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第一章 出会い編
ルーファス殿下の余命
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「ええと…、歴史書はどこに…、」
あ、あった。目当ての本を見つけ、リスティーナはそれを手に取った。
これなら、初心者向けだし、私でも分かりそう。
それにしても…、リスティーナは改めて図書室を眺める。何て、広い図書室だろう。こんなに本がいっぱいある。折角だから、他にも借りていこうかな。
リスティーナは本棚を見て回ることにした。ふと、リスティーナは魔導書の本に目を留める。
そういえば、亡くなった母はよく魔女や魔法の話を聞かせてくれた。
私の母は流浪一座の踊り子だった。踊りの他に占い師としても稼いでいたので占いにも詳しかった。
母はリスティーナが小さい頃から膝に抱いてたくさんのお話を聞かせてくれた。
昔話やお伽噺、伝承…。母の話は聞いているだけでワクワクして、とても面白かった。
その中でも魔法の話は一番のお気に入りだった。
リスティーナはそんな母を思い出し、物悲しい気持ちを抱いた。
そして、思わず魔導書の本を手に取った。
部屋に戻り、リスティーナは早速、魔導書の本を読み始める。
読みながら、母が話してくれた魔法の歴史を思い出す。
この世界は昔、魔法で栄えていたが今は魔法の力が弱まり、強い魔力を持つ人間はほとんどいなくなってしまった。昔は精霊の力を借りて、魔法を使っていた。
精霊は大きく分けて七つの属性に分けられている、光、闇、火、水、風、土、雷…。
その属性に適した魔力により、人々は精霊の力を借りて魔法を使う事ができたのだ。
しかし、いつしか精霊は人間の前から姿を消し、精霊の力を借りた魔法を発動することができなくなってしまった。
精霊の力を借りなくても全く魔法が使えないというわけではない。
ただ、精霊の力を借りた魔法と比べると威力は低いし、劣ってしまう。
それに、少しの魔法を使うだけで魔力の消費が激しく、すぐに魔力が尽きてしまうのだ。
だから、人間の魔力だけでは限界があった。
人間の魔力だけでは威力の小さい効き目の薄い魔法しか使えない。
火魔法でいったら、手の平サイズの火の玉を生み出すか、火を起こす位しかできないし、水魔法だって似たようなものだ。つまりは、生活の応用編くらいしか役立たない。
けれど、稀に莫大な魔力を持った人間が生まれることがある。
その者は聖女、勇者と称えられ、崇められる特別な存在だ。
彼らは精霊に愛され、精霊を使役することができる。
過去にも精霊の力を借りて魔法を使う人間もいたがそれとは比べ物にならない強い力。
ただの精霊ではなく、別格の存在…、大精霊の加護を受けることができるからだ。
大精霊はその属性の精霊達の頂点に君臨する精霊の総称だ。
だからこそ、大精霊の加護を受けた彼らは特別視され、国からも世界中からも注目され、重宝される。だからこそ、各国の王や要人、神殿の人間は勇者や聖女達を喉から手が出る程に欲しがったという。
そういえば、ローゼンハイム皇国が信仰する聖教会には光の精霊に愛された聖女がいると聞いたことがある。
その聖女は光の大精霊の加護を受けており、光の聖女と呼ばれている。
触れるだけでどんな傷や怪我も簡単に治してしまうという治癒能力が使えるそうだ。
その力はまるで奇跡だといわれているのだとか。
魔法の中でも闇と光の魔法は一番特別視されている。
光と闇の使い手は他の属性と違って珍しいからだ。その光の聖女も確か、前の光の聖女が亡くなって三百年振りに聖女として覚醒したと聞いている。それ位に光の加護持ちは中々、存在しない。
だが、それ以上に闇の加護持ちは極めて珍しいとされている。そもそも、闇の使い手が歴史の中でも数える位しかいないのだ。
闇の加護を受けた者はこの数千年の時を刻んだ長い歴史の中でも過去に三人しか存在しない。
千年に一人現れるか現れないかという確率の低さなのだ。
実際、最後に闇の加護持ちだとされていた女性がいたがそれは千年も前の話である。
結局、その女性の死後は闇の加護持ちは現れていないので現在では闇の使い手は存在しない。
