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第二章 才能の開花編
二人だけの食卓
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重厚な扉が、静かに閉じる。
ホールの喧騒は遮断され、そこには、柔らかな光と、静寂だけが残った。
リリアーヌは、ようやく息をついた。
案内されたのは、ホールとは比べ物にならないほど静寂な空間だった。
深い絨毯が足音を吸い込み、壁には優美な絵画が飾られている。
部屋の中央には、白いクロスのかかった一卓だけ。ホールのように他の客の視線を気にする必要もない。
窓からは、王都の夜景が一望できた。
「……わあ……。」
リリアーヌは思わず声を漏らした。
キラキラと輝く街の灯り。遠くに見える王宮のシルエット。
こんなに美しい景色を見たのは、初めてだった。
「お気に召しましたでしょうか?」
支配人が、柔らかく微笑む。
「は、はい……!とても……素敵です……!」
リリアーヌが頷くと、支配人は満足そうに一礼した。
「それでは、改めてお食事をご用意いたします。ごゆっくりお過ごしくださいませ。」
そう言うと、支配人は静かに退室していった。
扉が閉まり――本当に、二人きりになった。
リリアーヌは、改めて部屋を見回す。
(こ、ここが……VIPルーム……。)
ホールとは別世界だ。
誰の視線も、誰の嘲笑も、ここには届かない。
「リリアーヌ。座るといい。」
アルフレートが椅子を引いてくれる。
「あ、ありがとうございます……!」
リリアーヌは慌てて腰を下ろした。
アルフレートも向かいの席に座る。
二人っきりの静かな空間。さっきまでのホールの喧騒が嘘のようだった。
「……あの。」
リリアーヌは、意を決して口を開いた。
「殿下、先ほどは…、庇ってくださって、ありがとうございました。」
「礼には及ばない。」
アルフレートは淡々と答える。
「俺の方こそ、配慮が足りなかった。最初から個室にしておけばよかったな。」
「そ、そんな!殿下は何も悪くありません!私がちゃんとテーブルマナーができていれば、こんな大事にはならなかったのに…。私のせいで殿下にご迷惑をかけてしまって申し訳ないです…。」
「君のせいではない。」
きっぱりと、彼は言い切った。
「……悪いのは、他人を嘲笑う品性のないあの女たちだ。君が気に病むことではない。」
その言葉に、リリアーヌの目がじわりと熱くなる。
(……殿下……。)
自分を庇い、守り、味方になってくれる――そんな人が、本当にいるなんて。
男爵家では、誰一人として、自分の味方になってくれる人はいなかった。
それなのに――
その時、ノックの音がして、店員が料理を運んできた。
「お待たせいたしました。お食事をお持ちしました。」
店員は前菜をテーブルに置いた。
「では、ごゆっくりとお寛ぎください。」
店員は頭を下げて、退席した。
再び、二人っきりになると、アルフレートは
「ここなら、誰にも邪魔されずに食事ができる。」
アルフレートが、テーブルの上に視線を落とす。
「……ゆっくり、食事をしよう。」
「……は、はい。ありがとうございます……。」
彼は、リリアーヌをまっすぐに見つめると、
「それに、テーブルマナーなら、これから覚えていけばいい。」
「……え?」
「俺が教えてやる。」
「え!?そ、そんな!殿下の手を煩わせるわけには‥‥!」
「構わない。こう見えても、生まれた時から皇太子として英才教育を受けてきたんだ。テーブルマナーなら、俺でも教えられる。それとも、俺では不満か?」
「い、いえ!まさか!そんなこと‥‥!」
「なら、決まりだ。何、別に難しいことではない。コツさえ掴んでしまえば、テーブルマナーはすぐに覚えられる。」
アルフレートは、ためらいなくリリアーヌの隣の席に腰を下ろした。
その距離の近さに、リリアーヌは思わず背筋を伸ばす。
(で、殿下が隣に……!?)
