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今までのこと、これからの事
しおりを挟む「ふぅ・・・」
シウンは家に入ると畳んでいた布団を敷いて横になる
自分が思っているより身体が疲れているようで横になると幾分か楽になった
シウンはそっとお腹をさする
「ユエ様・・・こんなに大変だったのですね。」
お腹が出始めたユエは段差の多い場所等を歩くとよく大きなため息を吐いていたのを思い出しながらそっと目を閉じた
ユエを思い出すとユエとの別れを思い出す。
あの日から10年
メイユエを1人で育てると決めて天僧寺で生活を送っていくにつれ、ナウンやナウンの夫、他にも同じように色々な事情を抱えここに住んでいる者と平和に暮らしていた。
ナウン以外にも年老いた老女がメイユエの事をよく見てくれたり働き盛りの男もいて慣れない畑仕事や寺の整備等を共にやるうちに仲も良くなり特に生活に困る事はなかった
その中でもセイはシウンに特別気にかけて接していたからかメイユエが5歳になる頃には2人は恋仲になっていた
本当はそれより前からお互い想いやっていたが、シウンはメイユエを育てるのに自分にそういった相手を作る事を避けていた
そんな中で無事に恋仲になれたのはメイユエの言葉だった
「セイさま、おかあさんね。セイさまのことだいすきなんだとおもう!セイさまもおかあさんすきならおかあさんをしあわせにしてほしいの」
その言葉に背中を押されたセイはシウンに告白した
「セイさん、私はメイユエを育てる為に生きているのです。そう言ってくださるのは有り難いですが・・・」
「シウンさん。メイユエの事もあなたの事情もわかっています。これはメイユエから頼まれた事でもあるのです」
「メイユエから?」
「ええ、メイユエからお母さんを幸せにして欲しい、と」
「メイユエ・・・」
「シウンさん、私だってメイユエが生まれた時から共にいるじゃないですか。あの子も貴女の事もこの5年間ずっと見てきました。私は修行の身ですが後継問題もあり妻を持っても許されるのです、師匠の弟子として生きている私ですが、どうか貴女の側でも生きる事を許して欲しい」
「セイさん・・・私も・・・貴方が好きです。でも、メイユエの為に婚姻は待ってください。それに・・・貴方の宿すことがきっと出来ません。なのでもし、他に良い人を見つけた時はその方と」
「構いません、まだ見ぬ我が子より、貴女とメイユエを大切にしたい。ゆっくりと仲を深めましょう」
そう言ってセイはシウンをそっと優しく抱きしめた
「セイさん、ありがとうございます。貴方に出会えて幸せです」
シウンはセイの背中にそっと腕を回した
2人は老師に早々に話した
「若いもの同士がおればそういう事もあるだろう。シウンにも苦労があるやも知れぬが、メイユエの為にも2人力を合わせなさい」
と言ってまた本堂へ行ってしまった
その日からも2人が特別寄り添う事もなく普段通りに生活していた
メイユエが複雑な気持ちにならないよう、ゆっくりゆっくり仲を深めていった
そしてメイユエが8歳になった頃
メイユエとシウンは家で一緒にお茶を飲んでいた
「ねぇ、お母さん?」
「どうしたの?」
「お母さんとセイ様はいつになったら寝床を一緒にするの?」
「っ?!ゴホッゴホッ、ちょっとメイユエ??ど言う事?」
「お母さんとセイ様は両想いでしょ?」
「え、まぁ・・・でもどうして」
「両想いで婚姻の約束もしてるのにいつになったらセイ様とお母さんは共に住んで寝床を一緒にするんだろう?ってソクのお母さんがソクのお父さんと話してるのを聞いたの」
「~~~っ、はぁ・・・そうなのね。」
シウンは頭を抱えたが、メイユエはキラキラとした目でシウンを見る
「ねぇ!セイ様が私のお父さんになるの??私ずっとセイ様にお母さんを幸せにして欲しいって思っていたの!!」
ぐいぐいとシウンに身体を寄せて聞いてくるメイユエにシウンは顔が赤くなる
「ねぇ、お母さん。私ね、妹か弟が欲しいの!セイ様と勉強してる時に読んだ本の物語に姉と弟の冒険のお話があったの!私もそんな風に弟か妹と冒険がしてみたいって思ってたの!」
