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009 - にんしんさせられていた! -
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オルカの街でのパレードも大きな道路を通行止めにして盛大に行われた。
僕と領主様の結婚も公式に発表され街の住民達の間で大きな話題となっている、領主様はオルネン領の人達に人気があるようでパレードは和やかな雰囲気に包まれていた。
宙に浮くオープンカーに乗せられた僕の隣にはアンジェちゃんが居て、後ろには領主様・・・ダニー様が立っている・・・名前呼びは旦那様の強い希望だ、ちなみに僕は今日からリィ・オルネンと名乗る事になる。
街はちょっとしたお祭り状態だ、領主様からの酒と料理が振舞われている中央広場には沢山の人が集まっていて皆飲んだり踊ったり・・・少し浮かれ過ぎなような気もするが僕が魔王討伐を失敗していたら一番先に蹂躙されるのはこの街だ、この後100年は魔王に怯えなくて済むのだから嬉しいのは理解できる。
「勇者さまぁ!」
「ありがとう!」
パレードの間多くの人達に声を掛けられた、皆僕に感謝しているようだが僕は今まで地味で目立たない人生を歩んできた、急に英雄に祭り上げられても戸惑うし恐怖を感じる、徐々に表情が引き攣ってきた僕にダニー様が優しく声を掛けてくれた。
「大丈夫かな?、疲れているようだから予定より早くパレードを切り上げよう」
「あ・・・お気遣いありがとうございます」
このさりげない優しさは反則だ!、今日のダニー様は騎士団の式典用礼服を着ていて本当にかっこいい、いつもの無精髭も綺麗に剃っているから実年齢よりも若々しく見える、まるでハリウッドスターみたいだ。
昨日の夜、僕はダニー様と長い時間話し合った、内容はアンジェちゃんの事やこれからの生活について・・・。
ダニー様と本当の夫婦になる事は遠慮させて貰った、彼はとてもいい人だから嫌いではないのだけど・・・僕には豪邸でメイドさんにお世話されるような貴族生活は無理だと言ったら納得してくれた。
僕の希望で領主邸のあるこのオルカの街外れに家を一つ貰う事になった、寝泊まりが出来るアパート的なやつでいいと言ったのに一戸建てをくれた、普段はその家と王都に貰える事になっている家を行き来して二拠点生活・・・いや、日本にも時々帰る予定だから三拠点生活になりそうだ。
アンジェちゃんが成人するまでは頻繁に領主邸を訪れて一緒に過ごそうと思っている、遊んだり勉強の様子を眺めたり・・・あと5年もすれば僕が居なくても大丈夫になるだろう。
王都への移動は領主邸にある転移魔法陣を使わせて貰う、この魔法陣は誰でも使える訳じゃなくて王国の重要機密扱いになっているらしい。
設置されているのは国の東西南北を守る辺境領主の邸宅と国内の重要拠点数箇所だけだ、辺境領主以外の者が使用する場合には申請を出して国王の許可を得る必要がある。
僕はいつでも使えるフリーパス的な物が貰えるだろうとダニー様が言っていたから使い放題だ。
オルカの街でパレードの終わった翌日・・・領主邸ではアンジェちゃんの泣き声が響き渡った。
「わぁぁん!、お義母様ぁ!」
なでなで・・・
「明日から王都で謁見や凱旋パレード・・・いろんなお仕事があるの、4日後には戻ってくるからいい子にしてるんだよ」
「ひっく・・・ぐしゅっ・・・アンジェも行きたい・・・」
「アンジェ、わがままを言うんじゃない、お父様達は大事なお仕事があるんだからポーラさんと一緒に大人しく待っていなさい」
「あぅ・・・」