「あ、あの、殿下。どうして、隣に…?」
アルフレートが隣にいることで、リリアーヌは緊張して肩が強張ってしまう。
「隣の方が、教えやすい。」
穏やかな声でそう言って、テーブルに並ぶカトラリーを指差した。
「基本は外側から使っていけばいい。最初は前菜用のフォークとナイフ。次がスープ用のスプーン。そして、メインディッシュの肉と魚料理に使う。デザートが一番内側だ。」
「…外側から……。」
リリアーヌは、真剣な表情で頷いた。
「ナイフは右手、フォークは左手で持つ。フォークの背に料理を乗せて食べるといい。音を立てないように、な。」
「は、はい……!」
「食事中は、ナイフとフォークを皿の上に八の字に置く。食べ終わったら、揃えて右側に置けばいい。」
アルフレートは、実際に手元で示しながら、丁寧に説明してくれる。
男爵家では、間違えれば叩かれた。でも殿下は、優しく教えてくれる。
リリアーヌは、その一つ一つを、目を輝かせながら見つめていた。
(……殿下が……教えてくれる……。)
胸が、じんわりと温かくなる。
怒られるどころか――教えてくれる。
それも、こんなに優しく。
「……分かったか?」
「は、はい……!」
リリアーヌは、こくこくと頷いた。
「よし。それじゃあ、実際にやってみろ。俺が見ていてやる。」
「……!」
リリアーヌは、ごくりと唾を飲み込んだ。
(が、頑張らないと……!)
こんなにも優しく教えてくれる殿下に、恥ずかしい姿は見せられない。
「い、いただきます。」
前菜は三種盛り。色とりどりの美しい料理が、白い皿に上品に盛られている。
リリアーヌはナイフとフォークで、一番手前の料理を口に運んだ。
「っ‥‥‥!」
リリアーヌの目が、ぱっと見開かれた。
「お、美味しい……!」
こんな美味しいもの、食べたことがない。
口の中で、繊細な味が広がっていく。
「この前菜、とっても美味しいです!それに見た目も綺麗で……。これはなんていう料理なのですか?」
リリアーヌが目を輝かせながらアルフレートに尋ねる。
「それは、野菜のテリーヌだ。」
「テリーヌ……。」
リリアーヌは、その名前を口の中で繰り返す。
「野菜を何層にも重ねて、型に入れて固めたものだ。見た目が美しいだろう?」
「はい……!まるで、絵みたいです……!」
リリアーヌは、再び皿の上の料理を見つめた。
色とりどりの野菜が、まるで芸術作品のように美しく層をなしている。
「こんなに綺麗な料理、初めて見ました……!」
「そうか。」
アルフレートは、はしゃぐリリアーヌを見て、優しく目を細めた。
「気に入ってもらえたなら良かった。他の料理も、きっと美味しいはずだ。」
「はい……!」
リリアーヌは、再びフォークを手に取った。
今度は、隣の料理、エビとアボカドのムースに挑戦する。
一口食べて、また、目を見開いた。
「わ…!これも……美味しいです……!」
「それは良かった。」
アルフレートはフッと優しく微笑んだ。
リリアーヌは、アルフレートのその顔にドキッとした。
「こっちは、タコのマリネだ。」
アルフレートが、最後に残っていた前菜料理の名前を教えてくれる。
柔らかそうなタコが、オリーブオイルとハーブで美しく和えられている。
グラント男爵領は山に面した領地なので、海がない。なので、こういう魚介類料理は高級品で、ほとんど食べたことがない。リリアーヌは無意識に喉がゴクリと鳴った。
「食べてみろ。」
「は、はい……!」
リリアーヌは、いそいそとフォークで一切れ取り、タコのマリネを口に運んだ。
「……!」
爽やかな酸味と、タコの歯ごたえ。ハーブの香りが、ふわりと鼻を抜ける。
「ッ、美味しい……!こんな食べ方があるんですね……!」
リリアーヌの目が、キラキラと輝く。
初めて知る料理の数々。
その一つ一つが、彼女にとって新しい発見だった。
「気に入ってくれたようで何よりだ。」
アルフレートは、満足そうに頷いた。
(……殿下……。)
胸が、じんわりと温かくなる。
こんな風に、誰かと一緒に食事をする。美味しいものを食べて、喜びを分かち合う。
それが――こんなにも、幸せなことだなんて……。リリアーヌは、今のこの幸せを噛みしめようと思った。
その時――ノックの音が響いた。
「失礼いたします。」
店員が、新しい料理を運んできた。
「スープをお持ちいたしました。きのこのポタージュでございます。」
繊細な香りが、ふわりと漂ってくる。
「ごゆっくりどうぞ。」
店員が一礼して退室する。
リリアーヌは、目の前に置かれたスープを見つめた。
湯気の立つ、美しい白いスープ。上にパセリの葉が散らされている。
「……わあ……。いい匂い…。」
(美味しそう…!えっと、次の料理ということは、スープ用のスプーンを使うんだよね?)
