石川家シリーズ

Lucky

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年末年始・前編(29日~31日)

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今日は仕事納めの二十九日。

終業時間の午後五時より幾分早く仕事を片付け、一年間共に頑張った机と電話にご苦労さんの気持ちを込めてピカピカに磨く。

課長の締めの言葉を聞いたら、明日から四日まで正月休みに入る。

六日間もやで。盆休みでも四日間や。そやのに、あまりゆっくり過ごした記憶が無い。

何でかわからんけど、いつも気が付いたら四日の晩や。

せっかくの正月休み、もったいない話やないか・・・。


「そら石川のところは、寝正月いうわけにはいかんわな」

「課長!」

「まぁしかしな、その忙しさも子供が小さい間だけやで。すぐに正月休みが退屈になるから。
今のうちだけや、存分に忙しい思いしとけ」

子供が中・高校生のところの課長は、俺のぼやきを羨ましそうに茶化した。

そんなもんなんかなぁ。そんなもんなんやろうな・・・。

チビらの顔が思い浮かんで、遠いようで近い将来にふと寂しさを覚えた。

「課長・・・。俺もいずれ正月暇になったら、その時はつき合うて下さい」

「ああ、先輩として慰めたるから心配するな。ほな、ええ年をな」

「はい!ありがとうございます!課長もええ年を迎えて下さい」


各々挨拶を済ませ、しめ縄に飾られた会社の玄関を出た。


さあ!正月休みのスタートや!







大晦日前日(三十日)


・・・ガーッ!ガーッ!ズビィィー!!

「ふわあぁっ!!・・・何や!?何の音や!!」

いきなり耳の側で轟音がして、目が覚める。

「ああっ、もう!布団吸い込んでしもたわ!」

寝ぼけ眼で飛び起きると、妻の寛子が掃除機の口を力任せに引き離していた。

俺、寝てんねんで・・・いやそれよりも、スイッチ切ったらどうやねん。

一旦は飛び起きたものの、体はまだ睡眠を要求している。

当然や、一年間の仕事の疲れはそう簡単に取れるもんやない。

再度布団を被った途端、

「パパ!!いつまで寝てんの!!忙しいのはこれからやのに!!」

・・・ほんなら、会社での俺の忙しさは何やったんや。

「パパ!!起きてや!!ママがうるさいねん!!」

・・・どうせママの言うこと聞かんと、ゲームばっかりしてるからやろ。

「パパぁ!!お兄ちゃんが、ゆかのことあっちいけっていう!!」

・・・いつも泣かされるくせに、裕太の傍に行くねんなぁ。


掃除機の轟音よりけたたましい声に、一分も寝てられへんかったんは言うまでもない。







大晦日(三十一日)


