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出会った子が天使すぎる

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よし、やめよう。
シャロン様は諦めよう!

3人組が去り、私も部屋に帰ることにした。このままここにいたって、風邪をひくのがオチだ。
カレンが関わるなって言ってたのは、こういうことだったんだなあ。きっと前にも水ぶっかけられたに違いない。

「……って、虐められとるやないかーい! ゼロどころかマイナスかよ!」

友達いない人望ないレベルじゃなかった! 
ショックの余り、芸人ばりにセルフツッコミしてしまった。カレンは一体過去に何をやらかしたんだろう。
ともかく、一つはっきりしたことがある。
それは、彼氏よりまず同性の友達作るのが先ってこと……!

美少女だからもしかすると彼氏の方が簡単かもしれないけど、予感がする。彼氏を作ってから女友達を作る順番にすると、難易度めっちゃ上がる絶対。
カレンは妬まれやすいタイプに違いない。

「明日からまたひっつめ眼鏡に戻そうかな……」

まだクラスメイト全員は把握できてないけど、なるべく大人しそうで優しそうな、仲間に入れてくれそうな女の子を探して声をかけてみよ……。
ハンカチを忘れる女子力の低さゆえ袖で顔を拭いながら歩いていると、ふと前方に人の気配が現れた。

「あれ……? カレン・スミスさん? どうしたの、池にでも落ちちゃったの……?」

鈴を転がすような声に顔をあげると、声にぴったり相応しい可愛らしい女の子が立っていた。綺麗な金髪に青い目のお人形さんみたいな子だ。驚いた顔で私を見ている。

「あー、えーとこれは……」
「大丈夫? 随分元気が無いみたい。これ、使って!」

ハンカチを出して、私の額に当ててくれた。

「ありがとう、ございます……」
「あはは、堅苦しい話し方。同級生じゃない、もっと楽でいいでしょ。ねえ、何があったの? カレンさん」
「いや、ちょっとしたトラブルで……気にしないで」
「気になるよ! この前も転んで意識がなかったって聞いたのに」

天使か!
突然のめちゃめちゃ優しい同級生の登場に感激して、私はポロッと何があったのか話してしまった。しまったというか、チクってやったというか。
天使は悲痛な表情になった。

「えっ……そんな、酷い! いくらシャロン殿下とお話できて羨ましくたって、それは少しやりすぎだよ! 殿下って皆に優しいから、怪我をしたカレンさんに声を掛けてくれたのは当たり前なのに! ねっ、そうでしょう? それをそんな風に責めるなんて……!」
「本当に!!」

私は激しく頷いた。
いい子だ!! 天使としか言いようがない!! これは是非、お友達第一号になってもらうしかない!

「あの、実は私頭を打ったせいで記憶がかなりなくなっているみたいで」
「ええっ!? 大変!」
「そう、大変なの……だけど、なんだかクラスに頼れる人がいなくて。よかったら、色々教えてもらえないかなあ。あなたの名前も、ちょっと今は思い出せないんだけど……」
「エミリアだよ、エミリア・クロス。私たち、前はほとんど話したこともなかったよね。だけどこれからは仲良くしようね! 私、困っている人を放っておけないよ!」

天使~~~~!

「よろしくね!」
「こちらこそ……!」

エミリアの差し出した手を握り返す。
やったよカレン! 友達できたぞー!


 *


「ぞー! ……って言ってんのに、なんで現れないんじゃー!!!」

その晩あのガランとした部屋の夢をみたものの、呼んでも頼んでもカレンは現れなかった。
カレンは私の世界で女子高生をしていく気だ。
なんとなくそういう、「こっちとはもう関わりたくない」という意思表示だけが感じられた。
……いや、だからそっちは私の人生だってばー!

「せめてどう生活してるのか教えてよ、というかなんで私の方が権力弱いの!? 対等じゃなきゃおかしいでしょうがー!! そもそもあんたの元の人間関係とか、なんで地味変装してたのかとか不明なままでどうやってやって行けっていうんだよ! 元の私の環境に比べたら、美少女以外いいとこないじゃんかよー!」

個人的に美人なのはポイント高いけど! 結構ラッキーみ感じてはいるけど!
地団駄踏んで叫びまくっていたら、ガコン!と何かが落ちてきた。

「あっ!? 私のスマホ!」

秒で拾い、メッセージアプリを立ち上げ……ようとしたのに、無かった。ていうか電波も受話器マークもない。チッ。
あるのは、一度見た覚えのある見慣れないアプリのアイコン。

「『王立ルーン学園』…………」

このゲーム、そんなタイトルだったんだ。学校名そのままとか。
夢の中でゲームか……。寝てるのに寝不足になりそうだけど、文句も言っていられない。
私は、そのアイコンを改めてタップした。
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