手の届かない君に。

平塚冴子

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3学期

王子の待ち侘びた日1

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翌日は結局、シカト作戦解禁になったのに、田宮 美月の謝罪やら何やらで授業中しか君に会えない僕は、欲求不満だし、禁断症状出そうだし…。
やっぱり、電話掛けようかな…。
ベストのお礼も言いたいし。

そんなモヤモヤした気持ちで午後の授業の中休み、職員室で椅子をユラユラと揺らしていた。
「おう!何ダレてんだよ。」
パコパコと丸めたクリアファイルで清水先生が僕の頭を叩いた。

「あ、別にダレてた訳じゃ…。」
「今日はもう、放課後の謝罪は俺がやるから。」
「えっ…。」
「これでも学年主任だし、金井先生とお前だけにやらせとくのも何だしな。
午前中と昼休み立て続けはさすがにキツいだろ。
明日もあるし。」
「あ!ありがとうございます!」

これで、放課後に旧理科準備室に行ける!
思わず喜びの声で返答してしまった。

「おう?おう?そんなに喜ぶ事かぁ?
まあ、この件については後半、お前と金井先生にばっかり重荷を背負わせちまったけどよ。」
「いえいえ。
そんなつもりじゃ…。
でも、助かります。
丁度一息つきたいと思っていた矢先だったので。
つい、喜んでしまって。」

本当は田宮 真朝に2人きりで会えそうで、興奮して喜んでたんだけど。

「まぁ、これが終わったら卒業式まですぐだ。
春休みはゆっくりと休め。
お前の場合別に担任クラスも持ち上がりだから、変わらないし。
春休みにイチャつけるだけイチャつけ。」
「なっ!教師のセリフじゃないっての!
全くゲス牧師健在ですね。」
「いーじゃねーの。
教師の仮面外す時間くらいあってもよ。」
そう言いながら、またパコパコと僕のおデコをクリアファイルで叩いた。

「もう!やめて下さいよ!
中学生並みですか、あんたは!」

クリアファイルを振り払う仕草をして、笑顔で返した。

さて…あと1時限終えたらホームルームやって、旧理科準備室に行くぞ!
そして…君が旧理科室に来たら、そしたら…僕は…!

颯爽と午後の残りの授業をしに教室へ移動した。
心はもう旧理科室の妄想に囚われていた。

とはいえ実際、早朝とは違って生徒も沢山残ってる放課後でイチャイチャとまでは出来ないのはわかっていた。
それでも、ベストのお礼を言えたり話せたりするだけで僕は嬉しい。
何せずーっとガマンしてたんだからな!


そんなこんなで、帰りのホームルームを早めに終えて、猛ダッシュで職員室に戻った。
出席簿やら教材をサッサとしまい、いざ旧理科準備室に!…というところで、急に着ていた白衣を引っ張られた。
牧田か…?
と、思って振り返ると、田宮 美月が立っていた。

「清水先生まだなの。
来るまで少しだけど、話したいの。」
「えっ…わかった。」
くそっ!運悪い!
けど…清水先生はホームルームさえ終えれば職員室に来るはず。
ほんの少しの辛抱だ。

清水先生の椅子に田宮 美月を座らせて、僕は自席に座った。
「バレンタインの事だけど。
あの娘、金井先生とディナーですってね。」

「ブッ!ゲホッ!ゴホッ!」
思わずむせ返ってしまった。
何せ意気揚々で会いに行こうとしてたんだから。

「武本先生はバレンタインは1人で過ごすの?」
「まあな。相手いねーし。」
「マンションで1人きり?」
「…ンだよ!そうだよ!孤独なオッさんだよ!
悪かったな。
お前みたいなリア充じゃねーよ!
イジるなよそこは!」
「あははは。ムキになって。
金井先生に取られてるの気にしてるのね。」
「黙れ!シッ!他人に聞かれる!」
そんなに腹を抱えて笑うなよ…傷つくだろ。
「まぁいいわ。確認したかっただけだし。
清水先生が来たわ。」
後ろを振り向くと、鳩が豆鉄砲食らった顔した清水先生が立っていた。

「そこまで仲良くなったのかよ。
順番逆じゃねーの?
なんで姉貴と先に仲良くなってんだよ。」
「違うっ!そんなんじゃ…!」
「あははは~本当。
武本先生って、からかうの面白い~!」
清水先生は呆れるわ、田宮 美月は腹抱えて笑うわ、もう踏んだり蹴ったりだよ!

「じゃあ、僕はもう行きます。
後、宜しくお願いします。」
僕はその場から逃げるようにして、職員室を後にした。

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