闇の加護持ちには会えなくても、光の聖女にはいつか、お会いしてみたいな。
リスティーナはそんな事を考えた。
パラリ、とページを捲る。ルーティア文字、と書かれた欄にリスティーナは目を留めた。
ルーティア文字。母がよく話していた。占いに詳しかった母は少しだけルーティア文字を読むことができた。
ルーティア文字は記号や数字を組み合わせて作られた神聖文字で主に宗教や魔法関連で使われていた。ただ、ルーティア文字は元々、古代ルーミティナ国の言葉でずっと昔にその国は帝国に滅ぼされている。そもそも、ルーティア文字は古代魔法に使われていた文字で現代の魔法では別の文字や言葉が使用されている。その為、今ではルーティア文字は使用されなくなったのだ。
「ルーティア、文字か…。私もお母様に教えてもらったけど、特に何の役にも立たなかったな。」
母程ではないがリスティーナも少しだけなら読める。けれど、リスティーナは別に占いの道にも魔術の道を志したわけではないし、王女の身分では全く不要な物だった。そもそも、今では使われていない文字なのだから、身に着けた所で大して役に立たないのだ。
リスティーナは本を閉じ、歴史書を手に取った。どうせなら、こちらの本を読んだ方が実りある。
魔法に関する本は興味あるが今はこっちが最優先なのだから。
そう思い直し、リスティーナは歴史書を開いた。
「リスティーナ様。こちらでの生活に不自由はありませんか?」
女官長の言葉にリスティーナは笑顔でいいえ、と首を振った。
「不自由だなんて…、とても快適に過ごさせて頂いています。お気遣いありがとうございます。」
ここの後宮の侍女達はリスティーナを邪険に扱ったり、仕事を疎かにすることはしなかった。
普通、一国の姫とはいえ、小国の王女などぞんざいに扱われても仕方がないというのに…。
女官長も無表情で冷たそうな印象を与えるがこうして、リスティーナの様子を見に来てくれる。
まだ挨拶程度しか交わしていないが女官長は若いがしっかりしているように見えるし、公正な人柄を感じる。
女官長も侍女達もリスティーナを軽んじることなく、側室として仕えてくれている。
人並みな対応をされたリスティーナはそれだけでとても嬉しかった。
「先日の講師の件ですが明日には手配できそうですのでそれまでお待ちください。」
「ありがとうございます。」
遂に明日からこの国の勉強が始まるのだ。そう思うと、少しだけワクワクした。
リスティーナはふと、ずっと気になっていたことを女官長に聞いた。
「あの…、女官長。実は一つだけ聞きたいことがあるのです。」
「何でしょうか?」
「ルーファス殿下についてなのですが…、あの、ダニエラ様からお聞きしました。
殿下はその…、もう先が長くないと。それは、本当の話なのでしょうか?」
不安混じりに聞くと、女官長は少しハッと目を見開いたが溜息交じりに淡々と話した。
「…本当の話です。殿下はもうすぐ二十歳になられます。元々、二十歳まで生きられるかどうかと言われていましたから。主治医から後、一年か二年の命だと宣告されています。」
「一年か、二年…。」
そんな…、僅か数年しか生きられないだなんて…。リスティーナは呆然と呟いた。
「殿下はそれを知っているのですか…?」
「ええ。そのせいかもう本人も諦めていて、薬も治療も拒否しています。」
自分がもうすぐ死ぬと言われて…、一体どんな気持ちでいるのだろう。
自分だったら、耐えられないかもしれない。死にたくない。もっと生きたい。そう思うのが当然だろう。
この国に嫁いだ時、死を覚悟していたつもりだった。でも、やっぱり殺されるのは怖かった。覚悟をしていたつもりでも殺されずに済んで内心、ホッとしたものだ。
でも…、殿下は違うのだ。彼は余命を宣告されている。死から逃れられないのだ。
まだあんなにお若いのに…、リスティーナは胸が痛んだ。
「あの…、今、殿下の具合は?殿下は…、どうしているのでしょうか?」
「殿下は相変わらず部屋に閉じこもったままです。全身が痛むのかほとんど眠れていないそうです。」
「そ、そんなに悪いのですか…?」
「ええ。食事も受けつけず、食べても戻してしまうのでほとんど何も口にしていません。先日はとうとう血を吐いたそうです。」
