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第二章 相思相愛編
ルーファスside
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熱い。苦しい。痛い。
原因不明の高熱に罹り、ルーファスは高熱に苦しんだ。
「陛下。ルーファスが死んでも何も問題はありませんわ。
私達には、イグアスがいるではありませんか。あのような出来損ないの兄よりもイグアスの方が遥かに優秀です。次期皇帝にはイグアスがふさわしいかと…、」
ルーファスが生死の境を彷徨っている時、母は父にそう言った。
死んでも構わない。高熱で苦しみながらも、ルーファスの耳には母の言葉がしっかりと聞こえていた。
婚約者のローザは見舞いにすら来なかった。
「うっ…!ううっ……!ッ…!」
頭の中に何かが入ってくる。声が聞こえる。笑い声のような鳴き声のような…、変な不協和音が…。
『見つけた…。』
「ッ!?」
ブワッと目の前を黒い何かが覆った。そこから、声が聞こえる。
子供のような…、女のような声にも聞こえる謎の声…。黒い霧から人の手のような形をした物体が現れ、ルーファスの頬を包み込んだ。
『…君こそが…、…の…、』
声が掠れて、よく聞き取れない。頬をスルリ、と撫でられる感触がしたと思ったら、ドクン!と心臓に強烈な痛みが襲った。
「うっ…!?」
黒い霧がルーファスの身体に襲い掛かった。
何かが入ってくる。身体の中に何かが入り、蠢いている。
気持ち悪い…!全身に激痛が走り、ルーファスは悲鳴を上げた。
何だこれ!?何だ、これは…!?
まるで自分の身体が作り変えられていくような感覚…。自分が自分でなくなるような恐怖を味わった。
ルーファスの高熱は七日間も続いた。まるで地獄のような苦しみだった。だが、本当の地獄はこれからだということにその時のルーファスは知らなかった。
「ん…。」
リスティーナの声にルーファスはハッとした。
過去に思いを馳せていたルーファスは眠るリスティーナに視線を落とした。
ルーファスはリスティーナの髪に手を伸ばした。
緩く波打った美しい金髪は触れると、柔らかく、とても滑らかだ。
サラッ…、とルーファスの指から髪が零れ落ちる。
ルーファスは飽きることなく、リスティーナの髪に触れ、指に絡めていく。
そっ、とその髪に唇を落とした。
髪から手を離し、ルーファスは自身の顔に手を触れた。そこは、あの黒い紋様が刻まれた箇所だった。
リスティーナはこの傷痕を見ても、気持ち悪がることなく、悲鳴を上げることもなく、顔を引き攣らせることもしなかった。
今回だけじゃない。リスティーナはルーファスの仮面の下の素顔をこれまでにも何度か目にしている。
それでも…、彼女は逃げずに傍にいてくれた。
その目には嫌悪感も不快感もない。リスティーナはこの傷痕を見ても、化け物を見るような目でルーファスを見ない。実の両親も弟も婚約者もこの傷を見て、嫌悪したというのに…。
ルーファスは熱が下がってから始まった地獄のような日々を思い返した。
熱が冷めた後、ルーファスの顔や身体には無数の赤い痣が残った。
高熱による後遺症だと医者からは言われたがその痣は日が経つにつれて、どんどん悪化していった。
赤い痣は赤黒く変色し、やがて、黒い痣に変わっていった。最初は小さな点のような痣がどんどん広がり、黒い模様や文字のような形に変化していった。気味が悪かった。
これは、明らかに病気の症状ではなかった。
聖職者や占い師、魔術師からこれは呪いに違いないと言われ、周囲の人間はルーファスを避けるようになった。
ルーファスの身体の異変は痣だけじゃなかった。
眩暈、吐き気、頭痛、全身の痛み、幻覚と幻聴に悩まされた。
寝ると悪夢を見るので眠れない日々が続いた。
薬を処方されても全く効果がない。
それどころか、どんどん悪化していく。やがて、目が霞み、どんどん視力が落ちて、ぼんやりとしか見えなくなった。
食欲もなくなり、食べた物をすぐに戻してしまうので食べる事が嫌になった。
ルーファスの身体はどんどん衰弱していった。成人してからは血を吐くようにもなってしまった。
