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第二章 才能の開花編
書庫への許可
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リリアーヌは改めて口を開いた。
「それで、あの…、図々しいお願いだとは分かっているのですが…。」
(……まさか。)
アルフレートの背筋に、嫌な予感が走る。
「書庫に入る事をお許し頂けないでしょうか?できれば、書庫にある文献を閲覧する許可も……。」
リリアーヌは、先ほどのアルフレートと司祭のやり取りを見ていなかった。シスターたちと話し込んでいたのだから、無理もない。つまり、この願いが既に拒否されたことを、彼女は知らないのだ。
「リリアーヌ、」
アルフレートはそれを伝えようとしたが――
「何だ。そんな事か。勿論だとも。」
リリアーヌが話し終える間もなく、司祭はコロッと態度を豹変させて、にこやかに笑い、あっさりと許可を出した。
『は!?』
アルフレートを含め、護衛と従者たちは思わず声を上げた。
(……俺が、たった今、断られたばかりなのに……!?)
アルフレートは、呆然とリリアーヌと司祭を見つめた。
「え、い、いいのですか!?ヨラダ様。」
リリアーヌは断られると思っていたのだろう。驚いたように目を見開いている。
「ええ。可愛いリリアーヌの頼みですからね。今回だけ、特別ですよ?」
「ありがとうございます!ヨラダ様!」
リリアーヌは、嬉しそうに笑い、ふとアルフレートの方へ向き直った。
「殿下、良かったですね!書庫に入れるそうです!」
嬉しそうに小さく弾む声でそう告げ、にこりと微笑みかける。
「え、あ、ああ‥‥。」
アルフレートは、その笑顔を前にしながら――ただ、茫然と立ち尽くしていた。
(今までのは苦労は何だったんだ…?)
こうも簡単に許可が下りるとは、思っていなかった。
アルフレートは、戸惑いを隠せなかった。
(……何が違う?俺とリリアーヌで、何が……?)
高級なワインと小麦粉。
手作りのクッキーとビスケット。
(……いや、違う。)
献上品の問題ではない。
(……この司祭は、リリアーヌを――本当に、愛しているんだ。)
そして――俺のことは、心底、嫌っている。
アルフレートは、小さく息を吐いた。
(……彼女は、ここでこれほどまでに愛されていたのか。)
護衛たちが、小声でざわめいた。
「…なあ、あれ、本当にさっきの司祭と同一人物か?」
「そう言いたくなる気持ちは分かるが、間違いなく本人だ。」
「俺達に対する態度と、側室様に対する態度……違いすぎだろ。」
「あの司祭って、あんなデレデレするんだな。厳格で領民からも怖がられてるって聞いてたのに…。」
「あの頑固爺を手懐けるとは……。さすが、殿下が選ばれた方だ。」
「正直、地味で華がないと思ってたが……、人は見かけによらないもんだな。」
護衛たちは、感心したように頷き合った。
アルフレートは、その会話を聞きながら――
(……本当に俺は、彼女のことを何も知らなかったのだな。)
静かに、そう思った。
「では、こちらへ。」
司祭はリリアーヌに優しく微笑み、歩き出した。
「はい!」
リリアーヌは、嬉しそうに頷くと、その後に続く。
アルフレートは一瞬、躊躇した。
(……俺も、行っていいのか?)
