【完結】鶴汀楼戯伝~BLゲームの中の人、男ばかりの妓楼に転生する~

鹿月

文字の大きさ
68 / 168
第三話 雪柳《それは奇跡のような》

7-2

しおりを挟む
「真波さん!」
 思わず叫んだ。その手を握り返す。
「いやです、そんな……最後だなんて言わないでください。せっかく……会えたのに」
「すまない。けれど……もとより明日など望めぬ任務だ」
 かっと目の奥が熱くなった。涙がこみあげてくる。そんなのひどい、ひどすぎる。
 国のために死を覚悟して働くなんてナンセンスだ。そんな仕事やめてしまえ、と思うのに、この人の生きている世界では決して通用しないだろうこともわかっている。ひどい。苦しい。理不尽すぎる。その想いが涙となって濁流のようにあふれ出した。
「ひどい、ひどいです。なんであなたがそんな思いをしないといけないんですか。僕だってあなたに会いたかった。僕だって……」
 ……あなたのことが。
 しかしその先は言えなかった。俺のこの気持ちはなんだろう。俺は彼が好きなんだろうか。例によって、優しくしてくれた人に懐いているだけではないのか。彼のひどすぎる運命に衝撃を受けて、同情しているだけではないのか。
 そもそも俺は男妓で、彼は客だ。気持ちを全部渡しちゃだめだって、月季さんも言っていた……。
 頭の中は混乱するし、けれど涙は止まらないしで、せっかくきれいにした化粧だって台なしだ。
「雪柳……」
 えぐえぐと泣く俺を見て、慌てた様子の真波さんが手を伸ばす。俺のほほを両手で挟み、机の上に身を乗り出して、俺の目元にくちづけた。そして涙を吸い取る。
 しかし涙は止まらない。言葉にできないもどかしさが、涙となってあふれ出しているようだ。
「泣かないで」
 気遣わしげな声。でも無理だ。こんな理不尽があるものか。彼は何も悪くないのに、今また危地に向かおうとしている。怒りのような感情が渦巻いて、俺は目の前の彼に、衝動的にくちづけた。
「……!」
 彼が息を呑むのがわかる。力任せの幼いキス。しかしやがて顔が離れた瞬間、寂しさを感じた。もっとこうしていたいと思ってしまった。
「……真波さん」
 彼の僅かに赤らんだ目元に触れ、そのままキスで濡れた唇にも指で触れた。俺は男妓で、彼は客だ。だったら俺は……俺のしたいようにする。
「陽と陽を合わせれば、武運が得られるんですよね?」
 真波さんは驚いたように俺を見つめた。そのまっすぐな視線に耐えきれず、目を逸らす。
「……だったら。……して、ください」
 言い終えて、唾を飲み込んだ。……まさか28年生きてきて、役以外でこんな台詞を吐くことになろうとは。
 けれどぽろりとこぼれ落ちたその言葉に悔いはなかった。むしろ今言わなければ、一生後悔しそうな気がした。俺にできる唯一のことは、これしかない。ひどすぎる運命に対抗できることがあるならば、なんでもしたい。何より今、俺は誰よりも彼の近くにいたい。
 真波さんはくっと唇を引き結んだかと思うと、俺の手を掴んで椅子から立たせ、手を引いて寝台へ向かった。
 そして寝台に押し倒されて、あの晩の再現のように、また唇を奪われた。頭の奥までぼうっとするようなキスに恍惚としている間に、着ているものをするすると脱がされる。慌てて俺も彼の帯に手をかけた。上着を落とし、中に着ているものの紐も解いて。まるでひとときでも惜しいとでもいうように、お互いの素肌を求める。
 たちまち俺の前は開かれて、彼の前に肌を晒すことになった。下半身を隠すこともできなくて恥ずかしい。一方彼は上裸でズボンだけの姿になって俺を見おろす。広い肩と無駄な肉の何もない引き締まったからだに息を飲む。
「雪柳……」
 彼は吐息と共に言うと、俺の胸に顔を埋めた。といってもぺたんとした男の胸だ、楽しくもないだろうと思ったのに、彼は俺の乳首をためらいもなく口にふくんだ。
「……あっ」
 たまらず声がもれる。そこに感じる熱い舌の感触はこそばゆくて、なんともいえない気持ちになった。
「や。そこ、あ」
 ぴちゃ、と舌の音がする。思わず彼の頭に手をやる。綺麗にまとめられた髪を乱すのはためらわれ、そっとその髪をなでた。一方彼の手はそのまま俺の腹を滑っていき、さらけ出された俺の敏感な部分に触れた。
「あ、ん」
 大きな手にすっぽりとつつまれ、ゆるゆると扱かれる。脳髄に刺激が走って息が上がる。気持ちよくて短い喘ぎが止まらない。でもだめだ、俺だけが気持ちよくなっちゃ。
 彼の下半身に手を伸ばし、ズボンの中に手を入れて、硬いものを探り当てる。やんわりと握り、真似して上下に動かし始める。他の男のものに触れるなんて初めてだが、不思議と違和感はなかった。
「くっ……」
 低い声が聞こえて顔を上げると、俺を見つめる目と目があった。涼やかな目に宿る光に、ぞくりと体が震えた。
 けれど嫌な気はしなかった。むしろ全身の体温があがる。この清潔感のかたまりみたいな人が、欲望をあらわにする瞬間に感じる………ぞくりとするような快感。
「ふあっ……」
 激しく扱き上げられて悶えながら、俺も動きをあわせ、彼のそれを懸命に擦り上げる。固く大きくなっていくそれに興奮する自分が信じられない。けれど男は嘘をつけないから、彼がどれだけ感じているかがダイレクトに伝わって、それが俺を煽り立てる。
「んんっ」
 どんどん追い詰められて、俺はもういきそうで。一人でいくのはなんだか嫌で、俺は彼のものに触れる手に力を込めた。
「はっ、はっ、真波、さん…………いっしょに、いっしょに……!」
 荒い息をつきながら手を動かす。見上げた真波さんの目は欲望に潤み、すごくセクシーだと思った。そして…………。
「あっ…………」
 裸の腹に飛んだ、生ぬるい液体の感触。彼が達したのだ、と理解するまでに数拍。そして俺もまた、彼の手に達してしまって……。
「ああ……」
 ため息とともに喘ぎが零れた。彼の体にしがみつく。わずかな汗の香りに恍惚としながら彼を見上げると、上からくちづけが降りてきた。
「雪柳…………」
 耳元に吹き込まれる低音。

