手の届かない君に。

平塚冴子

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3学期

姫からのプレゼント1

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放課後、やはり田宮 真朝は旧理科室には来なかった。
姉の事を心配してるのだろう。
確か、今日は午前中に3年の関係者に謝罪に行くと金井先生が言っていた。
3年は登校日ではないので各家庭に行く必要があるからだ。

明日は僕の番だ。
放課後に田宮 美月と3人の1、2年の生徒に謝罪しなければならない。

とはいえ、3人共登校してるはずで校内で生徒指導室に呼んで話せばいい。
本当にこの件に関しては順調に進んでいた。

そう、この件に関しては…だ。
せっかく、心が少し通じ合えたものの、田宮 真朝に会う機会かない。
電話を掛けようかな…。
でも、『何の用?』なんて聞かれでもしたら、答えようがない。
付き合っていれば、そんな理由なんて要らないのに。

この先、月曜日のバレンタインはしょうが無いけど、2人きりになりたい気持ちは張ち切れんばかりに膨れ上がっていた。
「ブレスレットの事も本人の口から、聞きたいのに…。」
旧理科準備室で思わず、うずくまってしまった。
こんな時…。
久瀬だったらきっと、『ちゃっちゃと電話しろよ!ヘタレ!ンなんだから逃げられるんだよ』とか言われちゃうんだろうなぁ。

でもさぁ、彼女が姉を気遣ってる最中に、浮かれた僕が電話掛けてドン引きされても困る訳なんだよ。
彼女の気持ちも、わかる分、余計に躊躇してしまうんだよなぁ。
彼女に合わせてゆっくりと2人の距離を縮めようと決めてるのに…気持ちはもう、フライングギリギリまで来てる。
僕は本当にヘタレだなぁ。
恋愛に関しては全然成長してる気がしない。
せっかく、少しは教師らしくなれたのに。
自分の情けなさに肩を落としてため息を着いた。

「こうなりゃ、『勉強会』でも何でもいいから早く2人で話したいよ。
本当に教師なんて面倒くさい職業だ!」


そんな悶々とした時間を過ごして1日が過ぎた。

翌朝、彼女が来ていないと思いつつ、マンションにいても変な妄想ばかりしそうで、いつも通りに早く出勤して旧理科準備室に入った。
コーヒーを入れて、軽くアンパンを頬張った。
そして、少しこの1年の彼女との関係を思い出してみた。

僕は元々、女子高生には興味が無かった。
キャッキャと猿みたいに浮かれた姿に苛立ちさえ感じていた。
なのに…彼女は違った。
時間の止まった様な…ゆっくりとした、穏やかな雰囲気といざという時の刃のような鋭さが、僕の胸を貫いた。
出逢った時から、特別だったんだ。
どう考えても、運命としか思えない。
たとえ彼女がどんなに否定したって、僕はハッキリと言いたい…これは、紛れもなく『運命』なんだと。

誰もいない旧理科室を中扉の小窓から覗いて見る。
「ん…?」
中央の実験台の上に白い紙袋が横たわっていた。
そして、その上には昨日の朝に仕掛けたばかりの人形が置かれていた。

僕はそっと旧理科準備室を出て、旧理科室に入った。
もちろん誰もいなかった。
いつの間にこれを置いたのだろう。
昨日の放課後には無かった気がするが…。

実験台の紙袋の上の人形を裏返して見る。
『寒がり』
確かに…僕は寒がりだけど…?
紙袋に目をやると、カードが置かれていた。

彼女からのメッセージ!
僕は急いでカードを封筒から出して見た。
『M.T様 感謝してます。お礼に。』
たったこれだけだった。
少し気落ちしながらも、お礼を確かめる為に紙袋を覗いて見た。

「あ…マジ…?えっ…あ。」
そこに入ってるいたのは、薄いグレーの手編みのベストだった。

これって…僕の為に編んでくれたんだよな。
姉の件で…?
イヤ、それにしては手編みでは早過ぎないか?
感謝の意味は姉の件かもしれないけど…。
その前から編んでいたとか…?

まずい!まずい!
どうしょう!どうしょう!
僕は嬉し過ぎて、溢れそうな声を必死で抑えながら、その場で興奮して早く足踏みしていた。
顔が熱を帯びて真っ赤になっていくのがわかった。

とにかく、落ち着け!
じゃないと、また清水先生に絡まれて厄介な事になる!
落ち着け!落ち着け!
静まれ!鼓動!

あーちくしょう!
彼女からのプレゼントなんて想定外だぞ~!
嬉し過ぎて顔が締まらない!

僕は再び紙袋にカードとベストを突っ込むと、それを旧理科準備室に持って行った。

理科準備室に置いてあったマスクを装着した。
鼻の下伸びっぱなしの顔で職員室には行けない。
とにかく、ごまかさなきゃ。

一呼吸してから、ベストの入った紙袋を棚に隠し、スキップしそうなのを抑えて職員室へと向かった。

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