手の届かない君に。

平塚冴子

文字の大きさ
282 / 302
3学期

王子の待ち侘びた日2

しおりを挟む
旧理科準備室に行く前に、余計な労力を使ってしまった。
「はああ。」
僕は廊下で大きくため息をついた。

とにかく旧理科準備室に入り、中扉の小窓を覗いた。
どうか…居て欲しい。
このままじゃ、バレンタイン過ぎるまで2人きりになれない…。

「いた…!」
田宮 真朝がそこにいた。
スケッチブックを取り出して、眺めている。

僕は音を立てないようにしながら急ぎ足で、旧理科準備室を出て、旧理科室のドアをノックした。

コンコン。
ガチャ。

「はい。…あら、武本先生。
どうしました?」
久しぶりに見た優しい労わるような微笑み。
僕だけに向けられた女神の微笑み。

「あ、えっと…ベスト!そうベスト!
ありがとう。
暖かくて、助かるよ。」
「良かったです。
姉が、先生に感謝していたので。
こちらこそ、姉がお世話になったみたいで。」

やっぱり、姉を気遣ってたから、最近ここに来られなかったのか。

ゆっくりと、スケッチブックを閉じて僕の前に歩み寄ってくれた。
「あ、あの…えっ…と。」
嬉しすぎて、もう何を話すべきか混乱して来た。
っていうか、本当なら今すぐ抱きしめたい。
けど…。

「先生…最近、先生よく笑うようになりましたね。」
「えっ…。それはこっちのセリフだ!
この前だって…ずっと授業中笑ってたろ。」
「だって…アレは。
同じ事考えてるんだって思ったら、何だか可笑しくって。」
あ…やっぱり!僕と同じ!
「僕も!僕もそう思った!ほらブレスレットだろ…って、ごめん。
ちょっとイジワルしたみたいだったから。
その…君が僕を気にしてくれてるのか、不安になってつい…試すような事をして…本当にシカトしてごめん。」
僕は本心から頭を下げて謝った。

「ふふふっ。
やだ、いじめっ子に謝られてるみたい。
くすぐったいわ。
悪い事なんてしてないのに。
おかしな先生。」
肩をすぼめて、クスクス笑う君が愛おしくて可愛くて…。
鼓動が…激しく高鳴って来た。

 「おかしいか…そうか。
そうだな、おかしいよなこんなの…。」
本当に君の前だと、普通になれない。
自分でもおかしいよ。

僕は無意識のうちに君の頬に手を伸ばして、触れた。
君の体温が手に伝わる…生きてる…僕の目の前に存在してる。

君は僕の手にそっと、自分の手を重ねた。
「先生…。来週末。
久瀬君を呼んで『勉強会』の続きをしましょう。」
とうとう…来たか…。
「えっ…ああ。そうだな。」
「今の先生なら、きっと大丈夫。
きっと…答えは見つけられます。」
君は潤んだ瞳で真っ直ぐと僕を見つめて言った。

「ああ。大丈夫だ。
どんな事だって乗り越えて見せるさ。」
その先に君との未来が有るのなら…どんな事だって力尽くでも乗り越えて見せる。

僕達は見つめ合っていた。
頬に触れた手だけが、お互いの体温を感じさせた。
時間が止まったような、あの感覚が僕等を包んだ。
幸せで…暖かくて…好きな気持ちが溢れ出て…。

結局、キスをする事も抱きしめる事さえしなかったのに、心は満ち足りていた。
頬に触れただけなのに、1つになれた錯覚に陥る程に幸せだった。
君と僕の心が繋がっていたんだと思う。
満ち足りた気分に浸っていられた。
僕と君の2人だけの時間と世界に。

僕等はそれ以上触れる事はなく、君は坦々とスケッチブックを片付け、僕は戸締りを確認して旧理科室を出た。

ただ無言のまま、合間合間にお互いの視線を交わし微笑み合った。

そして…月の輝く空の下、君の帰宅を見送った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

処理中です...