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第二章 強きもの、弱きもの
比売神※
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「お前――そう、西宮。お前は歴代憑坐の中でも、まれに見るほどの床下手だな。それはもう絶望的なまでに。お前が種なしとののしった東の君のほうが、よほど優れた手管を持っていたぞ」
「なっ――――……だ、誰だ、お前。南条じゃないな」
「ほう。お前自身は無能でも、さすがに荒神の器ともなればわかるか」
桃子の唇が、艶めかしくその口角を上げていた。
「私は……そうだな、比売神とでも呼ぶがいい」
「ひめ、がみ……?」
「そう。初代巫女姫――櫛名田比売の神霊である。今はこの娘の体を拠り所としている。憑坐が荒神と一つになるように、巫女姫もまた、私と一つになるということだ」
「……何? そんな話は一度も聞いたことがないぞ」
「当然だ。今までこうして、己が子孫である娘の口を借りてまで、語る機をもうける必要もなかったのだから。しかし、今回ばかりはちと看過できぬ。よいか、何度でも言うぞ。お前は目も当てられぬほどの下手くそだ。仮にも西宮の生まれならば、床入りの極意くらいは伝授されているはずであろう。なのにお前ときたら、毛ほども女の抱き方がなってないではないか。生娘でもない女にここまで血を流させよって。憑坐の恥だ、お前は」
西宮は、桃子の口で好き放題ののしられることに、だんだんと苛立ちを覚えていた。
「はあ? 誰に向かってものを言ってる。巫女姫は憑坐のものだ。どんな抱き方をしようが、俺の自由なんだよ。初代巫女姫の神霊だかなんだか知らんが、今の荒神は俺だ。この俺の――神の怒りを買うとどうなるか、知らないということはないだろう」
「……まったく、どこまでも恥知らずの馬鹿者め。わかっていないのはお前のほうだ」
比売神は、心底蔑むような目を西宮に向けていた。
「荒神が神であるように、この私、比売神もまた神であるということを知らんのか。言っておくがな、巫女姫をその手で殺した憑坐の末路ほど、みじめでひどいものはないぞ。巫女姫という癒し手を失った荒神は、鎮めようのない荒魂に突き動かされるまま、荒れ狂い、弱り果て、そのすさみきった魂のまま、新たな巫女姫を得るまでの数百年ものあいだ、孤独にさまよい続けることになる。
巫女姫を失って一番困るのは、誰でもない荒神自身だ。荒神は、巫女姫なしでは、ありのままの形で存在することもままならぬ。巫女姫を贄として捧げさせる一面もあれど、その実は、荒神のほうがよほど巫女姫に従属・依存しているのが本質というべきものだ。……一方で巫女姫のほうは、荒神がどうなろうと、痛くもかゆくもないがな」
西宮は大きく目を見開いていた。比売神と名乗るこの者の言葉を鵜呑みにする気はなかったが、だからといって、すべてがでたらめだとも切り捨てられはしなかった。
奇妙なことに、西宮の中の荒神が、この比売神の言葉に深く感じ入ってしまっている。その理由がわからないだけに、苛立ちを募らせるばかりだった。
「――くそ、興ざめだよ。そこをどけ、今日はこれで終わりだ」
「なんだ、私になった途端つれないではないか。そう言わず、もう少し付き合え」
比売神は突然、ものすごい力で西宮の頭部を押さえ込むと、自らの唾液を彼の口内に流し込んでいた。虚を突かれた西宮は、驚きのあまり声も出せない。押しのけようとも、どういうわけか、桃子の腕力とは思えないほどの力強さで、結局比売神のされるがままに唇を貪られていた。
「っ、……、やめろっ」
西宮がようやく離れられたときには、もうすでに、彼の体内ではある変化が起きていた。
「な、んだ、これ……力が、入らな――」
彼がくずおれるようにマットレスに突っ伏したのを見届けると、比売神は嬉しそうに頬を染め、桃子の顔とは思えないほど妖艶な笑みを浮かべていた。