ベッドで寝たきりの生活になり、剣を振るどころか走ったり、馬に乗る事すらできなくなった。
呪いが身体を蝕む以外にもルーファスを苦しめたのは周囲の人間の視線と態度だった。
ルーファスの着替えや入浴の世話をする侍女はルーファスの傷痕を見て、悲鳴を上げた。
「ヒイッ!?」
化け物を見るかのような目でルーファスを見る侍女。
恐怖で顔を青褪め、逃げ出す侍女を見て、鏡に映る自分を見た。
鏡に映る自分は目を背けたい程におぞましくて、醜かった。こんなにも気味が悪い人間は見たことがない。
「いやああ!気持ち悪い!こっち来ないで!」
ルーファスにぶつかった貴族令嬢は顔を顰めて、扇を投げつけた。
「汚い!…触らないで!もうそれいらないわ!」
落とした物を拾っただけで手を叩かれた。
ローザが怯えるのも当然だと思った。
いつだっただろうか。ローザがこけそうになったのを見て、ルーファスは咄嗟に手を伸ばし、ローザの腕を掴んで身体を支えたことがあった。
「嫌ッ!」
その直後、ルーファスはローザに突き飛ばされ、その拍子に仮面が地面に落ちた。
素顔が露になったルーファスを見て、ローザは悲鳴を上げ、口元を手で覆った。
「ヒッ…!」
小さな声で気持ち悪いと呟いたのをルーファスは見逃さなかった。
確かに…。自分の見た目はこんなにも気持ちが悪くて、醜い。鏡を見ると、その事実を突き付けられる。
ルーファスは鏡を見るのが怖くなった。自分の醜さを目の当たりにするから。
どんどん自分が化け物になっていく気がした。
普通の人間に生まれたかった。どうして、自分だけ他の人間と違うんだ。どうして、自分だけ…!
そんな答えの出ない自問自答を繰り返した。
一体、俺が何をしたというんだ。弟のイグアスはあんなにも愛されているのに…。
どうして、俺は…!
父上と母上に可愛がられているイグアスが羨ましかった。
理不尽だと思った。不公平だと思った。
同じ父と母から生まれたというのに…。どうして、イグアスと俺はこんなにも違うのだ!
好きでこんな容姿に生まれた訳じゃない。俺だって、父上と母上に似た容姿に生まれたかった。
ドロリ、と黒い感情がルーファスの心を支配していく。
駄目だ。考えるな!このままじゃ、自分は心まで化け物になってしまう。
どんどん離れていく。自分の理想とはかけ離れた姿になっていく。ルーファスはそれが怖くて、堪らなかった。
見た目は化け物でも心までは化け物にはならないでいよう。そう思っているのに…、ルーファスの手はどんどん血に染まっていく。もう何人も人を殺してしまった。
毒を盛った侍女も、階段から突き落とそうとした使用人も、事故に見せかけて殺そうとした騎士達も、自分の命を狙った暗殺者達も…。そして、妻までも手にかけた。
そんな自分を…、リスティーナは優しいと言った。
そんな筈がないのに…。心の中で否定しつつも、リスティーナの言葉にルーファスは救われた。
リスティーナの真っ直ぐな目を見ていると、不思議とそれを受け入れてしまう自分がいた。
俺は優しくない。でも…、彼女は本当に俺を優しいと思ってくれている。
だったら、このまま自分の事を優しい人間だと勘違いしてくれればいい。
そんな打算と狡い考えを胸に抱いた。
かつて、ルーファスは優しいとは元婚約者のローザのような人なのだと思っていた。
でも…、今なら分かる。自分はローザを優しい女だと思い込もうとしていただけだったのだと。
だって、自分は知ってしまった。リスティーナに出会ったことで本当の優しさとは何かに気付いてしまった。ルーファスはリスティーナの優しさを最初は同情だと決めつけていた。でも…、それは間違いだとすぐに気付かされた。
自分の為にリスティーナは呪いを解く方法を見つけようとしてくれている。
何の見返りもないのに彼女は他人の為にここまで必死になってくれている。
そんなこと…、同情という薄っぺらい感情なんかでできることじゃない。
ルーファスは飽きることなく、リスティーナの寝顔を眺めた。
あの時…、リスティーナの前で服を脱ぐことにルーファスは抵抗があった。
彼女が優しい人だという事は知っている。顔の傷を見ても怖がることなく、逃げることなくルーファスを受け入れてくれた。だが…、身体の傷を見たらどう思うだろうか?
