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第一章 契約の側室編
静かな崩壊
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「ご報告します!アルフレート王は……、敵兵を次々と斬り伏せ、いまだ健在にございます!」
血まみれの鎧を纏った斥候が、息を切らしながら報告した。
「……そう。やはりね。」
銀髪の女はその報告を聞き、微かに口角を吊り上げた。
その表情には、全てが予想通りだという余裕が浮かんでいる。
「あの男が、そう容易く倒れるはずがない……。」
女は誰にともなく呟いた。最初に送り込んだのは捨て駒の傭兵達だったのだろう。
彼の剣は鈍らず、むしろ光を放つ。だが、それも長くは続かない。そう確信しているかのような冷たい笑みだった。
「兵器を使いますか?」
傍らに控えていた赤髪の女——白衣姿の女が問う。
「いいえ。」
銀髪の女は冷ややかで低い声で答える。
「一瞬で終わりにしてしまったら、退屈だもの。あの男にはもっと……、苦しんでもらわなくては。」
不穏な笑みが零れる。そこへ、別の部下が膝をつき、報告した。
「ご命令通り、あの女を確保いたしました。」
「やはり、あの女は自分一人だけ逃げる気だったのね。」
銀髪の女は満足げに頷いた。まるで、ヴェロニカがアルフレートを見捨て、別の男に縋ることなど、最初から分かっていたとでも言うように。
彼女が用意した美貌の駒が、ヴェロニカに近づいていたのだ。
全ては、彼女の掌の上で踊る人形たちにすぎない。
「ふふ……いいわ。幕を開けましょうか。」
銀髪の女は髪を翻し、最後の仕上げのために歩み去った。
やがて視界がぼやけ、景色が変わった。
石造りの牢獄のような薄暗い部屋。
壁に取り付けられた松明が、ゆらゆらと不気味な影を作り出している。
「誰か!誰か来て!こんなところに王妃を閉じ込めるなんて!許されることじゃないわ!」
その中央で、一人の女が鎖に繋がれていた。
かつては美しかった金髪は乱れ、華やかなドレスは汚れと血で染まっている。
足音が響き、扉が開いた。銀髪の女が静かに歩み入る。
鎖に繋がれた女——ヴェロニカは顔を上げた。
その瞬間、恐怖で顔が青ざめる。
「な……!ッ、ど、どうして……!?どうしてあんたがここに……!?」
銀髪の女は冷たい瞳でじっとヴェロニカを見下ろす。表情は変わらず、感情の揺れは微塵も見せない。
「恐怖しているのね、ヴェロニカ。」
「ぜ、全部、あんたの仕業なのね!まさか、復讐のつもり!?わ、私を……どうするつもりよ!?」
女の口元がわずかに曲がる。
「安心して?あなたをここで殺すつもりはないわ。ただ……あなたに、自分が撒いた種の果実を味わってもらうだけ。」
ヴェロニカの顔が青ざめる。
「な、何を……!」
「あなたが私を貶めたときと同じように、ね。」
その声には、かつての屈辱や絶望を淡々と計算し尽くした冷徹さが宿っている。
ヴェロニカはその視線に押し潰されるように震え、言葉を失った。
銀髪の女は兵に命じ、ヴェロニカを連行させた。
やがて、視界が変わり、リリアーヌは別の場所にいた。
激しい戦闘が繰り広げられる戦場で、アルフレートが敵兵と剣を交えている。
そこへ、銀髪の女がヴェロニカを連れて現れた。
「!?貴様、生きて…、ッ!ヴェロニカ!?」
「お久しぶりでございます。陛下。また、こうしてお会いできて嬉しいですわ。私はずっとこの日を待ち望んでおりましたの。ずーっとね。」
「ヴェロニカ……!貴様、ヴェロニカに何をした!?」
「まあ、折角、こうして再会できたというのに……。陛下はせっかちな方ですこと。それに、人聞きの悪い。まだ、何もしていませんわ。今は、ね……。」
銀髪の女はニッと唇を吊り上げ、
「全てはあなた次第よ、アルフレート。愛しい女の命が惜しければ……降伏なさい。」
銀髪の女が指を鳴らすと、兵士がヴェロニカの喉元に刃を突きつけた。ヴェロニカは悲鳴を上げた。
「なっ…!卑怯な……!」
「卑怯?戦いに正当性やルールがあるとでも?勝者が全てを決める。それが戦争というものよ。」
女は冷ややかに微笑んだ。アルフレートを眺めるその瞳には、計算し尽くされた冷徹さだけが宿っている。
「そんな甘い考えをしているから、足元を掬われるのよ。フフッ…、愚かね。アルフレート…。」
女はアルフレートを嘲るように見下す。
「クッ……!」
アルフレートは悔し気に睨みつけるがそれ以上、動けない。ヴェロニカは必死で抵抗し、泣き叫ぶ。
「いやあ!た、助けて……!」
ヴェロニカの声にアルフレートは観念し、武器を捨てた。
銀髪の女は、泣き叫ぶヴェロニカを一瞥し、冷ややかに眉をひそめた。
愛する男の戦いを足手纏いにしながら、我が身だけを案じて助けを求める姿。
その様子を見る女の瞳には、同情や憐れみは微塵もなく、ただ冷徹な観察だけが映っていた。
まるで、全てが思惑通りに進んでいくのを確認するかのように。
リリアーヌは一人、ぽつんと薄暗い回廊のような場所に立っていた。
(あれ? ここは…?)
