僕の愛唱曲集

獅子獣ROCK

文字の大きさ
2 / 2
プロローグ

第2話 カミングアウト

しおりを挟む
大学1年生・4月

「あんた、何か部活かサークルには入ったの?」

 4月も下旬になろうという日の夜、母さんが僕に訊いてきた。

「え?……」

 僕は言葉を濁す。

「いや、だから、部活かサークルかには、入ったの?もうそろそろ入るところ決まったんじゃない?」

 そう母さんに言われ、僕は困惑した。カミングアウトしないといけない時が来たのだと思った。

「……えっと、合唱団に入ったよ」

 僕は、戸惑いながら小さな声で返事した。

「え?なんて?」

 母さんが訊き返す。

「いや、だから、……合唱団だよ!」

 僕は、さっきよりも大きな声で言った。すると、

「え!?合唱!?あんたが!?」

 母さんは、大きく目を見開いて言った。驚きすぎて変な声になっていた。

「う……うん」

 僕は静かに頷く。

 母さんが驚くことは分かっていた。今まで、母さんには、僕が合唱を好きになったことを、言ってなかったのだから。

「ちょっと何冗談を言ってるの?」

 母さんは、恐る恐る僕に話しかける。

「冗談じゃないよ。本当に入団したんだよ」

 そう言った途端、僕の体が熱くなってきた。昔から僕は、自分の本当に欲しいものや本当にしたいことを伝えようとすると、体が熱くなって汗が出てくるのだ。

「あんた、合唱するの?歌うの?」
「うん」
「できるの?」
「まあ、多分。初心者でも大丈夫だって言われたし……」

 僕はこう答えたが、本当のところは分からない。合唱団には入ったものの、まだ合唱の練習は一回もしていない。僕に合唱ができるかどうかは、まだ分かってない。

「いや、だって、あんた、合唱どころか音楽自体に全く興味がないじゃない」 

 母さんにそう言われ、僕は、

「前はそうだったけど、今は違うの」

 と返す。僕の頭から汗が出てくるのを感じた。

「そうなの!?い、いつから?」
「えっと、去年、光葉大学の学園祭に行った時、合唱の演奏を聴いて、そこから……」
「その演奏聴いて、合唱を好きになったの?」
「うん」
「本当?」

 母さんは、信じられないような顔をしている。

「いつ合唱団に入ったの?」
「1週間前に入団届けを出した」
「そんな前から……」
「うん」
「ってか、あんた、なんかに騙されてない?」

 母さんは、急に顔を険しくして言った。

「何にだよ!」
「なんて名前の合唱団なの?ちょっと調べてみるわ」
「いや、変なとこじゃないよ!」
「いいから、名前教えて!」

 母さんは、本気で、僕が何かに騙されていると思ってるようだ。僕が合唱団に入ることは、母さんにとって、それくらい衝撃的なことなのだろう。

「光葉大学混声合唱団メイプス」
「え?なんて?メイプル?」
「メイプス!」

 僕は入団した合唱団の名前を言った。メイプスとは、どこかの神話の神の名前らしい。

「ちょっと調べてみるわ!」
「う、うん」

 母さんは、スマホで、メイプスのことを調べ始めた。
 メイプスは、光葉大学の公式の部活だ。調べても、何も怪しいことは出てこないはずなのだが、もし怪しい情報が出てきたらどうしよう、と心配になった。

「あんた、これ、けっこう本格的なところじゃない!」

 しばらくしてから、母さんが言った。

「まあ、そうだね」
「あんたなんかが入って大丈夫なの?」
「まあ、大丈夫って団長さんが言ってくれたし……」
「大丈夫?甘い言葉に騙されてない?」
「大丈夫だよ!悪いところじゃなかったでしょ!」
「まあ、そうだけど、……」

 母さんは、まだ腑に落ちないという顔をしている。

「もう入団届けも出しちゃったし、必要な経費はバイトで稼ぐから、いいでしょ!」
「うーん、けど、あんた本当にやっていけるの?」
「やっていけるかは分からないけど、やってみたいの!」

 僕は、母さんの目を見ていった。気づいたら、僕は全身汗だくになっていた。

「あんた、汗だくになってるじゃない」

 母さんは、そう言うと、僕の頭に手をやった。

「しょうがないねぇ。あんたが汗だくになるってことは、あんた、本気で合唱やりたいんだね。まあ、子供の大学の部活のことまで、どうこう言う親もアレだしね。じゃあ、一つだけ約束してくれたら、合唱やってもいいわ!」

 母さんは言った。僕は嬉しくなった。

「ありがとう母さん!約束って何?」

 僕は母さんに訊く。

「無理をしないこと!いい?」

 母さんは、僕の目を見つめて言った。僕は、よほど心配されてるようだ。

「分かった!約束する!」

 僕は言った。

「よし!約束したわね!」

 母さんは、そう言って、僕の頭を撫でた。

「練習はいつから始まるの?」
「ゴールデンウィークの3日から5日に合宿があるんだけど、それが僕の初練習だね」
「え?いきなり合宿があるの?」

 母さんは、目を丸くする。

「なんか、新入生歓迎ツアーっていうのがあって、小賀島こがしままで行くんだって」
「あら、そう!小賀島まで!すごいわね!じゃあ、頑張ってね!」

 母さんに、頑張ってと言われ、僕はまた嬉しくなった。

 その時、家のドアが開く音がした。

「ただいま」

 父さんが、仕事から帰ってきた。

「おかえり!ねぇ、あなた聞いて!この子が、大学の合唱団に入団したんですって」

 父さんがリビングに来るやいなや、母さんはいきなり父さんに言った。

「え!?合唱団!?」

 父さんは、母さんよりも驚いた声を出した。

 それから、僕は、さっきとほぼ同じやりとりを、父さんとすることになった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

私の守護霊さん『ラクロス編』

Masa&G
キャラ文芸
本作は、本編『私の守護霊さん』の番外編です。 本編では描ききれなかった「ラクロス編」を、単独でも読める形でお届けします。番外編だけでも内容はわかりますが、本編を先に読んでいただくと、より物語に入り込みやすくなると思います。 「絶対にレギュラーを取って、東京代表に行きたい――」 そんな想いを胸に、宮司彩音は日々ラクロスの練習に明け暮れている。 同じポジションには、絶対的エースアタッカー・梶原真夏。埋まらない実力差に折れそうになる彩音のそばには、今日も無言の相棒・守護霊さんがいた。 守護霊さんの全力バックアップのもと、彩音の“レギュラー奪取&東京代表への挑戦”が始まる──。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

不思議な夏休み

廣瀬純七
青春
夏休みの初日に体が入れ替わった四人の高校生の男女が経験した不思議な話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

処理中です...