「憑坐の体液には催淫作用があるが、巫女姫にも同じ力は備わっているのだよ。つまり、これは相互に働く力。力がぶつかり合ったとき、より精力の強い者がその場の主導権を握ることになる。――さて、お前と私、勝つのはどちらかな」
「う、ぁ……」
西宮は次第に荒い息づかいとなり、体も小刻みに震え始めていた。比売神に少しでも触れられようものなら、大袈裟なほどびくつき、体をしならせる。
比売神が勝ち誇ったように笑った。
「なんとまあ、口ほどにもない。すっかり骨抜きではないか。でかい図体の割に、見かけ倒しに軟弱なやつだ」
西宮は悔しそうに眉根を寄せたが、反論する余裕もないようで、マットレスに這いつくばりながら歯噛みした。
比売神は、冷酷な目で彼を見下げる。
「お前は先ほど、力で押せるものは奪い取ると言っていたな。強さこそが正しいとも。――ならば、力で押す者は、さらに上の力にねじ伏せられることを知れ」
比売神は西宮を仰向けに転がすと、脱ぎ捨ててあった衣服で彼の両腕を縛り上げた。
西宮の性器は反り返るほど屹立しており、すでに先端から先走りをしたたらせては、びくびくと打ち震えている。
その無様な醜態に、比売神はこの上なく顔をほころばせた。大胆にも肉棒の上にまたがり、自らの陰裂と擦り合わせにきたかと思うと、西宮の顔面を唐突に殴り飛ばした。
西宮は、初め何が起きたのかわからなかったようだが、やめろと言う間もなく、何度も何度も、容赦なく頬を殴打され続けた。さすがに平気とは言えなくなっていた。
殴られているあいだにも互いの性器は擦れ合い、卑猥な音を立てながら、西宮を苛む。好き放題殴られながら、得体の知れないものに弄ばれるという屈辱的な状況下でも、欲望だけは素直に滾らせている。
西宮はプライドをずたぼろにされ、ついには目に涙をにじませていた。
その様子を見た比売神が、歓喜の表情を浮かべた。
「お前、泣いているのか? ああ、おかしい。どうだ? 非力な女の体でも、こうして殴られるとそれなりに痛いだろう」
「も……やめてくれ、頼むから……」
「お前は、同じように許しを請うたこの娘の懇願を聞き入れたか?」
比売神はそのまま、特にきつい一発を西宮の顔面にくらわせていた。
「お前には聞きたいことがある」
西宮は鼻や口から血を垂れ流しており、もはや端正な顔立ちも台無しになっていた。
ぼろぼろでぐったりしている彼をまだ許すことなく、比売神は、西宮の胸骨をこぶしでぐっと圧迫する。
「なぜ、お前はこの娘に辛く当たる。憑坐と巫女姫は、いわば対の存在。惹かれ合い慈しみ合うのが本来の姿だ。巫女姫を虐げることは、すなわち己自身を虐げないがしろにするも同義だぞ」
言葉は聞こえているようだが、西宮は答えなかった。代わりにひどく反抗的な目を向けたため、容赦のない平手打ちが再び飛んでくる。
比売神が冷ややかな目で西宮を見下ろした。
「憑坐は神と一体化しているとはいえ、しょせんは現人神。器はただの人間に過ぎぬ。多少回復が早くとも、致命傷を負えば落命もするし、まったく万能などではない。この非力な娘の体でも、でくのぼうとなった今のお前ならば容易く殺せるぞ」
握りこぶしの指の関節で、胸骨をぐりぐりと抉られるように圧迫されると、西宮は耐えきれず苦悶の声を漏らしていた。
それでも、比売神は力を緩めようとはしない。
「この場で意地を張り続けて無駄にいたぶられるか、素直に白状して難を逃れるか、どちらが賢明かをよく考えよ。今必死に保とうとしているお前ごときの矜持に、どれほどの価値があろうか。その判断を誤っている時点で、器の底も知れるわ。強さからもっとも遠い男だ、お前は」
比売神は、なおも西宮を折檻し続けては大いに嘲笑った。
「どうした、もう声も上げられぬか」
「ま、待て……口の中を切って、上手く喋れない……。は、話す、から……頼むから、少し待ってくれ……」
西宮は怯え切った目で比売神を見上げ、観念したように胸の内を語った。
「俺は――――南条が、怖かったんだ……」
「怖い? こんな小娘がか」
西宮は、少しためらいながら素直に頷いた。