立ち止まっているアルフレートに気づいたリリアーヌは、振り返った。
「殿下?どうなさいましたか?殿下もご一緒に。」
にこり、と微笑む。
「……ああ。」
アルフレートは、静かに頷いた。
司祭は、アルフレートと護衛たちをちらりと見たが――何も言わなかった。
(…リリアーヌがいるから、黙認してくれているのか。)
アルフレートは、そう察した。
(……彼女に、助けられた。)
その事実が――妙に、胸に重かった。
廊下を、一行は静かに進んでいく。
「そういえば、ヨラダ様。シスター・マリナの姿が見えませんでしたけど、どこにいるのですか?」
「マリナなら、今は教会の用事で外していてな。王都の大教会で、数日間、シスターの教育研修の講師を頼まれているのだ。」
「講師!?それはすごいですね…!シスター・マリナは優秀ですもんね。でも……、そうですか。ここにはいないんですね。残念です…。」
「マリナも同じ気持ちだろう。あの子は、リリアーヌを本当に可愛がっていたからな。」
「私も、シスター・マリナには本当によくして頂いて…。」
リリアーヌの表情が、一瞬、切なげに翳った。
「会えなかったのは残念ですけど、お務めですし、仕方ないですよね。ヨラダ様、どうかよろしくお伝えください。」
「ああ。勿論だとも。マリナもきっと、そなたに会えなかったことを残念がるだろう。」
司祭の目がわずかに優しく細められた。
(あの子は、リリアーヌのためなら、どんなことでもするだろうからな。…それにしても、あの男の側室にされたと知ったら、マリナがどんな反応をするか…。毒薬を忍ばせて、王宮に乗り込みそうだな。)
帰ったら、マリナになんと説明しようか。司祭は今から頭痛がする思いだった。
(……シスター・マリナ?リリアーヌとは特に親しかったのだな。)
アルフレートがそんなことを考えていると、後ろの護衛が小声で囁き合っていた。
「えっ……。マ、マリナさん、いないのか…。どおりで見かけないと思った…。」
「何だ。お前、そのシスターと知り合いなのか?」
「シスター・マリナって名前……どこかで聞いた気がするんだが。」
仲間の護衛たちが首を傾げていると、一人が小声で言った。
「いや、お前らも見ただろ。すごい美人のシスター。黒髪サラサラで――胸も結構あってさ。忘れようがないだろ。」
「ああ……いたな。こんな田舎じゃまず見ないくらいの、美人シスターが。」
「ああ、思い出したぞ。」
別の護衛が、得意げに続けた。
「シスター・マリナって、ここら辺じゃ知らない男はいないってくらい評判の女だろ。シスターなのに求婚者が殺到しているって噂だ。しかも、中央教会や高位聖職者からも声がかかっているのに、それを断って、この教会に残り続けているって。」
「中央教会から?それなのに、何でこんな田舎に…?」
「さあな。」
護衛たちが不思議そうに首を傾げる中――、
「…無駄口は叩くな。」
アルフレートの低い声が、冷たく響いた。
「ッ!も、申し訳ありません!皇太子殿下!」
護衛たちは慌てて口を閉じた。
しかし、アルフレートの心の中では――先ほどの会話が、妙に引っかかっていた。
(……中央への誘いを断ってまで、この教会に。何故だ…?)
奥まった通路へと進んでいくと、やがて石造りの階段が現れる。薄暗い階段は、地下へ向かって口を開けていた。
「地下に……?」
アルフレートが小さく呟く。
それにリリアーヌが答えた。
「はい。ここの教会の書庫は、昔から地下に造られているのです。以前、別の教会で火災が起きた時に書庫が燃えてしまったことがあって、ここで教会を建てる時に書庫を地下に造るように設計して作られたんだそうです。そうですよね?ヨラダ様。」
「ええ。リリアーヌの言う通りです。火災の被害を避けるのもありますが、もう一つは、外部の目から遠ざけるためですよ。」
ヨラダはそう説明しながら、ゆっくりと階段を降りていく。
リリアーヌもその後に続き、アルフレートも無言のまま歩を進めた。
階段を降りるほどに、空気が冷たく、湿り気を帯びていく。
石壁に反射する提灯の灯りが、ゆらゆらと揺れた。
(……随分、厳重なのだな。)
アルフレートは、地下を見回しながらそう思った。
足元が暗く、リリアーヌは注意深く階段を降りていたが――
「あっ……!」
段差に気づかず、体が前のめりになる。
(わっ!わっ‥‥!落ちる!)
