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第一章 契約の側室編
アルフレートside
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「ヴェロニカ。遅くなって悪かった。」
「アル様!私、もう、耐えられないわ!」
ヴェロニカは涙に濡れた瞳で訴え、すがるように抱き着いてきた。
その身体は震え、顔を隠すように胸にうずめる。
「聞いて下さい…。また、アレクサンドラ様が私に酷い事を……!」
その名を耳にした瞬間、アルフレートの表情は険しく歪んだ。
アレクサンドラ・ド・スペンサー。
聖女であり、皇太子妃ヴェロニカを陰湿に苛む、冷酷で傲慢な女。
魔女のように意地の悪い性根の腐った女。
王妃の座を狙い、権力に固執する野心の塊。
(あの女、またヴェロニカを…!)
胸の奥に怒りが湧き上がる。
アルフレートはヴェロニカの肩を優しく抱き寄せ、静かに語りかけた。
「あの女に何を言われたんだ?」
ヴェロニカは嗚咽を漏らし、言葉を絞り出す。
「わ、私は皇太子妃にふさわしくない、と……。うっ、うっ、酷い……!私だって、必死に頑張っているのに…!あんな言い方……ッ!」
言葉を終えるや、ワッと涙を溢れさせた。
「なんて無礼な……!たかが侯爵令嬢の分際で、聖女であり、皇太子妃に向かって!」
アルフレートの怒気が露わになる。
ヴェロニカは両手で顔を覆い、アルフレートの怒りが自分の思い通りになったことを確認すると、涙の陰で微かに唇を綻ばせる。
そして、次の瞬間には、再び儚げな表情を浮かべ、アルフレートを見上げた。
「きっと、私が聖女で……、そして、アル様の正妃だから。アレクサンドラ様は私を妬んでいるのだわ。」
「……ヴェロニカ。」
アルフレートの胸に強い衝動が込み上げた。
この愛しい女を、二度と泣かせまい。
(俺が…、俺だけが、ヴェロニカを守るのだ。)
彼女の震える身体を抱き締めながら、アルフレートは深く決意を固めていた。
「ねえ…。アル様。昨日はあの側室と夜を過ごしたのでしょう?」
「……っ」
アルフレートの胸に苦いものが込み上げた。
昨夜のことを思い出すたび、心がざわつく。
「ヴェロニカ。その話はするな。……正直、思い出したくもない。」
「まあ、アル様ったら。そんな言い方をしては可哀そうですわ。」
唇に笑みを浮かべながらも、ヴェロニカの瞳の奥に一瞬、満足げな光が宿る。
「それより…、」
ヴェロニカは腕を伸ばし、アルフレートの首に絡めると、そのまま口づけた。
ヴェロニカは自ら舌を絡ませ、アルフレートを押し倒すかのように覆いかぶさった。
柔らかな唇、熱を帯びた舌。抵抗する間もなく、甘い痺れが身体を侵食していく。
「ヴェロニカ……。」
「うふふ…。触ってもいいのですよ?」
ヴェロニカは頬を紅潮させ、彼の手を導く。その小さな囁きに、理性の糸がかすかに震える。
「さあ、アル様…。」
ヴェロニカは自ら衣を脱ぎ、白い肌を惜しげもなく晒した。
蠱惑的な眼差しが、まるで呪縛のように彼を絡め取る。
しかし、その積極的な姿を見た瞬間、アルフレートの脳裏に昨夜の光景がよみがえった。
震える手で衣を脱ぐのを躊躇っていたリリアーヌ。
「早くしろ」と冷たく言い放った自分の声。
そしてーー激痛に耐え切れず、意識を失ってしまった彼女。
「あっ、ああんっ!」
パンパン!と肌と肌がぶつかる音を響かせ、ヴェロニカはアルフレートの上で腰を振った。
あまりにも対照的だった。
目の前で甘美な声を上げ、快感を求めて身をくねらせるヴェロニカとーー怯えて声を押し殺し、ただ痛みに耐えていたリリアーヌ。
(……俺は……なんて酷い事を……。)
「ふあ!ああっ!はあん!」
あの側室は…、とんでもなく膣の中が狭かった。今でもあの感触は覚えている。あんなに狭い中は初めてだった。ヴェロニカとの初夜でもあんなに狭くはなかった。ヴェロニカは自ら足を開き、あそこを見せびらかして、大胆な姿を見せていたが、リリアーヌは…、どうだっただろうか。
