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復習内容が違いすぎる

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王立ルーン学園。
15歳からの、良家の子女が集まる上級学校。
専攻は、『魔法学』――。

ルーン学園には、いくつか特徴と呼べるものがある。
一つは、魔法学校と言っても魔法使い向けではないこと。
技を磨くのではなく、主に魔法の制御を学ぶことが目的の学校である。

入学基準は15歳時点で、魔力を持つが危険のない範囲――すなわち魔力量が少量、且つ魔術行使が不得手である場合。
または、魔術行使の形跡があるが効果や行使方法が不明な場合。
または、特定の魔法を保持している場合。

人生において魔法を使いこなすことではなく、危険がない状態に安定させる技術を学ぶための学校が『王立ルーン学園』である。

――と、ここまでは復習だ。
この後はそう、眼鏡かけてひっつめにした薄紫色の髪の……つまりカレンが出てきて『ここが私の通う学校ね』と言うのだ。

カレンは中流貴族であるスミス伯爵の娘で、少量の魔力を持ち魔法行使の痕跡もあると検査でわかったが、本人は魔法など使った覚えが全くない。家族や家庭教師も知らないし、教えた覚えもない。
このタイプの子は「不明・無意識型」と分類され、15歳になるとルーン学園で魔法の特定と制御の方法を学ぶことが義務付けられている。

『――ここが私の通う学校ね』

さあ出てきたぞ! ……って、あれっ!?

『貴族ばかりの学校で、私みたいな平民がやっていけるのかな……』

画面に映った主人公らしき女の子は、薄紫の髪ではなかった。
金髪に青い目の、天使みたいな外見。
画面には「エミリア」と表示されている。
カレンじゃ、ない……? え、カレン主人公だったよね?
前の日のジンセーゲーム・オールが祟ってここらへんで寝落ちしたけど、主人公の記憶は確かなはずなのに。

『エミリア・クロスさん、あなたの魔法は不明という結果が出ています。これまでの経緯を伺う限り、危険なものではなさそうですが、どんな魔法かわからないままでは暴発など、後々危険を招く恐れもあります。この学園で魔法の基礎を学び、魔力の制御を身に着けていきましょうね』
『はい!』

エミリアは素直に学園の説明を聞き、前向きに学園生活を送ろうと考える。
あれぇ??? めっちゃ主人公っぽい……。カレン、出てこないの? ……って、出てきた!
エミリアが教室に入った所で、薄紫に菫色の目の、ちょっとキツめな美少女が登場した。名前も「カレン」と表示されている。……見た目は違うけど、前はこの子が最初に登場してたと思ったけどな?
カレンは仁王立ちして言い放つ。

『今年は平民が入学するって本当だったのね。あなたでしょう? エミリア・クロスさん。……王立ルーン学園は伝統ある貴族の子女のための学び舎。まさかこんな事が起こるなんて……それも、よりにもよって私と同じ学級に!』
『えっと……?』
『あなたと私たち貴族は格が違うのよ。髪を結うリボンも持っていない貧乏人が、私の視界をうろつかないで頂戴。不快だわ。まったく、学園長先生は何をお考えなのかしら……とにかく、今後は立場をよくよくわきまえて、なるべく大人しく地味に過ごすことね』

突然高飛車に言われ、困惑するエミリア。
カレンめっちゃ感じ悪いんですけど。さっきの水掛け3人組のリーダー格並に感じが悪い。こんなに嫌味なヤツなら、そりゃこのゲームのカレンは友達もいないだろう……と思ったが、意外にも違った。

『そうよそうよ、カレン様の言う通りよ!』
『うふふ、カレンったら。そんな優しい諭し方で平民が理解できるかしら?』
『はぁ……カレンさん、凛々しくって素敵だ……』
『おい平民、オレたちのカレン様に失礼なことをしたら許さないからな!』

ナニコレ人望の塊!? 性格悪いのに!?
その理由は、部屋に戻った後、ルームメイトだという下級貴族の女の子が教えてくれた。コニーと名前が出ている。大人しそうな女の子だ。

『……あのね、クロスさん……カレン様には逆らわない方がいいのは本当よ。あの人って味方がすごく多いの。お家の力もあるけど、多分「魅了持ち」なんだわ』
『魅了持ち?』
『この学園に入学が義務付けられる、特定魔法の一つよ。周囲の人を魔法で魅了しちゃうの。魅了は、普通は使っちゃいけない魔法で、封印されてなきゃいけないんだけど……もしかしたら魅了の力がすごく強かったり、今まで解明されてる型と違ったりして、上手くできてないのかもしれない。先生や注意してくれる大人のことも魅了してるっていう噂よ』
『ええっ、そうなの!?』

ええー!?
カレンってめっちゃスゴイじゃん!? そんな力があるなら友達100人もありえる話だ。でも不良だな。

『コニーは魅了されないの?』
『私は多分、魅了に抵抗がある力を持ってるんだと思うの。エミリアもそうかもしれないわ。今、カレンを崇拝する気持ちになってないなら。……でも、多少は魅了された風に振る舞うのが賢いよ。あの人に嫌われたらやっていけないもの』

エミリアは反感を覚えつつも、コニーの忠告をありがたく受け止める。
目立たないようにと言われたのだから、なるべくカレンに近づかないように生活すればいい、と考えたのだが……翌日なんと、廊下で転んで頭を打ってしまうのだった。
……ん? 既視感のあるパターンだな。

『大丈夫か』
『あ、あなたは……?』

エミリアを助け起こしたキャラを見て、私は後頭部の痛みがぶり返すような気がした。
サラサラ黒髪に冷たい水色の目のイケメン――シャロン様じゃん!

『平民がシャロン様を誑かそうとしていたわ! きっと悪い魔法を使ったのよ!』

その後、お約束のように糾弾される。カレンと、その取り巻きによってだ。青いドレスの女子が何やら唱え、エミリアの頭上から水が降ってくる。
そしてカレンらが去り、エミリアが露骨ないじめに呆然としている時、再び誰かが通りかかる。

『……またお前か』

なんと、これもお約束のようにシャロンなのだった。
彼はハンカチを取り出し、エミリアの髪を拭いてくれた。
愛想は悪いが優しい人なんだろうな、と感じられる手付きだった。

……既視感のオンパレードなんですが、これいかに。

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