「血を…!?で、殿下は大丈夫なのですか!?」
「分かりません。どんどん状態が悪くなっているそうで…、原因が分からないので手の施しようがないと医師も諦めています。」
「そんな…!」
そこまで悪かったなんて…。もしかして、あの時、会った時も本当は無理をしていたのだろうか。
私ったら、殿下の具合が悪い事にも気づけなかったなんて…。これでどうして、妻として仕えようだなんて思えたのだろう。夫の不調にも気付かないなんて、妻としても側室としても失格だ。
思い返せば、殿下の顔色は悪かった。まるで病人のようだと思ったけど実際にその通りだったんだ。
知らなかったとはいえ、気付こうと思えば気付くことができたのに…。
「あの…、殿下のお見舞いに伺う事は可能でしょうか?」
「え…、リスティーナ様が殿下のお見舞いに…?」
無表情ながらもやや驚いた様子の女官長にリスティーナは不安そうに訊ねた。
「やっぱり、駄目でしょうか?」
駄目もとで聞いたみただけだった。正妃のダニエラならともかく、自分は一介の側室だ。
そんな簡単に後宮から出られないかもしれない。
「い、いえ。許可さえ通れば可能ですが…、」
「本当ですか?では、是非お見舞いに行かせて下さい。」
リスティーナは女官長にそうお願いした。女官長はやや戸惑った視線を向ける。
「では、殿下と主治医に確認してまいりますが…、あの、本当によろしいのですか?」
「何がでしょうか?」
「…いえ、あの…、今までの方達は呪いが移るのを怖がって殿下の傍に近付こうとしない方達ばかりでしたので…。」
「え、じゃあ、ダニエラ様達はどなたも殿下のお見舞いに行かれていないのですか?」
「はい。」
呪いのせいか病のせいか知らないが苦しんでいる夫がいるのに見舞いにも行かないなんて…。
思わずそう批判したくなったが自分がそんな事を思う資格はないと考え直した。
私だって、殿下の不調に気付かなかったんだ。ダニエラ様達を責める資格はない。
「私、殿下のお見舞いに行きたいです。ですから、どうか殿下に伝えて貰えないでしょうか?」
呪いが移るとかそんな事、今はどうでも良かった。ルーファス殿下の身体が心配だ。
リスティーナはお見舞いの許可を貰えるように女官長に頼み込んだ。
あ、あった。目当ての本を見つけ、リスティーナはそれを手に取った。
これなら、初心者向けだし、私でも分かりそう。
それにしても…、リスティーナは改めて図書室を眺める。何て、広い図書室だろう。こんなに本がいっぱいある。折角だから、他にも借りていこうかな。
リスティーナは本棚を見て回ることにした。ふと、リスティーナは魔導書の本に目を留める。
そういえば、亡くなった母はよく魔女や魔法の話を聞かせてくれた。
私の母は流浪一座の踊り子だった。踊りの他に占い師としても稼いでいたので占いにも詳しかった。
母はリスティーナが小さい頃から膝に抱いてたくさんのお話を聞かせてくれた。
昔話やお伽噺、伝承…。母の話は聞いているだけでワクワクして、とても面白かった。
その中でも魔法の話は一番のお気に入りだった。
リスティーナはそんな母を思い出し、物悲しい気持ちを抱いた。
そして、思わず魔導書の本を手に取った。
部屋に戻り、リスティーナは早速、魔導書の本を読み始める。
読みながら、母が話してくれた魔法の歴史を思い出す。
この世界は昔、魔法で栄えていたが今は魔法の力が弱まり、強い魔力を持つ人間はほとんどいなくなってしまった。昔は精霊の力を借りて、魔法を使っていた。
精霊は大きく分けて七つの属性に分けられている、光、闇、火、水、風、土、雷…。
その属性に適した魔力により、人々は精霊の力を借りて魔法を使う事ができたのだ。
しかし、いつしか精霊は人間の前から姿を消し、精霊の力を借りた魔法を発動することができなくなってしまった。
精霊の力を借りなくても全く魔法が使えないというわけではない。
ただ、精霊の力を借りた魔法と比べると威力は低いし、劣ってしまう。
それに、少しの魔法を使うだけで魔力の消費が激しく、すぐに魔力が尽きてしまうのだ。
だから、人間の魔力だけでは限界があった。
人間の魔力だけでは威力の小さい効き目の薄い魔法しか使えない。
