冷遇され、虐げられた王女は化け物と呼ばれた王子に恋をする

林檎

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第一章 出会い編

王子side

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「うっ…!が、あ…!」

また、この痛みだ…。全身に激痛が走る。まるで身体が引き裂かれるかのような痛み…。
堪えきれずに呻き声が口から洩れ出る。壁に爪を立て、ガリッと音がする。壁には爪跡が残された。
勢いよく爪を立てすぎたせいか爪が割れ、手が血だらけになった。
それでも痛みはおさまらず、寝台に蹲り、シーツを握り締めて必死に痛みに耐える。
ドクン、ドクンと心臓の音が…、脈拍、血流の音が聞こえるかのような感覚に陥る。
身体が熱い…。焼けるように喉が痛い。動かない手足を必死に動かし、水を口にする。
勢いよく飲み過ぎたせいか口の端から水が零れて肌と服を濡らした。
ぼんやりと薄暗い視界の中、コップを机に戻そうとするが…、ガシャン、とそのままコップを床に取り落としてしまった。

「…。」

自分の手を見つめる。が、よく見えない。これだけの距離で見ても、ぼんやりとした輪郭しか確認できない。以前より、視力が落ちてきている。
さっきより、幾らか痛みはマシになった。けれど、どうせまた痛みが出現する筈だ。そう考えていると、扉がノックされた。

「…入れ。」

「失礼します。ルーファス殿下。診察に伺い…、で、殿下!?そ、その怪我はどうされましたか!?」

主治医が入ってきた。そして、部屋の主のルーファスの姿に声を上げた。

「すぐに手当てを…!」

急いで医師が消毒し、手に包帯を巻いた。ふと、机の上に置かれた飲まれていない薬に目を留める。

「ルーファス殿下。また、薬を飲んでいないのですか?あれ程、飲んでおくようにと…、」

「何故、飲む必要がある。」

「それは、殿下の治療のために…、」

「もうすぐ、死ぬのにか?」

ハッ、と嘲笑するように笑うルーファスに主治医は息を呑んだ。

「どうせ、死ぬのに治療だと?…笑わせる。薬といってもただの痛み止めだろう。」

「ですが、飲まないと痛みは益々ひどくなりますから…、」

「効きもしない薬など飲んだところで変わらないだろ。」

「ですが…、殿下…、」

その時、もう一人の来訪者が現れた。後宮を管理している女官長だった。

「…何の用だ。」

「殿下、側室のリスティーナ様が殿下のお見舞いに伺いたいとのことです。」

「リスティーナ…?ああ。あの新しく来た側室か…。」

ぼんやりとした頭で新しい側室の顔を思い出す。が、ルーファスはその顔を思い出せなかった。
ルーファスは弱視で極端に目が悪い。そのせいかリスティーナの姿は淡く光る金色の髪しか思い出せなかった。瞳の色や顔までは認識できていない。
いつものように冷たく突き放せば女はあからさまに安堵する。彼女の反応は覚えていないが内心では清々していたことだろう。化け物王子に抱かれずに済んだのだし、これからも関わりを持たなくていいのだから。
それなのに…、見舞いに来たいだと?ルーファスは眉を顰めた。

「リスティーナ様は殿下の事を心配しておられました。是非、お見舞いに行きたいと…、折角のご好意です。お見舞いに来て頂いて貰っては…、」

「断れ。」

「殿下。ですが…、」

「聞こえなかったのか!?断れと言っている!…ゴホッ!ゴホッ!」

叫んだ後に咳き込むルーファスに医師が慌てて駆け寄った。

「殿下!?大丈夫ですか!?」

「用件はそれだけか?なら、さっさと出ていけ!」

「…失礼しました。」

何か言いたげな女官長をルーファスは咳き込みながらも追い出した。

「殿下。何もあそこまで拒否することは…、少しだけなら見舞いくらい来て頂いては…?」

「必要ない。」

医師の言葉にルーファスは首を横に振った。
あの王女は確かメイネシア国の王女。生き残るために必死なのだろう。こんな醜い化け物に擦り寄ろうとする位には。馬鹿馬鹿しい。もう後、一年かそこらで死ぬような男なぞ見切りをつけて、他の権力者に媚を売ればいいものを。
ルーファスはリスティーナの行動をそんな風に捉えていた。
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