辺りを見回すが、誰もいない。ふと、遠くの方から人の怒鳴り声と、ガラスが割れる音が聞こえてきた。
慌てて声のする方へ走り出す。廊下を駆け抜けると、窓が見える。
窓の向こう——王宮の庭が、炎に包まれていた。
庭だけでなく、火はあちこちに広がり、王宮全体が燃えている。
(な、何…?何が起きているの?)
次に気が付いた時、目の前には白い扉がそびえていた。中から、かすかな声が聞こえる。
「誰かいる?」
ためらいながらも扉を開けようとした。こんなに大きな扉開けられるかな?そう思いつつ、扉に触れようとすると、触れる直前に勝手に扉が開いた。
そこは、玉座の間。皇帝に謁見する場所だった。
しかし、目に飛び込んできたのは、異様な光景だった。
「無様な姿ですこと…。まるで地面を這い回る芋虫のようですわね。でも、あなたにはとてもお似合いよ。」
玉座に座るのは、眩い銀髪の女性。扇を口元で覆い、笑っている。
(あの人は…!)
一回目の予知夢で見た銀髪の女性だ。今までの人もきっと、同一人物だ。リリアーヌにはそんな確信があった。
この光景はさっきの続き…?
その視線の先には、両手両足を縛られ、床に転がされている金髪の女があった。
(あれは、ヴェロニカ様!?)
リリアーヌは思わず息をのんだ。
さらに、銀髪の女性の両隣には二人の人物が控えていた。一人は深い赤髪を束ねた白衣姿の女。もう一人は黒いフードをすっぽりと被り、顔を隠している。
周囲には、銀の甲冑を身にまとった騎士たちが厳重に守るように佇んでいた。
これでは、まるで…。
「…ドラ!この、裏切り者…!」
突然、どこからか男の叫び声が響く。リリアーヌが声の主を見ると、そこには鎖につながれ、騎士に無理矢理床に跪かされているアルフレートがいた。
「あら?そんな口の利き方をしてもいいの?あなたの命も、愛する女の命まで……。全て、私の手の中にあることを忘れたのかしら?」
「グッ……!」
アルフレートが力強く呻いた。すると、冷徹な声が続く。
「連れて行きなさい。」
ヴェロニカは銀甲冑の騎士たちに引き立てられ、扉の向こうへ消えていく。
「ま、待て!ヴェロニカを……、どこへ連れて行く気だ!?」
「心配しなくても、すぐに会わせてあげるわ。すぐに…、ね。」
銀髪の女は含みを持たせたような笑みを浮かべる。
そのまま、アルフレートを騎士たちに連行させ、退出させた。
「…首尾は?」
銀髪の女は赤髪の女に問いかける。赤髪の女は胸に手に置いて、答えた。
「滞りなく。いつでも遂行できるように準備は整っております。」
「そう…。では、すぐに行かなくてはね。」
銀髪の女はニッと笑うと、光景が溶けるように変わった。
今度は実験部屋のような場所だった。冷たい石の床。
ヴェロニカは拘束台に縛り付けられていた。
「私は王妃よ!?その私にこんなことして許されるとでも!?」
「始めなさい。」
女の命令に騎士たちは頷き、ヴェロニカの服の袖を捲った。二の腕が露わになる。
「ちょ、な、何をするの!?無礼者!?」
赤髪の女が注射器を取り出した。白衣の上から覗く豊かな胸元とは裏腹に、その瞳には冷徹な知性だけが宿っている。
「動かないでください。暴れると、より苦痛を味わうことになります。」
「あ、あんた…、まさか!」
ヴェロニカが赤髪の女の正体に気づき、震え上がった。赤髪の女は初めて表情を変え、冷たく微笑んだ。
「あら、私のことちゃんと覚えてくれていたのですね。光栄ですわ。妃殿下。‥‥いえ、今は王妃殿下でしたわね。私としたことが失礼しましたわ。お久しぶりですね。こうして、お会いするのは。」