嬉しそうに話すメイユエに更に顔が赤くなる
「あのね、メイユエ、子どもはそんなに簡単に出来るものじゃないのよ?」
「でもソクのお母さんが寝床を共にしないと子も出来ないって言ってたよ」
「ナウンさん・・・」
シウンはナウンを少し恨んだが、メイユエがセイとの仲をすんなり受け入れてくれている事に嬉しくなった
「じゃあ・・・セイさんとも少し話してみるわね」
「ほんと??やったー!はやくお父さんって言いたい!」
嬉しそうに飛び跳ねるメイユエを見ながらシウンは赤くなった顔を冷ますようにパタパタと手で顔を仰いだ
それから2人は簡素な婚姻の儀式をして3人で暮らすようになった
メイユエが10歳になる少し前に妊娠に気付き順調にお腹の子は育っている
最近はお腹の中で動いているのもわかる
ポコンとお腹の中から蹴られた
シウンはお腹を優しく摩る
「あなたの姉さんが待っているわ。しっかり大きく育ってね」
そう言うとゆったりと夢の中に吸い込まれた
***
セイは師匠のいる本殿に入る
「師匠」
「セイ、来たか」
「はい。遅くなりました」
「よいよい、シウンの体調も最近はだいぶ楽になってきたようじゃな」
「はい、最近は少しお腹も膨らんできて順調です」
セイは顔を綻ばせ老師に答える
「うむ、身重の身体はいつ不調が現れるかわからんもんだからの、シウンとお腹の子の為にもお前がしっかりせねばならん」
「胸に刻みます」
「メイユエにとっても良い影響を与える事だろう。」
「そうだと良いのですが。」
「お前がメイユエの継父となるのはシウンやユエと出会ったあの日から決まっておったのかも知れぬな。これも神のご意志という事かの」
「神のご意志・・・」
「セイよ。メイユエは神がこの世に遣わした天女じゃ、あの子の顔を日々観ていてわかった」
「やはりメイユエがそうなのですね」
「そうじゃ、あの子はこれからの人生において様々な苦難に出会うであろう。悲しい思いもするだろう。」
老師は黄金に輝く像を眺めながら話す
「だがそれと同時に愛を感じる事も出来るだろう。セイよ、シウンとお前でメイユエを幸せにしてやりなさい。苦難に立ち向かえるように悲しい思いに負けないように」
「勿論です」
セイにとって当たり前の事ではあったが老師にそう言われてその思いを更に身に刻む
「そうか、・・・その為にお前達をここから出るように言うつもりであった」
老師がセイに背中をむけ言い放つとセイは驚いた
「師匠!それはなりません!!」
「メイユエの為にもここだけでなく様々な景色を見せてやらねばならん!!」
大きな声でセイの言葉を遮るように言うとセイはバッと土下座をする
「師匠!!愚かな弟子ではありますが、それでも!!俺はあなた様の元に居たいです!貴方は俺をここまで育ててくれた師であり親でもあるのです!お願いです師匠!!メイユエやシウンさん・お腹の子も勿論大切ですが、俺に貴方の最期の時まで共にいさせてください!!!」
床に頭を擦り付け老師に許しを乞う
「セイ・・・」
「お願いです!そのように仰らないで下さい!!」
涙で床が濡れている、その姿を見て老師は嬉しさと安堵にも似た感情が湧いた
セイを縛り付けてはいけない。その気持ちとこの寺の歴史がここで絶たれる不安
そしてセイを手離す寂しさ
色々な感情を持ちながらもセイの幸せ、メイユエやシウンそしてセイの子の事を考えて言い放ったが、セイのこの姿を見て突き放す事が老師にはできなかった
「・・・・・儂が、天に召し上げられる時までじゃ。その後は修行も大切ではあるが1番は何よりも子の事そして妻の事を想い慈しみ生きていけ」
「ッ!!!・・・ぁ、りがとう、ございます。そのお言葉、胸に刻みより精進すると誓います」
老師は、子どものように床に突っ伏して泣きじゃくるセイの側に同じように土下座をしてセイの濡れた手を握り
「ありがとう」
セイに聞こえる位の小さな声でそう言ってセイを抱きしめ共に泣いた
応援ありがとうございます!
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