ヴェロニカの揺れる豊満な胸を見ながら、思った。
そういえば、リリアーヌの乳首は綺麗なピンク色だったな。あそこも全然黒ずんでなくて、綺麗な色をしていた…。
そうだ。せめて、初夜はちゃんと愛撫をして、前戯をするべきだったのに、俺はそれすらもしないで…。
「あん!ああん!はあん!」
アルフレートは自分の上で腰を振っているヴェロニカを見つめながら、リリアーヌの青白い顔、痛みに歪んだ表情が脳裏から離れなかった。
初めての夜だというのに、彼女の恐怖も戸惑いも汲み取ろうとしなかった。
ヴェロニカの積極性は心地よいはずなのに、胸の奥で罪悪感が疼いた。
アルフレートは熱と後悔に呑まれながら、ただ彼女に身を委ねていった。
熱が静まった寝台の上で、アルフレートは息を整えながら天井を仰いでいた。
胸の奥に、どうしようもなくざらついた後悔がこびりついて離れない。
あの側室の怯えた瞳が、まだ目の裏に焼き付いている。
「アル様……。」
ヴェロニカが甘えるように身体を寄せ、頬を彼の胸にすり寄せてくる。
その声は濡れた鈴のように心地よく、次第に罪悪感すら溶かしていった。
「そうそう。アル様。私、貴方に渡したいものがあるの。」
ヴェロニカは枕元に置いてい小箱を差し出した。
白磁のような手に載せられたそれは、淡い薔薇の香りをまとい、見る者を惹きつける。
「どうか、受け取ってくださいませ。」
蓋を開けると、そこには乳白色の石を中心に据えた、薔薇の形のペンダントがあった。
精緻な金細工で作られた薔薇の蔓が、繊細なチェーンに沿って優雅に絡みつき、まるで生きているかのように石を包み込んでいる。
石は薄っすらと光り、見る者の心を捉えて離さない美しさがあった。
「美しいな…。」
アルフレートは思わず息を吞んだ。
月光を閉じ込めたような石の輝きと、それを抱く薔薇の蔓の精緻な細工。
それは美術品と呼ぶに相応しい逸品だった。
「お守りですわ。私の光魔法を込めた石ですのよ。宮廷一の細工師に依頼して作らせましたの。アル様をお護りしてくれるはず。どうか、身につけてくださいませ。」
潤んだ瞳で見上げるヴェロニカの姿に、アルフレートの胸は熱くなる。
彼女の贈り物を拒む理由などなかった。
「……ありがとう。ヴェロニカ。」
ペンダントを首に掛けた瞬間、ひやりとした感触が胸元に広がる。
同時に、わずかに頭がぼんやりした気がしたが――、それをアルフレートは疲労のせいだと思った。
ヴェロニカはにっこりと微笑み、安心したように彼の胸に顔を埋めた。
アルフレートは、その笑顔に心を縛られていることに気づきもしないまま、「愛する女に守られている」という錯覚に酔いしれていた。
次の日、アルフレートは侍女長を呼び出した。
侍女長は心臓が早鐘を打つのを抑えながら、皇太子の前に跪いた。
「侍女長。突然、呼び出してすまない。」
「とんでもございません。何なりとお申し付けくださいませ。」
「……聞きたいことがある。」
「何でございましょう?」
「側室の様子はどうだ?あれから…、どうしてる?」
侍女長は一瞬、答えをためらった。なぜ、そのようなことをわざわざ気に掛けるのか。
あの女などに。
「リリアーヌ様は……、一日中ベッドに伏しておられます。部屋から出てこられることもございません。」
アルフレートの瞳が陰を帯びた。
「……そうか。侍女長、側室の世話をよろしく頼む。彼女はまだ嫁いで間もない。できるだけ彼女の要望を叶えてやってくれ。」
「……承知いたしました。」
侍女長が頭を垂れると、アルフレートは花束と手紙を差し出した。
「それから、これを……。側室に届けてくれ。」
侍女長は恭しく受け取り、辞した。
しかし、それがリリアーヌの手に届くことはなかった。
アルフレートからの花束と手紙は、侍女長の手によってヴェロニカの私室に運ばれた。
「妃殿下。皇太子殿下が…、側室に贈り物を……。」
「贈り物?」
ヴェロニカの眉がぴくりと動いた。
侍女長が差し出した花束は、白い薔薇の花束だった。添えられた手紙には、几帳面な筆致でこう記されていた。
