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第二章 相思相愛編
ジーナの謝罪
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「ん…?」
「姫様!ああ…!良かった!目が覚めたのですね!」
リスティーナが目を開けると、スザンヌがこちらを覗き込んでいて、涙を流して喜んでいた。
喜びのあまり、スザンヌはリスティーナに抱き着いた。
「良かった…!良かったです…!」
「スザンヌ…。」
そうだ‥。私、確か毒を飲まされて‥。
リスティーナはそっとスザンヌを抱き締め返した。
「心配かけてごめんなさい。」
「そんな事…!そんな事、気にしないで下さい!私は姫様が無事ならそれだけで…!」
「ありがとう…。」
リスティーナはスザンヌに微笑んだ。スザンヌは涙を拭い、心底安堵した表情を浮かべた。
「エルザ達にもリスティーナ様が無事に目覚めたことを伝えておきます。すごく心配していたので。」
そう言って、スザンヌは部屋を出て行った。
リスティーナは徐々にだが思い出した。
確かルーファス様が駆けつけてきてくれて‥。
あんなに苦しかったのに今はすっかりその痛みは消えている。このまま、死んでしまうかと思うくらい苦しかったのに‥、リスティーナはそっと胸に手を当てた。心臓の鼓動が手に伝わってくる。
ちゃんと生きてる。その事にホッとした。
ルーファス様は今、どうしているのだろう?
そう思っていると、
「リスティーナ様!?目が覚めたんですか!?」
スザンヌと入れ替わりで部屋に入ってきたミラがびっくりした様子で声を上げた。
後から続いたセリーも嬉しそうに顔を輝かせた。
「リスティーナ様!もう起きても大丈夫なんですか?」
「ミラ。セリーも…。ありがとう。もう、大丈夫よ。」
「良かったです。毒を盛られたって聞いた時は本当にもう駄目かと思って…!あ。そうだ。ジーナがリスティーナ様に謝りたいって言ってるんです。」
「ジーナが?謝るって何を…、」
「ジーナ!そんな所に隠れてないでこっちへ来て!リスティーナ様に謝りたいって言ってたでしょ?」
セリーの言葉に部屋の入り口に扉に隠れるようにして立っていたジーナがビクッとしたように怯えた表情を浮かべた。
「ジーナ?」
リスティーナはジーナに目を留めた。ジーナは、暗い顔でしずしずとリスティーナの前に進み出た。
そして、リスティーナに向かい、深々と頭を下げた。
「ごめんなさい!リスティーナ様!リスティーナ様が殺されかけたのは私のせいなんです!」
ジーナは涙ながらに話した。過去に王妃の侍女をしていた事、リスティーナの監視を王妃の命令でやらされていたこと、王妃の脅しが怖くて逆らえなかったこと。全てを話してくれた。
リスティーナは初めて知る事実に驚いたと同時に王妃様の陰湿なやり方に嫌悪を覚えた。
ひどい…。立場を利用して、無理矢理言う事を聞かせるなんて…。
「あ、あの!リスティーナ様!言い訳に聞こえるかもしれませんが、今回の件はジーナも望んでやっていた訳ではないんです!だから、どうか、ジーナを許してあげてはくれませんか!?」
「お、お願いします!ジーナさんは悪い人じゃないんです!新入りで意地悪な先輩に虐められていたあたしを助けてくれたこともあるし、仕事も丁寧に教えてくれるいい人なんです!クビにはしないで下さい!」
ミラとセリーはジーナを許して欲しいと懇願した。
「……。」
リスティーナはジーナがどうして、あんな怪我をしていたのか合点がいった。きっと、王妃様がジーナを鞭で打って痛めつけたのだろう。
「ジーナ。顔を上げて。」
リスティーナはジーナの手を取ると、
「あなたが謝る必要なんてない。悪いのは、私に毒を盛った王妃様なのだから。だから、そんなに自分を責めないで。あなたは何も悪くないのだから。」