リリアーヌがそう思っていると、
「スープはさっきの前菜用の隣にある、この丸くて大きめのスプーンを使えばいい。」
アルフレートがスープ用のスプーンを指で示して、教えてくれた。
「は、はい……。」
リリアーヌはアルフレートに教えられた通りにスープ用のスプーンを手に取る。
「スープを飲む時は音を立てないように飲めばいい。奥から手前に掬うように意識するんだ。」
(お、音を立てないように…。奥から手前に……。)
リリアーヌはコクコクと頷きつつ、慎重にスプーンを傾ける。
奥から手前へ――ゆっくりと、丁寧に。言われたとおりにスプーンでスープを掬う。
そっとスープを口に含んだ瞬間、
「……っ」
思わず、目を見開く。
口の中に広がったのは、玉ねぎの優しい甘さとクリームのまろやかさ。
その奥から、ふわりと立ち上るキノコの香りが重なり、重すぎず、軽すぎず、――絶妙な味わいだった。
(美味しい……。こんなスープ、初めて……!)
その様子を見て、アルフレートはわずかに目を細めた。
「初めてにしては、上出来だ。」
そう褒めてくれた。
「ほ、本当ですか……?私、ちゃんとできていましたか?」
「ああ。」
その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。
「あ、ありがとうございます……!」
ぱっと顔を上げたリリアーヌは、嬉しさを隠しきれず、頬を緩めた。
アルフレートはそんなリリアーヌを見て、自分でも気づかないほど自然に、口角を緩めていた。
ホールの喧騒は遮断され、そこには、柔らかな光と、静寂だけが残った。
リリアーヌは、ようやく息をついた。
案内されたのは、ホールとは比べ物にならないほど静寂な空間だった。
深い絨毯が足音を吸い込み、壁には優美な絵画が飾られている。
部屋の中央には、白いクロスのかかった一卓だけ。ホールのように他の客の視線を気にする必要もない。
窓からは、王都の夜景が一望できた。
「……わあ……。」
リリアーヌは思わず声を漏らした。
キラキラと輝く街の灯り。遠くに見える王宮のシルエット。
こんなに美しい景色を見たのは、初めてだった。
「お気に召しましたでしょうか?」
支配人が、柔らかく微笑む。
「は、はい……!とても……素敵です……!」
リリアーヌが頷くと、支配人は満足そうに一礼した。
「それでは、改めてお食事をご用意いたします。ごゆっくりお過ごしくださいませ。」
そう言うと、支配人は静かに退室していった。
扉が閉まり――本当に、二人きりになった。
リリアーヌは、改めて部屋を見回す。
(こ、ここが……VIPルーム……。)
ホールとは別世界だ。
誰の視線も、誰の嘲笑も、ここには届かない。
「リリアーヌ。座るといい。」
アルフレートが椅子を引いてくれる。
「あ、ありがとうございます……!」
リリアーヌは慌てて腰を下ろした。
アルフレートも向かいの席に座る。
二人っきりの静かな空間。さっきまでのホールの喧騒が嘘のようだった。
「……あの。」
リリアーヌは、意を決して口を開いた。
「殿下、先ほどは…、庇ってくださって、ありがとうございました。」
「礼には及ばない。」
アルフレートは淡々と答える。
「俺の方こそ、配慮が足りなかった。最初から個室にしておけばよかったな。」