ポーラさんというのは領主邸で働くメイドさんで・・・あの時僕をアンジェちゃんのところに連れて行ってくれた愉快な人だ。
ギノール家という下級貴族の令嬢で、前任の専属メイドさんが3年前に高齢で退職した為、もう一人のメイドさんと交代でアンジェちゃんのお世話をしているらしい。
昨日廊下で会って少し立ち話をしたのだけど結構・・・いや、かなり面白い人だった、僕とも年齢が近いしいいお友達になれそう。
転移魔法陣で王城に戻ると国王に泣いて感謝された、一応大国の権力者なのだがこいつ・・・いや、この人はやたらと人間味に溢れている、色々と酷い目に遭わされているのに何故か憎めないという羨ましい性格をしているのだ。
出発のパレードと同じ感じで王都ゼーレの幹線道路を止め、凱旋パレードが盛大に行われた、これで僕はもう用済みだ・・・勤めを果たした勇者は莫大な報酬を貰って自由に暮らす・・・そう聞いているが僕は少し不安だった。
僕の命はローズマリーの王族が握っている、彼等の気まぐれ一つで抵抗もできず苦しみながら死を迎える可能性だってある、異世界小説でもよくあるじゃないか、討伐を終えた勇者が邪魔になり消される展開・・・。
「勇者殿、顔色が悪いですね、お疲れですか?」
パレードも終盤に差し掛かった頃、僕の隣に立っているラオ⚪︎・・・いや、アルフレッドさんが話しかけて来た、機械だから顔色なんて変わらないだろうと思ったが察しのいい彼の事だ、僕が怯えているのを感じ取ったのだろう・・・。
「実は・・・」
魔王討伐の旅に出てから今日で18日目だ、アルフレッドさんは少なくとも心を許せるくらいには仲良くなっていると思う・・・僕の不安を打ち明けてみた。
「・・・」
いや何か言ってよ!。
「・・・」
「・・・」
「歴代の王族の中にはそういった卑劣な行いをした者も居たと聞いています・・・ですが、今の王は大丈夫ではないかと私は思いますよ・・・ポンコツですが民の事を大切に考えている賢く優しい王です」
「そう・・・ですね」
僕の心配は杞憂に終わった、今日から僕は自由だ、10年に一度は身体の中にある魔石を交換する為に王城で検査とメンテナンスを受けなければいけないのだけど、ローズマリー王国内なら何処に行ってもいいし何をしてもいいらしい。
この国と国交のある国になら他国へ遊びに行っても良いそうだ。
僕の口座には目が飛び出すほどのお金が振り込まれていた、贅沢しなければ一生遊んで暮らせる額だ、しかも困った事があればいつでも王家を頼れと城への入場フリーパス的な身分証をくれた国王、もうクソ野郎とは呼べないな。
寂しくなるから年に一度は顔を出しなさいと王妃様に約束させられたし、まだ幼い王子様と王女様は行かないで勇者様と泣きながら引き止められた。
僕がこの世界に召喚されてもうすぐ1年が経つ。
当初の予定通りオルカの街と王都ゼーレでの二拠点生活は快適だ、オルカ郊外の自宅で雑貨店を開き不定期営業しつつゼーレにある高層マンションで優雅な引きこもり生活を楽しんでいる、もちろん数日おきにアンジェちゃんと遊ぶ事も忘れていない。
ゼーレでは一緒に買い物をする友達も出来た、彼女の名前はアルミィ・カーン、主任エンジニアのスチールさんの娘だ、元々6歳の幼女だったのだが訳あって全身機械化改造手術を受け、今は10代後半くらいの姿になっている・・・身体は大きいのに言動は幼い子供、まるで妹みたいで可愛い。
日本へ帰還する為の魔法陣は魔術師団長のシーオ様が構築してくれているが難航しているようでまだ準備できていない。
召喚元・・・1年後の日本に帰るだけならすぐに出来るらしい、最初の召喚は多大な代償を伴うのだが一度開いたルートは魔術師が魔法陣を起動するだけで何度でも往復できる。