あの時はヴェロニカがあの女を見下ろす立場だった。
社交界の花と謳われたあの女の名誉を地に落としてやった時は、愉快で仕方なかった。
しかし今は、完全に立場が逆転している。
「そ、そういうこと、なのね…!全部、私に復讐するために…!この、裏切り者!」
赤髪の女はスッと無表情に戻ると、淡々とヴェロニカの腕の血管に針を刺した。
次の瞬間、ヴェロニカの身体に異変が起きた。
身体が膨張し、全身にボコボコと瘤のようなものが広がっていく。やがて、ドロリ、と皮膚が溶け始めた。
「きゃああああああ!?わ、私の顔が……、身体が…!い、いやああああああ!何よ!これ!?」
ヴェロニカは悲鳴を上げるが、身体の変化は止まらない。徐々に人の形を失い、異形の姿に変わっていく。すると、ヴェロニカの声も人間とは思えない咆哮に変わっていく。
「‥‥成功ですね。」
「ええ。完璧だわ。さあ、始めるわよ。」
銀髪の女は愉しそうに声を弾ませ、クルリ、と背を向けた。
リリアーヌは震える手で口元を押さえていた。
目の前で起きた惨劇を、彼女はただ見ているしかなかった。
そして——これはまだ、始まりに過ぎないのだと、直感していた。
血まみれの鎧を纏った斥候が、息を切らしながら報告した。
「……そう。やはりね。」
銀髪の女はその報告を聞き、微かに口角を吊り上げた。
その表情には、全てが予想通りだという余裕が浮かんでいる。
「あの男が、そう容易く倒れるはずがない……。」
女は誰にともなく呟いた。最初に送り込んだのは捨て駒の傭兵達だったのだろう。
彼の剣は鈍らず、むしろ光を放つ。だが、それも長くは続かない。そう確信しているかのような冷たい笑みだった。
「兵器を使いますか?」
傍らに控えていた赤髪の女——白衣姿の女が問う。
「いいえ。」
銀髪の女は冷ややかで低い声で答える。
「一瞬で終わりにしてしまったら、退屈だもの。あの男にはもっと……、苦しんでもらわなくては。」
不穏な笑みが零れる。そこへ、別の部下が膝をつき、報告した。
「ご命令通り、あの女を確保いたしました。」
「やはり、あの女は自分一人だけ逃げる気だったのね。」
銀髪の女は満足げに頷いた。まるで、ヴェロニカがアルフレートを見捨て、別の男に縋ることなど、最初から分かっていたとでも言うように。
彼女が用意した美貌の駒が、ヴェロニカに近づいていたのだ。
全ては、彼女の掌の上で踊る人形たちにすぎない。
「ふふ……いいわ。幕を開けましょうか。」
銀髪の女は髪を翻し、最後の仕上げのために歩み去った。
やがて視界がぼやけ、景色が変わった。
石造りの牢獄のような薄暗い部屋。
壁に取り付けられた松明が、ゆらゆらと不気味な影を作り出している。
「誰か!誰か来て!こんなところに王妃を閉じ込めるなんて!許されることじゃないわ!」
その中央で、一人の女が鎖に繋がれていた。
かつては美しかった金髪は乱れ、華やかなドレスは汚れと血で染まっている。
足音が響き、扉が開いた。銀髪の女が静かに歩み入る。
鎖に繋がれた女——ヴェロニカは顔を上げた。
その瞬間、恐怖で顔が青ざめる。
「な……!ッ、ど、どうして……!?どうしてあんたがここに……!?」
銀髪の女は冷たい瞳でじっとヴェロニカを見下ろす。表情は変わらず、感情の揺れは微塵も見せない。
「恐怖しているのね、ヴェロニカ。」
「ぜ、全部、あんたの仕業なのね!まさか、復讐のつもり!?わ、私を……どうするつもりよ!?」