顔の傷もとても見られたものではないが身体の傷はもっと醜い。思わず目を覆いたくなる程におぞましい身体をしているのに…。
幾ら、リスティーナでもこの身体を見たらきっと…、
ルーファスは自分が狡く、卑怯な男だと自覚している。全てを曝け出さずに隠したままリスティーナを自分の物にしようとしている。そうしないと、彼女が自分から離れてしまうと思ったから…。
でも…、リスティーナの目を見ていると、何故かそれができなくなった。
醜くなんてない。自分を綺麗だと断言するリスティーナの言葉に…、大丈夫だと笑いかけてくれるリスティーナを見て…、ルーファスは思わず泣きそうになった。
リスティーナは自分の身体を見ても、目を逸らすことなく、真っ直ぐ見つめてくれた。
自分に変わらずに笑いかけてくれた。ルーファスは彼女が女神のように眩しく輝いて見えた。
初めて…、生きていて良かったと思えた。自分が生きていたのはリスティーナに出会う為だったものなのだと思った。
リスティーナの身体はどこもかしこも甘い。
雪のように白い肌も桃色の乳首も細い腰も可愛らしく喘ぐ声も蜜壺から溢れる愛液も敏感な身体も…、
全てが俺を魅了する。リスティーナの香りは甘く、男を狂わせるようなかぐわしい匂いがする。
リスティーナの全てを俺の物にしたい。誰にも渡したくない。
その想いはリスティーナを抱いた今でも強まるばかり…。
いつからだろう。こんなにもリスティーナを強く求めるようになったのは…。
初めてリスティーナを抱いた時から?リスティーナが俺を優しいと言ってくれた時から?
もしかしたら、それよりももっと前から惹かれていたのかもしれない。
ルーファスはじっとリスティーナの寝顔を見つめた。
リスティーナはスヤスヤと眠っている。
今は…、まだ…、彼女にこの気持ちを打ち明けることはできない。
優しいリスティーナなら、もしかしたら、自分を受け入れてくれるかもしれない。
だが…、ルーファスはリスティーナに拒絶をされるのが怖かった。
それなら、このままの関係がいい。
リスティーナは俺が生きている限り、俺の妻であることに変わりはない。
それで十分だった。
ルーファスはリスティーナの頭を優しく撫でると、そのまま彼女の隣で眠った。
その夜、ルーファスは悪夢を見ることなく、朝までぐっすりと眠ることができた。
原因不明の高熱に罹り、ルーファスは高熱に苦しんだ。
「陛下。ルーファスが死んでも何も問題はありませんわ。
私達には、イグアスがいるではありませんか。あのような出来損ないの兄よりもイグアスの方が遥かに優秀です。次期皇帝にはイグアスがふさわしいかと…、」
ルーファスが生死の境を彷徨っている時、母は父にそう言った。
死んでも構わない。高熱で苦しみながらも、ルーファスの耳には母の言葉がしっかりと聞こえていた。
婚約者のローザは見舞いにすら来なかった。
「うっ…!ううっ……!ッ…!」
頭の中に何かが入ってくる。声が聞こえる。笑い声のような鳴き声のような…、変な不協和音が…。
『見つけた…。』
「ッ!?」
ブワッと目の前を黒い何かが覆った。そこから、声が聞こえる。
子供のような…、女のような声にも聞こえる謎の声…。黒い霧から人の手のような形をした物体が現れ、ルーファスの頬を包み込んだ。
『…君こそが…、…の…、』
声が掠れて、よく聞き取れない。頬をスルリ、と撫でられる感触がしたと思ったら、ドクン!と心臓に強烈な痛みが襲った。
「うっ…!?」
黒い霧がルーファスの身体に襲い掛かった。
何かが入ってくる。身体の中に何かが入り、蠢いている。
気持ち悪い…!全身に激痛が走り、ルーファスは悲鳴を上げた。
何だこれ!?何だ、これは…!?