「リスティーナ様…。わ、私を罰さないのですか?」
「そんな事しないわ。あなたは十分、苦しんだのだから、もうこれ以上苦しむ必要はないの。
それに、結果的に私は助かったのだもの。あなたを罰する理由はないわ。…それに、謝るのは私の方よ。あなたがそんなに苦しんでいるのに私は気付きもしなかった。…ごめんなさい。ジーナ。」
「そ、そんな…!リスティーナ様が謝るような事では…!」
謝るリスティーナにジーナは慌てた。
「あなたさえ良ければ、これからも…、私の侍女でいてくれる?」
「ッ!…はい…!はい!勿論です!これからもリスティーナ様のお傍で仕えさせて下さい!」
「ありがとう。」
ジーナの言葉にリスティーナは嬉しそうに笑った。
「良かったわね!ジーナ!ね!やっぱり、あたしの言った通りでしょう!?リスティーナ様なら、話せば分かってくれるって!」
「これで今まで通り一緒に仕事続けられますね!」
ミラとセリーは嬉しそうにはしゃぎ、ジーナに駆け寄った。この三人って本当に仲が良いのね。リスティーナは微笑ましく思った。
「姫様。今、エルザから通信が入って姫様と話がしたいと仰っているのですが…、」
「エルザが?」
戻ってきたスザンヌの言葉にリスティーナはパッと顔を輝かせた。
ここに嫁いでからエルザとは手紙のやり取りしかしていない。
私が倒れたことを聞いて、きっと、凄く心配していることだろう。
無事であることを報告したいし、久しぶりにエルザとも話がしたい。
リスティーナは快く了承した。スザンヌはすぐに通信用の鏡を持ってきた。
話をするからジーナ達には退出するようにとスザンヌは言い、三人は部屋から出て行った。
リスティーナは早速、鏡を受け取り、中を覗き込んだ。
「エルザ。」
「ティナ様!ご無事ですか!?」
鏡越しに映るエルザは今にも泣きそうな顔をしていた。
「スザンヌから聞きました!王妃に毒を盛られたって…!ああ!お労しい…!さぞかし、苦しかったことでしょう!ティナ様が倒れたと聞いた時はわたし…!わたし…!」
エルザは俯き、肩を震わせ、声を詰まらせた。
「エルザ…。」
「…王妃をこの手で殺してやるところでした。」
ぼそりと呟くエルザの声は低く、殺気を帯びていた。
「ま、まあ、エルザったら‥。冗談でもそんな物騒なことを言っては駄目よ。‥あの、今のは冗談よね?」
リスティーナはエルザの目が本気に見えて、思わず聞き返してしまう。幾ら何でも一国の王妃を殺すだなんてそんな事する筈は‥、リスティーナの言葉にエルザは俯いた顔をパッと上げると、ニコッと愛らしく微笑んだ。
「勿論、ただの冗談ですよー!わたしのようなか弱い乙女が大国の王妃に手を出すだなんて、そんな恐れ多い…!」
「そ、そうよね。」
エルザの答えにリスティーナはホッとした。
傍に控えていたスザンヌはか弱い乙女という単語に思わず口元が引き攣った。
か弱い乙女は巨大な岩を持ち上げたりしないし、林檎を片手で潰したりはしない。
そもそも、エルザは権力者だろうと誰であろうと敵とみなした相手には容赦がない。
恐れ多いという気持ちはそもそも、持ち合わせていないのだ。
顔を引き攣らせているスザンヌとは対照的にリスティーナはエルザの言葉に疑問を持つことなく、すんなりと受け入れていた。
「それより、ティナ様!以前より痩せてしまったのではありませんか?」
「そう?むしろ、メイネシアにいた頃よりも食べるようになったのだけれど‥、」
エルザの指摘にリスティーナは頰に手を当てる。そんなに痩せてるかしら?
「姫様は毒を飲んで倒れてから3日間寝込んでいたのです。ほとんど何も口にしていらっしゃらないので痩せるのも当然ですわ。」
「え、3日間も!?」
スザンヌの言葉にリスティーナはギョッとした。
私、そんなに寝てたの?