火魔法でいったら、手の平サイズの火の玉を生み出すか、火を起こす位しかできないし、水魔法だって似たようなものだ。つまりは、生活の応用編くらいしか役立たない。
けれど、稀に莫大な魔力を持った人間が生まれることがある。
その者は聖女、勇者と称えられ、崇められる特別な存在だ。
彼らは精霊に愛され、精霊を使役することができる。
過去にも精霊の力を借りて魔法を使う人間もいたがそれとは比べ物にならない強い力。
ただの精霊ではなく、別格の存在…、大精霊の加護を受けることができるからだ。
大精霊はその属性の精霊達の頂点に君臨する精霊の総称だ。
だからこそ、大精霊の加護を受けた彼らは特別視され、国からも世界中からも注目され、重宝される。だからこそ、各国の王や要人、神殿の人間は勇者や聖女達を喉から手が出る程に欲しがったという。
そういえば、ローゼンハイム皇国が信仰する聖教会には光の精霊に愛された聖女がいると聞いたことがある。
その聖女は光の大精霊の加護を受けており、光の聖女と呼ばれている。
触れるだけでどんな傷や怪我も簡単に治してしまうという治癒能力が使えるそうだ。
その力はまるで奇跡だといわれているのだとか。
魔法の中でも闇と光の魔法は一番特別視されている。
光と闇の使い手は他の属性と違って珍しいからだ。その光の聖女も確か、前の光の聖女が亡くなって三百年振りに聖女として覚醒したと聞いている。それ位に光の加護持ちは中々、存在しない。
だが、それ以上に闇の加護持ちは極めて珍しいとされている。そもそも、闇の使い手が歴史の中でも数える位しかいないのだ。
闇の加護を受けた者はこの数千年の時を刻んだ長い歴史の中でも過去に三人しか存在しない。
千年に一人現れるか現れないかという確率の低さなのだ。
実際、最後に闇の加護持ちだとされていた女性がいたがそれは千年も前の話である。
結局、その女性の死後は闇の加護持ちは現れていないので現在では闇の使い手は存在しない。
闇の加護持ちには会えなくても、光の聖女にはいつか、お会いしてみたいな。
リスティーナはそんな事を考えた。
パラリ、とページを捲る。ルーティア文字、と書かれた欄にリスティーナは目を留めた。
ルーティア文字。母がよく話していた。占いに詳しかった母は少しだけルーティア文字を読むことができた。
ルーティア文字は記号や数字を組み合わせて作られた神聖文字で主に宗教や魔法関連で使われていた。ただ、ルーティア文字は元々、古代ルーミティナ国の言葉でずっと昔にその国は帝国に滅ぼされている。そもそも、ルーティア文字は古代魔法に使われていた文字で現代の魔法では別の文字や言葉が使用されている。その為、今ではルーティア文字は使用されなくなったのだ。
「ルーティア、文字か…。私もお母様に教えてもらったけど、特に何の役にも立たなかったな。」
母程ではないがリスティーナも少しだけなら読める。けれど、リスティーナは別に占いの道にも魔術の道を志したわけではないし、王女の身分では全く不要な物だった。そもそも、今では使われていない文字なのだから、身に着けた所で大して役に立たないのだ。
リスティーナは本を閉じ、歴史書を手に取った。どうせなら、こちらの本を読んだ方が実りある。
魔法に関する本は興味あるが今はこっちが最優先なのだから。
そう思い直し、リスティーナは歴史書を開いた。
「リスティーナ様。こちらでの生活に不自由はありませんか?」
女官長の言葉にリスティーナは笑顔でいいえ、と首を振った。
「不自由だなんて…、とても快適に過ごさせて頂いています。お気遣いありがとうございます。」
ここの後宮の侍女達はリスティーナを邪険に扱ったり、仕事を疎かにすることはしなかった。
普通、一国の姫とはいえ、小国の王女などぞんざいに扱われても仕方がないというのに…。
女官長も無表情で冷たそうな印象を与えるがこうして、リスティーナの様子を見に来てくれる。
まだ挨拶程度しか交わしていないが女官長は若いがしっかりしているように見えるし、公正な人柄を感じる。
女官長も侍女達もリスティーナを軽んじることなく、側室として仕えてくれている。
人並みな対応をされたリスティーナはそれだけでとても嬉しかった。
「先日の講師の件ですが明日には手配できそうですのでそれまでお待ちください。」
「ありがとうございます。」
