69 / 222
第一章 出会い編
王子side
しおりを挟む
「うっ…!が、あ…!」
また、この痛みだ…。全身に激痛が走る。まるで身体が引き裂かれるかのような痛み…。
堪えきれずに呻き声が口から洩れ出る。壁に爪を立て、ガリッと音がする。壁には爪跡が残された。
勢いよく爪を立てすぎたせいか爪が割れ、手が血だらけになった。
それでも痛みはおさまらず、寝台に蹲り、シーツを握り締めて必死に痛みに耐える。
ドクン、ドクンと心臓の音が…、脈拍、血流の音が聞こえるかのような感覚に陥る。
身体が熱い…。焼けるように喉が痛い。動かない手足を必死に動かし、水を口にする。
勢いよく飲み過ぎたせいか口の端から水が零れて肌と服を濡らした。
ぼんやりと薄暗い視界の中、コップを机に戻そうとするが…、ガシャン、とそのままコップを床に取り落としてしまった。
「…。」
自分の手を見つめる。が、よく見えない。これだけの距離で見ても、ぼんやりとした輪郭しか確認できない。以前より、視力が落ちてきている。
さっきより、幾らか痛みはマシになった。けれど、どうせまた痛みが出現する筈だ。そう考えていると、扉がノックされた。
「…入れ。」
「失礼します。ルーファス殿下。診察に伺い…、で、殿下!?そ、その怪我はどうされましたか!?」
主治医が入ってきた。そして、部屋の主のルーファスの姿に声を上げた。
「すぐに手当てを…!」
急いで医師が消毒し、手に包帯を巻いた。ふと、机の上に置かれた飲まれていない薬に目を留める。
「ルーファス殿下。また、薬を飲んでいないのですか?あれ程、飲んでおくようにと…、」
「何故、飲む必要がある。」
「それは、殿下の治療のために…、」
「もうすぐ、死ぬのにか?」
ハッ、と嘲笑するように笑うルーファスに主治医は息を呑んだ。
「どうせ、死ぬのに治療だと?…笑わせる。薬といってもただの痛み止めだろう。」
「ですが、飲まないと痛みは益々ひどくなりますから…、」
「効きもしない薬など飲んだところで変わらないだろ。」
「ですが…、殿下…、」
その時、もう一人の来訪者が現れた。後宮を管理している女官長だった。
「…何の用だ。」
「殿下、側室のリスティーナ様が殿下のお見舞いに伺いたいとのことです。」
「リスティーナ…?ああ。あの新しく来た側室か…。」
ぼんやりとした頭で新しい側室の顔を思い出す。が、ルーファスはその顔を思い出せなかった。
ルーファスは弱視で極端に目が悪い。そのせいかリスティーナの姿は淡く光る金色の髪しか思い出せなかった。瞳の色や顔までは認識できていない。
いつものように冷たく突き放せば女はあからさまに安堵する。彼女の反応は覚えていないが内心では清々していたことだろう。化け物王子に抱かれずに済んだのだし、これからも関わりを持たなくていいのだから。
それなのに…、見舞いに来たいだと?ルーファスは眉を顰めた。
「リスティーナ様は殿下の事を心配しておられました。是非、お見舞いに行きたいと…、折角のご好意です。お見舞いに来て頂いて貰っては…、」
「断れ。」
「殿下。ですが…、」
「聞こえなかったのか!?断れと言っている!…ゴホッ!ゴホッ!」
叫んだ後に咳き込むルーファスに医師が慌てて駆け寄った。
「殿下!?大丈夫ですか!?」
「用件はそれだけか?なら、さっさと出ていけ!」
「…失礼しました。」
何か言いたげな女官長をルーファスは咳き込みながらも追い出した。
「殿下。何もあそこまで拒否することは…、少しだけなら見舞いくらい来て頂いては…?」
「必要ない。」
医師の言葉にルーファスは首を横に振った。
あの王女は確かメイネシア国の王女。生き残るために必死なのだろう。こんな醜い化け物に擦り寄ろうとする位には。馬鹿馬鹿しい。もう後、一年かそこらで死ぬような男なぞ見切りをつけて、他の権力者に媚を売ればいいものを。
ルーファスはリスティーナの行動をそんな風に捉えていた。
また、この痛みだ…。全身に激痛が走る。まるで身体が引き裂かれるかのような痛み…。
堪えきれずに呻き声が口から洩れ出る。壁に爪を立て、ガリッと音がする。壁には爪跡が残された。
勢いよく爪を立てすぎたせいか爪が割れ、手が血だらけになった。
それでも痛みはおさまらず、寝台に蹲り、シーツを握り締めて必死に痛みに耐える。
ドクン、ドクンと心臓の音が…、脈拍、血流の音が聞こえるかのような感覚に陥る。
身体が熱い…。焼けるように喉が痛い。動かない手足を必死に動かし、水を口にする。
勢いよく飲み過ぎたせいか口の端から水が零れて肌と服を濡らした。
