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第一章 契約の側室編
契約書
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「皇太子殿下がお見えになりました。」
リリアーヌは胸が高鳴るのを感じた。
遂にこの日が来た。やっと…、やっと殿下に会えるんだ。
慌てて頭を下げ、カーテシーをとる。身分の高い者と目を合わせるのは無礼とされている。許しが出るまで、顔を上げることはできない。
コツ、コツ――
硬い靴音が静かに響く。
(殿下は…、私のことを覚えているだろうか? もし覚えていてくれたなら……、でも、きっと覚えていないよね。)
「顔を上げろ。」
低く、凛とした声。かつての幼さは消え、すっかり大人の男性のものになっていた。
リリアーヌは恐る恐る顔を上げる。
そこには、彼女がずっと恋い慕っていた皇太子アルフレートが立っていた。
殿下…! やっと、会えた…。胸がいっぱいになり、涙がこみ上げる。
でも、きっと殿下にとって私は取るに足らない存在。それでも、こうして同じ空間にいられるだけで……、とても嬉しい。
「……お前がグラント男爵家の娘か?」
冷たい声が響く。
「は、はい。リリアーヌ・ド・グラントと申します。この度は身に余る栄誉を賜り、恐悦至極に存じます。」
リリアーヌは深く頭を下げる。静寂が落ち、やがて皇太子の冷ややかな声が降りかかった。
「一つ言っておく。」
その言葉にリリアーヌは思わず顔を上げる。皇太子の顔には冷徹な表情が浮かんでいた。
「俺はお前を愛するつもりはない。」
その一言に、胸がチクリと痛んだが、リリアーヌはすぐに自分を諫めた。
(ああ、やっぱり。)
リリアーヌの心に浮かんだのは、痛みではなく妙な安堵感だった。
(そうよね。私なんかが愛されるわけがない。むしろ、最初から言ってくれて親切だ。私に変な期待を抱かせないように、ちゃんと教えてくれてる。)
男爵家では、期待させておいて突き落とされることばかりだった。でも殿下は違う。最初からきちんと現実を教えてくれる。なんて優しい人なんだろう。
「側室として迎えたのは、ただ跡継ぎを産ませるため。それだけだ。」
(ああ、そうか。私にも役割があるんだ。)
無機質な言葉だったが、リリアーヌには希望の光のように聞こえた。
誰かに必要とされる。それだけで十分すぎるほど幸せなことだった。
(私みたいな出来損ないでも、殿下のお役に立てるなんて……。)
男爵家では、存在自体が邪魔者扱いされていた。でもここでは、ちゃんと目的がある。価値がある。
「……これは契約書だ。」
アルフレートは冷ややかに言い放ち、一枚の羊皮紙を差し出す。
そこには、側室としての義務と条件が細かく記されていた。
「これにサインしろ。跡継ぎができたら、お前とはすぐに離縁する。子供はヴェロニカの子とするから、後から母親だと名乗り出ることは許さない。」
リリアーヌはそれを見つめたまま、すぐには手を伸ばせなかった。
でも、それは躊躇ではなく……、感動だった。
(こんなに詳しく、きちんと説明してくれるなんて。)
男爵家では、何も説明されないまま理不尽な要求ばかりされていた。
でも、殿下は違う。ちゃんと条件を示してくれる。こんなに丁寧に扱ってもらえるなんて。
しん……、とした空気が流れた。
「聞いているのか?」
低く鋭い声が落ちる。次の瞬間、顎をグイッと掴まれ、リリアーヌの顔が無理矢理上を向かされた。
(わ…!で、殿下が私に触れてくれてる……。)
痛みよりも先に、その事実がリリアーヌの心を占めた。
「返事ぐらいしたらどうだ。黙っていれば許されると思うな。」
目の前にあるのは冷たい銀の瞳。その奥に苛立ちが滲んでいる。
「も、申し訳ありません……。」
(私が悪いんだ。ちゃんと返事をしなかった私が……。殿下は何も悪くない。むしろ、私みたいな愚かな女に、こうして注意してくれてる。)
リリアーヌは震える手で契約書を受け取る。
その言葉の端々から、この婚姻が彼にとってどれほど不本意なものかが痛いほど伝わる。
(元々、愛されないことは分かっていた。殿下には最愛の妻、ヴェロニカ様がいるのだから。)
分かっていたはずなのに…、私は一体、何を期待していたのだろう。
