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プロローグ
第2話 カミングアウト
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大学1年生・4月
「あんた、何か部活かサークルには入ったの?」
4月も下旬になろうという日の夜、母さんが僕に訊いてきた。
「え?……」
僕は言葉を濁す。
「いや、だから、部活かサークルかには、入ったの?もうそろそろ入るところ決まったんじゃない?」
そう母さんに言われ、僕は困惑した。カミングアウトしないといけない時が来たのだと思った。
「……えっと、合唱団に入ったよ」
僕は、戸惑いながら小さな声で返事した。
「え?なんて?」
母さんが訊き返す。
「いや、だから、……合唱団だよ!」
僕は、さっきよりも大きな声で言った。すると、
「え!?合唱!?あんたが!?」
母さんは、大きく目を見開いて言った。驚きすぎて変な声になっていた。
「う……うん」
僕は静かに頷く。
母さんが驚くことは分かっていた。今まで、母さんには、僕が合唱を好きになったことを、言ってなかったのだから。
「ちょっと何冗談を言ってるの?」
母さんは、恐る恐る僕に話しかける。
「冗談じゃないよ。本当に入団したんだよ」
そう言った途端、僕の体が熱くなってきた。昔から僕は、自分の本当に欲しいものや本当にしたいことを伝えようとすると、体が熱くなって汗が出てくるのだ。
「あんた、合唱するの?歌うの?」
「うん」
「できるの?」
「まあ、多分。初心者でも大丈夫だって言われたし……」
僕はこう答えたが、本当のところは分からない。合唱団には入ったものの、まだ合唱の練習は一回もしていない。僕に合唱ができるかどうかは、まだ分かってない。
「いや、だって、あんた、合唱どころか音楽自体に全く興味がないじゃない」
母さんにそう言われ、僕は、
「前はそうだったけど、今は違うの」
と返す。僕の頭から汗が出てくるのを感じた。
「そうなの!?い、いつから?」
「えっと、去年、光葉大学の学園祭に行った時、合唱の演奏を聴いて、そこから……」
「その演奏聴いて、合唱を好きになったの?」
「うん」
「本当?」
母さんは、信じられないような顔をしている。
「いつ合唱団に入ったの?」
「1週間前に入団届けを出した」
「そんな前から……」
「うん」
「ってか、あんた、なんかに騙されてない?」
母さんは、急に顔を険しくして言った。
「何にだよ!」
「なんて名前の合唱団なの?ちょっと調べてみるわ」
「いや、変なとこじゃないよ!」
「いいから、名前教えて!」
母さんは、本気で、僕が何かに騙されていると思ってるようだ。僕が合唱団に入ることは、母さんにとって、それくらい衝撃的なことなのだろう。
「光葉大学混声合唱団メイプス」
「え?なんて?メイプル?」
「メイプス!」
僕は入団した合唱団の名前を言った。メイプスとは、どこかの神話の神の名前らしい。
「ちょっと調べてみるわ!」
「う、うん」
母さんは、スマホで、メイプスのことを調べ始めた。
メイプスは、光葉大学の公式の部活だ。調べても、何も怪しいことは出てこないはずなのだが、もし怪しい情報が出てきたらどうしよう、と心配になった。
「あんた、これ、けっこう本格的なところじゃない!」
しばらくしてから、母さんが言った。
「まあ、そうだね」
「あんたなんかが入って大丈夫なの?」
「まあ、大丈夫って団長さんが言ってくれたし……」
「大丈夫?甘い言葉に騙されてない?」
「大丈夫だよ!悪いところじゃなかったでしょ!」
「まあ、そうだけど、……」
母さんは、まだ腑に落ちないという顔をしている。
「もう入団届けも出しちゃったし、必要な経費はバイトで稼ぐから、いいでしょ!」
「うーん、けど、あんた本当にやっていけるの?」
「やっていけるかは分からないけど、やってみたいの!」
僕は、母さんの目を見ていった。気づいたら、僕は全身汗だくになっていた。
「あんた、汗だくになってるじゃない」
母さんは、そう言うと、僕の頭に手をやった。
「しょうがないねぇ。あんたが汗だくになるってことは、あんた、本気で合唱やりたいんだね。まあ、子供の大学の部活のことまで、どうこう言う親もアレだしね。じゃあ、一つだけ約束してくれたら、合唱やってもいいわ!」
母さんは言った。僕は嬉しくなった。
「ありがとう母さん!約束って何?」
僕は母さんに訊く。
「無理をしないこと!いい?」
母さんは、僕の目を見つめて言った。僕は、よほど心配されてるようだ。
「分かった!約束する!」
僕は言った。
「よし!約束したわね!」
母さんは、そう言って、僕の頭を撫でた。
「練習はいつから始まるの?」
「ゴールデンウィークの3日から5日に合宿があるんだけど、それが僕の初練習だね」
「え?いきなり合宿があるの?」
母さんは、目を丸くする。
「なんか、新入生歓迎ツアーっていうのがあって、小賀島まで行くんだって」
「あら、そう!小賀島まで!すごいわね!じゃあ、頑張ってね!」
母さんに、頑張ってと言われ、僕はまた嬉しくなった。
その時、家のドアが開く音がした。
「ただいま」
父さんが、仕事から帰ってきた。
「おかえり!ねぇ、あなた聞いて!この子が、大学の合唱団に入団したんですって」
父さんがリビングに来るやいなや、母さんはいきなり父さんに言った。
「え!?合唱団!?」
父さんは、母さんよりも驚いた声を出した。
