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あれから

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あれから3ヶ月が経った頃わたくしは懐妊した。
だけれど残念な事にその子は私が懐妊に気付いてすぐに空へと帰って行ってしまった。
階段を磨くのに使っていたワックスが塗られていてわたくしがそこで滑り落ちてその日は足の痛みだけだったのだが、次の日に以前感じたお腹の痛みと出血で懐妊と流産に気がついた・・・

階段のワックスは本来塗るのは半年に一度、なのに関係のない日に塗られていた。
専属の人間に聞いても誰もワックスを持ち出し王宮にきてないし、何より王宮で使用する物と違う物だった。

この階段は王宮内にいる人間なら誰もが通れる場所であること。
そして、わたくしが懐妊している事をわたくし自身もこの後に知ったことからわたくしをあえて狙った物だと理由付ける事は出来なかった。

だけれど、王妃様はあの側室2人のどちらかだと主張している。
クラウスがわたくしに誓いを立てた日以来、クラウスはほとんどの夜をわたくしと過ごすようになった。
その腹いせではないか。と言っている。
確かに産後の医師からの検診で身体も健康でもう夜伽も出来ると言われ、クラウスが夜来るのを心待ちにしているのに、夜は殆ど来なくなった事で、リズやメリルはまた2人毎日のように互いの部屋を行き来してお互いを慰め励まし合っているらしい。
特にリズは出産の日以来クラウスを何かしら理由を付けて呼び出すが、大したことがない理由だと部屋から出て行ってしまうクラウスにやきもきしている。

もちろんクラウスはメリルとリズの元に出向いている。
2人の子ども達メリルが産んだハリルとリズが産んだリズリンの元へは毎日のように通い可愛がっているし、わたくしも一緒に出向き同じように子ども達と接してとっても可愛いと思っている。
あんなに小さくて守ってあげなければいけない存在がいるんだと思うと、この国を更に良くしなくてはいけないと思えた。
側室の子を見たら嫉妬で辛くなってしまうかもと思っていたが、そんな事杞憂だった。
だけれどこの子達を見て抱いていると、やっぱりあの時の子の事を思うし流産で気付いてしまったとはいえ今回の子の事も・・・我が子が欲しい・・・そう感じてしまう。



「サーシャ、今回の階段の事は結局事故として片付けられる事になりそうだ・・・」
「そう・・・でも仕方がないわ。あそこは誰でも通れる場所。 わざわざわたくしを狙ったとも考えにくい。 赤ちゃんは・・・気付いてあげられなかった事が後悔だわ・・・」
「そうだね・・・。僕も君の身体の変化に気付いてあげられなくて申し訳ないと思っているよ。」
「ううん。わたくし自身が気付かなかったのよ。クラウスは気にしないで・・・」
クラウスはわたくしをギュッと抱きしめてくれた。





そして、そこから5年の月日が流れた。
あれからまた2度懐妊したが、わたくしの身体が悪いのか、どうしても赤ちゃんが空へ帰っていってしまって落ち込み、体調を崩しては回復・・・を繰り返していた。

クラウスは子ども達を育てる為にと2人に力を注ぐものの、子どもとはなかなか思い通りに動くものではなかった。
リズやメリルも新たな懐妊もない。
そんな時またもや新たな側室の話が上がったが、クラウスが
「これ以上国費を圧迫するような人間は要らない。 お前達が何人と連れてこようと、もう側室として機能しないだろう。」
そう言って一蹴した。


「クラウス・・・わたくしに気を使わなくて良いのよ?」
「リズのような事はもう懲り懲りだし、これは僕の問題だから君がこれ以上気に病む事はない。 僕はこれから先、女性に惑わされるつもりはない。」
そう言ってクラウスはわたくしの手を握った。


わたくしは来月35歳となる。
もう妊娠は望めないだろう・・・
このままではメリルの子が未来の王となると言うのに、現在5歳のメリルの子ハリルはやんちゃできちんと席に座っていられない。
王宮でクラウスを指導していた教師も困惑している。
リズリンもお転婆・・・というには残酷な事をする。
先日は城の庭園で捕まえたネズミを・・・
言葉にするのも憚られるような状態になっていた。


「う゛っ・・・」
あの時のネズミを思い出したからか急激な吐き気に襲われた。
「サーシャ!!」
「王子妃様!!」
「王子妃様大丈夫ですか?」
近くにいた侍女達が集まってくる。

「・・・っ、はぁはぁ・・・ええ、大丈夫・・・少し気分が悪くなってしまって。」
「無理は良くない、少し休んだ方がいい。」
「ええそうするわ。」
わたくしはベッドで横になる。

「誰か、医師をここへ呼んできてくれ。」
横になったのをみたクラウスが侍女に声をかける。
「そんな大袈裟な。」
「君はそう言って先々月も寝込んだだろ?」
そう言って医師を呼ぶよう指示を出す。
「身体の弱い王子妃なんて務まらないわね。」
「そんな事ないよ。この座は君意外に務まらないよ。」
少し休んでいて、と言われ目を瞑る。






「おめでとうございます。ご懐妊です。」
王宮の医師ドルドが呼ばれて部屋に入ってきて診察を受けると、もう聞くことがないと思っていた言葉が聞こえてきた。
わたくしは嬉しさよりも驚きの方が大きかった。

「懐・・・妊・・・」
「はい、まだまだ初期段階ですので、どうかご安静に。」
「ドルド、それは本当か?」
「はい、王子様。おめでとうございます」
「サーシャ!!」
クラウスは嬉しそうにわたくしを見る
「えぇ・・・また来てくれたのね。」
喜びがふつふつと込み上げる。

それからというもの、わたくしは細心の注意を払った。
クラウスも王妃様や王様も今までの事もあるからと安定期までは実家に帰ることになった。






「お嬢様、お帰りなさいませ。」
「ただいまフラー、みんな。」
「「「おかえりなさいませ」」」
みんな心から歓迎してくれて、久しぶりに実家の自室で過ごす生活は本当に心が穏やかで安心できた。
クラウスは時間を作って会いに来てくれて、無事にお腹の子も順調に育っていく。


6ヶ月が過ぎた頃にはポコンッとお腹の中で動いているのもわかった。
「あら、今動いたわ。」
「本当かい? どれどれ・・・っ!?・・・今動いたね」
「ええ!・・・これが胎動と言うものなのね。」
今まではここまで大きくしてあげられなかったけれど、今度こそ会えるはず。
そう信じていた。
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