冷遇され、虐げられた王女は化け物と呼ばれた王子に恋をする

林檎

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第一章 出会い編

同情

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「無理をするな。俺が醜いということは俺自身がよく分かっている。そんな嘘を吐いてまで…、」

「ち、違います!私は嘘なんて…、今言った事は私の本心です!」

端から信じようとしないルーファスに悲しくなる。
彼は全てを諦めたような表情を浮かべており、その顔を見るだけでリスティーナは胸が苦しくなった。
何とか彼に私の気持ちを分かって欲しいと思い、言い募る。

「私は…、殿下が醜いとは思いません!確かに殿下の顔は他の人とは少し違います。でも、醜いと言われる程ではないと思います。」

ルーファスはリスティーナの言葉に答えなかった。
リスティーナは迷ったが正直に話した。

「あの、実は私…、初めて殿下の噂を聞いた時、もっと怖い方を想像していたのです。
殿下のお姿は呪いによって醜くなったとお聞きしていたので…。
でも…、殿下と初めて会った時、思っていたよりも普通の人だなと安心したのです。
仮面で顔を隠していたので今まで素顔を見ることはありませんでしたが、噂で言われる程、そこまで怖い見た目をしていないと思います。黒い傷痕がある以外は別にそこまで他の人と変わりないなと…。」

「……嘘だ。君もどうせ…、俺の事を気持ち悪いと思っているんだろう。醜いと、化け物のようだと…。」

ルーファスは静かな口調で淡々とそう言っている。感情の籠らない声。
それが余計に彼自身の危うさをより強く感じた。
リスティーナの言葉を嘘だと断言し、決して頑なに信じようとしない彼の態度はまるで自分が傷つくまいとするかのようで…、

「別に今更、本当の事を言われた所で何とも思わない。俺が醜いのは、事実なのだから。」

何とも思わないと言うがそんな訳ない。醜いと、化け物だと言われて心が傷つかない筈がない。
何とも思わないと言い切る彼にリスティーナは胸が痛んだ。

「私は殿下に嘘を吐いたことはありません。それでも…、私の言葉は…、信じられませんか?」

「信じろ…?実の母親にすら、化け物だと呼ばれたのにか?」

「え…、」

驚くリスティーナにルーファスは表情を変えずに言った。

「母上にとって、俺を産んだことは人生最大の汚点なのだそうだ。俺なんか、産むのではなかったと言うのが母上の口癖だ。
父上だって、言葉には出さないがいつも俺を見て、おぞましいものでも見るかのような目をしている。」

リスティーナは声が出なかった。ルーファスの母は正妃、ヨランダ。
この国で最も高貴な身分の女性。
リスティーナはまだ会ったことはないがとても美しい方だと聞いたことがある。
その美貌を息子であるイグアスは受け継ぎ、ヨランダ王妃は自分に似たイグアスを溺愛しているらしい。

王妃とルーファスがどんな親子関係なのかリスティーナは知らなかった。
次期王太子候補として名が挙がっているイグアス王子の方を可愛がっているとは聞いていたが…。
でも、まさか、腹を痛めて産んだ我が子を愛さない母親がいただなんて…、
リスティーナはその事実に愕然とした。
父親が子供を愛さないという例はよくある。リスティーナがそのいい例だ。
あの父がリスティーナを愛さない理由は私が平民の血を引く子だから。それはもう十分に理解している。

私には母がいたから、あの冷たい王宮でも耐え抜くことができた。母が私を愛してくれていたからどれだけ酷い目に遭っても耐えられた。母の存在が私の心を支えてくれた。
母は望んで父の側室になったわけではなかった。愛してもいない男に見初められ、権力を使って無理矢理側室にさせられた。そして、子供まで産まされた。愛していない男の子供。それがリスティーナだった。

それでも、母はリスティーナを愛してくれた。
あなたは、私の希望なのよ。ティア。と囁いた。
お腹を痛めて産んだ我が子を愛さない母親はいない。生まれてきてくれてありがとう、と優しく言ってくれた。
もし、母に愛されなかったら…。そう考えるだけでゾッとする。
母に愛されず、突き放されていたらとっくに私の心は壊れていた。

彼は…、父親にも母親にも疎まれ、愛されずに育った。それはどれだけ孤独だったことだろうか。
想像するだけで胸が締め付けられる。私だったら、耐えられない。彼は呪いをその身に宿したその時からずっとその苦しみをたった一人で耐えてきたんだ。ずっと、一人で…。
リスティーナはそんな彼に何と言葉を掛ければいいのか分からなかった。

「血の繋がった家族ですら俺を嫌い、蔑んだ。そんな俺が何をどう信じろというんだ。家族にも愛されない男を赤の他人が受け入れるとでも?」

「っ…、」

「昔、俺に同情する女もいたことがある。…君もそうなのか?」

「な、ち、違います!私は同情なんて…、」

そう否定しかけるがリスティーナは途中で口を噤んだ。同情ではない?本当にそう言い切れるの?
今、私は確かに彼の話を聞いて心を動かされた。これが同情ではないとは言い切れない。
リスティーナは俯いた。

「俺をどう思うのかは君の自由だ。だが…、俺は同情されるのが嫌いだ。それが例え善意の気持ちからであってもな。」

リスティーナは弾かれたように顔を上げた。彼の目はどこか傷ついたように悲し気な色を宿していた。

「だから…、同情ならいらない。」

「で、殿下…。私…、」

違うと言いたかった。同情ではないと叫びたかった。でも…、その言葉は口から出ることはなかった。
彼の悲しげな目を見たら、それ以上何も言えなくなる。私の言葉と態度で彼を傷つけた。
リスティーナはその事実に打ちのめされた。

「君は…、一般的に優しい女なのだろう。俺みたいな呪われた男にも嫌がることなく、触れてくれるし、俺に犯されても怒ったり責めもしない。俺に同情し、可哀想な男だと哀れんでくれる。それを優しさだと思っている人間もいることは知っている。だが…、俺からすればそれは優しさだとは思えない。
俺に同情するのは優越感と自尊心を満たせるからだ。それは、自己満足の偽善に過ぎない。
正直…、いい迷惑だ。そんな中途半端な優しさなら、罵倒された方がまだマシだ。」

「っ!」

リスティーナは思わずヒュッと息を呑んだ。浅ましい気持ちを見透かされた気がした。
途端に押し寄せる後悔と罪悪感…。リスティーナは堪えきれずに頭を下げた。
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