リリアーヌは思わずギュッと目を瞑った。
咄嗟に、がっしりとした手が彼女の腕を掴んだ。
「‥‥大丈夫か?」
低く、落ち着いた声。
アルフレートが彼女を支えてくれていた。
「あ……は、はい!大丈夫です!」
リリアーヌは慌てて答えたが、彼の手が自分の腕を掴んでいることに気づいて――顔が、かあっと熱くなった。
(お、男の人の手……。)
力強く、大きい。骨張った、男性らしい手。
胸がどきどきと、激しく鳴る。
アルフレートがゆっくりと手を離すと、リリアーヌは支えられていた腕をぎゅっと押さえた。
(……あ、熱い……。)
まだ、彼の手の温もりが残っているような気がした。
「気をつけろ。ここは足元が暗い。」
「は、はい……。ありがとうございます……。」
リリアーヌは俯いたまま、小さく答えた。
(ど、どうしよう……。顔、真っ赤になってないかな……。)
幸い、薄暗い階段の中では、彼女の赤くなった顔は見えなかった。
「‥‥‥。」
その様子を司祭はジッと見つめていた。
やがて階段の先に、重厚な扉が現れた。
分厚い木材と鉄で補強された大扉で、古いけれど堅牢さを感じさせる。
ヨラダは鍵束を取り出し、慣れた手つきで鍵穴に差し込む。
「ここが――書庫です。」
重く鈍い音を立てて、錠が外れる。
ぎ……ぎい……と、扉が静かに開いた。
――ふわり。
外の空気とは違う、本独特の乾いた匂いが流れ込んでくる。
(わあ……。)
リリアーヌは懐かしい気持ちになった。
目の前に広がったのは、天井まで届きそうな高い書架の列。
その間には、羊皮紙の巻物や古びた聖典、分厚い文献の数々が、整然と収められている。
地下とは思えないほど天井は高く、石造りのアーチが静かに連なっている。
「これが……教会の書庫か。」
アルフレートが小さく呟く。
「すごいですよね!私も初めて書庫に来た時は感動しました。」
リリアーヌが嬉しそうにアルフレートに話しかける。
「こんなにもたくさんの書物なんて、見たことなかったので……。教会が数百年かけて集めた文献が、全部ここに……。まるで、宝物庫みたいですよね。」
リリアーヌが嬉しそうにアルフレートにそう話しかける。
「……。」
(本当に、本が好きなのだな…。普通、こんな本ばかりの場所に連れてこられても、女なら退屈しそうなものなのに……。こんなにも嬉しそうに……。)
アルフレートは、またリリアーヌの新しい一面を見た気がした。
(彼女の知識は、ここで培われたのか。貯水湖、教会の歴史…。すべて、この書庫で学んだのだろう。)
そう思いながら、書庫を見回す。
(……これほどの蔵書が……。)
静寂に包まれた地下書庫の空気が、彼の胸に重く沈み込んでいく。
(――ここに、答えがあるのか。)
「それで、あの…、図々しいお願いだとは分かっているのですが…。」
(……まさか。)
アルフレートの背筋に、嫌な予感が走る。
「書庫に入る事をお許し頂けないでしょうか?できれば、書庫にある文献を閲覧する許可も……。」
リリアーヌは、先ほどのアルフレートと司祭のやり取りを見ていなかった。シスターたちと話し込んでいたのだから、無理もない。つまり、この願いが既に拒否されたことを、彼女は知らないのだ。
「リリアーヌ、」
アルフレートはそれを伝えようとしたが――
「何だ。そんな事か。勿論だとも。」
リリアーヌが話し終える間もなく、司祭はコロッと態度を豹変させて、にこやかに笑い、あっさりと許可を出した。
『は!?』
アルフレートを含め、護衛と従者たちは思わず声を上げた。
(……俺が、たった今、断られたばかりなのに……!?)
アルフレートは、呆然とリリアーヌと司祭を見つめた。
「え、い、いいのですか!?ヨラダ様。」
リリアーヌは断られると思っていたのだろう。驚いたように目を見開いている。
「ええ。可愛いリリアーヌの頼みですからね。今回だけ、特別ですよ?」
「ありがとうございます!ヨラダ様!」
リリアーヌは、嬉しそうに笑い、ふとアルフレートの方へ向き直った。
「殿下、良かったですね!書庫に入れるそうです!」
嬉しそうに小さく弾む声でそう告げ、にこりと微笑みかける。
「え、あ、ああ‥‥。」
アルフレートは、その笑顔を前にしながら――ただ、茫然と立ち尽くしていた。
(今までのは苦労は何だったんだ…?)
こうも簡単に許可が下りるとは、思っていなかった。
アルフレートは、戸惑いを隠せなかった。
(……何が違う?俺とリリアーヌで、何が……?)