二人の仲を引き裂くつもりなど、さらさらない。殿下とヴェロニカ様が相思相愛で結ばれた夫婦であることは、十分に理解している。それでも、少しだけ、ほんの少しだけでも、殿下から優しさを感じることができたら…。そんな淡い期待を抱いてしまっていた。
リリアーヌは自分の浅はかな思いを見透かされたような気がして、恥ずかしさが込み上げてきた。
リリアーヌは静かに契約書を手に取ると、内容に目を通した。
第一条(婚姻の目的)
1.皇太子アルフレートは、リリアーヌ・ド・グラントを側室として迎えるが、これはあくまで王家の跡継ぎを得るためのものであり、愛情を前提とするものではない。
2.両者は互いに夫婦としての情愛を期待しないものとする。
第二条(跡継ぎの承認)
1.リリアーヌが皇太子の子を懐妊した場合、子供は正式に王族として認められ、皇太子の正妃ヴェロニカの子として養育される。
2.リリアーヌは生まれた子に対し、母親であると名乗る権利を持たず、育児・教育に関与してはならない。
第三条(離縁の条件)
1.皇太子の子を産んだ後、リリアーヌは速やかに離縁される。
2.離縁後、リリアーヌは王宮を離れ、以後皇太子および王族との接触を禁じられる。
第四条(相互の干渉の禁止)
1.リリアーヌは皇太子および正妃ヴェロニカの関係に干渉しないこと。
2.皇太子もまた、リリアーヌの私生活には干渉しない。ただし、公の場において皇太子の名誉を損なう行動をとることは許されない。
3.両者は必要最低限の関係のみを維持し、個人的な関係の深化を求めない。
第五条(その他の条件)
1.リリアーヌは王宮で与えられた役割を忠実に果たし、皇太子の指示に従うこと。
2.秘密保持の義務を負い、離縁後も王家の内情を外部に漏らしてはならない。
まるで愛情など最初から期待するなと言わんばかりの、冷酷な条文。
「跡継ぎだけ産めばいい」。そう書かれた契約書を見ても、リリアーヌは不思議と落ち着いていた。
(なんて親切な契約書なんだろう。)
愛されないと明言されても、ショックはなかった。それどころか、妙な期待を抱かせるような甘い言葉を並べず、最初から真実を伝えてくれる皇太子に、ほんの少しの安堵を覚えた。
(こんな私でも、必要としてもらえるんだ。)
たとえ、子供を産むための道具だったとしても、「誰かに必要とされる」という事実が、ほんの少しだけ心を温めた。
(ちゃんと私の立場を明確にしてくれてる。私が何をすればいいか、何をしてはいけないか、全部書いてある。こんなに丁寧に教えてくれるなんて。)
男爵家では、突然怒鳴られて、何が悪かったのかも分からないことばかりだった。でもこれなら安心だ。守るべきルールがはっきりしている。
(それに、私の子供が、王族として認められるなんて。こんなありがたいことがあるだろうか。)
自分が母親として名乗れないことも、当然のことだと思えた。私なんかが母親を名乗るより、ヴェロニカ様に育ててもらえた方が、子供にとって幸せに決まってる。
(殿下は本当に優しい人だ。私のことを考えて、最初から現実を教えてくれる。変な期待を抱かせて、後で傷つけるような真似はしない。なんて誠実な方なんだろう。)
そして、何より――殿下は最初から真実を告げてくれた。
甘い言葉でその気にさせ、利用することもできたはずなのに、それをしない。
偽りの優しさよりも、ずっと誠実だ。
あの頃と変わらず、殿下はまっすぐな人だと、リリアーヌは嬉しく思った。
ならば――私がするべきことは一つ。
リリアーヌは深く息を吐き、震える手で契約書にサインをした。
皇太子はリリアーヌの名が記されているのを確認すると、それを魔法でしまった。
(すごい…!無詠唱で魔法を使うだなんて…。)
その姿にリリアーヌは素直に感心した。だが、皇太子は彼女の視線を気にすることなく、冷ややかに言い放つ。
「これで、お前は正式に俺の側室だ。」
そして少し間を置き、鋭い視線を向ける。
「だが、勘違いするな。」
顔を上げたリリアーヌの目に映ったのは、感情を一切排した鋭い瞳。
「何を考えているかは知らないが、妙な気は起こすな。ヴェロニカに手を出すような真似をすれば、容赦はしない。」
釘を刺すようなその言葉に、リリアーヌは慌てて首を振った。
(手を出す?私がヴェロニカ様に?そんなこと、考えたこともない…!)