遂に明日からこの国の勉強が始まるのだ。そう思うと、少しだけワクワクした。
リスティーナはふと、ずっと気になっていたことを女官長に聞いた。
「あの…、女官長。実は一つだけ聞きたいことがあるのです。」
「何でしょうか?」
「ルーファス殿下についてなのですが…、あの、ダニエラ様からお聞きしました。
殿下はその…、もう先が長くないと。それは、本当の話なのでしょうか?」
不安混じりに聞くと、女官長は少しハッと目を見開いたが溜息交じりに淡々と話した。
「…本当の話です。殿下はもうすぐ二十歳になられます。元々、二十歳まで生きられるかどうかと言われていましたから。主治医から後、一年か二年の命だと宣告されています。」
「一年か、二年…。」
そんな…、僅か数年しか生きられないだなんて…。リスティーナは呆然と呟いた。
「殿下はそれを知っているのですか…?」
「ええ。そのせいかもう本人も諦めていて、薬も治療も拒否しています。」
自分がもうすぐ死ぬと言われて…、一体どんな気持ちでいるのだろう。
自分だったら、耐えられないかもしれない。死にたくない。もっと生きたい。そう思うのが当然だろう。
この国に嫁いだ時、死を覚悟していたつもりだった。でも、やっぱり殺されるのは怖かった。覚悟をしていたつもりでも殺されずに済んで内心、ホッとしたものだ。
でも…、殿下は違うのだ。彼は余命を宣告されている。死から逃れられないのだ。
まだあんなにお若いのに…、リスティーナは胸が痛んだ。
「あの…、今、殿下の具合は?殿下は…、どうしているのでしょうか?」
「殿下は相変わらず部屋に閉じこもったままです。全身が痛むのかほとんど眠れていないそうです。」
「そ、そんなに悪いのですか…?」
「ええ。食事も受けつけず、食べても戻してしまうのでほとんど何も口にしていません。先日はとうとう血を吐いたそうです。」
「血を…!?で、殿下は大丈夫なのですか!?」
「分かりません。どんどん状態が悪くなっているそうで…、原因が分からないので手の施しようがないと医師も諦めています。」
「そんな…!」
そこまで悪かったなんて…。もしかして、あの時、会った時も本当は無理をしていたのだろうか。
私ったら、殿下の具合が悪い事にも気づけなかったなんて…。これでどうして、妻として仕えようだなんて思えたのだろう。夫の不調にも気付かないなんて、妻としても側室としても失格だ。
思い返せば、殿下の顔色は悪かった。まるで病人のようだと思ったけど実際にその通りだったんだ。
知らなかったとはいえ、気付こうと思えば気付くことができたのに…。
「あの…、殿下のお見舞いに伺う事は可能でしょうか?」
「え…、リスティーナ様が殿下のお見舞いに…?」
無表情ながらもやや驚いた様子の女官長にリスティーナは不安そうに訊ねた。
「やっぱり、駄目でしょうか?」
駄目もとで聞いたみただけだった。正妃のダニエラならともかく、自分は一介の側室だ。
そんな簡単に後宮から出られないかもしれない。
「い、いえ。許可さえ通れば可能ですが…、」
「本当ですか?では、是非お見舞いに行かせて下さい。」
リスティーナは女官長にそうお願いした。女官長はやや戸惑った視線を向ける。
「では、殿下と主治医に確認してまいりますが…、あの、本当によろしいのですか?」
「何がでしょうか?」
「…いえ、あの…、今までの方達は呪いが移るのを怖がって殿下の傍に近付こうとしない方達ばかりでしたので…。」
「え、じゃあ、ダニエラ様達はどなたも殿下のお見舞いに行かれていないのですか?」
「はい。」
呪いのせいか病のせいか知らないが苦しんでいる夫がいるのに見舞いにも行かないなんて…。
思わずそう批判したくなったが自分がそんな事を思う資格はないと考え直した。
私だって、殿下の不調に気付かなかったんだ。ダニエラ様達を責める資格はない。
「私、殿下のお見舞いに行きたいです。ですから、どうか殿下に伝えて貰えないでしょうか?」
呪いが移るとかそんな事、今はどうでも良かった。ルーファス殿下の身体が心配だ。
リスティーナはお見舞いの許可を貰えるように女官長に頼み込んだ。
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