手の届かない君に。

平塚冴子

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3学期

5回目の『勉強会』1

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とうとう、この日が来た。
天気は曇り…だけど、気持ちは逆に晴れやかだ。
きっと、これが最後の『勉強会』だろう。

ピンポーンピンポーン。

ガチャ。

「おっはようさん。ってか、こんちわかな?
もう12時だし。」
「こんにちは。
 とにかく、上がって昼飯食ってから行こう。」
「うっす!ハンバーガー買って来たから食おう!」

久瀬は黒のダッフルコートを脱ぎながら、部屋に上がって、キッチンのテーブルにハンバーガーの袋を置いた。

「田宮、もう学校に行ってるみたいだな。」

久瀬はGPSで田宮の居場所を確認していた。

「そうか…。」
「こっちはギリギリでいいのか?」
「ああ、彼女の心の準備を邪魔したくはない。」
「なるほどな。」

僕と久瀬はハンバーガーを食べた。
お互い、話す事は沢山あるはずなのに、無言のままだった。

時計が1時半を指して、ハンバーガーを食べ終えた僕等は、学校へ向かうためにマンションを出た。

「寒い~~!」
「何?武本っちゃん寒いの苦手?」
「苦手だ。
 早く春が来て欲しい。」
「そうだなぁ…すぐに来るさ…。
 武本っちゃんの春はすぐ目の前だ。」
 久瀬は僕に優しく微笑んだ。
 久瀬は知ってるのだろう…田宮から、今回の情報集めの協力を依頼されたと言っていた。
 僕の過去の出来事…自ら封印せざるを得なかった事件…。

 そして…僕の犯した大罪を…。

 けれど…僕はもう、罪から逃げない…田宮 美月でさえ、自分の罪と向き合っているんだ。
 教師の僕が逃げてどうする。
 
 僕はいつもより、しっかりと地面を踏みしめて歩き、久瀬とともに君の待つ…学校の旧理科室に向かった。


久瀬と学校の職員玄関に着いた。
この時期、部活も殆ど無く、教師も休日出勤する者は少ない。
 卒業生は春の進学の事、在校生は4月からのクラスの事、教師達も新入生の事やら卒業式の事を念頭で動いていて、誰も今すぐにしなければならない仕事は何もない。

 『勉強会』には打って付けの日だ。
静まり返った廊下は、これから行われる『勉強会』を神聖な物と思わせるくらいにな静まり返っていた。
冷えた空気は張り詰め、緊張感を煽られているかのようだ。

全ての始まりの旧理科室で、僕は君と対峙するのだ。

 そして…全てを清算して新たな始まりを迎える為に…。

「武本っちゃん。
 準備はいい?」
 旧理科室の前で久瀬は僕を振り返った。
「問題ない。
 大丈夫だ。行こう。」
「わかった。」

 コンコン。
「どうぞ…。」

中から、田宮の声が聞こえて来た。
久瀬はひと息ついてから、扉を開けた。

ガチャ。

田宮は窓辺に立っていた。
室内は早めに来て暖房をつけていてくれたのか、暖かい。

「今日は武本っちゃんをよろしく。田宮!」
ちょっと、ふざけた口調で久瀬が場を和ませるように挨拶した。
「よろしく。心の準備は出来てるから。」
「どこまで、進めるかわかりませんがよろしくお願いします。」
軽く僕と視線を合わせてから、君は部屋の中央へと移動した。

「どうぞ、真ん中の実験台の席に座って下さい。
あ、久瀬君は先生の右側に座って。」
「右側…?左側じゃダメなのか?」
「はい。
どうしても右側にお願いします。
意味がありますので。」
君は、穏やかにそう言ったが、意味までは説明してくれなかった。

とりあえず、コートを脱いで久瀬と丸椅子に隣り合わせに座った。
田宮は僕の正面に座った。

「まず、この『勉強会』の趣旨ですが、先生の記憶の整理と精神的ストレスの関係性を明らかにする事です。
ですから、時系列…つまり、順を追って少しづつの解明が必要だと思われます。
記憶喪失の事もありますので、久瀬君に協力して頂き、当時の情報も集めて貰いました。
それと、先生の記憶を照らし合わせて、進めて行きたいと思います。」
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