「……こいつとは幼馴染で、子どもの頃はよく遊んだりもした。うちの蔵を二人で探検したとき、俺が高価な壷を割っちまって。俺は怒られるのが怖くて、とっさに『南条が割った』って言っちまった。もちろん、すぐ訂正するつもりだった。でも、それを聞いた瞬間、南条の母親が怒り狂って、ものすごい勢いでこいつを折檻し始めた。正直俺の親も引くぐらいで、結局俺の親が止めに入ってその場は収まった。
俺、やったのは自分だって、ついに言い出せなかった。こいつもこいつで、一言も否定しないし。そのあと、謝ろうと思って南条の家に行ったんだ。どんな恨み言も浴びせられる覚悟だった。だって、もし俺が同じことをされたら、殴り飛ばしたって気が済まない。――なのに、こいつは……。俺をののしるどころか、『幸成くんが怒られなくてよかった』って笑ったんだ。まだ腫れの引かない顔で」
西宮は、今の自分と当時の桃子を重ね合わせるようにして、涙をこぼした。
「あのときから俺は、南条のことを気味が悪いと思うようになった。自分の中で、南条への気持ちがどんどん歪んでいくのがわかった。盲目的な好意を向けられるのが嫌で、わずらわしくて、俺のほうから逃げだした。なのに、どんなにひどいことをされても、俺を見つめ続けてくるこいつの気持ちがどれほどのものか確かめたくて、ずっと試すような真似ばかりした。どこから間違ったのか、どうすればよかったのか、もう自分でもわからない」
西宮が話し終えると、黙って聞いていた比売神は、今度は打って変わって女神のように慈悲深い顔を見せた。
「なるほどな。お前がこの娘を恐れるのも無理はない。巫女姫なくして存在しえない荒神の脆い部分を、お前は敏感に感じ取ったのだ。だからこそ、この娘を疎んじ、この娘の愛情から支配されることを恐れた。器の小さいお前のことだ、自身の優位性を崩されまいと、なんとか支配する側に回ろうとしたのだろう。性暴力を振るう人間の典型だな。お前のような加害に及ぶ者は、性衝動ではなく、大抵は恐怖の感情によって突き動かされている。自分の内にある弱さを認められず、他者を傷つけることで、自らの優位性を確認し、偽りの支配欲を満たす。これがお前の本性だ」
自分の内面を徹底的に暴かれ、真っ向から指摘されてしまうと、西宮はもう何も言えなかった。どうあがいても、この比売神には敵わない。
西宮がぐうの音も出ないほど意気消沈したのを見て、ほんの少しだけ、比売神は西宮の気持ちを汲むようなことをこぼした。
「……まあ、たしかにこの娘は度が過ぎるほどの卑屈で、疎ましく思う気持ちもわからないではない」
すっかりおとなしくなった西宮に、比売神はあらためて目を向ける。
「お前は弱い上に馬鹿で単純だが、強さにこだわっているだけあって、自分より強いものを嗅ぎ分ける力はあるようだ。それに、相手が格上と見なせば従順にもなる。私は馬鹿は好かないが、素直な子は好ましく思うぞ。お前は今、ようやく自分の弱さを自覚した。それは決して、お前自身が弱いということと同義にはならないのだよ。己の弱さを自覚しなければ、さらに上の強さも望めはしないのだから、西の」
「か、かわちの……?」
「そうだ、お前など西ので充分だ。決めた、今夜はお前をとことん可愛がってやることにしよう」
そう言うと、比売神は充分に潤っている女性器で、西宮の固くなったままの男根を挟み込み、暴力的に擦りあげた。
「っ……、う、ぁ……」
「可愛らしい声で鳴くではないか」
比売神が桃子の顔でほくそ笑む。
「ずっと無様に勃たせておきながら、今まで耐え忍んだことだけは評価してやる。そうだ、良い子にできた褒美をやらねばな。何が望みだ?」
比売神が桃子の体を無遠慮に使い、ねっとりと腰を揺らした。
西宮はとっくに限界を迎えていたようで、押しとどめていたものを暴発させる勢いで叫ぶ。
「お、俺の望みはあんただ。あんたの中で、思いきり出したい……っ」
息も絶え絶えな様子を見て、比売神はこれ以上ないほど満足げに口角をつり上げた。
「いいだろう、お前の望みを叶えてやる」