『リリアーヌへ
昨夜はすまなかった。私の配慮があまりに足りず、君を傷つけてしまった。
しばらく公務で忙しく、なかなか顔を出すことができないが、落ち着いたら改めて話をしたい。アルフレート』
ヴェロニカは手紙を読み終えると、美しい顔を憤怒に歪ませた。
「何これ……!」
花束を鷲掴みにし、床に叩きつける。
「どうして…!アル様は私だけを見てくれるはずなのに!どうしてあんな女に優しくするの!」
白い花弁が宙を舞い、靴に踏みにじられていく。
「侍女長!この汚らわしいものは全部燃やして!これは命令よ!」
「お待ちくださいませ、妃殿下。私に……、ひとつ妙案がございます。」
「何よ!」
苛立ちを隠さないヴェロニカが鋭く睨むと、侍女長は深く頭を下げながら囁くように続けた。
「殿下からの花束とお手紙……。それをわざと無残に引き裂き、汚してしまえば、あたかもあの側室が憤慨のあまり、叩き潰したかのように見せられます。殿下にご覧いただけば……、きっと、あの方への心は冷めましょう」
一瞬、ヴェロニカの瞳が驚きに見開かれる。だが次の瞬間、その唇がゆっくりと吊り上がった。
「……なるほど。そういうことね。実にいい考えだわ。」
白い歯を覗かせ、ヴェロニカは愉悦を隠さずに笑みを深める。
「アル様はあの女に優しすぎる。でも……、あの田舎娘が殿下の真心を踏みにじったと知れば、きっと失望するはずよ。ふふ……。これでアル様は、完全にあの女を見限るでしょうね」
ヴェロニカは足元に転がる花束を拾い上げ、わざと乱暴に床へ叩きつけた。散った花弁を踏みにじりながら、満足げに笑みを浮かべる。
「いいわ。あなたの意見を採用するわ、侍女長。今すぐ用意して。あの女に罪を着せるのよ。」
「かしこまりました、妃殿下。」
侍女長の声はかすかに震えていた。それは恐れや不安ではなく、喜びによるものだった。その瞳には従順さと共に、暗い愉悦が宿っていた。
ヴェロニカは窓辺に立ち、庭園の方角を睨みつけた。
(気に入らないわ。地味で、卑しい血を引く田舎娘のくせに!)
拳を握り締め、唇を噛む。
「必ず……、後悔させてやる。」
ヴェロニカの唇が、氷のように冷たい笑みに歪んだ。
「アル様!私、もう、耐えられないわ!」
ヴェロニカは涙に濡れた瞳で訴え、すがるように抱き着いてきた。
その身体は震え、顔を隠すように胸にうずめる。
「聞いて下さい…。また、アレクサンドラ様が私に酷い事を……!」
その名を耳にした瞬間、アルフレートの表情は険しく歪んだ。
アレクサンドラ・ド・スペンサー。
聖女であり、皇太子妃ヴェロニカを陰湿に苛む、冷酷で傲慢な女。
魔女のように意地の悪い性根の腐った女。
王妃の座を狙い、権力に固執する野心の塊。
(あの女、またヴェロニカを…!)
胸の奥に怒りが湧き上がる。
アルフレートはヴェロニカの肩を優しく抱き寄せ、静かに語りかけた。
「あの女に何を言われたんだ?」
ヴェロニカは嗚咽を漏らし、言葉を絞り出す。
「わ、私は皇太子妃にふさわしくない、と……。うっ、うっ、酷い……!私だって、必死に頑張っているのに…!あんな言い方……ッ!」
言葉を終えるや、ワッと涙を溢れさせた。
「なんて無礼な……!たかが侯爵令嬢の分際で、聖女であり、皇太子妃に向かって!」
アルフレートの怒気が露わになる。
ヴェロニカは両手で顔を覆い、アルフレートの怒りが自分の思い通りになったことを確認すると、涙の陰で微かに唇を綻ばせる。
そして、次の瞬間には、再び儚げな表情を浮かべ、アルフレートを見上げた。
「きっと、私が聖女で……、そして、アル様の正妃だから。アレクサンドラ様は私を妬んでいるのだわ。」
「……ヴェロニカ。」
アルフレートの胸に強い衝動が込み上げた。
この愛しい女を、二度と泣かせまい。
(俺が…、俺だけが、ヴェロニカを守るのだ。)
彼女の震える身体を抱き締めながら、アルフレートは深く決意を固めていた。
「ねえ…。アル様。昨日はあの側室と夜を過ごしたのでしょう?」
「……っ」
アルフレートの胸に苦いものが込み上げた。