だが僕の強い要望で召喚された直後の時間まで遡って帰還させて貰う事になった、時間の逆行は精度調整が難しくシーオ様の手動制御になるため一往復で許して欲しいと言われた。
無理を言ってシーオ様にお願いした理由は召喚された直後の日本に戻り、僕の制服や下着、特級呪物であるカバンの中身を回収する為だ。
それをやらないと僕は服だけ残して全裸で失踪した変態になる、もちろん手がかりを探す為にカバンの中も調べられるだろう・・・そんな事になったら僕は恥ずかしくて死ぬ!。
日本に戻り服と呪物を回収、家族に事情を説明して再びローズマリー王国の今の時間に戻るのだ、その後は王城に設置されている召喚魔法陣を使って日本へ自由に渡る事ができる、家族には1年後にまた戻ると言って納得させなければいけないが・・・。
全裸で僕を召喚した事についてはシーオ様も責任を感じているようで、必ず元の場所、元の時間に戻してやると言い魔術師団のお仕事が終わってからも毎日遅くまで頑張ってくれている。
「こちらです・・・」
今日僕はスチールさん達エンジニア軍団の研究所を訪れている。
ここに来たいと言った時、国王はもちろん、宰相やスチールさん達が慌て始めた、僕はもうすぐ死んでしまうと言われている生身の身体を最後に一度見たいと言っただけなのに・・・。
あくまでも軽い気持ちで言ってみただけだったのだが・・・まずスチールさんが慌てた、僕と目を合わそうとしない、その後国王に呼ばれてどうしても生身の身体を見たいのかと聞かれた、国王も酷く動揺していて目が泳いでいる・・・。
怪しい・・・国王の挙動不審ぶりを見て僕は確信した、何か隠している。
「確かに僕は献体・・・研究の為に身体を自由にしていいと言ったけど、もしかして僕に見せたくないような事をしているの?、僕の身体に何をしたの?、怒らないから正直に!」
「分かった・・・今からスチールと一緒に見て来るといい」
国王の許可を得て僕はここにやって来た、超近代的な建物だ、表には王立義体研究所と書かれていて建物の中も宇宙船か実験施設のようだ、その施設の最奥に僕の身体はあるという。
ぴっ・・・
がこぉぉぉ・・・
扉が中央からスライドして開く、中は明るくガラス張りの実験室のような感じだった。
「なぁっ!・・・なんじゃこりゃぁぁ!」
ガラスに囲まれた部屋の中には全裸の僕が居た、首から上は機械に覆われて見えない、人工呼吸器のような音が規則正しくリズムを刻んでいる、身体は両手両足が「X」の形に拘束されていて股間には太いチューブが挿入されている。
ここまではなんとなく予想できていた・・・だが!。
ゴゴゴゴゴ・・・
「スチールさん・・・」
「ハイっ!」
「どうして僕のお腹、膨らんでるの?、まるで妊婦みたいだね・・・」
「実は・・・」
「なんで相談してくれないの!」
「申し訳ありませんっ!、言えば反対されるかもしれないと国王陛下が・・・」
「また国王の仕業かぁ!」
スチールさんの言い訳・・・いや、説明によると、勇者とこちらの人間が結婚して生まれた子供は優れた特殊能力を持つ事が多いらしい、このまま僕の肉体が死んでしまうのは勿体無いから体外受精させて子供を・・・という事だった。
これまでの事もあって薄々感じてたけど・・・この世界の倫理観どうかしてるだろ!。
「で・・・父親は誰?」
「ダニー・オルネン様です、本当は子供好きで三人は欲しかったらしく・・・こちらからの提案を受けて快く協力頂きました」
「ダニー様・・・」
父親は僕の旦那様でした・・・魔王討伐が終わってから彼は王都のオルネン邸で暮らし、僕とはあまり話す機会も無かったけど、アンジェちゃんの事や街での生活は時々通信でやり取りしていたのだ、でも一言もそんな事言ってなかったし!。
