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「もちろん、負け条件に『呼吸!』とか小学生みたいなことは書いてないから安心して! 一般的に人前では言ったりやったりしないことだし、玄夜が俺の前で言ったりやったりしてないことを書いたからね!」
どこか含みを持たせるような、楽しげな声音で紅清様が言った。
机の縁に片手を置き、身を屈めて俺を覗き込むその仕草は、軽快なのに色っぽい。
「負け条件は、言葉ですか? 行動ですか?」
俺が問うと、紅清様は「あー、どうしよっかな」と首を捻って天井を見上げてから、
「そこは秘密かなー。ゲームだしね!」
にやりと笑い、買ってもらったばかりの玩具を握りしめている子供のように目を輝かせた。
いい笑顔を向けてくれる主人を、ほぅっと熱い溜息を吐いて見上げていると、紅清様の掌がゆっくりと動いて、俺の耳のすぐ下から顎のラインまでを包み込んだ。
温かい――。
その温度が、情けなさも不安もぜんぶ溶かしていくようで、喉の奥がじんと甘く痺れた。
紅清様の指が顎を撫でるたび、喉が勝手に上下してしまう。
皮膚の薄い場所をなぞられる快感に、皮膚の表面がじくじくと熱く疼く。
「じゃあ、ちょっと頑張っててね。電話終わったらすぐに戻るから」
「はいっ」
返事の声が、自分でも驚くほど熱っぽかった。
向けられた優しさが胸に刺さり、顔がじんわりと熱を帯びる。
紅清様の手が離れる瞬間、寂しくて思わず声を上げてしまいそうになった。
紅清様が書斎から出ていき、扉がパタンと閉まっても、俺の視線は吸い寄せられるようにそこへ残り続けた。
扉の向こうに去っていった気配を追うみたいに、胸の中がきゅうっと締めつけられる。
そんなふうに扉を見つめ続けているうちに、うっかり力が抜けて腕が下がり――。
ペリッ。
セロテープが軽く剥がれる音がして、心臓が跳ね上がった。
「わっ! 危ない!」
慌てて両手首をくっつけるように力を込める。
緩んでいたセロテープがぴたりと戻り、ほっと息が漏れた。
紅清様がセロテープで俺の手首を縛り始めた時、当然、一本丸々使ってガチガチに巻きつけられると思った。
だけど、実際には、紅清様は俺の手首に五周ほど巻き付けただけだった。
「紅清様、優しくて縛るのゆるゆるだから、取れないようにするのが大変なくらいだな……」
ゆるゆるのセロテープは、自分に甘い主人の象徴のようだった。
“縛る”というより、“触れている”に近いその程度の拘束が、胸の奥からこぽこぽと温かい喜びを湧きあがらせる。
「縛られているのに、何だか幸せだなんて……誰にも言えないなぁ」
ぽつりと漏らしてしまった瞬間、顔が一気に熱くなった。
「や、やばっ……」
誰もいない書斎でひとり、ふるふると羞恥に悶えた。
喉が詰まって声にならず、気を取り直そうと頭をぶんぶん振って顔を上げると――
ディスプレイにつきっぱなしになっていた“あの画像”が、近距離で視界を覆い尽くした。
「……っ」
息が止まった。
紅清様に隠れて盗み見た、裸の美少年の画像――。
主人は隠す気がなかったのか、画面を消すどころか、パソコンに触りもせずに退室した。
それを“卑しく盗み見た”自分を思い出し、後悔と申し訳なさで心臓がきゅっと縮み上がる。
画面の中では、華奢で色の白い美少年が横向きに縛られ、赤い紐が肌にきゅっと食い込んでいる。
腰を少し捩らせ、恥ずかしいほど艶めいた目つきでカメラに視線を向けていた。
「恋人に縛られているのかな。撮ってるのも……恋人?」
胸がじん、と疼いた。
俺は“裸を撮られたい”なんて思ったことは一度もない。
でも――
縛られるほど近くにいられたり、堂々と裸を見せられる関係は羨ましいと思ってしまう。
そんな関係は、俺にはない。
休日に、俺を休養させるために紅清様が距離を置こうとしたら。
三時までは会ってもらうことすらできないのが、今の俺の立場だ。
もしも、俺が特別な相手なら。
仕事がなくても、約束がなくても。
好きな時に会ってもらえるのだろうか。
縛ってでもそばに置きたいと思ってもらえたら――
それは、どれだけ幸せなんだろうか。
手首をぎゅっとくっつけて。
反省を信じてもらうために、言いつけられたことを守ろうとしながらも。
気を抜くと画面の中の金髪の美少年に視線を奪われて、仄暗い自己嫌悪に囚われてしまう。
手から全身から力が抜けていって。
ゆるゆるの手首のセロテープが、ペリッと音を立てて少し剥がれてしまう。
「……俺なんかと違って、華奢で可愛くて、女の子みたいだ。俺もこんな風に生まれていたら、紅清様の特別になりたい――なんて本気で思えたのかな」
――せめて、心の中でくらい。
真っすぐに、その夢を見られたのかな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※サークル『擬人化色劇団』の作品は、色を擬人化した当サークル専属劇団員が演じている設定です。
→詳細はサイトへ
【CAST】
表紙:執事役 幹影玄夜(黒)
裏表紙:ご主人様役 朱鷺紅清(赤)
《赤×黒 他の主演作》
【完結】ドS天使の下僕になったオレは、絶頂調教で武器と化す~生贄と呼ばれた元兵士のふぁんたじぃで気持ちぃはじめて~