昨夜のことを思い出すたび、心がざわつく。
「ヴェロニカ。その話はするな。……正直、思い出したくもない。」
「まあ、アル様ったら。そんな言い方をしては可哀そうですわ。」
唇に笑みを浮かべながらも、ヴェロニカの瞳の奥に一瞬、満足げな光が宿る。
「それより…、」
ヴェロニカは腕を伸ばし、アルフレートの首に絡めると、そのまま口づけた。
ヴェロニカは自ら舌を絡ませ、アルフレートを押し倒すかのように覆いかぶさった。
柔らかな唇、熱を帯びた舌。抵抗する間もなく、甘い痺れが身体を侵食していく。
「ヴェロニカ……。」
「うふふ…。触ってもいいのですよ?」
ヴェロニカは頬を紅潮させ、彼の手を導く。その小さな囁きに、理性の糸がかすかに震える。
「さあ、アル様…。」
ヴェロニカは自ら衣を脱ぎ、白い肌を惜しげもなく晒した。
蠱惑的な眼差しが、まるで呪縛のように彼を絡め取る。
しかし、その積極的な姿を見た瞬間、アルフレートの脳裏に昨夜の光景がよみがえった。
震える手で衣を脱ぐのを躊躇っていたリリアーヌ。
「早くしろ」と冷たく言い放った自分の声。
そしてーー激痛に耐え切れず、意識を失ってしまった彼女。
「あっ、ああんっ!」
パンパン!と肌と肌がぶつかる音を響かせ、ヴェロニカはアルフレートの上で腰を振った。
あまりにも対照的だった。
目の前で甘美な声を上げ、快感を求めて身をくねらせるヴェロニカとーー怯えて声を押し殺し、ただ痛みに耐えていたリリアーヌ。
(……俺は……なんて酷い事を……。)
「ふあ!ああっ!はあん!」
あの側室は…、とんでもなく膣の中が狭かった。今でもあの感触は覚えている。あんなに狭い中は初めてだった。ヴェロニカとの初夜でもあんなに狭くはなかった。ヴェロニカは自ら足を開き、あそこを見せびらかして、大胆な姿を見せていたが、リリアーヌは…、どうだっただろうか。
ヴェロニカの揺れる豊満な胸を見ながら、思った。
そういえば、リリアーヌの乳首は綺麗なピンク色だったな。あそこも全然黒ずんでなくて、綺麗な色をしていた…。
そうだ。せめて、初夜はちゃんと愛撫をして、前戯をするべきだったのに、俺はそれすらもしないで…。
「あん!ああん!はあん!」
アルフレートは自分の上で腰を振っているヴェロニカを見つめながら、リリアーヌの青白い顔、痛みに歪んだ表情が脳裏から離れなかった。
初めての夜だというのに、彼女の恐怖も戸惑いも汲み取ろうとしなかった。
ヴェロニカの積極性は心地よいはずなのに、胸の奥で罪悪感が疼いた。
アルフレートは熱と後悔に呑まれながら、ただ彼女に身を委ねていった。
熱が静まった寝台の上で、アルフレートは息を整えながら天井を仰いでいた。
胸の奥に、どうしようもなくざらついた後悔がこびりついて離れない。
あの側室の怯えた瞳が、まだ目の裏に焼き付いている。
「アル様……。」
ヴェロニカが甘えるように身体を寄せ、頬を彼の胸にすり寄せてくる。
その声は濡れた鈴のように心地よく、次第に罪悪感すら溶かしていった。
「そうそう。アル様。私、貴方に渡したいものがあるの。」
ヴェロニカは枕元に置いてい小箱を差し出した。
白磁のような手に載せられたそれは、淡い薔薇の香りをまとい、見る者を惹きつける。
「どうか、受け取ってくださいませ。」
蓋を開けると、そこには乳白色の石を中心に据えた、薔薇の形のペンダントがあった。
精緻な金細工で作られた薔薇の蔓が、繊細なチェーンに沿って優雅に絡みつき、まるで生きているかのように石を包み込んでいる。
石は薄っすらと光り、見る者の心を捉えて離さない美しさがあった。
「美しいな…。」
アルフレートは思わず息を吞んだ。
月光を閉じ込めたような石の輝きと、それを抱く薔薇の蔓の精緻な細工。
それは美術品と呼ぶに相応しい逸品だった。
「お守りですわ。私の光魔法を込めた石ですのよ。宮廷一の細工師に依頼して作らせましたの。アル様をお護りしてくれるはず。どうか、身につけてくださいませ。」
潤んだ瞳で見上げるヴェロニカの姿に、アルフレートの胸は熱くなる。
彼女の贈り物を拒む理由などなかった。