まるで自分の身体が作り変えられていくような感覚…。自分が自分でなくなるような恐怖を味わった。
ルーファスの高熱は七日間も続いた。まるで地獄のような苦しみだった。だが、本当の地獄はこれからだということにその時のルーファスは知らなかった。
「ん…。」
リスティーナの声にルーファスはハッとした。
過去に思いを馳せていたルーファスは眠るリスティーナに視線を落とした。
ルーファスはリスティーナの髪に手を伸ばした。
緩く波打った美しい金髪は触れると、柔らかく、とても滑らかだ。
サラッ…、とルーファスの指から髪が零れ落ちる。
ルーファスは飽きることなく、リスティーナの髪に触れ、指に絡めていく。
そっ、とその髪に唇を落とした。
髪から手を離し、ルーファスは自身の顔に手を触れた。そこは、あの黒い紋様が刻まれた箇所だった。
リスティーナはこの傷痕を見ても、気持ち悪がることなく、悲鳴を上げることもなく、顔を引き攣らせることもしなかった。
今回だけじゃない。リスティーナはルーファスの仮面の下の素顔をこれまでにも何度か目にしている。
それでも…、彼女は逃げずに傍にいてくれた。
その目には嫌悪感も不快感もない。リスティーナはこの傷痕を見ても、化け物を見るような目でルーファスを見ない。実の両親も弟も婚約者もこの傷を見て、嫌悪したというのに…。
ルーファスは熱が下がってから始まった地獄のような日々を思い返した。
熱が冷めた後、ルーファスの顔や身体には無数の赤い痣が残った。
高熱による後遺症だと医者からは言われたがその痣は日が経つにつれて、どんどん悪化していった。
赤い痣は赤黒く変色し、やがて、黒い痣に変わっていった。最初は小さな点のような痣がどんどん広がり、黒い模様や文字のような形に変化していった。気味が悪かった。
これは、明らかに病気の症状ではなかった。
聖職者や占い師、魔術師からこれは呪いに違いないと言われ、周囲の人間はルーファスを避けるようになった。
ルーファスの身体の異変は痣だけじゃなかった。
眩暈、吐き気、頭痛、全身の痛み、幻覚と幻聴に悩まされた。
寝ると悪夢を見るので眠れない日々が続いた。
薬を処方されても全く効果がない。
それどころか、どんどん悪化していく。やがて、目が霞み、どんどん視力が落ちて、ぼんやりとしか見えなくなった。
食欲もなくなり、食べた物をすぐに戻してしまうので食べる事が嫌になった。
ルーファスの身体はどんどん衰弱していった。成人してからは血を吐くようにもなってしまった。
ベッドで寝たきりの生活になり、剣を振るどころか走ったり、馬に乗る事すらできなくなった。
呪いが身体を蝕む以外にもルーファスを苦しめたのは周囲の人間の視線と態度だった。
ルーファスの着替えや入浴の世話をする侍女はルーファスの傷痕を見て、悲鳴を上げた。
「ヒイッ!?」
化け物を見るかのような目でルーファスを見る侍女。
恐怖で顔を青褪め、逃げ出す侍女を見て、鏡に映る自分を見た。
鏡に映る自分は目を背けたい程におぞましくて、醜かった。こんなにも気味が悪い人間は見たことがない。
「いやああ!気持ち悪い!こっち来ないで!」
ルーファスにぶつかった貴族令嬢は顔を顰めて、扇を投げつけた。
「汚い!…触らないで!もうそれいらないわ!」
落とした物を拾っただけで手を叩かれた。
ローザが怯えるのも当然だと思った。
いつだっただろうか。ローザがこけそうになったのを見て、ルーファスは咄嗟に手を伸ばし、ローザの腕を掴んで身体を支えたことがあった。
「嫌ッ!」
その直後、ルーファスはローザに突き飛ばされ、その拍子に仮面が地面に落ちた。
素顔が露になったルーファスを見て、ローザは悲鳴を上げ、口元を手で覆った。
「ヒッ…!」
小さな声で気持ち悪いと呟いたのをルーファスは見逃さなかった。
確かに…。自分の見た目はこんなにも気持ちが悪くて、醜い。鏡を見ると、その事実を突き付けられる。
ルーファスは鏡を見るのが怖くなった。自分の醜さを目の当たりにするから。
どんどん自分が化け物になっていく気がした。
普通の人間に生まれたかった。どうして、自分だけ他の人間と違うんだ。どうして、自分だけ…!
そんな答えの出ない自問自答を繰り返した。
一体、俺が何をしたというんだ。弟のイグアスはあんなにも愛されているのに…。
どうして、俺は…!
父上と母上に可愛がられているイグアスが羨ましかった。
理不尽だと思った。不公平だと思った。
同じ父と母から生まれたというのに…。どうして、イグアスと俺はこんなにも違うのだ!