それから、僕は、さっきとほぼ同じやりとりを、父さんとすることになった。
「あんた、何か部活かサークルには入ったの?」
4月も下旬になろうという日の夜、母さんが僕に訊いてきた。
「え?……」
僕は言葉を濁す。
「いや、だから、部活かサークルかには、入ったの?もうそろそろ入るところ決まったんじゃない?」
そう母さんに言われ、僕は困惑した。カミングアウトしないといけない時が来たのだと思った。
「……えっと、合唱団に入ったよ」
僕は、戸惑いながら小さな声で返事した。
「え?なんて?」
母さんが訊き返す。
「いや、だから、……合唱団だよ!」
僕は、さっきよりも大きな声で言った。すると、
「え!?合唱!?あんたが!?」
母さんは、大きく目を見開いて言った。驚きすぎて変な声になっていた。
「う……うん」
僕は静かに頷く。
母さんが驚くことは分かっていた。今まで、母さんには、僕が合唱を好きになったことを、言ってなかったのだから。
「ちょっと何冗談を言ってるの?」
母さんは、恐る恐る僕に話しかける。
「冗談じゃないよ。本当に入団したんだよ」
そう言った途端、僕の体が熱くなってきた。昔から僕は、自分の本当に欲しいものや本当にしたいことを伝えようとすると、体が熱くなって汗が出てくるのだ。
「あんた、合唱するの?歌うの?」
「うん」
「できるの?」
「まあ、多分。初心者でも大丈夫だって言われたし……」
僕はこう答えたが、本当のところは分からない。合唱団には入ったものの、まだ合唱の練習は一回もしていない。僕に合唱ができるかどうかは、まだ分かってない。
「いや、だって、あんた、合唱どころか音楽自体に全く興味がないじゃない」
母さんにそう言われ、僕は、
「前はそうだったけど、今は違うの」
と返す。僕の頭から汗が出てくるのを感じた。
「そうなの!?い、いつから?」
「えっと、去年、光葉大学の学園祭に行った時、合唱の演奏を聴いて、そこから……」
「その演奏聴いて、合唱を好きになったの?」
「うん」
「本当?」
母さんは、信じられないような顔をしている。
「いつ合唱団に入ったの?」
「1週間前に入団届けを出した」
「そんな前から……」
「うん」
「ってか、あんた、なんかに騙されてない?」
母さんは、急に顔を険しくして言った。
「何にだよ!」
「なんて名前の合唱団なの?ちょっと調べてみるわ」
「いや、変なとこじゃないよ!」
「いいから、名前教えて!」
母さんは、本気で、僕が何かに騙されていると思ってるようだ。僕が合唱団に入ることは、母さんにとって、それくらい衝撃的なことなのだろう。
「光葉大学混声合唱団メイプス」
「え?なんて?メイプル?」
「メイプス!」
僕は入団した合唱団の名前を言った。メイプスとは、どこかの神話の神の名前らしい。
「ちょっと調べてみるわ!」
「う、うん」
母さんは、スマホで、メイプスのことを調べ始めた。
メイプスは、光葉大学の公式の部活だ。調べても、何も怪しいことは出てこないはずなのだが、もし怪しい情報が出てきたらどうしよう、と心配になった。
「あんた、これ、けっこう本格的なところじゃない!」
しばらくしてから、母さんが言った。
「まあ、そうだね」
「あんたなんかが入って大丈夫なの?」
「まあ、大丈夫って団長さんが言ってくれたし……」
「大丈夫?甘い言葉に騙されてない?」
「大丈夫だよ!悪いところじゃなかったでしょ!」
「まあ、そうだけど、……」
母さんは、まだ腑に落ちないという顔をしている。
「もう入団届けも出しちゃったし、必要な経費はバイトで稼ぐから、いいでしょ!」
「うーん、けど、あんた本当にやっていけるの?」
「やっていけるかは分からないけど、やってみたいの!」
僕は、母さんの目を見ていった。気づいたら、僕は全身汗だくになっていた。
「あんた、汗だくになってるじゃない」
母さんは、そう言うと、僕の頭に手をやった。
「しょうがないねぇ。あんたが汗だくになるってことは、あんた、本気で合唱やりたいんだね。まあ、子供の大学の部活のことまで、どうこう言う親もアレだしね。じゃあ、一つだけ約束してくれたら、合唱やってもいいわ!」
母さんは言った。僕は嬉しくなった。
「ありがとう母さん!約束って何?」
僕は母さんに訊く。
「無理をしないこと!いい?」
母さんは、僕の目を見つめて言った。僕は、よほど心配されてるようだ。
「分かった!約束する!」
僕は言った。
「よし!約束したわね!」
母さんは、そう言って、僕の頭を撫でた。
「練習はいつから始まるの?」
「ゴールデンウィークの3日から5日に合宿があるんだけど、それが僕の初練習だね」
「え?いきなり合宿があるの?」
母さんは、目を丸くする。
「なんか、新入生歓迎ツアーっていうのがあって、小賀島まで行くんだって」
「あら、そう!小賀島まで!すごいわね!じゃあ、頑張ってね!」
母さんに、頑張ってと言われ、僕はまた嬉しくなった。
その時、家のドアが開く音がした。
「ただいま」
父さんが、仕事から帰ってきた。
「おかえり!ねぇ、あなた聞いて!この子が、大学の合唱団に入団したんですって」
父さんがリビングに来るやいなや、母さんはいきなり父さんに言った。
「え!?合唱団!?」
父さんは、母さんよりも驚いた声を出した。
それから、僕は、さっきとほぼ同じやりとりを、父さんとすることになった。
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