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第3章 テルビス編
芽生え②
しおりを挟む煙草を咥え椅子に座り、片付ける2人の様子を監視するよう眺めているマディーナ。マディーナはふーと煙を吐き出し、一呼吸置いて口を開いた。
「……お前らさぁ、リラの事は異性として好きなんだよな?」
「何。いきなり」
ギルが少し苦笑し、言葉を返す。
「いや、何となく聞きたくて」
ギルとジルはお互いに顔を見合わせ、そして再び視線をマディーナに戻した。
「そうだよ」
「そうだよ」
「ふーん…」
揃った返事にマディーナはそう呟き、何か思案するように煙草を一吸いする。
「なんか不都合でもあるの?」
ムッとしたようなジルの言葉にマディーナは苦笑して「違う違う」と言葉を返した。
それから少し時間を置いてマディーナが再び双子に質問をなげかける。
「なぁ…お前らから見てシルキーはどう思う?」
「どうって?」
「シルキーがリラちゃんの事どう思ってるかってこと」
質問の意図がわからずジルはマディーナに聞き返したが、ギルは理解していたようで言葉を付け足した。
「あぁ。そういうこと。
そうだね…。あれは完全に恋する乙女だね」
「話しかけてもどっか上の空だし、外の景色を見てはため息ついてるし」
「最近食欲もないしね~」
「あれは見ていて面白いよね」
「あんなシルキー見たことないからね~」
「そうそう。……ところでさ、聞いてばっかだけどマディーナ自身はどうなの?」
「は? 俺?」
「リラちゃんの事それなりに可愛がってるように見えるけど」
2人の真剣な視線に一瞬キョトンとして、マディーナはプッと小さく噴き出した。
「俺は好みが違ぇよ。俺は色気がある女が好きなんだよ。リラはどちらかと言えば妹みたいなもんだな」
「ふ~ん。そうなんだ」
「まぁ、歳も離れてるしね」
「そうそう…。さ、片付けも終わったみたいだしちゃんと帰れよ」
マディーナの言葉にギルとジルは返事をすると、それぞれ鞄を持ちマディーナの家を後にした。
ギルとジルが帰ったあと、マディーナは最後の煙を吐き煙草の火をもみ消すと、椅子にもたれかかり天井を見上げた。
そう。リラは自分の好きなタイプとは逆だ ―…。
「なのに何でかなぁ…」
何故彼女の事が気になるのだろう―…。
(やっぱり全員がリラに好意を持っている…。…たまたま好きな奴がカブった、て言うレベルじゃないんだよな…)
「…何で気になるんだ」
マディーナはまるで自分に問いかけるように呟く。
("何で゛か…。そう…。本質的な疑問はそこなんだよな…)
しばらく天井を見つめ続けていたマディーナだったが、なにか思いついたのかパッと椅子から立ち上がりどこかへと電話をかけはじめた。
*********
「リラ~。もうすぐで晩飯ッスよ」
「は~い」
リラは急いで掃除道具を片付け、待ってくれているテオの方へと駆けていった。
「お腹すいたッスね」
「うん。本当に」
「そういやさっき電話してたけど、もしかして恋人ッスか」
ニヤニヤとした表情のテオにリラは苦笑しながら違うよ、と答える。
「さっきの電話はマディーナ様からだったの」
「マディーナ様ってあのメイザース家の親戚の方の?」
「うん」
「どんな用事があってマディーナ様がリラに電話をするんすか?」
「え?」
驚いた様子で聞いてくるテオに、逆にリラも驚く。
「いや、だってマディーナ様みたいな方がわざわざ使用人のリラに電話するなんておかしいスよ」
「っあ…。それは……」
確かに言われてみればそうだ…
リラが言葉に詰まっているとテオが突然大きな声をあげた。
「……あっ! あぁ! そういう事ッスか!」
「へ?」
「大丈夫ッス! 俺誰にも言わないッス!」
「え?」
「隠さなくていいッスよ。マディーナ様とそういう関係なんスよね」
「…えっ!? いや! 違う違う!」
「大丈夫だって。俺、口堅いッスよ」
「だから違うって! マディーナ様はよくメイザース家にお茶をしに来ていて、そこでよく私が紅茶淹れてたから他の使用人に比べてよく喋ったりするの。ただそれだけだよ」
「そうなんスか?」
「そうそう。さっきも来週メイザース家の方達が来るって用件だったの」
「なんだ。そうなんスか…。ま、そりゃそうッスよね」
「え? 何が?」
「いや、身分の差って言うか…。あの方達は俺らと住む世界が違うじゃないッスか」
"住む世界が違う"
その言葉にリラは胸の奥にずしりと鉛のような重みを感じた。
「俺もティーナ様に憧れるけど、付き合えるわけないし…。はぁ…。せつないッスねぇ」
「うん。そう、だよね…」
その後テオは別の話題に切り替えて話をしていたが、リラの頭にその内容は入ってこなかった。
(なんで私ー…)
リラの頭にある人の笑顔が浮かぶ。と同時にさっきのテオの言葉が胸に突き刺さった。
"付き合えるわけない"
そう。そんなのわかってる。
だって当たり前なことだし、そんなこと考えるなんてした事もなかった。
でも言葉で言われるとなんでこんなにも…
こんなにも…苦しいのだろうか…
「リラ。ちゃんと聞いてるんスか?」
「えっ、あっ、聞いてるよ。あ、ほら早く食堂行こっ」
「あ、うん…」
テオはぎこちないリラに頭にはてなを浮かべるが、さほど気になる事ではなかったのでリラと共に足早に食堂へと向かうのだった。
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