「陛下からの指示でこの事は勇者様には黙っているようにと・・・」
知らない間に僕は妊娠させられていた!。
僕と領主様の結婚も公式に発表され街の住民達の間で大きな話題となっている、領主様はオルネン領の人達に人気があるようでパレードは和やかな雰囲気に包まれていた。
宙に浮くオープンカーに乗せられた僕の隣にはアンジェちゃんが居て、後ろには領主様・・・ダニー様が立っている・・・名前呼びは旦那様の強い希望だ、ちなみに僕は今日からリィ・オルネンと名乗る事になる。
街はちょっとしたお祭り状態だ、領主様からの酒と料理が振舞われている中央広場には沢山の人が集まっていて皆飲んだり踊ったり・・・少し浮かれ過ぎなような気もするが僕が魔王討伐を失敗していたら一番先に蹂躙されるのはこの街だ、この後100年は魔王に怯えなくて済むのだから嬉しいのは理解できる。
「勇者さまぁ!」
「ありがとう!」
パレードの間多くの人達に声を掛けられた、皆僕に感謝しているようだが僕は今まで地味で目立たない人生を歩んできた、急に英雄に祭り上げられても戸惑うし恐怖を感じる、徐々に表情が引き攣ってきた僕にダニー様が優しく声を掛けてくれた。
「大丈夫かな?、疲れているようだから予定より早くパレードを切り上げよう」
「あ・・・お気遣いありがとうございます」
このさりげない優しさは反則だ!、今日のダニー様は騎士団の式典用礼服を着ていて本当にかっこいい、いつもの無精髭も綺麗に剃っているから実年齢よりも若々しく見える、まるでハリウッドスターみたいだ。
昨日の夜、僕はダニー様と長い時間話し合った、内容はアンジェちゃんの事やこれからの生活について・・・。
ダニー様と本当の夫婦になる事は遠慮させて貰った、彼はとてもいい人だから嫌いではないのだけど・・・僕には豪邸でメイドさんにお世話されるような貴族生活は無理だと言ったら納得してくれた。
僕の希望で領主邸のあるこのオルカの街外れに家を一つ貰う事になった、寝泊まりが出来るアパート的なやつでいいと言ったのに一戸建てをくれた、普段はその家と王都に貰える事になっている家を行き来して二拠点生活・・・いや、日本にも時々帰る予定だから三拠点生活になりそうだ。
アンジェちゃんが成人するまでは頻繁に領主邸を訪れて一緒に過ごそうと思っている、遊んだり勉強の様子を眺めたり・・・あと5年もすれば僕が居なくても大丈夫になるだろう。
王都への移動は領主邸にある転移魔法陣を使わせて貰う、この魔法陣は誰でも使える訳じゃなくて王国の重要機密扱いになっているらしい。
設置されているのは国の東西南北を守る辺境領主の邸宅と国内の重要拠点数箇所だけだ、辺境領主以外の者が使用する場合には申請を出して国王の許可を得る必要がある。
僕はいつでも使えるフリーパス的な物が貰えるだろうとダニー様が言っていたから使い放題だ。
オルカの街でパレードの終わった翌日・・・領主邸ではアンジェちゃんの泣き声が響き渡った。
「わぁぁん!、お義母様ぁ!」
なでなで・・・
「明日から王都で謁見や凱旋パレード・・・いろんなお仕事があるの、4日後には戻ってくるからいい子にしてるんだよ」
「ひっく・・・ぐしゅっ・・・アンジェも行きたい・・・」
「アンジェ、わがままを言うんじゃない、お父様達は大事なお仕事があるんだからポーラさんと一緒に大人しく待っていなさい」
「あぅ・・・」
ポーラさんというのは領主邸で働くメイドさんで・・・あの時僕をアンジェちゃんのところに連れて行ってくれた愉快な人だ。
ギノール家という下級貴族の令嬢で、前任の専属メイドさんが3年前に高齢で退職した為、もう一人のメイドさんと交代でアンジェちゃんのお世話をしているらしい。