ぼんやりと薄暗い視界の中、コップを机に戻そうとするが…、ガシャン、とそのままコップを床に取り落としてしまった。
「…。」
自分の手を見つめる。が、よく見えない。これだけの距離で見ても、ぼんやりとした輪郭しか確認できない。以前より、視力が落ちてきている。
さっきより、幾らか痛みはマシになった。けれど、どうせまた痛みが出現する筈だ。そう考えていると、扉がノックされた。
「…入れ。」
「失礼します。ルーファス殿下。診察に伺い…、で、殿下!?そ、その怪我はどうされましたか!?」
主治医が入ってきた。そして、部屋の主のルーファスの姿に声を上げた。
「すぐに手当てを…!」
急いで医師が消毒し、手に包帯を巻いた。ふと、机の上に置かれた飲まれていない薬に目を留める。
「ルーファス殿下。また、薬を飲んでいないのですか?あれ程、飲んでおくようにと…、」
「何故、飲む必要がある。」
「それは、殿下の治療のために…、」
「もうすぐ、死ぬのにか?」
ハッ、と嘲笑するように笑うルーファスに主治医は息を呑んだ。
「どうせ、死ぬのに治療だと?…笑わせる。薬といってもただの痛み止めだろう。」
「ですが、飲まないと痛みは益々ひどくなりますから…、」
「効きもしない薬など飲んだところで変わらないだろ。」
「ですが…、殿下…、」
その時、もう一人の来訪者が現れた。後宮を管理している女官長だった。
「…何の用だ。」
「殿下、側室のリスティーナ様が殿下のお見舞いに伺いたいとのことです。」
「リスティーナ…?ああ。あの新しく来た側室か…。」
ぼんやりとした頭で新しい側室の顔を思い出す。が、ルーファスはその顔を思い出せなかった。
ルーファスは弱視で極端に目が悪い。そのせいかリスティーナの姿は淡く光る金色の髪しか思い出せなかった。瞳の色や顔までは認識できていない。
いつものように冷たく突き放せば女はあからさまに安堵する。彼女の反応は覚えていないが内心では清々していたことだろう。化け物王子に抱かれずに済んだのだし、これからも関わりを持たなくていいのだから。
それなのに…、見舞いに来たいだと?ルーファスは眉を顰めた。
「リスティーナ様は殿下の事を心配しておられました。是非、お見舞いに行きたいと…、折角のご好意です。お見舞いに来て頂いて貰っては…、」
「断れ。」
「殿下。ですが…、」
「聞こえなかったのか!?断れと言っている!…ゴホッ!ゴホッ!」
叫んだ後に咳き込むルーファスに医師が慌てて駆け寄った。
「殿下!?大丈夫ですか!?」
「用件はそれだけか?なら、さっさと出ていけ!」
「…失礼しました。」
何か言いたげな女官長をルーファスは咳き込みながらも追い出した。
「殿下。何もあそこまで拒否することは…、少しだけなら見舞いくらい来て頂いては…?」
「必要ない。」
医師の言葉にルーファスは首を横に振った。
あの王女は確かメイネシア国の王女。生き残るために必死なのだろう。こんな醜い化け物に擦り寄ろうとする位には。馬鹿馬鹿しい。もう後、一年かそこらで死ぬような男なぞ見切りをつけて、他の権力者に媚を売ればいいものを。
ルーファスはリスティーナの行動をそんな風に捉えていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
虐げられた出戻り姫は、こじらせ騎士の執愛に甘く捕らわれる
無憂
恋愛
旧題:水面に映る月影は――出戻り姫と銀の騎士
和平のために、隣国の大公に嫁いでいた末姫が、未亡人になって帰国した。わずか十二歳の妹を四十も年上の大公に嫁がせ、国のために犠牲を強いたことに自責の念を抱く王太子は、今度こそ幸福な結婚をと、信頼する側近の騎士に降嫁させようと考える。だが、騎士にはすでに生涯を誓った相手がいた。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
辺境伯と幼妻の秘め事
睡眠不足
恋愛
父に虐げられていた23歳下のジュリアを守るため、形だけ娶った辺境伯のニコラス。それから5年近くが経過し、ジュリアは美しい女性に成長した。そんなある日、ニコラスはジュリアから本当の妻にしてほしいと迫られる。
途中まで書いていた話のストックが無くなったので、本来書きたかったヒロインが成長した後の話であるこちらを上げさせてもらいます。
*元の話を読まなくても全く問題ありません。
*15歳で成人となる世界です。
*異世界な上にヒーローは人外の血を引いています。
*なかなか本番にいきません
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる