冷遇され、虐げられた王女は化け物と呼ばれた王子に恋をする

林檎

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第一章 出会い編

誤解

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ルーファスは暫く、無言のままリスティーナを見つめた。やがて、フイッと目を逸らすと、

「君は…、本当にどうしようもない女だな。俺もイグアスも…、同じだというのに…。
しかも、イグアスよりも俺がいいなど趣味が悪すぎる。」

「そんな事は…、」

彼は自分の良さを分かっていないのかもしれない。リスティーナはそう思った。
呪われた王子という噂のせいで彼の内面性を知る人間がどれだけいるのだろうか。
こんなにも…、他人を思いやれる優しい方なのに…。リスティーナは悲しくなった。
やっぱり、私には…、彼が噂のような方だとは思えない。
正妃や側室、関わった人間を死に至らしめた悪魔のような王子。
でも、私には彼がそんな残酷な方には見えない。呪いが移らないようにと他人に触れようとせず、リスティーナを傷つけないように必死に逃げろと言った彼が誰かを傷つけ、殺すような人には見えない。
そう思った。でも…、それは私なんかが踏み込んでいい問題じゃない。リスティーナは自分をそう戒めた。

「あ、あの…、そういえば、殿下はもう体調は大丈夫なのですか?」

リスティーナの言葉にルーファスは訝し気な表情を浮かべる。

「昨日は随分、苦しそうにされてましたから…。汗も掻いて顔色も凄く悪くて…、でも、今の殿下は昨日と違って顔色が良くなっていますね。」

リスティーナはルーファスの顔色を見て、微笑んだ。
あの時は痛がっているようにも見えたが今の彼を見ていると、もう痛みはなくなったように見える。
良かった。そういえば…、リスティーナはある事を思い出した。
それを確かめる為にリスティーナはルーファスの額に手を伸ばした。そのまま彼の額に手を触れる。

「っ、な、何を…、」

「あ、熱はないのですね。良かったです。」

熱がないかを確かめる為に彼の額に手を触れたリスティーナは狼狽えるルーファスの表情に気付かず、熱がないことにホッと胸を撫で下ろした。

「昨日はすごい熱でしたけど、下がったのでしたら何より…、」

そう言いかけるが、何気なく顔を上げると、彼と目が合った。
思った以上に近い彼との距離にリスティーナは固まった。そして、すぐに自分の手が彼の額にあることに気付くと、慌てて手を退かして、サッと後ろに下がり、距離を取った。

「も、申し訳ありません!お許しもなく、勝手に殿下に触れてしまって…!」

「いや…。気にするな。少し…、驚いただけだ。いいから、顔を上げろ。」

ベッドの上に手をついて謝るリスティーナにルーファスはそう言ってくれた。
恐る恐る顔を上げれば、言葉通り、怒った様子を見せない彼に安堵した。殿下が寛大な方で良かった…。

「それに、一々、俺の許可を取る必要はない。俺に触りたければいつでも君の好きにすればいい。」

「え…、で、ですが…、殿下にそのようなご無礼は…、」

「俺に触るのが嫌なら、無理にとは言わない。あんな乱暴をされた後だからな。そう思うのも当然…、」

「ち、違います!殿下に触るのが嫌とかそういうのではなく…!」

リスティーナが彼の言葉に躊躇したのは決して、彼に触られたくないとかそんな理由ではない。
勝手に触れるなどあまりにも不敬なのではと思っただけだ。
ルーファスの言葉に慌てて首を横に振り、否定する。

「…そうか。」

リスティーナの嫌ではないという言葉にルーファスは一見、変わらない表情だったが、一瞬だけホッとしたように安堵したような表情を浮かべていた。リスティーナはその一瞬だけ見えた彼の表情から目が逸らせなかった。
もしかして…、私が殿下に触られるのが嫌じゃないと言った事に対して、嬉しいと思ってくれたのだろうか。そう考えてしまい、リスティーナは胸が熱くなった。

「あ、あの…、本当によろしいのでしょうか?そのような事、お許し頂いても…、」

「…構わない。」

「っ…、あ、ありがとうございます…。」

何だか特別扱いを受けている気分…。リスティーナは思わず嬉しくて頬が緩んだ。
どうしてかしら…。昨夜はあんな事があったというのに目の前の殿下を怖いと思わない。
むしろ…、もっと彼を知りたいと思った。
そんなリスティーナをルーファスは無言で見つめる。
じっと、真剣な黒い瞳に見つめられ、リスティーナはドキッとした。

「一つ…、質問をしてもいいか?」

「は、はい!何でしょうか?」

質問?何を聞かれるのだろうかとやや緊張しながら彼の言葉に耳を傾ける。
彼は無表情のまま口を開いた。

「君は…、俺が怖くないのか?」

「え?」

ルーファスの言葉にリスティーナは目を瞬いた。彼はリスティーナから目を逸らすと、

「俺は今、仮面をつけていない。君は昨日、俺の素顔を見た筈だ。今もこうして、隠すことなく晒け出している。君は、この顔が…、恐ろしくはないのか?」

顔を俯かせてそう静かに問いかける彼の言葉にリスティーナはそういえば…、と思い出した。
確かに昨日、私は彼の素顔を見た。彼が床に倒れてしまい、その弾みで仮面が外れた時に…、

「い、いえ!そんな、恐ろしいだなんて…、あの、確かに最初に殿下の顔を見た時は少し驚きましたが…、」

彼の顔に刻まれた黒い痣のようなものを目にした時は驚いたがあの時は彼の様子があまりにもおかしくて、素顔の事よりもそちらに意識が向いてしまった。
夜だったせいか視界も悪かったためはっきりと彼の顔を見た訳ではない。
長い前髪の隙間から彼の顔半分に刻まれた黒い痣…。その黒い痣が彼の顔半分をびっしりと覆いつくしている。
一見、黒い痣のようなものに見えたが、よく見れば、それは痣というよりは、黒い紋様のように見える。
改めて、明るい場所で向かい合う形で彼の顔を見てみると、顔に黒い紋様がある以外は他の人と変わりがないように見える。だから、彼の顔を恐ろしいとか怖いと思ったりはしなかった。
そう彼に伝えるが…、
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