冷遇され、虐げられた王女は化け物と呼ばれた王子に恋をする

林檎

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第二章 相思相愛編

ルーファスの記憶

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「あんたのせいよ!あんたのせいで私はこんな目に…!許さない…!絶対に許さないわ!呪ってやる…!」

ガリガリに痩せた身体でゼエゼエ、と荒い息を吐きながらもルーファスに血走った目を向ける女。

「ローゼンハイム王家など呪われてしまえ!国を滅ぼされた私の気持ちがあんたなんかに分かるものか!ああ!憎い…!憎い…!まずは、あんたからよ!この化け物王子!今すぐ死んで!死になさいよ!」

こちらに手を伸ばし、首を絞めて殺そうとする女の殺意に満ちた表情…。

「フフッ…、アハハハ!あんたはこれで、終わりよ…!」

勝利を確信した笑みで女は高らかに笑い、杖をこちらに向け、長々と呪文を唱えて、魔術を発動した。

「ぎゃああああ!?」

勝った!とでも言いたげに表情を輝かせた女の身体から勢いよく血が噴き出た。

「…な、な、何、で…。確かに…、当たった、のに…。」

女はそのまま血の海の中で事切れた。



何…?これは…?
ルーファスの手に触れた途端に頭の中に入ってくる映像と声…。
それは、夢や幻とは思えない位に生々しい光景だった。

もしかして、これは殿下の過去の記憶…?
リスティーナは突然の事に驚き、固まってしまう。
すると、今まで見ていた光景が移り変わった。

「また、死んだらしい。これで何人目だ。」

「本当に病気だったのか?」

「あの敗戦国の王女が死んだのも本当に自殺なのか疑わしいな。」

「魔術の暴走で亡くなった?馬鹿な。あの側室は天才魔術師と名高い令嬢だぞ。魔法の扱いは誰よりも心得ている筈。」

「こんな立て続けに亡くなるなんて呪いとしか考えられん。しかも、全員があの化け物王子の妻だぞ。」

「やはり、あの化け物王子が呪い殺したのでは…、」

「陛下も王妃様も何を考えているのだ。あんな凶悪な王子を野放しにするだなんて…。」

貴族達がヒソヒソと囁きながら、噂をしている姿が見えた。
その声が何度も繰り返して聞こえる。
まるで耳元で囁かれているかのように近くで聞こえる。
怖い…。まるでこちらを責め立てているかのようで気が狂ってしまいそう。

フッといきなり視界が真っ暗になった。
気が付けば、真っ暗闇の中にいた。灯りもなく、何も見えない。
ここはどこ…?リスティーナは光のない暗闇の中で辺りを見回した。

「この人殺し。」

突然、暗闇の中から女が現れた。この人…、さっきの…?
あの時、病的なまでに痩せた身体で血走った目を向けていた女性が目の前に立っていた。
骨と皮だけの痩せた身体…。女はこちらをじっと見つめている。
生気のない表情をしているのに目だけは爛々と輝いていて、不気味だった。

「あんたが死ねば良かったのに。」

クスクスと笑い声が聞こえる。
バッと振り返れば、別の女がいた。
首が有り得ない方向に曲がり、痛々しい縄の跡を残した女が歪な笑い声を上げながら、こちらに近付いてくる。

「どうして、私が死んであんたが生きているの?」

ヒタヒタと足音が聞こえる。全身から血を流した女が現れ、恐ろしい形相でこちらを睨みつけている。
明らかに人ではないそれにリスティーナは恐怖のあまり声が出ない。

「化け物。」

「呪われた男。」

「生きているだけで人を不幸にする。」

彼女達は口々に責め立てた。
一人の女の血に染まった白い手がこちらに伸ばされる。
そのまま、ガッと首を掴み上げ、女とは思えない力で締め上げた。
ギリギリ、と首を締めあげる嫌な音が聞こえる。