高級なワインと小麦粉。
手作りのクッキーとビスケット。
(……いや、違う。)
献上品の問題ではない。
(……この司祭は、リリアーヌを――本当に、愛しているんだ。)
そして――俺のことは、心底、嫌っている。
アルフレートは、小さく息を吐いた。
(……彼女は、ここでこれほどまでに愛されていたのか。)
護衛たちが、小声でざわめいた。
「…なあ、あれ、本当にさっきの司祭と同一人物か?」
「そう言いたくなる気持ちは分かるが、間違いなく本人だ。」
「俺達に対する態度と、側室様に対する態度……違いすぎだろ。」
「あの司祭って、あんなデレデレするんだな。厳格で領民からも怖がられてるって聞いてたのに…。」
「あの頑固爺を手懐けるとは……。さすが、殿下が選ばれた方だ。」
「正直、地味で華がないと思ってたが……、人は見かけによらないもんだな。」
護衛たちは、感心したように頷き合った。
アルフレートは、その会話を聞きながら――
(……本当に俺は、彼女のことを何も知らなかったのだな。)
静かに、そう思った。
「では、こちらへ。」
司祭はリリアーヌに優しく微笑み、歩き出した。
「はい!」
リリアーヌは、嬉しそうに頷くと、その後に続く。
アルフレートは一瞬、躊躇した。
(……俺も、行っていいのか?)
立ち止まっているアルフレートに気づいたリリアーヌは、振り返った。
「殿下?どうなさいましたか?殿下もご一緒に。」
にこり、と微笑む。
「……ああ。」
アルフレートは、静かに頷いた。
司祭は、アルフレートと護衛たちをちらりと見たが――何も言わなかった。
(…リリアーヌがいるから、黙認してくれているのか。)
アルフレートは、そう察した。
(……彼女に、助けられた。)
その事実が――妙に、胸に重かった。
廊下を、一行は静かに進んでいく。
「そういえば、ヨラダ様。シスター・マリナの姿が見えませんでしたけど、どこにいるのですか?」
「マリナなら、今は教会の用事で外していてな。王都の大教会で、数日間、シスターの教育研修の講師を頼まれているのだ。」
「講師!?それはすごいですね…!シスター・マリナは優秀ですもんね。でも……、そうですか。ここにはいないんですね。残念です…。」
「マリナも同じ気持ちだろう。あの子は、リリアーヌを本当に可愛がっていたからな。」
「私も、シスター・マリナには本当によくして頂いて…。」
リリアーヌの表情が、一瞬、切なげに翳った。
「会えなかったのは残念ですけど、お務めですし、仕方ないですよね。ヨラダ様、どうかよろしくお伝えください。」
「ああ。勿論だとも。マリナもきっと、そなたに会えなかったことを残念がるだろう。」
司祭の目がわずかに優しく細められた。
(あの子は、リリアーヌのためなら、どんなことでもするだろうからな。…それにしても、あの男の側室にされたと知ったら、マリナがどんな反応をするか…。毒薬を忍ばせて、王宮に乗り込みそうだな。)
帰ったら、マリナになんと説明しようか。司祭は今から頭痛がする思いだった。
(……シスター・マリナ?リリアーヌとは特に親しかったのだな。)
アルフレートがそんなことを考えていると、後ろの護衛が小声で囁き合っていた。
「えっ……。マ、マリナさん、いないのか…。どおりで見かけないと思った…。」
「何だ。お前、そのシスターと知り合いなのか?」
「シスター・マリナって名前……どこかで聞いた気がするんだが。」
仲間の護衛たちが首を傾げていると、一人が小声で言った。
「いや、お前らも見ただろ。すごい美人のシスター。黒髪サラサラで――胸も結構あってさ。忘れようがないだろ。」
「ああ……いたな。こんな田舎じゃまず見ないくらいの、美人シスターが。」
「ああ、思い出したぞ。」
別の護衛が、得意げに続けた。
「シスター・マリナって、ここら辺じゃ知らない男はいないってくらい評判の女だろ。シスターなのに求婚者が殺到しているって噂だ。しかも、中央教会や高位聖職者からも声がかかっているのに、それを断って、この教会に残り続けているって。」
「中央教会から?それなのに、何でこんな田舎に…?」
「さあな。」
護衛たちが不思議そうに首を傾げる中――、
「…無駄口は叩くな。」
アルフレートの低い声が、冷たく響いた。
「ッ!も、申し訳ありません!皇太子殿下!」
護衛たちは慌てて口を閉じた。
しかし、アルフレートの心の中では――先ほどの会話が、妙に引っかかっていた。
(……中央への誘いを断ってまで、この教会に。何故だ…?)
