冷遇され、虐げられた王女は化け物と呼ばれた王子に恋をする

林檎

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第二章 相思相愛編

パパラチアサファイアと真珠の靴

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ルーファスの部屋で食後のお茶を飲んでいると、ルーファスに話しかけられた。

「リスティーナ。君に渡したい物があるんだ。」

「私に…?」

そう言って、ルーファスから差し出されたのは、紅いリボンで包装された白い箱だった。
リボンを解いて中身を開けると、中にはピンクの宝石と真珠であしらわれた靴が出てきた。

「まあ…!何て素敵な靴…!」

リスティーナは目を輝かせた。綺麗…。華やかでいて、上品な靴。こんな素敵な靴、初めて見た。

「こんな素敵な物、私が頂いてもいいのでしょうか?」

「君の為に用意した物だ。受け取ってくれ。」

「ありがとうございます。ルーファス様。大切にします…。」

嬉しそうにお礼を言うリスティーナにルーファスは安堵したように表情を和らげた。

「私、こんなに綺麗な宝石は初めて見ました。こちらは真珠ですよね?このピンクの宝石は…?」

「パパラチアサファイヤだ。蓮の花という意味を持つらしい。その…、君に似合うかと思って…。」

「パパラチアサファイア!?それって、サファイアの中でも、最も美しいといわれているあの…?」

パパラチアサファイア。聞いたことがある。サファイアというと、青が定番だが、このパパラチアサファイアはピンク色をしている。甘く、花開く蓮の花の色に似ていることから、別名、「蓮の花」と呼ばれている。
オレンジを帯びた優しい色合いのピンクは華やかでいて、気品があると女性達の間では人気が高い。
けれど、この宝石は希少性が高い為、中々手に入らないと聞く。そんな高価な宝石を使った贈り物を下さるなんて…。今までこんな高価な贈り物を貰ったことがないリスティーナは狼狽えた。

「サイズは確認しているから、合っているとは思うが…、実際は履いてみないと分からないからな。良かったら、履いてみてくれないか?」

「よ、よろしいのですか?それでは、お言葉に甘えて…。」

リスティーナは早速、靴を取り出す。が、さすがに彼の前で履き替えることはできない。殿方に足を見せるのははしたないといわれているからだ。
別室を借りてそこで履き替えよう。リスティーナがそう思っていると、不意にルーファスがそっとリスティーナの手から靴を取り上げた。え?と戸惑うリスティーナの前にルーファスは跪くような姿勢で床に膝をついた。そんなルーファスの姿にリスティーナはギョッとした。

「では、靴を脱がすから、足を出してくれ。」

「え、ええ!?そ、そんな…!ルーファス様にそのような事させられません!靴を履く位なら、私一人でもできますから…!」

「俺がしたいだけだから、気にするな。」

「で、ですが…!」

「…嫌か?俺に触られるのは?」

ルーファスはじっとリスティーナを見つめた。その不安そうな眼差しにリスティーナはうっ、と言葉に詰まった。そんな顔…、しないで欲しい。

「い、嫌だなんてそんな事は…、」

「そうか。」

ルーファスはホッとしたように笑った。リスティーナの胸がまた、キュン、と高鳴った。
結局、ルーファスを拒むこともできずにリスティーナはそのまま彼の言葉に従った。
靴を脱がされ、そのまま足首を掴まれる。わ、私…、何て事をルーファス様にさせているんだろう。
私がルーファス様に跪くのなら、まだしも、夫である彼にこんな事をさせるなんて…!
しかも、王族であるルーファス様に膝をつかせて、こんな使用人のような真似事をさせてしまうだなんて…!
実際は、ルーファスから言い出した事なのだが、既に頭がいっぱいいっぱいのリスティーナはその事実を忘れてしまっていた。

「君は足も細くて、白いんだな。」

スルッと足首を撫でられ、リスティーナはピクッと反応してしまう。
やだ…。私…、ルーファス様に触られただけなのにどうして、こんな…。ルーファスはリスティーナの踵を持ち上げて、そのまま靴を履かした。

「サイズは大丈夫そうだな。履き心地はどうだ?」

「は、はい。ぴったりです。」

ドキドキしながら、リスティーナは何とかそう答えた。改めて、自分が履いた靴を見下ろす。
わあ…。綺麗…。まるで魔法の靴みたいにキラキラと輝いて見える。
試しに室内を歩いてみる。新しい靴。しかも、ルーファス様から貰った靴。それだけでとても幸せな気持ちになる。不思議…。

「凄く歩きやすいです。ありがとうございます!ルーファス様。」

「気に入ったか?」

「はい!」

リスティーナの満面の笑みにルーファスは優しく微笑み返してくれた。

「でも…、本当にいいのですか?特別な日でもないのにこんな物を頂いてしまって…。」

「そんな事、気にするな。これは、その…、昨夜の詫びの印でもあるんだ。昨夜は君の体調も考えずに無理をさせてしまったからな。…その、身体の方は大丈夫か?」

「大丈夫ですよ。しっかりと休んだのでもう何ともありません。」

「そうか。それなら、いい。実は、俺も朝になってから気づいたんだが、君の首や胸元にたくさんのキスマークが残ってしまっていたな。その…、悪かった。最初は少しだけのつもりが、気付いたら夢中になって君の肌に跡をつけてしまって…、」

心底、反省した様子で謝るルーファスにリスティーナは慌てた。

「い、いえ!そんな…!わ、私は全然気にしていませんから…。さ、さすがに他人に見られるのは恥ずかしいのでこうして、隠してはいますが…。」

リスティーナは必死に自分は嫌ではなかったと言い募った。

「君は優しいな。だが、あまり軽々しくそんな事は言わない方がいい。男というのは、すぐに勘違いをしてしまう。俺も例外じゃない。君の言葉を真に受けて、もっとしてもいいのだと思ってしまうのだから。」

「わ、私は別に軽々しい気持ちで言った訳じゃないです…。ルーファス様になら…、私…。何をされても大丈夫ですから…。」

好きな人になら、何をされても嬉しいと思ってしまう。
このキスマークだってルーファス様から与えられたものなら、愛おしくて堪らない。ずっと消えないで欲しいとさえ思ってしまう。

「っ、全く、君は…、」

ルーファスはそう呟くと、リスティーナの身体を抱き寄せ、突然、口づけた。
舌で唇をこじ開けられ、そのまま舌を絡めとられる。
リスティーナは目を閉じて、ルーファスの服の袖を掴んだ。
ルーファス様…。好き…。そのまま彼との熱い口づけを堪能していると、不意にルーファスが唇を離し、弾かれたように顔を上げ、窓の外に視線を向けた。

「…ルーファス様?」

リスティーナはルーファスの反応に戸惑った。どうしたのだろうか?鋭い視線で窓の外を見つめるルーファスの視線の先を辿るがそこには、何もない。

「いや…。何でもない。」

そう言って、ルーファスはリスティーナをそっと抱き締めた。
彼の心臓の音が聞こえる。まだ彼が生きていることがどうしようもなく、嬉しい。リスティーナはそんな夢見心地な気分でルーファスの腕に身を任せた。
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