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第三話 雪柳《それは奇跡のような》
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「おいで」と彼に手を取られた。そのまま、衝立の奥の寝台に招かれる。そして端に座らせられた。
「……今日は少し……疲れたな」
彼はそう言うと寝台に上がり、座った俺の膝の上に頭を載せた。
……膝枕だ。てか腿枕。頭の重みを感じて緊張する。俺の腿なんて硬いし、まくらとしては物足りないんじゃないだろうか。
「気持ちいい」
目を閉じて彼がぽつりと呟く。ずっと通った高い鼻筋、形のいい唇に、丁度よく尖った顎。綺麗な顔だな、とボンヤリ見つめていると、彼がごろりと体を傾けた。彼の耳があらわになって、ふと、懐かしい気持ちになった。
「……この姿勢、思い出します」
「なにを?」
「小さい頃。こうして母に、耳かきをしてもらったんです」
「耳かき……。懐かしいな、私もしてもらった事がある」
ふっと彼が微笑んだ。この世界にも耳かきはあるらしい。そっと、その耳に触れた。
「洸さんもご経験があるんですね」
「今度持ってこようか。君にしてもらったら気持ちいいかもな」
「ふふ。あまり上手じゃないかもしれないですよ」
幼いころ、母の膝の上で耳かきをしてもらうのが、幼い俺の楽しみだった。耳かきをねだって母にまとわりついては辟易されていたものだ。
今膝の上にいるのは立派な大人の男性なのに、まるで子供を膝に載せているような錯覚に陥る。
「雪柳」
彼は静かに言うと、手をさ迷わせて、俺の手を掴んだ。そしてぎゅっと握りしめる。
「眠くなってきた。……一眠りしてもいいかな」
まるで子供みたいな言葉に、思わず微笑む。
「もちろんです。おやすみください」
「なにか、歌ってくれないか。君の得意な歌を」
そう言われて困ってしまった。俺が知っているのなんて、幼い頃母が歌ってくれた、母オリジナル歌詞の子守唄しかない。オーソドックスにねんねんころりではじまるけれど、そのあとの歌詞は母が自由にアレンジしたやつ。
……仕方なくそれを歌った。母のアレンジ増し増しのやつを、さらに俺仕様にアレンジして。
正直意味が分からないと思うのに、彼は何も言わず、楽しそうにそれを聞いていて。 いつしか寝息が聞こえるまで、俺は彼の頭を膝に載せたまま、エンドレスで子守唄を歌い続けていたのだった。
……どれだけ経っただろうか。
腿の重みにも慣れ……というか麻痺してきたような気もするが、同時に瞼も重くなってきた。でも、膝から彼の頭を下ろしたら、彼が起きてしまうかもしれない。しかし眠気に逆らえず、うとうとと船をこぎ始めたとき。
彼がそっと半身を起こした。
「あっ」
慌てて顔を上げると、手首を掴まれ、そのまま布団に沈められる。
「な……」
目を開けると、整った眉を苦しげに寄せて俺を見つめる目と目が合った。
「……ごめん」
ふいに聞こえたのは謝罪の言葉。そして腕の中に閉じ込められる。感じるのは体温と、首筋から香る彼の香り。
「どうしたん、ですか」
聞いてみても返事はない。やがて彼は大きな手のひらで俺の目を覆った。そしてまた呟く。
「ごめんな」
そのまま、額に熱を感じた。押しつけられたそれはやがて離れていき……。
……キス……された?
胸がどきどきと音を立てる。けれど彼はそれ以上何もせずに。耳元に吐息を吹き込むようにして囁いた。
「……おやすみ。愛しい……私の雪柳」
何がなにやらわからない。けれど……その声がひどく苦しそうで。
俺は彼の手による暗闇の中で、ゆっくりと目を閉じた。
「……今日は少し……疲れたな」
彼はそう言うと寝台に上がり、座った俺の膝の上に頭を載せた。
……膝枕だ。てか腿枕。頭の重みを感じて緊張する。俺の腿なんて硬いし、まくらとしては物足りないんじゃないだろうか。
「気持ちいい」
目を閉じて彼がぽつりと呟く。ずっと通った高い鼻筋、形のいい唇に、丁度よく尖った顎。綺麗な顔だな、とボンヤリ見つめていると、彼がごろりと体を傾けた。彼の耳があらわになって、ふと、懐かしい気持ちになった。
「……この姿勢、思い出します」
「なにを?」
「小さい頃。こうして母に、耳かきをしてもらったんです」
「耳かき……。懐かしいな、私もしてもらった事がある」
ふっと彼が微笑んだ。この世界にも耳かきはあるらしい。そっと、その耳に触れた。
「洸さんもご経験があるんですね」
「今度持ってこようか。君にしてもらったら気持ちいいかもな」
「ふふ。あまり上手じゃないかもしれないですよ」
幼いころ、母の膝の上で耳かきをしてもらうのが、幼い俺の楽しみだった。耳かきをねだって母にまとわりついては辟易されていたものだ。
今膝の上にいるのは立派な大人の男性なのに、まるで子供を膝に載せているような錯覚に陥る。
「雪柳」
彼は静かに言うと、手をさ迷わせて、俺の手を掴んだ。そしてぎゅっと握りしめる。
「眠くなってきた。……一眠りしてもいいかな」
まるで子供みたいな言葉に、思わず微笑む。
「もちろんです。おやすみください」
「なにか、歌ってくれないか。君の得意な歌を」
そう言われて困ってしまった。俺が知っているのなんて、幼い頃母が歌ってくれた、母オリジナル歌詞の子守唄しかない。オーソドックスにねんねんころりではじまるけれど、そのあとの歌詞は母が自由にアレンジしたやつ。
……仕方なくそれを歌った。母のアレンジ増し増しのやつを、さらに俺仕様にアレンジして。
正直意味が分からないと思うのに、彼は何も言わず、楽しそうにそれを聞いていて。 いつしか寝息が聞こえるまで、俺は彼の頭を膝に載せたまま、エンドレスで子守唄を歌い続けていたのだった。
……どれだけ経っただろうか。
腿の重みにも慣れ……というか麻痺してきたような気もするが、同時に瞼も重くなってきた。でも、膝から彼の頭を下ろしたら、彼が起きてしまうかもしれない。しかし眠気に逆らえず、うとうとと船をこぎ始めたとき。
彼がそっと半身を起こした。
「あっ」
慌てて顔を上げると、手首を掴まれ、そのまま布団に沈められる。
「な……」
目を開けると、整った眉を苦しげに寄せて俺を見つめる目と目が合った。
「……ごめん」
ふいに聞こえたのは謝罪の言葉。そして腕の中に閉じ込められる。感じるのは体温と、首筋から香る彼の香り。
「どうしたん、ですか」
聞いてみても返事はない。やがて彼は大きな手のひらで俺の目を覆った。そしてまた呟く。
「ごめんな」
そのまま、額に熱を感じた。押しつけられたそれはやがて離れていき……。
……キス……された?
胸がどきどきと音を立てる。けれど彼はそれ以上何もせずに。耳元に吐息を吹き込むようにして囁いた。
「……おやすみ。愛しい……私の雪柳」
何がなにやらわからない。けれど……その声がひどく苦しそうで。
俺は彼の手による暗闇の中で、ゆっくりと目を閉じた。
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