言うなり腰を落とし、西宮の性器が温かな膣内に呑み込まれていった。
「っ……、あああぁ……ッ」
あまりの心地よさに、思わず西宮が腰を浮かそうとするも、比売神は再び拳で胸骨を圧迫して、彼を強く制していた。
「ぐっ……」
「お前は動くなよ。この場の主導権は私にあるのだから」
比売神はさも意地の悪い顔で西宮を見下げ、わざと身勝手に腰を揺らし、中で震える肉棒をきつく締め上げた。
もはや完全に征服されてしまったことが、西宮に屈辱以外の別の感情を芽生えさせていた。
「も、もう……、出っ……」
言うが早いか、西宮があっけなく射精した。比売神は一瞬目を瞬かせたが、中で熱いものが放たれたことを知ると、大いに高笑いした。
「ずいぶんと早いではないか、まったく仕様のないやつ。あっさり自分だけ達してしまうとは」
くったりしている西宮に構うことなく、比売神は中のものを抜かないまま、またいやらしく腰を揺すり始めた。
「あ、ま、待ってくれ……っ、まだ――」
「いいや、待たぬ。こうして擦っていれば、そのうち嫌でも……」
比売神が、心の底から楽しそうな笑みを浮かべる。
「ほうら、また……固くなった」
「た、頼む、少し、休ませて……」
すっかりしおらしくなった西宮に、比売神は容赦なく口づけ、再び大量の唾液を流し込んでいく。西宮の哀れな悲鳴までもが、艶やかな唇によって飲み込まれていった。
「お前は可愛いな、西の。この娘の前でも、今のように素直であればよいものを。そうすれば、暴力で得るものとは比較にならぬほどの快楽が手に入るぞ。
――しかし、この娘はこの娘で、また難儀なものだ。平世であれば、ただ一人の憑坐とのみ睦み合い、添い遂げる幸福な巫女姫でいられたものを。三人もの憑坐を相手に、この娘がどこまで耐えられるか」
「三、人……?」
「おっと、口が滑った。久しぶりのまぐわいで、私も少々開放的になってしまっているようだ。さあ、続きをしよう、西の」
意味深な台詞を聞き返す暇もないほど、西宮は激しく責め立てられ、比売神に夜中泣かされ続けることとなった。
「なっ――――……だ、誰だ、お前。南条じゃないな」
「ほう。お前自身は無能でも、さすがに荒神の器ともなればわかるか」
桃子の唇が、艶めかしくその口角を上げていた。
「私は……そうだな、比売神とでも呼ぶがいい」
「ひめ、がみ……?」
「そう。初代巫女姫――櫛名田比売の神霊である。今はこの娘の体を拠り所としている。憑坐が荒神と一つになるように、巫女姫もまた、私と一つになるということだ」
「……何? そんな話は一度も聞いたことがないぞ」
「当然だ。今までこうして、己が子孫である娘の口を借りてまで、語る機をもうける必要もなかったのだから。しかし、今回ばかりはちと看過できぬ。よいか、何度でも言うぞ。お前は目も当てられぬほどの下手くそだ。仮にも西宮の生まれならば、床入りの極意くらいは伝授されているはずであろう。なのにお前ときたら、毛ほども女の抱き方がなってないではないか。生娘でもない女にここまで血を流させよって。憑坐の恥だ、お前は」
西宮は、桃子の口で好き放題ののしられることに、だんだんと苛立ちを覚えていた。
「はあ? 誰に向かってものを言ってる。巫女姫は憑坐のものだ。どんな抱き方をしようが、俺の自由なんだよ。初代巫女姫の神霊だかなんだか知らんが、今の荒神は俺だ。この俺の――神の怒りを買うとどうなるか、知らないということはないだろう」
「……まったく、どこまでも恥知らずの馬鹿者め。わかっていないのはお前のほうだ」
比売神は、心底蔑むような目を西宮に向けていた。
「荒神が神であるように、この私、比売神もまた神であるということを知らんのか。言っておくがな、巫女姫をその手で殺した憑坐の末路ほど、みじめでひどいものはないぞ。巫女姫という癒し手を失った荒神は、鎮めようのない荒魂に突き動かされるまま、荒れ狂い、弱り果て、そのすさみきった魂のまま、新たな巫女姫を得るまでの数百年ものあいだ、孤独にさまよい続けることになる。