「……ありがとう。ヴェロニカ。」
ペンダントを首に掛けた瞬間、ひやりとした感触が胸元に広がる。
同時に、わずかに頭がぼんやりした気がしたが――、それをアルフレートは疲労のせいだと思った。
ヴェロニカはにっこりと微笑み、安心したように彼の胸に顔を埋めた。
アルフレートは、その笑顔に心を縛られていることに気づきもしないまま、「愛する女に守られている」という錯覚に酔いしれていた。
次の日、アルフレートは侍女長を呼び出した。
侍女長は心臓が早鐘を打つのを抑えながら、皇太子の前に跪いた。
「侍女長。突然、呼び出してすまない。」
「とんでもございません。何なりとお申し付けくださいませ。」
「……聞きたいことがある。」
「何でございましょう?」
「側室の様子はどうだ?あれから…、どうしてる?」
侍女長は一瞬、答えをためらった。なぜ、そのようなことをわざわざ気に掛けるのか。
あの女などに。
「リリアーヌ様は……、一日中ベッドに伏しておられます。部屋から出てこられることもございません。」
アルフレートの瞳が陰を帯びた。
「……そうか。侍女長、側室の世話をよろしく頼む。彼女はまだ嫁いで間もない。できるだけ彼女の要望を叶えてやってくれ。」
「……承知いたしました。」
侍女長が頭を垂れると、アルフレートは花束と手紙を差し出した。
「それから、これを……。側室に届けてくれ。」
侍女長は恭しく受け取り、辞した。
しかし、それがリリアーヌの手に届くことはなかった。
アルフレートからの花束と手紙は、侍女長の手によってヴェロニカの私室に運ばれた。
「妃殿下。皇太子殿下が…、側室に贈り物を……。」
「贈り物?」
ヴェロニカの眉がぴくりと動いた。
侍女長が差し出した花束は、白い薔薇の花束だった。添えられた手紙には、几帳面な筆致でこう記されていた。
『リリアーヌへ
昨夜はすまなかった。私の配慮があまりに足りず、君を傷つけてしまった。
しばらく公務で忙しく、なかなか顔を出すことができないが、落ち着いたら改めて話をしたい。アルフレート』
ヴェロニカは手紙を読み終えると、美しい顔を憤怒に歪ませた。
「何これ……!」
花束を鷲掴みにし、床に叩きつける。
「どうして…!アル様は私だけを見てくれるはずなのに!どうしてあんな女に優しくするの!」
白い花弁が宙を舞い、靴に踏みにじられていく。
「侍女長!この汚らわしいものは全部燃やして!これは命令よ!」
「お待ちくださいませ、妃殿下。私に……、ひとつ妙案がございます。」
「何よ!」
苛立ちを隠さないヴェロニカが鋭く睨むと、侍女長は深く頭を下げながら囁くように続けた。
「殿下からの花束とお手紙……。それをわざと無残に引き裂き、汚してしまえば、あたかもあの側室が憤慨のあまり、叩き潰したかのように見せられます。殿下にご覧いただけば……、きっと、あの方への心は冷めましょう」
一瞬、ヴェロニカの瞳が驚きに見開かれる。だが次の瞬間、その唇がゆっくりと吊り上がった。
「……なるほど。そういうことね。実にいい考えだわ。」
白い歯を覗かせ、ヴェロニカは愉悦を隠さずに笑みを深める。
「アル様はあの女に優しすぎる。でも……、あの田舎娘が殿下の真心を踏みにじったと知れば、きっと失望するはずよ。ふふ……。これでアル様は、完全にあの女を見限るでしょうね」
ヴェロニカは足元に転がる花束を拾い上げ、わざと乱暴に床へ叩きつけた。散った花弁を踏みにじりながら、満足げに笑みを浮かべる。
「いいわ。あなたの意見を採用するわ、侍女長。今すぐ用意して。あの女に罪を着せるのよ。」
「かしこまりました、妃殿下。」
侍女長の声はかすかに震えていた。それは恐れや不安ではなく、喜びによるものだった。その瞳には従順さと共に、暗い愉悦が宿っていた。
ヴェロニカは窓辺に立ち、庭園の方角を睨みつけた。
(気に入らないわ。地味で、卑しい血を引く田舎娘のくせに!)
拳を握り締め、唇を噛む。
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