奥まった通路へと進んでいくと、やがて石造りの階段が現れる。薄暗い階段は、地下へ向かって口を開けていた。
「地下に……?」
アルフレートが小さく呟く。
それにリリアーヌが答えた。
「はい。ここの教会の書庫は、昔から地下に造られているのです。以前、別の教会で火災が起きた時に書庫が燃えてしまったことがあって、ここで教会を建てる時に書庫を地下に造るように設計して作られたんだそうです。そうですよね?ヨラダ様。」
「ええ。リリアーヌの言う通りです。火災の被害を避けるのもありますが、もう一つは、外部の目から遠ざけるためですよ。」
ヨラダはそう説明しながら、ゆっくりと階段を降りていく。
リリアーヌもその後に続き、アルフレートも無言のまま歩を進めた。
階段を降りるほどに、空気が冷たく、湿り気を帯びていく。
石壁に反射する提灯の灯りが、ゆらゆらと揺れた。
(……随分、厳重なのだな。)
アルフレートは、地下を見回しながらそう思った。
足元が暗く、リリアーヌは注意深く階段を降りていたが――
「あっ……!」
段差に気づかず、体が前のめりになる。
(わっ!わっ‥‥!落ちる!)
リリアーヌは思わずギュッと目を瞑った。
咄嗟に、がっしりとした手が彼女の腕を掴んだ。
「‥‥大丈夫か?」
低く、落ち着いた声。
アルフレートが彼女を支えてくれていた。
「あ……は、はい!大丈夫です!」
リリアーヌは慌てて答えたが、彼の手が自分の腕を掴んでいることに気づいて――顔が、かあっと熱くなった。
(お、男の人の手……。)
力強く、大きい。骨張った、男性らしい手。
胸がどきどきと、激しく鳴る。
アルフレートがゆっくりと手を離すと、リリアーヌは支えられていた腕をぎゅっと押さえた。
(……あ、熱い……。)
まだ、彼の手の温もりが残っているような気がした。
「気をつけろ。ここは足元が暗い。」
「は、はい……。ありがとうございます……。」
リリアーヌは俯いたまま、小さく答えた。
(ど、どうしよう……。顔、真っ赤になってないかな……。)
幸い、薄暗い階段の中では、彼女の赤くなった顔は見えなかった。
「‥‥‥。」
その様子を司祭はジッと見つめていた。
やがて階段の先に、重厚な扉が現れた。
分厚い木材と鉄で補強された大扉で、古いけれど堅牢さを感じさせる。
ヨラダは鍵束を取り出し、慣れた手つきで鍵穴に差し込む。
「ここが――書庫です。」
重く鈍い音を立てて、錠が外れる。
ぎ……ぎい……と、扉が静かに開いた。
――ふわり。
外の空気とは違う、本独特の乾いた匂いが流れ込んでくる。
(わあ……。)
リリアーヌは懐かしい気持ちになった。
目の前に広がったのは、天井まで届きそうな高い書架の列。
その間には、羊皮紙の巻物や古びた聖典、分厚い文献の数々が、整然と収められている。
地下とは思えないほど天井は高く、石造りのアーチが静かに連なっている。
「これが……教会の書庫か。」
アルフレートが小さく呟く。
「すごいですよね!私も初めて書庫に来た時は感動しました。」
リリアーヌが嬉しそうにアルフレートに話しかける。
「こんなにもたくさんの書物なんて、見たことなかったので……。教会が数百年かけて集めた文献が、全部ここに……。まるで、宝物庫みたいですよね。」
リリアーヌが嬉しそうにアルフレートにそう話しかける。
「……。」
(本当に、本が好きなのだな…。普通、こんな本ばかりの場所に連れてこられても、女なら退屈しそうなものなのに……。こんなにも嬉しそうに……。)
アルフレートは、またリリアーヌの新しい一面を見た気がした。
(彼女の知識は、ここで培われたのか。貯水湖、教会の歴史…。すべて、この書庫で学んだのだろう。)
そう思いながら、書庫を見回す。
(……これほどの蔵書が……。)
静寂に包まれた地下書庫の空気が、彼の胸に重く沈み込んでいく。
(――ここに、答えがあるのか。)
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