巫女姫を失って一番困るのは、誰でもない荒神自身だ。荒神は、巫女姫なしでは、ありのままの形で存在することもままならぬ。巫女姫を贄として捧げさせる一面もあれど、その実は、荒神のほうがよほど巫女姫に従属・依存しているのが本質というべきものだ。……一方で巫女姫のほうは、荒神がどうなろうと、痛くもかゆくもないがな」
西宮は大きく目を見開いていた。比売神と名乗るこの者の言葉を鵜呑みにする気はなかったが、だからといって、すべてがでたらめだとも切り捨てられはしなかった。
奇妙なことに、西宮の中の荒神が、この比売神の言葉に深く感じ入ってしまっている。その理由がわからないだけに、苛立ちを募らせるばかりだった。
「――くそ、興ざめだよ。そこをどけ、今日はこれで終わりだ」
「なんだ、私になった途端つれないではないか。そう言わず、もう少し付き合え」
比売神は突然、ものすごい力で西宮の頭部を押さえ込むと、自らの唾液を彼の口内に流し込んでいた。虚を突かれた西宮は、驚きのあまり声も出せない。押しのけようとも、どういうわけか、桃子の腕力とは思えないほどの力強さで、結局比売神のされるがままに唇を貪られていた。
「っ、……、やめろっ」
西宮がようやく離れられたときには、もうすでに、彼の体内ではある変化が起きていた。
「な、んだ、これ……力が、入らな――」
彼がくずおれるようにマットレスに突っ伏したのを見届けると、比売神は嬉しそうに頬を染め、桃子の顔とは思えないほど妖艶な笑みを浮かべていた。
「憑坐の体液には催淫作用があるが、巫女姫にも同じ力は備わっているのだよ。つまり、これは相互に働く力。力がぶつかり合ったとき、より精力の強い者がその場の主導権を握ることになる。――さて、お前と私、勝つのはどちらかな」
「う、ぁ……」
西宮は次第に荒い息づかいとなり、体も小刻みに震え始めていた。比売神に少しでも触れられようものなら、大袈裟なほどびくつき、体をしならせる。
比売神が勝ち誇ったように笑った。
「なんとまあ、口ほどにもない。すっかり骨抜きではないか。でかい図体の割に、見かけ倒しに軟弱なやつだ」
西宮は悔しそうに眉根を寄せたが、反論する余裕もないようで、マットレスに這いつくばりながら歯噛みした。
比売神は、冷酷な目で彼を見下げる。
「お前は先ほど、力で押せるものは奪い取ると言っていたな。強さこそが正しいとも。――ならば、力で押す者は、さらに上の力にねじ伏せられることを知れ」
比売神は西宮を仰向けに転がすと、脱ぎ捨ててあった衣服で彼の両腕を縛り上げた。
西宮の性器は反り返るほど屹立しており、すでに先端から先走りをしたたらせては、びくびくと打ち震えている。
その無様な醜態に、比売神はこの上なく顔をほころばせた。大胆にも肉棒の上にまたがり、自らの陰裂と擦り合わせにきたかと思うと、西宮の顔面を唐突に殴り飛ばした。
西宮は、初め何が起きたのかわからなかったようだが、やめろと言う間もなく、何度も何度も、容赦なく頬を殴打され続けた。さすがに平気とは言えなくなっていた。
殴られているあいだにも互いの性器は擦れ合い、卑猥な音を立てながら、西宮を苛む。好き放題殴られながら、得体の知れないものに弄ばれるという屈辱的な状況下でも、欲望だけは素直に滾らせている。
西宮はプライドをずたぼろにされ、ついには目に涙をにじませていた。
その様子を見た比売神が、歓喜の表情を浮かべた。
「お前、泣いているのか? ああ、おかしい。どうだ? 非力な女の体でも、こうして殴られるとそれなりに痛いだろう」
「も……やめてくれ、頼むから……」
「お前は、同じように許しを請うたこの娘の懇願を聞き入れたか?」
比売神はそのまま、特にきつい一発を西宮の顔面にくらわせていた。
「お前には聞きたいことがある」
西宮は鼻や口から血を垂れ流しており、もはや端正な顔立ちも台無しになっていた。
ぼろぼろでぐったりしている彼をまだ許すことなく、比売神は、西宮の胸骨をこぶしでぐっと圧迫する。