昨日廊下で会って少し立ち話をしたのだけど結構・・・いや、かなり面白い人だった、僕とも年齢が近いしいいお友達になれそう。
転移魔法陣で王城に戻ると国王に泣いて感謝された、一応大国の権力者なのだがこいつ・・・いや、この人はやたらと人間味に溢れている、色々と酷い目に遭わされているのに何故か憎めないという羨ましい性格をしているのだ。
出発のパレードと同じ感じで王都ゼーレの幹線道路を止め、凱旋パレードが盛大に行われた、これで僕はもう用済みだ・・・勤めを果たした勇者は莫大な報酬を貰って自由に暮らす・・・そう聞いているが僕は少し不安だった。
僕の命はローズマリーの王族が握っている、彼等の気まぐれ一つで抵抗もできず苦しみながら死を迎える可能性だってある、異世界小説でもよくあるじゃないか、討伐を終えた勇者が邪魔になり消される展開・・・。
「勇者殿、顔色が悪いですね、お疲れですか?」
パレードも終盤に差し掛かった頃、僕の隣に立っているラオ⚪︎・・・いや、アルフレッドさんが話しかけて来た、機械だから顔色なんて変わらないだろうと思ったが察しのいい彼の事だ、僕が怯えているのを感じ取ったのだろう・・・。
「実は・・・」
魔王討伐の旅に出てから今日で18日目だ、アルフレッドさんは少なくとも心を許せるくらいには仲良くなっていると思う・・・僕の不安を打ち明けてみた。
「・・・」
いや何か言ってよ!。
「・・・」
「・・・」
「歴代の王族の中にはそういった卑劣な行いをした者も居たと聞いています・・・ですが、今の王は大丈夫ではないかと私は思いますよ・・・ポンコツですが民の事を大切に考えている賢く優しい王です」
「そう・・・ですね」
僕の心配は杞憂に終わった、今日から僕は自由だ、10年に一度は身体の中にある魔石を交換する為に王城で検査とメンテナンスを受けなければいけないのだけど、ローズマリー王国内なら何処に行ってもいいし何をしてもいいらしい。
この国と国交のある国になら他国へ遊びに行っても良いそうだ。
僕の口座には目が飛び出すほどのお金が振り込まれていた、贅沢しなければ一生遊んで暮らせる額だ、しかも困った事があればいつでも王家を頼れと城への入場フリーパス的な身分証をくれた国王、もうクソ野郎とは呼べないな。
寂しくなるから年に一度は顔を出しなさいと王妃様に約束させられたし、まだ幼い王子様と王女様は行かないで勇者様と泣きながら引き止められた。
僕がこの世界に召喚されてもうすぐ1年が経つ。
当初の予定通りオルカの街と王都ゼーレでの二拠点生活は快適だ、オルカ郊外の自宅で雑貨店を開き不定期営業しつつゼーレにある高層マンションで優雅な引きこもり生活を楽しんでいる、もちろん数日おきにアンジェちゃんと遊ぶ事も忘れていない。
ゼーレでは一緒に買い物をする友達も出来た、彼女の名前はアルミィ・カーン、主任エンジニアのスチールさんの娘だ、元々6歳の幼女だったのだが訳あって全身機械化改造手術を受け、今は10代後半くらいの姿になっている・・・身体は大きいのに言動は幼い子供、まるで妹みたいで可愛い。
日本へ帰還する為の魔法陣は魔術師団長のシーオ様が構築してくれているが難航しているようでまだ準備できていない。
召喚元・・・1年後の日本に帰るだけならすぐに出来るらしい、最初の召喚は多大な代償を伴うのだが一度開いたルートは魔術師が魔法陣を起動するだけで何度でも往復できる。
だが僕の強い要望で召喚された直後の時間まで遡って帰還させて貰う事になった、時間の逆行は精度調整が難しくシーオ様の手動制御になるため一往復で許して欲しいと言われた。
無理を言ってシーオ様にお願いした理由は召喚された直後の日本に戻り、僕の制服や下着、特級呪物であるカバンの中身を回収する為だ。