女の口元がわずかに曲がる。
「安心して?あなたをここで殺すつもりはないわ。ただ……あなたに、自分が撒いた種の果実を味わってもらうだけ。」
ヴェロニカの顔が青ざめる。
「な、何を……!」
「あなたが私を貶めたときと同じように、ね。」
その声には、かつての屈辱や絶望を淡々と計算し尽くした冷徹さが宿っている。
ヴェロニカはその視線に押し潰されるように震え、言葉を失った。
銀髪の女は兵に命じ、ヴェロニカを連行させた。
やがて、視界が変わり、リリアーヌは別の場所にいた。
激しい戦闘が繰り広げられる戦場で、アルフレートが敵兵と剣を交えている。
そこへ、銀髪の女がヴェロニカを連れて現れた。
「!?貴様、生きて…、ッ!ヴェロニカ!?」
「お久しぶりでございます。陛下。また、こうしてお会いできて嬉しいですわ。私はずっとこの日を待ち望んでおりましたの。ずーっとね。」
「ヴェロニカ……!貴様、ヴェロニカに何をした!?」
「まあ、折角、こうして再会できたというのに……。陛下はせっかちな方ですこと。それに、人聞きの悪い。まだ、何もしていませんわ。今は、ね……。」
銀髪の女はニッと唇を吊り上げ、
「全てはあなた次第よ、アルフレート。愛しい女の命が惜しければ……降伏なさい。」
銀髪の女が指を鳴らすと、兵士がヴェロニカの喉元に刃を突きつけた。ヴェロニカは悲鳴を上げた。
「なっ…!卑怯な……!」
「卑怯?戦いに正当性やルールがあるとでも?勝者が全てを決める。それが戦争というものよ。」
女は冷ややかに微笑んだ。アルフレートを眺めるその瞳には、計算し尽くされた冷徹さだけが宿っている。
「そんな甘い考えをしているから、足元を掬われるのよ。フフッ…、愚かね。アルフレート…。」
女はアルフレートを嘲るように見下す。
「クッ……!」
アルフレートは悔し気に睨みつけるがそれ以上、動けない。ヴェロニカは必死で抵抗し、泣き叫ぶ。
「いやあ!た、助けて……!」
ヴェロニカの声にアルフレートは観念し、武器を捨てた。
銀髪の女は、泣き叫ぶヴェロニカを一瞥し、冷ややかに眉をひそめた。
愛する男の戦いを足手纏いにしながら、我が身だけを案じて助けを求める姿。
その様子を見る女の瞳には、同情や憐れみは微塵もなく、ただ冷徹な観察だけが映っていた。
まるで、全てが思惑通りに進んでいくのを確認するかのように。
リリアーヌは一人、ぽつんと薄暗い回廊のような場所に立っていた。
(あれ? ここは…?)
辺りを見回すが、誰もいない。ふと、遠くの方から人の怒鳴り声と、ガラスが割れる音が聞こえてきた。
慌てて声のする方へ走り出す。廊下を駆け抜けると、窓が見える。
窓の向こう——王宮の庭が、炎に包まれていた。
庭だけでなく、火はあちこちに広がり、王宮全体が燃えている。
(な、何…?何が起きているの?)
次に気が付いた時、目の前には白い扉がそびえていた。中から、かすかな声が聞こえる。
「誰かいる?」
ためらいながらも扉を開けようとした。こんなに大きな扉開けられるかな?そう思いつつ、扉に触れようとすると、触れる直前に勝手に扉が開いた。
そこは、玉座の間。皇帝に謁見する場所だった。
しかし、目に飛び込んできたのは、異様な光景だった。
「無様な姿ですこと…。まるで地面を這い回る芋虫のようですわね。でも、あなたにはとてもお似合いよ。」
玉座に座るのは、眩い銀髪の女性。扇を口元で覆い、笑っている。
(あの人は…!)