「ティナ様。もしかして、そちらで何かありましたか?他の側室から嫌がらせとか、後宮の侍女達に邪険にされているとか。それが原因で痩せたのでは…?」
ギラッ、と怪しく目を光らせるエルザにリスティーナは慌てて否定した。
「ち、違うわ!嫌がらせなんてそんな…、そんな事されてないわ。専属の侍女達は良くしてくれるし、メイネシアにいた頃と比べたら、ここは天国のような場所だわ。」
「本当に…?無理をしていませんか?」
「大丈夫よ。心配してくれて、ありがとう。エルザ。私よりも、あなたの方が心配だわ。目の下に隈があるみたいだけど、あまり眠れてないの?」
化粧で誤魔化しているがエルザの目の下には隈が薄っすらとあった。
心配するリスティーナにエルザは感激したように両手を胸の前で組んだ。
「ティナ様…!私を心配して下さるのですか!?ご自分も大変な目に遭われたというのに、私の事まで気にかけて下さるなんて、何とお優しいのでしょうか…!」
エルザはうるうると瞳を潤ませ、
「大丈夫ですわ!ティナ様が倒れたと聞いた時は、心配で心配で心配で…!夜も眠れずに必死に神と精霊様に祈りを捧げて…。ティナ様が目を覚ましたと聞いた時は私、嬉しくて…!」
「エルザ…。」
リスティーナはエルザがそこまで心配してくれていたとは思わず、胸がジーンとした。
同時にそこまで心配をかけてしまったことに申し訳なく思った。
「ありがとう…。エルザ。」
リスティーナは感謝を込めてエルザに微笑んだ。
「はうっ!」
すると、エルザは口元を押さえて、俯いた。
「て、ティナ様の笑顔…。尊い…!」とブツブツ呟くエルザ。
声が小さくて何と言っているのかよく聞こえない。
もしかして、具合でも悪いのかな?と思っていると、スザンヌがコホン、と咳払いをした。
すると、エルザはシャキッ!と背筋を伸ばして、何事もなかったようにリスティーナに向き直ると、
「し、失礼しました!ちょっと床に物を落としてしまって…、あ!そうです!私、ティナ様に渡したい物があるんです!」
「私に?」
「はい!」
エルザは何か四角い小さな箱を手に持ち、移転魔法を使い、リスティーナの元に箱を送った。
箱が消えたと思ったら、突然、目の前に消えた筈の箱が目の前に現れた。
「わあ…!すごい!エルザの魔法は本当に凄いわね…!」
エルザの魔法に目を輝かせながら、リスティーナは嬉しそうに茶色い箱を受け取った。
「て、ティナ様が…、褒めてくれた…!」
エルザは両頬に手を押さえ、うっとりとした表情を浮かべた。
そんなエルザを見ながら、スザンヌは苦笑した。
リスティーナは中身は何かな?とワクワクしながら、蓋を開けた。
中に入っていたのは、琥珀色と緑色をした小さな石だった。まるで宝石のようにキラキラと輝いている。
宝石のようだが、これは宝石じゃない。リスティーナはその石が何であるかに気付き、驚いて声を上げた。
「姫様!ああ…!良かった!目が覚めたのですね!」
リスティーナが目を開けると、スザンヌがこちらを覗き込んでいて、涙を流して喜んでいた。
喜びのあまり、スザンヌはリスティーナに抱き着いた。
「良かった…!良かったです…!」
「スザンヌ…。」
そうだ‥。私、確か毒を飲まされて‥。
リスティーナはそっとスザンヌを抱き締め返した。
「心配かけてごめんなさい。」
「そんな事…!そんな事、気にしないで下さい!私は姫様が無事ならそれだけで…!」
「ありがとう…。」
リスティーナはスザンヌに微笑んだ。スザンヌは涙を拭い、心底安堵した表情を浮かべた。
「エルザ達にもリスティーナ様が無事に目覚めたことを伝えておきます。すごく心配していたので。」
そう言って、スザンヌは部屋を出て行った。
リスティーナは徐々にだが思い出した。
確かルーファス様が駆けつけてきてくれて‥。
あんなに苦しかったのに今はすっかりその痛みは消えている。このまま、死んでしまうかと思うくらい苦しかったのに‥、リスティーナはそっと胸に手を当てた。心臓の鼓動が手に伝わってくる。
ちゃんと生きてる。その事にホッとした。
ルーファス様は今、どうしているのだろう?
そう思っていると、
「リスティーナ様!?目が覚めたんですか!?」
スザンヌと入れ替わりで部屋に入ってきたミラがびっくりした様子で声を上げた。
後から続いたセリーも嬉しそうに顔を輝かせた。
「リスティーナ様!もう起きても大丈夫なんですか?」
「ミラ。セリーも…。ありがとう。もう、大丈夫よ。」
「良かったです。毒を盛られたって聞いた時は本当にもう駄目かと思って…!あ。そうだ。ジーナがリスティーナ様に謝りたいって言ってるんです。」
「ジーナが?謝るって何を…、」
「ジーナ!そんな所に隠れてないでこっちへ来て!リスティーナ様に謝りたいって言ってたでしょ?」
セリーの言葉に部屋の入り口に扉に隠れるようにして立っていたジーナがビクッとしたように怯えた表情を浮かべた。
「ジーナ?」
リスティーナはジーナに目を留めた。ジーナは、暗い顔でしずしずとリスティーナの前に進み出た。
そして、リスティーナに向かい、深々と頭を下げた。
「ごめんなさい!リスティーナ様!リスティーナ様が殺されかけたのは私のせいなんです!」
ジーナは涙ながらに話した。過去に王妃の侍女をしていた事、リスティーナの監視を王妃の命令でやらされていたこと、王妃の脅しが怖くて逆らえなかったこと。全てを話してくれた。
リスティーナは初めて知る事実に驚いたと同時に王妃様の陰湿なやり方に嫌悪を覚えた。
ひどい…。立場を利用して、無理矢理言う事を聞かせるなんて…。
「あ、あの!リスティーナ様!言い訳に聞こえるかもしれませんが、今回の件はジーナも望んでやっていた訳ではないんです!だから、どうか、ジーナを許してあげてはくれませんか!?」
「お、お願いします!ジーナさんは悪い人じゃないんです!新入りで意地悪な先輩に虐められていたあたしを助けてくれたこともあるし、仕事も丁寧に教えてくれるいい人なんです!クビにはしないで下さい!」
ミラとセリーはジーナを許して欲しいと懇願した。
「……。」
リスティーナはジーナがどうして、あんな怪我をしていたのか合点がいった。きっと、王妃様がジーナを鞭で打って痛めつけたのだろう。
「ジーナ。顔を上げて。」
リスティーナはジーナの手を取ると、
「あなたが謝る必要なんてない。悪いのは、私に毒を盛った王妃様なのだから。だから、そんなに自分を責めないで。あなたは何も悪くないのだから。」
「リスティーナ様…。わ、私を罰さないのですか?」
「そんな事しないわ。あなたは十分、苦しんだのだから、もうこれ以上苦しむ必要はないの。
それに、結果的に私は助かったのだもの。あなたを罰する理由はないわ。…それに、謝るのは私の方よ。あなたがそんなに苦しんでいるのに私は気付きもしなかった。…ごめんなさい。ジーナ。」
「そ、そんな…!リスティーナ様が謝るような事では…!」
謝るリスティーナにジーナは慌てた。
「あなたさえ良ければ、これからも…、私の侍女でいてくれる?」
「ッ!…はい…!はい!勿論です!これからもリスティーナ様のお傍で仕えさせて下さい!」
「ありがとう。」
ジーナの言葉にリスティーナは嬉しそうに笑った。
「良かったわね!ジーナ!ね!やっぱり、あたしの言った通りでしょう!?リスティーナ様なら、話せば分かってくれるって!」
「これで今まで通り一緒に仕事続けられますね!」
ミラとセリーは嬉しそうにはしゃぎ、ジーナに駆け寄った。この三人って本当に仲が良いのね。リスティーナは微笑ましく思った。
「姫様。今、エルザから通信が入って姫様と話がしたいと仰っているのですが…、」
「エルザが?」
戻ってきたスザンヌの言葉にリスティーナはパッと顔を輝かせた。
ここに嫁いでからエルザとは手紙のやり取りしかしていない。
私が倒れたことを聞いて、きっと、凄く心配していることだろう。
無事であることを報告したいし、久しぶりにエルザとも話がしたい。
リスティーナは快く了承した。スザンヌはすぐに通信用の鏡を持ってきた。
話をするからジーナ達には退出するようにとスザンヌは言い、三人は部屋から出て行った。
リスティーナは早速、鏡を受け取り、中を覗き込んだ。
「エルザ。」
「ティナ様!ご無事ですか!?」
鏡越しに映るエルザは今にも泣きそうな顔をしていた。
「スザンヌから聞きました!王妃に毒を盛られたって…!ああ!お労しい…!さぞかし、苦しかったことでしょう!ティナ様が倒れたと聞いた時はわたし…!わたし…!」
エルザは俯き、肩を震わせ、声を詰まらせた。
「エルザ…。」
「…王妃をこの手で殺してやるところでした。」
ぼそりと呟くエルザの声は低く、殺気を帯びていた。
「ま、まあ、エルザったら‥。冗談でもそんな物騒なことを言っては駄目よ。‥あの、今のは冗談よね?」
リスティーナはエルザの目が本気に見えて、思わず聞き返してしまう。幾ら何でも一国の王妃を殺すだなんてそんな事する筈は‥、リスティーナの言葉にエルザは俯いた顔をパッと上げると、ニコッと愛らしく微笑んだ。
「勿論、ただの冗談ですよー!わたしのようなか弱い乙女が大国の王妃に手を出すだなんて、そんな恐れ多い…!」
「そ、そうよね。」
エルザの答えにリスティーナはホッとした。
傍に控えていたスザンヌはか弱い乙女という単語に思わず口元が引き攣った。
か弱い乙女は巨大な岩を持ち上げたりしないし、林檎を片手で潰したりはしない。
そもそも、エルザは権力者だろうと誰であろうと敵とみなした相手には容赦がない。
恐れ多いという気持ちはそもそも、持ち合わせていないのだ。
顔を引き攣らせているスザンヌとは対照的にリスティーナはエルザの言葉に疑問を持つことなく、すんなりと受け入れていた。
「それより、ティナ様!以前より痩せてしまったのではありませんか?」
「そう?むしろ、メイネシアにいた頃よりも食べるようになったのだけれど‥、」
エルザの指摘にリスティーナは頰に手を当てる。そんなに痩せてるかしら?