それをやらないと僕は服だけ残して全裸で失踪した変態になる、もちろん手がかりを探す為にカバンの中も調べられるだろう・・・そんな事になったら僕は恥ずかしくて死ぬ!。
日本に戻り服と呪物を回収、家族に事情を説明して再びローズマリー王国の今の時間に戻るのだ、その後は王城に設置されている召喚魔法陣を使って日本へ自由に渡る事ができる、家族には1年後にまた戻ると言って納得させなければいけないが・・・。
全裸で僕を召喚した事についてはシーオ様も責任を感じているようで、必ず元の場所、元の時間に戻してやると言い魔術師団のお仕事が終わってからも毎日遅くまで頑張ってくれている。
「こちらです・・・」
今日僕はスチールさん達エンジニア軍団の研究所を訪れている。
ここに来たいと言った時、国王はもちろん、宰相やスチールさん達が慌て始めた、僕はもうすぐ死んでしまうと言われている生身の身体を最後に一度見たいと言っただけなのに・・・。
あくまでも軽い気持ちで言ってみただけだったのだが・・・まずスチールさんが慌てた、僕と目を合わそうとしない、その後国王に呼ばれてどうしても生身の身体を見たいのかと聞かれた、国王も酷く動揺していて目が泳いでいる・・・。
怪しい・・・国王の挙動不審ぶりを見て僕は確信した、何か隠している。
「確かに僕は献体・・・研究の為に身体を自由にしていいと言ったけど、もしかして僕に見せたくないような事をしているの?、僕の身体に何をしたの?、怒らないから正直に!」
「分かった・・・今からスチールと一緒に見て来るといい」
国王の許可を得て僕はここにやって来た、超近代的な建物だ、表には王立義体研究所と書かれていて建物の中も宇宙船か実験施設のようだ、その施設の最奥に僕の身体はあるという。
ぴっ・・・
がこぉぉぉ・・・
扉が中央からスライドして開く、中は明るくガラス張りの実験室のような感じだった。
「なぁっ!・・・なんじゃこりゃぁぁ!」
ガラスに囲まれた部屋の中には全裸の僕が居た、首から上は機械に覆われて見えない、人工呼吸器のような音が規則正しくリズムを刻んでいる、身体は両手両足が「X」の形に拘束されていて股間には太いチューブが挿入されている。
ここまではなんとなく予想できていた・・・だが!。
ゴゴゴゴゴ・・・
「スチールさん・・・」
「ハイっ!」
「どうして僕のお腹、膨らんでるの?、まるで妊婦みたいだね・・・」
「実は・・・」
「なんで相談してくれないの!」
「申し訳ありませんっ!、言えば反対されるかもしれないと国王陛下が・・・」
「また国王の仕業かぁ!」
スチールさんの言い訳・・・いや、説明によると、勇者とこちらの人間が結婚して生まれた子供は優れた特殊能力を持つ事が多いらしい、このまま僕の肉体が死んでしまうのは勿体無いから体外受精させて子供を・・・という事だった。
これまでの事もあって薄々感じてたけど・・・この世界の倫理観どうかしてるだろ!。
「で・・・父親は誰?」
「ダニー・オルネン様です、本当は子供好きで三人は欲しかったらしく・・・こちらからの提案を受けて快く協力頂きました」
「ダニー様・・・」
父親は僕の旦那様でした・・・魔王討伐が終わってから彼は王都のオルネン邸で暮らし、僕とはあまり話す機会も無かったけど、アンジェちゃんの事や街での生活は時々通信でやり取りしていたのだ、でも一言もそんな事言ってなかったし!。
「陛下からの指示でこの事は勇者様には黙っているようにと・・・」
知らない間に僕は妊娠させられていた!。
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