思いもよらない言葉に、リリアーヌは戸惑った。
(ヴェロニカ様は私なんかにも優しくしてくださった。あの地獄のような男爵家から救い出し、こうして側室として迎えてくださったのも、ヴェロニカ様のお計らいだだ。この離宮での生活だって、ヴェロニカ様が私のために準備してくださった。こんな私に、もったいないくらい親切にしてくださって…。)
そんな恩人を傷つけるなんて…、絶対にできない。
だが、次の瞬間、リリアーヌはハッとした。
胸の奥に苦いような、切ないような感情がじわりと広がる。
(ああ、この人は、心の底からヴェロニカ様を愛しているのだ。)
その愛情の深さが、言葉の棘となって突き刺さった。
そして同時に、自分がこの婚姻において「愛される余地がまったくない」ことも、はっきりと理解した。
「……はい。そのようなこと、決して致しません。」
深く頭を垂れながら、リリアーヌは静かに決意する。
(私はこの婚姻に何も求めない。殿下のお役に立てるだけでいい。それ以上を望むなんて、おこがましいことだ)
わずかな期待の欠片すら、無意味なものとして胸の奥に押し込める。
期待しなければ、傷つくこともない。
リリアーヌはそっと目を伏せ、心に固く蓋をした。
リリアーヌは胸が高鳴るのを感じた。
遂にこの日が来た。やっと…、やっと殿下に会えるんだ。
慌てて頭を下げ、カーテシーをとる。身分の高い者と目を合わせるのは無礼とされている。許しが出るまで、顔を上げることはできない。
コツ、コツ――
硬い靴音が静かに響く。
(殿下は…、私のことを覚えているだろうか? もし覚えていてくれたなら……、でも、きっと覚えていないよね。)
「顔を上げろ。」
低く、凛とした声。かつての幼さは消え、すっかり大人の男性のものになっていた。
リリアーヌは恐る恐る顔を上げる。
そこには、彼女がずっと恋い慕っていた皇太子アルフレートが立っていた。
殿下…! やっと、会えた…。胸がいっぱいになり、涙がこみ上げる。
でも、きっと殿下にとって私は取るに足らない存在。それでも、こうして同じ空間にいられるだけで……、とても嬉しい。
「……お前がグラント男爵家の娘か?」
冷たい声が響く。
「は、はい。リリアーヌ・ド・グラントと申します。この度は身に余る栄誉を賜り、恐悦至極に存じます。」
リリアーヌは深く頭を下げる。静寂が落ち、やがて皇太子の冷ややかな声が降りかかった。
「一つ言っておく。」
その言葉にリリアーヌは思わず顔を上げる。皇太子の顔には冷徹な表情が浮かんでいた。
「俺はお前を愛するつもりはない。」
その一言に、胸がチクリと痛んだが、リリアーヌはすぐに自分を諫めた。
(ああ、やっぱり。)
リリアーヌの心に浮かんだのは、痛みではなく妙な安堵感だった。
(そうよね。私なんかが愛されるわけがない。むしろ、最初から言ってくれて親切だ。私に変な期待を抱かせないように、ちゃんと教えてくれてる。)
男爵家では、期待させておいて突き落とされることばかりだった。でも殿下は違う。最初からきちんと現実を教えてくれる。なんて優しい人なんだろう。
「側室として迎えたのは、ただ跡継ぎを産ませるため。それだけだ。」
(ああ、そうか。私にも役割があるんだ。)
無機質な言葉だったが、リリアーヌには希望の光のように聞こえた。
誰かに必要とされる。それだけで十分すぎるほど幸せなことだった。
(私みたいな出来損ないでも、殿下のお役に立てるなんて……。)
男爵家では、存在自体が邪魔者扱いされていた。でもここでは、ちゃんと目的がある。価値がある。
「……これは契約書だ。」
アルフレートは冷ややかに言い放ち、一枚の羊皮紙を差し出す。