「そ、そんな!殿下は何も悪くありません!私がちゃんとテーブルマナーができていれば、こんな大事にはならなかったのに…。私のせいで殿下にご迷惑をかけてしまって申し訳ないです…。」
「君のせいではない。」
きっぱりと、彼は言い切った。
「……悪いのは、他人を嘲笑う品性のないあの女たちだ。君が気に病むことではない。」
その言葉に、リリアーヌの目がじわりと熱くなる。
(……殿下……。)
自分を庇い、守り、味方になってくれる――そんな人が、本当にいるなんて。
男爵家では、誰一人として、自分の味方になってくれる人はいなかった。
それなのに――
その時、ノックの音がして、店員が料理を運んできた。
「お待たせいたしました。お食事をお持ちしました。」
店員は前菜をテーブルに置いた。
「では、ごゆっくりとお寛ぎください。」
店員は頭を下げて、退席した。
再び、二人っきりになると、アルフレートは
「ここなら、誰にも邪魔されずに食事ができる。」
アルフレートが、テーブルの上に視線を落とす。
「……ゆっくり、食事をしよう。」
「……は、はい。ありがとうございます……。」
彼は、リリアーヌをまっすぐに見つめると、
「それに、テーブルマナーなら、これから覚えていけばいい。」
「……え?」
「俺が教えてやる。」
「え!?そ、そんな!殿下の手を煩わせるわけには‥‥!」
「構わない。こう見えても、生まれた時から皇太子として英才教育を受けてきたんだ。テーブルマナーなら、俺でも教えられる。それとも、俺では不満か?」
「い、いえ!まさか!そんなこと‥‥!」
「なら、決まりだ。何、別に難しいことではない。コツさえ掴んでしまえば、テーブルマナーはすぐに覚えられる。」
アルフレートは、ためらいなくリリアーヌの隣の席に腰を下ろした。
その距離の近さに、リリアーヌは思わず背筋を伸ばす。
(で、殿下が隣に……!?)
「あ、あの、殿下。どうして、隣に…?」
アルフレートが隣にいることで、リリアーヌは緊張して肩が強張ってしまう。
「隣の方が、教えやすい。」
穏やかな声でそう言って、テーブルに並ぶカトラリーを指差した。
「基本は外側から使っていけばいい。最初は前菜用のフォークとナイフ。次がスープ用のスプーン。そして、メインディッシュの肉と魚料理に使う。デザートが一番内側だ。」
「…外側から……。」
リリアーヌは、真剣な表情で頷いた。
「ナイフは右手、フォークは左手で持つ。フォークの背に料理を乗せて食べるといい。音を立てないように、な。」
「は、はい……!」
「食事中は、ナイフとフォークを皿の上に八の字に置く。食べ終わったら、揃えて右側に置けばいい。」
アルフレートは、実際に手元で示しながら、丁寧に説明してくれる。
男爵家では、間違えれば叩かれた。でも殿下は、優しく教えてくれる。
リリアーヌは、その一つ一つを、目を輝かせながら見つめていた。
(……殿下が……教えてくれる……。)
胸が、じんわりと温かくなる。
怒られるどころか――教えてくれる。
それも、こんなに優しく。
「……分かったか?」
「は、はい……!」
リリアーヌは、こくこくと頷いた。
「よし。それじゃあ、実際にやってみろ。俺が見ていてやる。」
「……!」
リリアーヌは、ごくりと唾を飲み込んだ。
(が、頑張らないと……!)
