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前後の記憶が謎すぎる

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「……か。おい…………大丈夫かと聞いている。目を開けたら返事くらいしろ」
「………………はい?」

酷い頭痛がする。
後頭部を押さえながら目を開けたら、目の前に覚えのないイケメンの顔があった。
真っ黒いサラサラの髪に、冷たい水色の目。

「どっ」
「……ど?」
「どちら様で……?」

尋ねると、イケメンが少しムッとした顔をする。

「……意識は戻ったが、相当強く頭を打ったらしいな。記憶が混濁しているんだろう。簡易処置として保険医に見てもらうのがいい。立てるか? 無理なら運ばせるが」
「え? あ、いいです。立てます多分」
「それは幸いだ」

私はイケメンの膝の上に頭を乗せていたようだ。状況的にはおそらく、廊下らしきこの場所ですっ転んで頭を打って倒れた……。
起き上がりながらそうかと尋ねると、イケメンは「ああ」と気のない雰囲気で答える。

「僕の前を歩いていたお前は先程、足を踏み外したか階段を落下してここで倒れた。声を掛けたがしばらく意識がなかった。気がついて良かったな」
「そうでしたか、ありがとうございます。ご親切にどうも……」

そそくさと立ち上がってお辞儀をすると、私は足早にその場から逃げ去った。
頭がズキズキする。
9割は物理で。残りの1割は――

「ここ、どこ……」

ここが全く見覚えのない場所で、ついでに見覚えのない服を着ていたからだった。


 *


――なんだかわからない。
わからないけど、わからないなりになぜか自室っぽい所へ帰ってきた。
結構素敵なそのお部屋には、豪華な花柄のカーテンとすごく高そうな家具。
プリンセス御用達みたいなドレッサーには、ひっつめ頭に瓶底眼鏡のもっさりした女の子が映っている。こっちを見ている。

「……もしかしなくても、私? いやいや嘘でしょ。髪、紫色じゃん? あと何このおばあちゃんみたいな色のワンピース」
「何をおっしゃっているんですかカレン様?」
「カレン様?」

急に話しかけられてビクッと振り向くと、何やらお茶用意中のメイドのお姉さんがいる。
無表情で、大分愛想の悪いメイドさんだ。

「カレン様……?」
「そうです。頭でも打ったんですか」

自分を指さして聞くと、呆れた感じで頷かれた。
いや、打ったけど……。


 *


私、山田夏恋16歳。高校2年生。
山田夏恋だけど、カレン様ではない。

直前の記憶を辿ろう。

土曜日。友達んちでお泊まり会。古の遊戯・ジンセーゲームで盛り上がる。
日曜昼。ダラダラして午後に解散。宿題進度0。
日曜夜。スマホに知らないアプリが入っている。友達の仕業だと思って起動。

月曜日。寝不足で教室移動してたらフラフラして、確か階段で――

「そう、階段で落ちたんだ!」
「その割にはお元気そうで良かったです」
「そこまず『大丈夫ですか』とか言わない普通?」

無愛想なメイドは置いといて、学校から謎の場所にいる理由、ひいては髪が紫で顔も違う地味子の体に山田夏恋の意識が宿っているっぽいこの状況について、何かわかることがないか考えよう。
――よーし、何もわからない。
どうしてこうなったかわからない。わかるわけがない。

「お疲れみたいですしもう寝たらどうですか」

夕飯食べ終わっても唸っていたら、メイドがぞんざいに寝かしつけてきた。
ので、寝た。
ふて寝だ。

寝て起きたら――なんて都合のいいことはなく、そもそもまだ起きてすらないようで、私は夢の中にいた。
夢の中で会ったのは、淡い紫色の髪をひっつめた眼鏡の少女、カレン様だった。
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