「姫様は毒を飲んで倒れてから3日間寝込んでいたのです。ほとんど何も口にしていらっしゃらないので痩せるのも当然ですわ。」
「え、3日間も!?」
スザンヌの言葉にリスティーナはギョッとした。
私、そんなに寝てたの?
「ティナ様。もしかして、そちらで何かありましたか?他の側室から嫌がらせとか、後宮の侍女達に邪険にされているとか。それが原因で痩せたのでは…?」
ギラッ、と怪しく目を光らせるエルザにリスティーナは慌てて否定した。
「ち、違うわ!嫌がらせなんてそんな…、そんな事されてないわ。専属の侍女達は良くしてくれるし、メイネシアにいた頃と比べたら、ここは天国のような場所だわ。」
「本当に…?無理をしていませんか?」
「大丈夫よ。心配してくれて、ありがとう。エルザ。私よりも、あなたの方が心配だわ。目の下に隈があるみたいだけど、あまり眠れてないの?」
化粧で誤魔化しているがエルザの目の下には隈が薄っすらとあった。
心配するリスティーナにエルザは感激したように両手を胸の前で組んだ。
「ティナ様…!私を心配して下さるのですか!?ご自分も大変な目に遭われたというのに、私の事まで気にかけて下さるなんて、何とお優しいのでしょうか…!」
エルザはうるうると瞳を潤ませ、
「大丈夫ですわ!ティナ様が倒れたと聞いた時は、心配で心配で心配で…!夜も眠れずに必死に神と精霊様に祈りを捧げて…。ティナ様が目を覚ましたと聞いた時は私、嬉しくて…!」
「エルザ…。」
リスティーナはエルザがそこまで心配してくれていたとは思わず、胸がジーンとした。
同時にそこまで心配をかけてしまったことに申し訳なく思った。
「ありがとう…。エルザ。」
リスティーナは感謝を込めてエルザに微笑んだ。
「はうっ!」
すると、エルザは口元を押さえて、俯いた。
「て、ティナ様の笑顔…。尊い…!」とブツブツ呟くエルザ。
声が小さくて何と言っているのかよく聞こえない。
もしかして、具合でも悪いのかな?と思っていると、スザンヌがコホン、と咳払いをした。
すると、エルザはシャキッ!と背筋を伸ばして、何事もなかったようにリスティーナに向き直ると、
「し、失礼しました!ちょっと床に物を落としてしまって…、あ!そうです!私、ティナ様に渡したい物があるんです!」
「私に?」
「はい!」
エルザは何か四角い小さな箱を手に持ち、移転魔法を使い、リスティーナの元に箱を送った。
箱が消えたと思ったら、突然、目の前に消えた筈の箱が目の前に現れた。
「わあ…!すごい!エルザの魔法は本当に凄いわね…!」
エルザの魔法に目を輝かせながら、リスティーナは嬉しそうに茶色い箱を受け取った。
「て、ティナ様が…、褒めてくれた…!」
エルザは両頬に手を押さえ、うっとりとした表情を浮かべた。
そんなエルザを見ながら、スザンヌは苦笑した。
リスティーナは中身は何かな?とワクワクしながら、蓋を開けた。
中に入っていたのは、琥珀色と緑色をした小さな石だった。まるで宝石のようにキラキラと輝いている。
宝石のようだが、これは宝石じゃない。リスティーナはその石が何であるかに気付き、驚いて声を上げた。
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