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王子妃の部屋

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「王子様、王子妃様。選ばれた側室2名が後宮入りされました。ぜひ拝謁を。」
「通しなさい。」
「はい。・・・扉を開けよ。」

クラウスとわたくしは応接室で側室2人を出迎えた。
この日までに体調が戻り本当に良かったと思った。
側室の後宮入りの日に王子妃が懐妊でもないのに床に伏しているなんて許されないのだから。



「王子様、王子妃様。この度後宮に入りましたメリルでございます。」
「同じくリズでございます。」

「よく来てくれた。王宮は規律や礼儀を重んじている。不自由も多く大変だと思うが、そなた達は王室に入った事を自覚し、侍女や周りの人々への感謝を忘れずに過ごしてもらいたい。」
「「ありがとうございます。」」
「メリル、リズ。よく来てくださいました。王子妃のサーシャです。王宮生活に慣れるまで大変でしょう。王子様を支える者として、年長者として貴女方と仲良くしたいわ。ぜひ姉のように接して下さいね。」
「「感謝致します。王子妃様」」

ノーマン公爵の連れてきたメリルはノーマン公爵の懇意にしている侯爵家の娘だ。
大人しそうで顔立ちも美しい。
この国には珍しい褐色の肌は他国から嫁いで来られたメリルの母親に似たのだろう。
美しい赤い瞳がとても綺麗で知的に見える。
産まれてくる子どもはメリルの母上の国との貿易にもとても有効に働いてくれるはず。

カルナーレ侯爵の連れて来た娘リズは侯爵の弟の娘、自分の姪。
絵に描いたような生粋の御令嬢という感じの印象だ。
金髪の縦ロールで目は少しつり目がちだが青空のような美しいブルーの瞳が際立っている。
少々化粧が濃いような気もするけれど、きっと今日は気合を入れて来たんだろう。

どちらも少し緊張気味ではあるものの、器量も家柄も良く申し分ない。


「では、王子様。わたくし はそろそろお暇させて頂きますわね。今日から夜伽が御座いましょう? 夜伽の相手は王妃様が決められた方とでございます。」
「わかった・・・」
王妃様が決める理由は、王様やクラウスが決めると、政治的にどちらに肩入れしている。等と噂が立つのを防ぐため。
王妃様が王子妃時代も貴族令嬢から選ばれた側室はみんな先代の王妃様がお決めになっていた。



「では、2人とも。これからは3人で王子様を支えましょう。」
わたくしはそう言ってお付きの侍女と共に応接室を後にした。






夜になり、わたくしの部屋に王妃様と王妃様付きの侍女が来た。

「サーシャ!!」
「王妃様!」
王妃様は部屋に入ってくるなりわたくしを強く抱きしめる。
「ごめんなさいねサーシャ。本当にごめんなさい。」
「王妃様、どうか謝らないで下さい。悪いのはわたくしなのです。」
目に涙を貯めて謝る王妃様にサッとハンカチを渡すと王妃様はそれを受け取り涙を拭いた。

「王子妃とは何かの呪いでも掛かっているのかしら。歴代の王妃様方も王子妃時代には子になかなか恵まれず苦労したのよ。」
わたくしもなのだけれど・・・と王妃様が笑う。
「大丈夫よ、サーシャ。貴女は必ず懐妊するわ。それに、もしクラウスが側室にうつつを抜かすようなら必ず教えて頂戴ね!」
わたくしが懲らしめますからね!っとドレスの袖を捲り細い腕を見せて微笑む王妃様につい笑みが溢れる。
「うふふ、ありがとうございます王妃様。ところで、今日の相手はどちらですか?」
わたくしが何でもないように聞くものだから、王妃様は少しびっくりした顔をしたものの
「そうよね、妃として聞かねばならないものね・・・」とまた大きな瞳からポロリと涙をひとつ溢すと言いにくそうに話し出した。

「・・・今日の相手はメリルよ。」
「メリルですか。」
「ええ。・・・わたくしとしてはサーシャが懐妊するまでどちらにも懐妊して欲しくないけれど、どちらかで選ぶのであればやっぱり他国との貿易に一役買えそうなメリルが良いわ。」
王妃様もわたくしと同じ考えのようで、少しホッとする。
「そうですね、わたくしもそう思っておりました。」
「それから、明日はリズとよ。」
「そうですか。」
やはりクラウスは暫く側室の部屋へ通うことになりそうね・・・

そう考えていると王妃様はまたギュッとわたくしを抱きしめ、頭をそっと撫でて下さった。
「サーシャ、わたくしは貴女には本当に幸せになってもらいたいのよ。出来ればなに不自由なく過ごしてもらいたいの。」
「王妃様・・・いえ、お義母様。わたくしはお義母様やクラウス。それにお義父様がとても良くしてくださるので、不自由も感じていませんし本当に幸せですよ。」
そう言うと、王妃様に優しくそして強く抱きしめ返した。

「わたくしが、絶対に貴女を今以上に幸せにしてみせるわ!」
「うふふ、王妃様が旦那様みたいですね。」
あら、本当ね。と2人で笑い合った。


その日の夜と翌日の夜は、わたくしを気遣ってか王妃様がずっとそばにいて下さった。

いくら姉弟のように過ごし、弟のように思っていても、肌を重ねているからか少し心が痛かった。
それを案じてくださってか、王妃様はいつも以上に沢山のお話をしてくださったし、同じベッドでも寝て下さったんだと思うとわたくしは本当に恵まれていると感じた。

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