 ――………………。

 吐息で彼がなにかを言った気がした。それはよく聞こえなかったけど、俺が彼に言えなかったように、彼もまた言えないのだ、と思った。
 …………それでもいい。この時間が、何よりも彼の気持ちを伝えてくれた。言葉よりも雄弁に。
「……ありがとう」
 彼のことばに頷いて、気恥ずかしさを感じながらも目を閉じた。彼の体温に包まれながら、この余韻をもう少し感じていたかった。

 …………ひよこは結局最後まで、俺達を邪魔することはなかった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟第10回BL小説大賞(2022年)奨励賞。2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞での応援ありがとうございました! 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

魔王の求める白い冬

猫宮乾
BL
 僕は交通事故に遭い、別の世界に魔王として転生した。最強の力を貰って。だから何度勇者が訪れても、僕は死なない。その内に、魔王はやはり勇者に倒されるべきだと思うようになる。初めはそうではなかった、僕は現代知識で内政をし、魔族の国を治めていた。けれど皆、今は亡い。早く僕は倒されたい。そう考えていたある日、今回もまた勇者パーティがやってきたのだが、聖剣を抜いたその青年は、同胞に騙されていた。※異世界ファンタジーBLです。全85話、完結まで書いてあるものを、確認しながら投稿します。勇者×魔王です。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。 種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。 ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! トェルとリィフェルの動画つくりました!  インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...