「なぜ、お前はこの娘に辛く当たる。憑坐と巫女姫は、いわば対の存在。惹かれ合い慈しみ合うのが本来の姿だ。巫女姫を虐げることは、すなわち己自身を虐げないがしろにするも同義だぞ」
言葉は聞こえているようだが、西宮は答えなかった。代わりにひどく反抗的な目を向けたため、容赦のない平手打ちが再び飛んでくる。
比売神が冷ややかな目で西宮を見下ろした。
「憑坐は神と一体化しているとはいえ、しょせんは現人神。器はただの人間に過ぎぬ。多少回復が早くとも、致命傷を負えば落命もするし、まったく万能などではない。この非力な娘の体でも、でくのぼうとなった今のお前ならば容易く殺せるぞ」
握りこぶしの指の関節で、胸骨をぐりぐりと抉られるように圧迫されると、西宮は耐えきれず苦悶の声を漏らしていた。
それでも、比売神は力を緩めようとはしない。
「この場で意地を張り続けて無駄にいたぶられるか、素直に白状して難を逃れるか、どちらが賢明かをよく考えよ。今必死に保とうとしているお前ごときの矜持に、どれほどの価値があろうか。その判断を誤っている時点で、器の底も知れるわ。強さからもっとも遠い男だ、お前は」
比売神は、なおも西宮を折檻し続けては大いに嘲笑った。
「どうした、もう声も上げられぬか」
「ま、待て……口の中を切って、上手く喋れない……。は、話す、から……頼むから、少し待ってくれ……」
西宮は怯え切った目で比売神を見上げ、観念したように胸の内を語った。
「俺は――――南条が、怖かったんだ……」
「怖い? こんな小娘がか」
西宮は、少しためらいながら素直に頷いた。
「……こいつとは幼馴染で、子どもの頃はよく遊んだりもした。うちの蔵を二人で探検したとき、俺が高価な壷を割っちまって。俺は怒られるのが怖くて、とっさに『南条が割った』って言っちまった。もちろん、すぐ訂正するつもりだった。でも、それを聞いた瞬間、南条の母親が怒り狂って、ものすごい勢いでこいつを折檻し始めた。正直俺の親も引くぐらいで、結局俺の親が止めに入ってその場は収まった。
俺、やったのは自分だって、ついに言い出せなかった。こいつもこいつで、一言も否定しないし。そのあと、謝ろうと思って南条の家に行ったんだ。どんな恨み言も浴びせられる覚悟だった。だって、もし俺が同じことをされたら、殴り飛ばしたって気が済まない。――なのに、こいつは……。俺をののしるどころか、『幸成くんが怒られなくてよかった』って笑ったんだ。まだ腫れの引かない顔で」
西宮は、今の自分と当時の桃子を重ね合わせるようにして、涙をこぼした。
「あのときから俺は、南条のことを気味が悪いと思うようになった。自分の中で、南条への気持ちがどんどん歪んでいくのがわかった。盲目的な好意を向けられるのが嫌で、わずらわしくて、俺のほうから逃げだした。なのに、どんなにひどいことをされても、俺を見つめ続けてくるこいつの気持ちがどれほどのものか確かめたくて、ずっと試すような真似ばかりした。どこから間違ったのか、どうすればよかったのか、もう自分でもわからない」
西宮が話し終えると、黙って聞いていた比売神は、今度は打って変わって女神のように慈悲深い顔を見せた。
「なるほどな。お前がこの娘を恐れるのも無理はない。巫女姫なくして存在しえない荒神の脆い部分を、お前は敏感に感じ取ったのだ。だからこそ、この娘を疎んじ、この娘の愛情から支配されることを恐れた。器の小さいお前のことだ、自身の優位性を崩されまいと、なんとか支配する側に回ろうとしたのだろう。性暴力を振るう人間の典型だな。お前のような加害に及ぶ者は、性衝動ではなく、大抵は恐怖の感情によって突き動かされている。自分の内にある弱さを認められず、他者を傷つけることで、自らの優位性を確認し、偽りの支配欲を満たす。これがお前の本性だ」
自分の内面を徹底的に暴かれ、真っ向から指摘されてしまうと、西宮はもう何も言えなかった。どうあがいても、この比売神には敵わない。
西宮がぐうの音も出ないほど意気消沈したのを見て、ほんの少しだけ、比売神は西宮の気持ちを汲むようなことをこぼした。