《黒受け 他主演作》
【青×黒】Mission ~ケンカップルの尊い日常~【束縛世話やき大学生社長×負けん気不器用大学生】
どこか含みを持たせるような、楽しげな声音で紅清様が言った。
机の縁に片手を置き、身を屈めて俺を覗き込むその仕草は、軽快なのに色っぽい。
「負け条件は、言葉ですか? 行動ですか?」
俺が問うと、紅清様は「あー、どうしよっかな」と首を捻って天井を見上げてから、
「そこは秘密かなー。ゲームだしね!」
にやりと笑い、買ってもらったばかりの玩具を握りしめている子供のように目を輝かせた。
いい笑顔を向けてくれる主人を、ほぅっと熱い溜息を吐いて見上げていると、紅清様の掌がゆっくりと動いて、俺の耳のすぐ下から顎のラインまでを包み込んだ。
温かい――。
その温度が、情けなさも不安もぜんぶ溶かしていくようで、喉の奥がじんと甘く痺れた。
紅清様の指が顎を撫でるたび、喉が勝手に上下してしまう。
皮膚の薄い場所をなぞられる快感に、皮膚の表面がじくじくと熱く疼く。
「じゃあ、ちょっと頑張っててね。電話終わったらすぐに戻るから」
「はいっ」
返事の声が、自分でも驚くほど熱っぽかった。
向けられた優しさが胸に刺さり、顔がじんわりと熱を帯びる。
紅清様の手が離れる瞬間、寂しくて思わず声を上げてしまいそうになった。
紅清様が書斎から出ていき、扉がパタンと閉まっても、俺の視線は吸い寄せられるようにそこへ残り続けた。
扉の向こうに去っていった気配を追うみたいに、胸の中がきゅうっと締めつけられる。
そんなふうに扉を見つめ続けているうちに、うっかり力が抜けて腕が下がり――。
ペリッ。
セロテープが軽く剥がれる音がして、心臓が跳ね上がった。
「わっ! 危ない!」
慌てて両手首をくっつけるように力を込める。
緩んでいたセロテープがぴたりと戻り、ほっと息が漏れた。
紅清様がセロテープで俺の手首を縛り始めた時、当然、一本丸々使ってガチガチに巻きつけられると思った。
だけど、実際には、紅清様は俺の手首に五周ほど巻き付けただけだった。
「紅清様、優しくて縛るのゆるゆるだから、取れないようにするのが大変なくらいだな……」
ゆるゆるのセロテープは、自分に甘い主人の象徴のようだった。
“縛る”というより、“触れている”に近いその程度の拘束が、胸の奥からこぽこぽと温かい喜びを湧きあがらせる。
「縛られているのに、何だか幸せだなんて……誰にも言えないなぁ」
ぽつりと漏らしてしまった瞬間、顔が一気に熱くなった。
「や、やばっ……」
誰もいない書斎でひとり、ふるふると羞恥に悶えた。
喉が詰まって声にならず、気を取り直そうと頭をぶんぶん振って顔を上げると――
ディスプレイにつきっぱなしになっていた“あの画像”が、近距離で視界を覆い尽くした。
「……っ」
息が止まった。
紅清様に隠れて盗み見た、裸の美少年の画像――。
主人は隠す気がなかったのか、画面を消すどころか、パソコンに触りもせずに退室した。
それを“卑しく盗み見た”自分を思い出し、後悔と申し訳なさで心臓がきゅっと縮み上がる。
画面の中では、華奢で色の白い美少年が横向きに縛られ、赤い紐が肌にきゅっと食い込んでいる。
腰を少し捩らせ、恥ずかしいほど艶めいた目つきでカメラに視線を向けていた。
「恋人に縛られているのかな。撮ってるのも……恋人?」
胸がじん、と疼いた。
俺は“裸を撮られたい”なんて思ったことは一度もない。
でも――
縛られるほど近くにいられたり、堂々と裸を見せられる関係は羨ましいと思ってしまう。
そんな関係は、俺にはない。
休日に、俺を休養させるために紅清様が距離を置こうとしたら。
三時までは会ってもらうことすらできないのが、今の俺の立場だ。
もしも、俺が特別な相手なら。
仕事がなくても、約束がなくても。
好きな時に会ってもらえるのだろうか。
縛ってでもそばに置きたいと思ってもらえたら――
それは、どれだけ幸せなんだろうか。
手首をぎゅっとくっつけて。
反省を信じてもらうために、言いつけられたことを守ろうとしながらも。
気を抜くと画面の中の金髪の美少年に視線を奪われて、仄暗い自己嫌悪に囚われてしまう。
手から全身から力が抜けていって。
ゆるゆるの手首のセロテープが、ペリッと音を立てて少し剥がれてしまう。
「……俺なんかと違って、華奢で可愛くて、女の子みたいだ。俺もこんな風に生まれていたら、紅清様の特別になりたい――なんて本気で思えたのかな」
――せめて、心の中でくらい。
真っすぐに、その夢を見られたのかな。
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※サークル『擬人化色劇団』の作品は、色を擬人化した当サークル専属劇団員が演じている設定です。
→詳細はサイトへ
【CAST】
表紙:執事役 幹影玄夜(黒)
裏表紙:ご主人様役 朱鷺紅清(赤)
《赤×黒 他の主演作》
【完結】ドS天使の下僕になったオレは、絶頂調教で武器と化す~生贄と呼ばれた元兵士のふぁんたじぃで気持ちぃはじめて~
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