手の届かない君に。

平塚冴子

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3学期

『勉強会』前日3

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これがもし、運命であるならば…僕は全てを乗り越えて、君を死の世界から救い出す事が、僕に与えられた使命…。
 
僕は田宮に別れを告げて、旧理科室を出て職員室に早めに入った。

いつもと変わらない、仕事を坦々とこなし、清水先生のイジリをかわしつつ、1日は過ぎて行く。

生徒達の中を歩くのも、以前ならその迫力や感情の波に不快感を感じたが、今となっては、軽く受け流しが出来るし、微笑ましくも思える。

この1年の全てが、僕に力を与える。
明日の『勉強会』で何が起こっても平気だ。
あれだけ失敗の連続だったんだ。
失敗がなんだ!その先にあるものを僕は掴む。
汚れて、傷付き、這いつくばってもなお、君がいれば僕は立ち上がれる。

「どったの?武ちゃん。
今日の武ちゃんノリノリ~~!」
「別に何でも無いよ。」
牧田に廊下ですれ違いざまに突っ込まれても動揺しなかった。

そんな、機嫌のいい僕は清水先生との昼ご飯も、食堂に喜んで付いて行った。

「そろそろ、車買った方がいいんじゃねーの?」
「はあ?」
突拍子もない質問に変な声を出してしまった。
「色々と必要になる事が増えるだろ…これから…ほら…。」
カレーのスプーンを途中で止めて、清水先生は言いにくい感じで聞いてきた。
「何が言いたいんです?」
「そりゃお前…姫とこの辺を手繋ぎデートなんて出来ないだろうが!」
「なっ!」
それは、確かにそうだけども…。
「それに…車内であんな事や…こんな事も…。」
「何ですか!そのいやらしい言い方!その目!
悪魔に呪われますよ!」
「何を言ってる。愛が全てを作るんだぞ!
車で更に愛が膨らむぞ!」
「どっかの自動車販売店の営業ですか?
間違えないで下さい。
曲がりなりにも、あなたは牧師兼教師ですよ。
仕事勝手に増やさないで下さい。
めんどうです。」
「あのな、お前…金全然使ってないだろ。」
「そりゃ…まあ、結婚資金と思って貯めてたのはありますが…。」
「しばらく…使わないよなぁ…その金。」

確かに…金は結構貯まってる。
金を使う暇無いほど忙しかったし、車一台分くらいは買えるけど…。
そんなの考える事すら思いつかなかった。
けど…車…あれば2人で出掛けられるのは事実だな…。

「はっ!何ですか!いやらしく顔を覗き込んで!」
「いやいや、只今、妄想中だっただろう?
な、なぁ!いいだろ車…?
 何なら俺の車を中古で売ってやろうか?」
「それが目的かぁ?
車買うなら新車をちゃんと買いますよ!
全く!悪徳販売員じゃないですか!」
「ちぇっ!」
清水先生は舌打ちして、隣の自席で椅子をグルグル回し出した。

確かに、車は欲しいけど…今のようにストレスで意識を失う状態じゃ絶対に車なんて購入出来ない。

『勉強会』をクリアして、全ての記憶の整理をつけられたら…その後だ。
 明日が、僕の人生の山場だ。
前を見よう…先を考えよう…。
その先に、君との幸せがあるんだ。
絶対に、全てから抜け出せる。

そしたら…車でも買って、2人だけで出掛けよう。
君との思い出をたくさん作るんだ。


ハ…ナ…。
ア…。
アマイナ…ボクハ…オマエヲユルサナイ…ミトメナイ…。

「!」
ゾワッ!
久々に聞こえた…あの、僕の奥底から聞こえてくる声…。
あれは…あれは…誰の声だ?
あの友達の声か…それとも…僕自身の声なのか…?
冷たくて、恐ろしくて、哀しい声。

いや!負けるもんか!
もう、僕は逃げたりしない!
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