そこには、側室としての義務と条件が細かく記されていた。
「これにサインしろ。跡継ぎができたら、お前とはすぐに離縁する。子供はヴェロニカの子とするから、後から母親だと名乗り出ることは許さない。」
リリアーヌはそれを見つめたまま、すぐには手を伸ばせなかった。
でも、それは躊躇ではなく……、感動だった。
(こんなに詳しく、きちんと説明してくれるなんて。)
男爵家では、何も説明されないまま理不尽な要求ばかりされていた。
でも、殿下は違う。ちゃんと条件を示してくれる。こんなに丁寧に扱ってもらえるなんて。
しん……、とした空気が流れた。
「聞いているのか?」
低く鋭い声が落ちる。次の瞬間、顎をグイッと掴まれ、リリアーヌの顔が無理矢理上を向かされた。
(わ…!で、殿下が私に触れてくれてる……。)
痛みよりも先に、その事実がリリアーヌの心を占めた。
「返事ぐらいしたらどうだ。黙っていれば許されると思うな。」
目の前にあるのは冷たい銀の瞳。その奥に苛立ちが滲んでいる。
「も、申し訳ありません……。」
(私が悪いんだ。ちゃんと返事をしなかった私が……。殿下は何も悪くない。むしろ、私みたいな愚かな女に、こうして注意してくれてる。)
リリアーヌは震える手で契約書を受け取る。
その言葉の端々から、この婚姻が彼にとってどれほど不本意なものかが痛いほど伝わる。
(元々、愛されないことは分かっていた。殿下には最愛の妻、ヴェロニカ様がいるのだから。)
分かっていたはずなのに…、私は一体、何を期待していたのだろう。
二人の仲を引き裂くつもりなど、さらさらない。殿下とヴェロニカ様が相思相愛で結ばれた夫婦であることは、十分に理解している。それでも、少しだけ、ほんの少しだけでも、殿下から優しさを感じることができたら…。そんな淡い期待を抱いてしまっていた。
リリアーヌは自分の浅はかな思いを見透かされたような気がして、恥ずかしさが込み上げてきた。
リリアーヌは静かに契約書を手に取ると、内容に目を通した。
第一条(婚姻の目的)
1.皇太子アルフレートは、リリアーヌ・ド・グラントを側室として迎えるが、これはあくまで王家の跡継ぎを得るためのものであり、愛情を前提とするものではない。
2.両者は互いに夫婦としての情愛を期待しないものとする。
第二条(跡継ぎの承認)
1.リリアーヌが皇太子の子を懐妊した場合、子供は正式に王族として認められ、皇太子の正妃ヴェロニカの子として養育される。
2.リリアーヌは生まれた子に対し、母親であると名乗る権利を持たず、育児・教育に関与してはならない。
第三条(離縁の条件)
1.皇太子の子を産んだ後、リリアーヌは速やかに離縁される。
2.離縁後、リリアーヌは王宮を離れ、以後皇太子および王族との接触を禁じられる。
第四条(相互の干渉の禁止)
1.リリアーヌは皇太子および正妃ヴェロニカの関係に干渉しないこと。
2.皇太子もまた、リリアーヌの私生活には干渉しない。ただし、公の場において皇太子の名誉を損なう行動をとることは許されない。
3.両者は必要最低限の関係のみを維持し、個人的な関係の深化を求めない。
第五条(その他の条件)
1.リリアーヌは王宮で与えられた役割を忠実に果たし、皇太子の指示に従うこと。
2.秘密保持の義務を負い、離縁後も王家の内情を外部に漏らしてはならない。
まるで愛情など最初から期待するなと言わんばかりの、冷酷な条文。
「跡継ぎだけ産めばいい」。そう書かれた契約書を見ても、リリアーヌは不思議と落ち着いていた。
(なんて親切な契約書なんだろう。)