こんなにも優しく教えてくれる殿下に、恥ずかしい姿は見せられない。
「い、いただきます。」
前菜は三種盛り。色とりどりの美しい料理が、白い皿に上品に盛られている。
リリアーヌはナイフとフォークで、一番手前の料理を口に運んだ。
「っ‥‥‥!」
リリアーヌの目が、ぱっと見開かれた。
「お、美味しい……!」
こんな美味しいもの、食べたことがない。
口の中で、繊細な味が広がっていく。
「この前菜、とっても美味しいです!それに見た目も綺麗で……。これはなんていう料理なのですか?」
リリアーヌが目を輝かせながらアルフレートに尋ねる。
「それは、野菜のテリーヌだ。」
「テリーヌ……。」
リリアーヌは、その名前を口の中で繰り返す。
「野菜を何層にも重ねて、型に入れて固めたものだ。見た目が美しいだろう?」
「はい……!まるで、絵みたいです……!」
リリアーヌは、再び皿の上の料理を見つめた。
色とりどりの野菜が、まるで芸術作品のように美しく層をなしている。
「こんなに綺麗な料理、初めて見ました……!」
「そうか。」
アルフレートは、はしゃぐリリアーヌを見て、優しく目を細めた。
「気に入ってもらえたなら良かった。他の料理も、きっと美味しいはずだ。」
「はい……!」
リリアーヌは、再びフォークを手に取った。
今度は、隣の料理、エビとアボカドのムースに挑戦する。
一口食べて、また、目を見開いた。
「わ…!これも……美味しいです……!」
「それは良かった。」
アルフレートはフッと優しく微笑んだ。
リリアーヌは、アルフレートのその顔にドキッとした。
「こっちは、タコのマリネだ。」
アルフレートが、最後に残っていた前菜料理の名前を教えてくれる。
柔らかそうなタコが、オリーブオイルとハーブで美しく和えられている。
グラント男爵領は山に面した領地なので、海がない。なので、こういう魚介類料理は高級品で、ほとんど食べたことがない。リリアーヌは無意識に喉がゴクリと鳴った。
「食べてみろ。」
「は、はい……!」
リリアーヌは、いそいそとフォークで一切れ取り、タコのマリネを口に運んだ。
「……!」
爽やかな酸味と、タコの歯ごたえ。ハーブの香りが、ふわりと鼻を抜ける。
「ッ、美味しい……!こんな食べ方があるんですね……!」
リリアーヌの目が、キラキラと輝く。
初めて知る料理の数々。
その一つ一つが、彼女にとって新しい発見だった。
「気に入ってくれたようで何よりだ。」
アルフレートは、満足そうに頷いた。
(……殿下……。)
胸が、じんわりと温かくなる。
こんな風に、誰かと一緒に食事をする。美味しいものを食べて、喜びを分かち合う。
それが――こんなにも、幸せなことだなんて……。リリアーヌは、今のこの幸せを噛みしめようと思った。
その時――ノックの音が響いた。
「失礼いたします。」
店員が、新しい料理を運んできた。
「スープをお持ちいたしました。きのこのポタージュでございます。」
繊細な香りが、ふわりと漂ってくる。
「ごゆっくりどうぞ。」
店員が一礼して退室する。
リリアーヌは、目の前に置かれたスープを見つめた。
湯気の立つ、美しい白いスープ。上にパセリの葉が散らされている。
「……わあ……。いい匂い…。」
(美味しそう…!えっと、次の料理ということは、スープ用のスプーンを使うんだよね?)
リリアーヌがそう思っていると、
「スープはさっきの前菜用の隣にある、この丸くて大きめのスプーンを使えばいい。」
アルフレートがスープ用のスプーンを指で示して、教えてくれた。
「は、はい……。」
リリアーヌはアルフレートに教えられた通りにスープ用のスプーンを手に取る。
「スープを飲む時は音を立てないように飲めばいい。奥から手前に掬うように意識するんだ。」
(お、音を立てないように…。奥から手前に……。)
リリアーヌはコクコクと頷きつつ、慎重にスプーンを傾ける。
奥から手前へ――ゆっくりと、丁寧に。言われたとおりにスプーンでスープを掬う。
そっとスープを口に含んだ瞬間、
「……っ」
思わず、目を見開く。
口の中に広がったのは、玉ねぎの優しい甘さとクリームのまろやかさ。
その奥から、ふわりと立ち上るキノコの香りが重なり、重すぎず、軽すぎず、――絶妙な味わいだった。
(美味しい……。こんなスープ、初めて……!)
その様子を見て、アルフレートはわずかに目を細めた。
「初めてにしては、上出来だ。」
そう褒めてくれた。
「ほ、本当ですか……?私、ちゃんとできていましたか?」
「ああ。」
その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。
「あ、ありがとうございます……!」
ぱっと顔を上げたリリアーヌは、嬉しさを隠しきれず、頬を緩めた。
アルフレートはそんなリリアーヌを見て、自分でも気づかないほど自然に、口角を緩めていた。
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