「……まあ、たしかにこの娘は度が過ぎるほどの卑屈で、疎ましく思う気持ちもわからないではない」
すっかりおとなしくなった西宮に、比売神はあらためて目を向ける。
「お前は弱い上に馬鹿で単純だが、強さにこだわっているだけあって、自分より強いものを嗅ぎ分ける力はあるようだ。それに、相手が格上と見なせば従順にもなる。私は馬鹿は好かないが、素直な子は好ましく思うぞ。お前は今、ようやく自分の弱さを自覚した。それは決して、お前自身が弱いということと同義にはならないのだよ。己の弱さを自覚しなければ、さらに上の強さも望めはしないのだから、西の」
「か、かわちの……?」
「そうだ、お前など西ので充分だ。決めた、今夜はお前をとことん可愛がってやることにしよう」
そう言うと、比売神は充分に潤っている女性器で、西宮の固くなったままの男根を挟み込み、暴力的に擦りあげた。
「っ……、う、ぁ……」
「可愛らしい声で鳴くではないか」
比売神が桃子の顔でほくそ笑む。
「ずっと無様に勃たせておきながら、今まで耐え忍んだことだけは評価してやる。そうだ、良い子にできた褒美をやらねばな。何が望みだ?」
比売神が桃子の体を無遠慮に使い、ねっとりと腰を揺らした。
西宮はとっくに限界を迎えていたようで、押しとどめていたものを暴発させる勢いで叫ぶ。
「お、俺の望みはあんただ。あんたの中で、思いきり出したい……っ」
息も絶え絶えな様子を見て、比売神はこれ以上ないほど満足げに口角をつり上げた。
「いいだろう、お前の望みを叶えてやる」
言うなり腰を落とし、西宮の性器が温かな膣内に呑み込まれていった。
「っ……、あああぁ……ッ」
あまりの心地よさに、思わず西宮が腰を浮かそうとするも、比売神は再び拳で胸骨を圧迫して、彼を強く制していた。
「ぐっ……」
「お前は動くなよ。この場の主導権は私にあるのだから」
比売神はさも意地の悪い顔で西宮を見下げ、わざと身勝手に腰を揺らし、中で震える肉棒をきつく締め上げた。
もはや完全に征服されてしまったことが、西宮に屈辱以外の別の感情を芽生えさせていた。
「も、もう……、出っ……」
言うが早いか、西宮があっけなく射精した。比売神は一瞬目を瞬かせたが、中で熱いものが放たれたことを知ると、大いに高笑いした。
「ずいぶんと早いではないか、まったく仕様のないやつ。あっさり自分だけ達してしまうとは」
くったりしている西宮に構うことなく、比売神は中のものを抜かないまま、またいやらしく腰を揺すり始めた。
「あ、ま、待ってくれ……っ、まだ――」
「いいや、待たぬ。こうして擦っていれば、そのうち嫌でも……」
比売神が、心の底から楽しそうな笑みを浮かべる。
「ほうら、また……固くなった」
「た、頼む、少し、休ませて……」
すっかりしおらしくなった西宮に、比売神は容赦なく口づけ、再び大量の唾液を流し込んでいく。西宮の哀れな悲鳴までもが、艶やかな唇によって飲み込まれていった。
「お前は可愛いな、西の。この娘の前でも、今のように素直であればよいものを。そうすれば、暴力で得るものとは比較にならぬほどの快楽が手に入るぞ。
――しかし、この娘はこの娘で、また難儀なものだ。平世であれば、ただ一人の憑坐とのみ睦み合い、添い遂げる幸福な巫女姫でいられたものを。三人もの憑坐を相手に、この娘がどこまで耐えられるか」
「三、人……?」
「おっと、口が滑った。久しぶりのまぐわいで、私も少々開放的になってしまっているようだ。さあ、続きをしよう、西の」
意味深な台詞を聞き返す暇もないほど、西宮は激しく責め立てられ、比売神に夜中泣かされ続けることとなった。
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「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
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