毎年、年末年始は親父の家で過ごす。

朝一番、買い込んだ正月用品を車に詰め込んで移動する。


親父の家に着くと、すぐ我が家恒例の大晦日の墓参りへ。

昨日はあれから、大掃除と正月用品の買出しで一日が終ってしまった。

翌日にきっちり筋肉痛になるいうことは俺もまだ若い証拠やと、上がらん腕に顔を引きつらせながら先祖の墓前に手を合わす。

墓掃除を兼ねた墓参りでは、親父が主導権を握る。

「さてと、みんなでご先祖さん綺麗しよな。裕太とゆかは、水汲んで来てな」

「はい!おじいちゃん!ゆか、行こ!」

目の前に迫るお年玉額一番の有力者の声に、裕太の返事にも力が入る。

「隅っこの埃も取って、気持ちよう新年を迎えてもらわんとな。柾彦、ちょっと墓石ずらしてんか」

裕太は水汲みで俺は墓石か・・・子供はええな。痛む腕が、つい不埒なことを思う。

「パパ、大丈夫?腕、痛いんとちゃうの?私も手伝うわよ」

やっぱり俺の奥さんや。こんな時に、愛情って感じるもんなんやなぁ。

じ~んとする熱い気持ちが、俺を奮い立たせる。

寛子に「大丈夫や、任せとけ!」と言おうとした矢先、横からお袋が手を払いながらしゃしゃり出て来た。

「大丈夫、大丈夫、墓石は柾彦とお父さんに任せといたらええのよ。
寛子さん、私らは草抜きでもしましょうかね」

「はい!お義母さん!」

嫁にとって姑の言葉は絶対なのか、あっさり寛子はお袋の方に行った。

まあ、仲良うしてくれるに越したことはない・・・・・・。

そう思いつつも墓周りの草を抜きながら楽しげに話し込むお袋と寛子に、何故か先ほどの熱い気持ちとは別の力が入る。

「柾彦、もうちょっと右や。・・・よっしゃ、次は左」

「うおぉぉ・・・っ!!」







腕と腰が・・・。

墓参りを無事に終え、家に帰ると早々裕太にシップ薬を貼ってもらう。

「パパ、ここも貼っとく?」

「ゆかも、はる!」

「ゆかになんか、出来へん!」

「できるもん!できるもん!できるぅ!パパぁ!!」

ゆかが何でも裕太の真似をしたがるのはわかるけど、シップ薬は失敗するとひっつくからな。

「ゆか、見てみ。この薬、こうして上手に剥がさんと、すぐひっつくねんで。
ひっついたらむちゃくちゃ痛いで。な、ゆかにはまだ無理や」

「・・・ゆか、はがせるもん」

「ゆかが剥がしたら絶対ひっつくに決まってるんや!ひっついたら痛いのにぃ~!ほうら・・・」

せんでもええのに、裕太が一枚ペロリと剥がして、いちびってゆかにひっつけようとする。

「こら、裕太。ほんまにゆかにひっつくやろ」

言うた尻から、シップ薬がゆかの手にひっついた。

「うわああぁぁんっ!!」

言わんこっちゃない、そら見たことか・・・。

すぐ剥がしてやっても強烈なシップ薬の刺激臭に、ゆかは火がついたように泣き出した。

裕太もほんまにひっつけるつもりはなかったんやろう、ゆかの泣き様に驚いて顔が強張っていた。


一時が万事。つもりはなくても、ここは厳しく叱っておかんとあかん。


「裕太!ふざけるにも程がある言うのが、わからんのか!」

「ふえぇ・・・パパ・・・けど、ぼく・・・」

既に半泣きの裕太の手を掴まえて、膝に引き倒す。

「けど、何や。何を言い訳することがあるんや!」

ズボンごとパンツも引き摺り下ろして、手加減なしの平手を一発尻に落とした。

バチィ~ンッ!!

「うわああぁぁんっ!!」

裕太もゆかと同じように、大きな泣き声を上げた。

容赦なく、続けざまに尻を打つ。

バチンッ!! パァンッ!!

二発三発目は多少手加減したものの、裕太には同じ痛さに感じたはずや。

「裕太、あれが手やったからまだ良かったけど、顔やったらどうなってたと思うんや。
強い薬が表面に塗ってあんねんで。一瞬でも目に当たったら、ちょっと間あけへんようになるで」

「うええぇぇんっ!・・・ひぃっく・・ぐずっ・・ごめんなさいぃ・・・」

「そやな、最初にごめんなさいやな。せっかく裕太、パパの為にしてくれてたのに、
パパ怒らなあかんようになってしもたやんか」

「パパァ・・・ごめん・ひっく・なさぃ・・ぐす、ぐすっ・・・」

最近は叱って尻を叩いてもそんなに大泣きすることのなかった裕太やけど、まだまだゆかと変わらんな・・・可愛いてたまらん。

三発で充分やな。

くっきりと赤く手形の付いた裕太の尻を撫でてやる。

「うわああ~んっ!!パパぁ!!ゆかもぉ!!」

ああ、ゆか忘れとった。ゆかは、裕太が尻叩かれとってもヤキモチ焼くねんな。

はいはい、抱っこやな。

「パパぁ!!ぼくかって抱っこぉ!!」

抱っこて、なんぼゆかと変わらん言うても、お前もう四年生やで・・・う・・腕がっ!!



「あ~、柾彦。陽の高いうちから贅沢やけど、ええ風呂やったわ。
この先に温泉風呂が出来てんねん。お前も墓掃除で疲れたやろ、行って来たらどうや?」

親父、らん思たら風呂行っとってんな・・・。それもひとりでゆっくり。

「パパ!ぼくも行きたい!おじいちゃん、ブクブクのお風呂もあるん!?」

「ゆかも!」

「パパと行っといで。ブクブクも泡泡アワアワもあるで。凝りによう効く、薬湯もあるしな」

凝りによう効く薬湯!!俺もゆっくり浸かりたい!!ひとりで!!