好きでこんな容姿に生まれた訳じゃない。俺だって、父上と母上に似た容姿に生まれたかった。
ドロリ、と黒い感情がルーファスの心を支配していく。
駄目だ。考えるな!このままじゃ、自分は心まで化け物になってしまう。
どんどん離れていく。自分の理想とはかけ離れた姿になっていく。ルーファスはそれが怖くて、堪らなかった。
見た目は化け物でも心までは化け物にはならないでいよう。そう思っているのに…、ルーファスの手はどんどん血に染まっていく。もう何人も人を殺してしまった。
毒を盛った侍女も、階段から突き落とそうとした使用人も、事故に見せかけて殺そうとした騎士達も、自分の命を狙った暗殺者達も…。そして、妻までも手にかけた。
そんな自分を…、リスティーナは優しいと言った。
そんな筈がないのに…。心の中で否定しつつも、リスティーナの言葉にルーファスは救われた。
リスティーナの真っ直ぐな目を見ていると、不思議とそれを受け入れてしまう自分がいた。
俺は優しくない。でも…、彼女は本当に俺を優しいと思ってくれている。
だったら、このまま自分の事を優しい人間だと勘違いしてくれればいい。
そんな打算と狡い考えを胸に抱いた。
かつて、ルーファスは優しいとは元婚約者のローザのような人なのだと思っていた。
でも…、今なら分かる。自分はローザを優しい女だと思い込もうとしていただけだったのだと。
だって、自分は知ってしまった。リスティーナに出会ったことで本当の優しさとは何かに気付いてしまった。ルーファスはリスティーナの優しさを最初は同情だと決めつけていた。でも…、それは間違いだとすぐに気付かされた。
自分の為にリスティーナは呪いを解く方法を見つけようとしてくれている。
何の見返りもないのに彼女は他人の為にここまで必死になってくれている。
そんなこと…、同情という薄っぺらい感情なんかでできることじゃない。
ルーファスは飽きることなく、リスティーナの寝顔を眺めた。
あの時…、リスティーナの前で服を脱ぐことにルーファスは抵抗があった。
彼女が優しい人だという事は知っている。顔の傷を見ても怖がることなく、逃げることなくルーファスを受け入れてくれた。だが…、身体の傷を見たらどう思うだろうか?
顔の傷もとても見られたものではないが身体の傷はもっと醜い。思わず目を覆いたくなる程におぞましい身体をしているのに…。
幾ら、リスティーナでもこの身体を見たらきっと…、
ルーファスは自分が狡く、卑怯な男だと自覚している。全てを曝け出さずに隠したままリスティーナを自分の物にしようとしている。そうしないと、彼女が自分から離れてしまうと思ったから…。
でも…、リスティーナの目を見ていると、何故かそれができなくなった。
醜くなんてない。自分を綺麗だと断言するリスティーナの言葉に…、大丈夫だと笑いかけてくれるリスティーナを見て…、ルーファスは思わず泣きそうになった。
リスティーナは自分の身体を見ても、目を逸らすことなく、真っ直ぐ見つめてくれた。
自分に変わらずに笑いかけてくれた。ルーファスは彼女が女神のように眩しく輝いて見えた。
初めて…、生きていて良かったと思えた。自分が生きていたのはリスティーナに出会う為だったものなのだと思った。
リスティーナの身体はどこもかしこも甘い。
雪のように白い肌も桃色の乳首も細い腰も可愛らしく喘ぐ声も蜜壺から溢れる愛液も敏感な身体も…、
全てが俺を魅了する。リスティーナの香りは甘く、男を狂わせるようなかぐわしい匂いがする。
リスティーナの全てを俺の物にしたい。誰にも渡したくない。
その想いはリスティーナを抱いた今でも強まるばかり…。
いつからだろう。こんなにもリスティーナを強く求めるようになったのは…。
初めてリスティーナを抱いた時から?リスティーナが俺を優しいと言ってくれた時から?
もしかしたら、それよりももっと前から惹かれていたのかもしれない。
ルーファスはじっとリスティーナの寝顔を見つめた。
リスティーナはスヤスヤと眠っている。
今は…、まだ…、彼女にこの気持ちを打ち明けることはできない。
優しいリスティーナなら、もしかしたら、自分を受け入れてくれるかもしれない。
だが…、ルーファスはリスティーナに拒絶をされるのが怖かった。
それなら、このままの関係がいい。
リスティーナは俺が生きている限り、俺の妻であることに変わりはない。
それで十分だった。
ルーファスはリスティーナの頭を優しく撫でると、そのまま彼女の隣で眠った。
その夜、ルーファスは悪夢を見ることなく、朝までぐっすりと眠ることができた。
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