「死ね。死ね。死ね…!死んでしまえ…!」

血走った目をして、唾を吐きかけるかのように罵倒する女が首を締めているのは…、誰?
まるで自分の身に起きているかのように感じるが、痛みを感じない。
この人達が首を締めているのは私じゃない。そう直感した。
残りの二人の女もヌッと血に染まった手を伸ばして、相手の肩や腕に絡みついた。
気付けば、リスティーナは三人の女達から離れた所に佇んでいた。

「ッ…!グッ…!」

苦しそうな声に慌てて振り返る。そこには、三人の女性が何かに群がっている。
隙間から一瞬だけ見えた長い黒髪の男性は…、ルーファスだった。
首を締められ、苦しそうに呻いている。

「!?殿下!……止めて!」

リスティーナは思わず叫んだ。すると、女達が振り返った。
女達はギロリ、とリスティーナを睨みつけた。
まるで邪魔をするなとでもいうかのような表情だ。

「放して!殿下に何てことをするの!」

リスティーナがそう叫ぶと、女達の表情が歪んだ。そのまま、女達の身体がどんどん透けていく。
フッと女達の姿が消えると同時にルーファスの身体が崩れ落ちた。

「殿下!」

リスティーナは思わず駆け寄って、彼を抱き締めた。

気付けば、そこは暗闇ではなく、自分がいた部屋だった。
さっきと同じように長椅子に座り、ルーファスの隣にいる。
何も変わっていない。今の映像は全て幻だったのかと錯覚する程に。
でも、あれが幻だったとは思えない。あんなにも生々しくて、鮮明な記憶を見せられたのだから。
前のめりに倒れそうになったルーファスを支えながら、リスティーナは必死に彼の名を呼んだ。

「殿下!大丈夫ですか?」

「ッ!あ…?俺は、今…、何を…?」

リスティーナの声にルーファスはハッと正気に戻ったような顔をし、頭を押さえた。
ハアハア、と荒い息をして、肩を上下させる彼をリスティーナは心配そうに見上げた。

「あの、私もよく分からなくて…。今見たものは一体…?」

「え…。まさか、さっき俺が見たものを君も見たのか!?」

ルーファスは驚いたようにリスティーナに詰問した。

「は、はい…。ごめんなさい。殿下の手に触れたら、急に…、」

「あ、いや。違うんだ。君を責めているつもりはない。ただ、今までこんな事なかったものだから気が動転しただけで…、」

ルーファスは声を和らげ、先程よりも声量を落としてくれた。
その上、声を荒げてすまなかったと言ってくれた。

「そうか…。君もあれを見たんだな。」

「はい…。あの、もしかして、あれは…、殿下の記憶なのですか?」

ルーファスはハー、と長い息を吐きだすと、観念したように頷いた。

「そうだ。あれは俺の過去の記憶だ。」

やっぱり。あれは彼の記憶の一部だったんだ。

「じゃあ、あの女の人はもしかして…、」

「予想はついていると思うが、あれは、死んだ正妃と側室だ。」

やっぱり、そうだったんだ。ルーファス殿下の前の正妃と二人の側室。
彼女達を見たのはあの場面だけでどうして、あんな状況になったのかリスティーナは分からない。
でも、あの場面を見る限り…、彼女達は殿下を殺そうとしているかのように見えた。
一体、どうして…?

「何が…、あったんですか?どうして、あの方達は殿下にあのような事を…。」

「あの三人は…、それぞれの目的は違ったが俺を殺そうとした。そのせいで呪いの反動返しの影響を受けて、命を落としてしまったんだ。」

呪いの反動返し…。つまり、イグアス殿下の時と同じ事が起きたという事だろう。
やっぱり、前の正妃や側室も彼の命を狙ったんだ。そのせいで死んでしまった。
そして、噂だけが広がり、彼ばかりが悪く言われ、非難され、恐れられた。
殿下は何も悪くないのに…。
誰も噂の真相を知ろうとしなかったのだろうか。本質を見ないで噂ばかりを信じるなんて…、
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