「裕太とゆかは、ママとおばあちゃんと行ったらどうや。
おばあちゃん、風呂上りに裕太の好きなジュース買うてくれるで」

「ぼく、もう四年生やで。女湯なんか嫌や」

たった今まで、尻叩かれて抱っこ言うとったくせに・・・。この際、裕太は仕方がない。

「ゆか、パパといっしょがええもん」

うわぁっ、可愛いなぁ!けど、ゆかは寛子に頼も。

「パパな、腕痛いねん。ゆか抱っこしてお風呂入られへんねん。ママと一緒に行ってな」

「柾彦、それやったら早よ行った方がええで。母さんと寛子さんやったら、入れ違いに風呂屋で会うたで」

うおぉぉ・・・っ!!わかったわ・・・墓掃除の時に感じた力、憤懣ふんまんや。・・・おのれ!!

正月の準備で忙しい言うてチビらの面倒押し付けやがって、風呂屋に行っとんのかいっ!!

「裕太!ゆか!行くで!!」

「パパ!待ってや!!ゆか!急げ!!おじいちゃん!行って来まーす!!」







・・・疲れを取るはずの風呂で、さらに疲れが倍増したような気がする。

まあしかし、これで一年の垢を落とし、何はともあれ晦日の晩や。

ようやく新年を迎える仕度が整った。


親父の家は座敷で、掘りごたつの上に並べられた料理をみんなで囲む。

一応石川家の家長は親父から譲り受けているので、号令は俺が掛ける。

「みんな、一年ご苦労様でした。来年も良い年が迎えられるよう、元気で居て下さい。ほな、いただきます!」

さあこれから親父と酒を酌み交わしつつ、行く年来る年を堪能するんや!



「ねぇ、お義母さん、今年は紅白どっちが勝つんかしらね!?」

「そら、寛子さん、白組やわ」

「いや、今年こそは紅組やと思うで」

俺は紅白なんか見たないのに、寛子、お袋、親父の三人は、毎年楽しみで仕方がないらしい。

「毎年同じやんか。俺と裕太は他のん見たいよな。ゆかも、パパと同じの見たいよなぁ」

「うん!ぼくも紅白より、お笑いの方がええ!」

「ゆかもパパとお兄ちゃんと、おんなじのんみる!」

チビらを味方につけて、これで三対三や! 


「かまへん、かまへん、柾彦の好きなん見たらええ。
家族の為に一生懸命働いて、休みの時くらい好きな番組見んのは当然や。お前はこの家の家長やで.」

「親父・・・」

思ってもみない言葉で返されて、しかもあのお袋が何も言わんとチビらの世話を焼いている。

「裕太とゆかは、年越し蕎麦先に食べてなさい。今日はよう頑張ったね。ご先祖さんも喜んではるわ」

「柾彦、今年一年お疲れさん。来年も頼りにしてるで。乾杯や」

「ありがとう!親父!」

何やかんや言うても、親父もお袋も俺を頼ってくれてるんやなと思うと、胸が熱くなった。

俺はみんなの為に頑張るで!!何があってもみんなを守る!!

墓掃除や風呂の時とはあきらかに違った力が湧き上がって来て、ビールをぐいーっと飲み干した。

美味い!! ほんまに美味い!! 五臓六腑に染み渡るとはこのことや!!

親父と酌み交わす酒。昔は親父も怖かったけどなぁ・・・今ではすっかり好々爺や。

感傷が混じると、酒はなお美味くなるから不思議や。


「裕太もゆかも、すぐ眠ってしまいましたわ、お義母さん」

「そら、日中よう動いたもんねぇ。お風呂も蕎麦も、先に済ませといて良かったわ」

「何や、裕太もゆかも、もう寝たんか?せっかくTV見る言うてたのに」

「いつも子供らが居てると、ゆっくり見られへんて言うてるやないの。はい、パパ」

寛子の手酌で、グラスにビールが注がれる。

「おっ、すまん。お前も飲めや、美味いで」

「そうやね、じゃ、これに。ありがと、パパ」

親父もお袋も寛子も、みんな楽しそうに微笑んでる。

酒は美味いし、俺は幸せやー!!


「柾彦、美味いか、良かったな。もっと飲み」



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