愛されないと明言されても、ショックはなかった。それどころか、妙な期待を抱かせるような甘い言葉を並べず、最初から真実を伝えてくれる皇太子に、ほんの少しの安堵を覚えた。
(こんな私でも、必要としてもらえるんだ。)
たとえ、子供を産むための道具だったとしても、「誰かに必要とされる」という事実が、ほんの少しだけ心を温めた。
(ちゃんと私の立場を明確にしてくれてる。私が何をすればいいか、何をしてはいけないか、全部書いてある。こんなに丁寧に教えてくれるなんて。)
男爵家では、突然怒鳴られて、何が悪かったのかも分からないことばかりだった。でもこれなら安心だ。守るべきルールがはっきりしている。
(それに、私の子供が、王族として認められるなんて。こんなありがたいことがあるだろうか。)
自分が母親として名乗れないことも、当然のことだと思えた。私なんかが母親を名乗るより、ヴェロニカ様に育ててもらえた方が、子供にとって幸せに決まってる。
(殿下は本当に優しい人だ。私のことを考えて、最初から現実を教えてくれる。変な期待を抱かせて、後で傷つけるような真似はしない。なんて誠実な方なんだろう。)
そして、何より――殿下は最初から真実を告げてくれた。
甘い言葉でその気にさせ、利用することもできたはずなのに、それをしない。
偽りの優しさよりも、ずっと誠実だ。
あの頃と変わらず、殿下はまっすぐな人だと、リリアーヌは嬉しく思った。
ならば――私がするべきことは一つ。
リリアーヌは深く息を吐き、震える手で契約書にサインをした。
皇太子はリリアーヌの名が記されているのを確認すると、それを魔法でしまった。
(すごい…!無詠唱で魔法を使うだなんて…。)
その姿にリリアーヌは素直に感心した。だが、皇太子は彼女の視線を気にすることなく、冷ややかに言い放つ。
「これで、お前は正式に俺の側室だ。」
そして少し間を置き、鋭い視線を向ける。
「だが、勘違いするな。」
顔を上げたリリアーヌの目に映ったのは、感情を一切排した鋭い瞳。
「何を考えているかは知らないが、妙な気は起こすな。ヴェロニカに手を出すような真似をすれば、容赦はしない。」
釘を刺すようなその言葉に、リリアーヌは慌てて首を振った。
(手を出す?私がヴェロニカ様に?そんなこと、考えたこともない…!)
思いもよらない言葉に、リリアーヌは戸惑った。
(ヴェロニカ様は私なんかにも優しくしてくださった。あの地獄のような男爵家から救い出し、こうして側室として迎えてくださったのも、ヴェロニカ様のお計らいだだ。この離宮での生活だって、ヴェロニカ様が私のために準備してくださった。こんな私に、もったいないくらい親切にしてくださって…。)
そんな恩人を傷つけるなんて…、絶対にできない。
だが、次の瞬間、リリアーヌはハッとした。
胸の奥に苦いような、切ないような感情がじわりと広がる。
(ああ、この人は、心の底からヴェロニカ様を愛しているのだ。)
その愛情の深さが、言葉の棘となって突き刺さった。
そして同時に、自分がこの婚姻において「愛される余地がまったくない」ことも、はっきりと理解した。
「……はい。そのようなこと、決して致しません。」
深く頭を垂れながら、リリアーヌは静かに決意する。
(私はこの婚姻に何も求めない。殿下のお役に立てるだけでいい。それ以上を望むなんて、おこがましいことだ)
わずかな期待の欠片すら、無意味なものとして胸の奥に押し込める。
期待しなければ、傷つくこともない。
リリアーヌはそっと目を伏せ、心に固く蓋をした。
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