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第4章 サリエル編
愛欲①
しおりを挟む飢えた鳥はカゴから解放されて
甘い果実に囚われるのだ―…
【愛欲】
「やっと会えた」
その一言がリラの思考を一瞬停止させた。そしてひと呼吸置いて次々と浮かび上がる疑問。
あれは誰?
メイザース家の知り合い?
もしかして私会った事ある?
覚えてないだけ?
あの紅い瞳と黄金色の瞳はラリウス様と同じ…?
あれは"人"なの―…?
「リラ大丈夫か?」
「えっ…あっ、だ、大丈夫です。申し訳ありません」
男の声にハッとし、リラは慌てて返事をした。
「あ、あの…大変失礼ですが人違いされてるのでは…」
「人違い? いや、それは有り得ない」
男はそう言うとリラへと近づく。その男に対する不信感からリラは少し後ずさるがあっという間に距離を詰められてしまった。
「私がお前を間違える訳がない」
「え……」
男はジッとリラの瞳を見つめる。
恐怖を感じるリラだったが、何故か彼の瞳から目を反らす事ができなかった。
少しして男はふと視線を外すと、リラから離れソファーへと腰をかけた。男から座るように言われ、リラも仕方なく向かい側のソファーに座る。
「あの……もしかしてメイザース家のお知り合いの方、でしょうか?」
「私の目を見たらわかるだろう?」
「……ラリウス様と同じ…です」
リラの脳裏にジェスと戦っていた時のラリウスの姿が浮かぶ。
「正確にはラリウスが私と同じ、なんだがな」
「え……?」
「リラにまどろっこしい話は無駄だろう。ストレートに話そう。
私の名前はサリエル。長年メイザース家と契約していた堕ちた天使だった」
「…契、や…く……? おちた…天使…?」
サリエルという人物の言葉にリラの脳内は小さくパニックをおこす。聞いた言葉に思考がついていかない。
「ジェスが悪魔と契約して力を得てたのと同じだ。
メイザース家の当主は代々私と契約し、暗殺貴族として働いていたのだ」
普通なら到底信じられない話だが、彼、サリエルはジェスの件も暗殺貴族の事も知ってるのだ。リラはサリエルの話を疑いようがなかった。
「……何故私に会いに…? ラリウス様も一緒にいらしているんでよね?」
サリエルは質問に返事をすることなくソファーから立ち上がりリラの側に近寄る。
「あの……」
「……ラリウスの事など気にするな」
距離を詰め、自分を見下ろすサリエルに恐怖を覚え、リラは慌てて立ち上がる。しかしすぐさま肩を押されボスンとソファーに戻らされてしまった。
「な…何を……」
サリエルはソファーに片膝をつきリラをジッと見下ろし、その頬に手を添えた。
それは愛おしいものに触れるように優しく、そしてその形を、温もりを指先ひとつひとつで確かめるようにリラの頬の上をゆっくりと滑る。
その感覚にリラはゾクリと鳥肌を立たせた。
「これからお前は私だけを見ていればいい」
「え……」
ギシリと軋むソファー。リラの視界の端に広がる綺麗な白緑色の髪の毛。唇にあたる柔らかい感触。
一瞬の硬直の後リラはサリエルの胸をドンと押し返した。
「…な、何をっ…!」
慌てるリラをよそにサリエルは不思議そうに自分の唇を指でなぞっていた。
「……これが人の唇の感触…」
「え……?」
「なるほど……」
サリエルは1人納得したように呟き、混乱してるリラの方を見た。
「なぜ人が口と口を交わすのか不思議に思っていたが…。
悪いものではないな…いや、むしろ好ましいものだな」
そう言って再び距離を近づけようとするサリエルをリラは力強く押し返し、距離をとった。
「何でこんな事をっ!
ラ、ラリウス様達はどうしたんですか!? 何かあったんですか!?」
「…別に何もない。だから気にするな」
「………私確認して来ますっ」
リラは踵を返すと扉に向かってダッと駆けていった。
「リラ、待て」
後ろの方で制止の声が聞こえたがリラは振り返りもせず、そのまま部屋を走って出ていった。
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