一回目の予知夢で見た銀髪の女性だ。今までの人もきっと、同一人物だ。リリアーヌにはそんな確信があった。
この光景はさっきの続き…?
その視線の先には、両手両足を縛られ、床に転がされている金髪の女があった。
(あれは、ヴェロニカ様!?)
リリアーヌは思わず息をのんだ。
さらに、銀髪の女性の両隣には二人の人物が控えていた。一人は深い赤髪を束ねた白衣姿の女。もう一人は黒いフードをすっぽりと被り、顔を隠している。
周囲には、銀の甲冑を身にまとった騎士たちが厳重に守るように佇んでいた。
これでは、まるで…。
「…ドラ!この、裏切り者…!」
突然、どこからか男の叫び声が響く。リリアーヌが声の主を見ると、そこには鎖につながれ、騎士に無理矢理床に跪かされているアルフレートがいた。
「あら?そんな口の利き方をしてもいいの?あなたの命も、愛する女の命まで……。全て、私の手の中にあることを忘れたのかしら?」
「グッ……!」
アルフレートが力強く呻いた。すると、冷徹な声が続く。
「連れて行きなさい。」
ヴェロニカは銀甲冑の騎士たちに引き立てられ、扉の向こうへ消えていく。
「ま、待て!ヴェロニカを……、どこへ連れて行く気だ!?」
「心配しなくても、すぐに会わせてあげるわ。すぐに…、ね。」
銀髪の女は含みを持たせたような笑みを浮かべる。
そのまま、アルフレートを騎士たちに連行させ、退出させた。
「…首尾は?」
銀髪の女は赤髪の女に問いかける。赤髪の女は胸に手に置いて、答えた。
「滞りなく。いつでも遂行できるように準備は整っております。」
「そう…。では、すぐに行かなくてはね。」
銀髪の女はニッと笑うと、光景が溶けるように変わった。
今度は実験部屋のような場所だった。冷たい石の床。
ヴェロニカは拘束台に縛り付けられていた。
「私は王妃よ!?その私にこんなことして許されるとでも!?」
「始めなさい。」
女の命令に騎士たちは頷き、ヴェロニカの服の袖を捲った。二の腕が露わになる。
「ちょ、な、何をするの!?無礼者!?」
赤髪の女が注射器を取り出した。白衣の上から覗く豊かな胸元とは裏腹に、その瞳には冷徹な知性だけが宿っている。
「動かないでください。暴れると、より苦痛を味わうことになります。」
「あ、あんた…、まさか!」
ヴェロニカが赤髪の女の正体に気づき、震え上がった。赤髪の女は初めて表情を変え、冷たく微笑んだ。
「あら、私のことちゃんと覚えてくれていたのですね。光栄ですわ。妃殿下。‥‥いえ、今は王妃殿下でしたわね。私としたことが失礼しましたわ。お久しぶりですね。こうして、お会いするのは。」
あの時はヴェロニカがあの女を見下ろす立場だった。
社交界の花と謳われたあの女の名誉を地に落としてやった時は、愉快で仕方なかった。
しかし今は、完全に立場が逆転している。
「そ、そういうこと、なのね…!全部、私に復讐するために…!この、裏切り者!」
赤髪の女はスッと無表情に戻ると、淡々とヴェロニカの腕の血管に針を刺した。
次の瞬間、ヴェロニカの身体に異変が起きた。
身体が膨張し、全身にボコボコと瘤のようなものが広がっていく。やがて、ドロリ、と皮膚が溶け始めた。
「きゃああああああ!?わ、私の顔が……、身体が…!い、いやああああああ!何よ!これ!?」
ヴェロニカは悲鳴を上げるが、身体の変化は止まらない。徐々に人の形を失い、異形の姿に変わっていく。すると、ヴェロニカの声も人間とは思えない咆哮に変わっていく。
「‥‥成功ですね。」
「ええ。完璧だわ。さあ、始めるわよ。」
銀髪の女は愉しそうに声を弾ませ、クルリ、と背を向けた。
リリアーヌは震える手で口元を押さえていた。
目の前で起きた惨劇を、彼女はただ見ているしかなかった。
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