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第二章 相思相愛編
呪いを解く鍵
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「正直言って、ルーファス王子はよく持ち堪えている方だと思います。この呪いは過去の実例を見る限り、平均寿命は十歳前後。生きているのが不思議な位です。」
「そんな…。一人も助かった子はいないの?」
エルザは首を横に振った。
「わたしが把握している限りは一人もいません。その原因も…、不明のままです。」
原因さえ分かれば何か手掛かりが掴めるかと思ったのに…。リスティーナは落胆した。
「呪術者を探そうにも手がかりがないですし…、これ程の強力な呪いは見たことがありません。もしかしたら、術者は既に亡くなっている可能性もあります。」
「え、そうなの?でも、術者が亡くなったら、呪いは消滅するんじゃ…、」
「普通はそうです。でも、強力な呪いは術者が死してなお、消えない呪いも存在します。それに、呪術の中には術者が自らの命と引き換えに呪いを発動するという例もあります。もしかしたら、ルーファス王子の呪いもそういった類の呪いかもしれません。」
「自分の命と引き換えに?ど、どうしてルーファス様にそんな恐ろしい呪いを…?」
「これはあくまでわたしの推測ですけど…、ルーファス王子が呪いにかかる前は、彼は王位継承権第一位だったと聞いたことがあります。あのハロルド皇帝もルーファス王子を次期皇帝に指名しようと考えていたとか。もしかして、ルーファス王子が呪われたのは、彼が次期皇帝に選ばれるのを阻止するために何者かがしたことなのでは?」
「ルーファス様が王位継承権第一位!?」
「はい。彼は第二王子ではありますが、第一王子は側室の子。正妃の子であるルーファス王子の方が次期皇帝にふさわしいと多くの貴族がルーファス王子を支持していたそうです。」
確かに…。エルザの言葉は最もだ。
血筋と家柄を重んじる貴族達からすれば、ルーファス様は正統な王位継承者。ルーファス様を支持するのは自然な事だ。側室の子というだけで王位継承権が与えられない王族もいる位だし。
王妃様は人間性に問題はあるが出自は他国の王女だ。
その息子であるルーファス様も高貴な血筋の持ち主なのだから。
「何より、ルーファス王子は兄王子よりも遥かに優秀だったみたいです。
生まれた時から高い魔力を持ち、頭脳明晰で幼い頃から神童と謳われていたとか。
それに、剣の腕も優秀だったみたいです。六才で剣を習い始めたらしいですけど、兄王子との初めての手合わせでルーファス王子は一撃でダグラス王子を倒してしまったとか。
そんなルーファス王子を先代皇帝の時代から仕えている重臣達はケルヴィン皇帝の再来だって、ルーファス王子を持て囃したそうです。」
「そうだったの…。ルーファス様ってそんなに凄い能力があったのね。」
魔力もあって、頭も良く、剣の腕も強いだなんて、凄すぎる。まさに完全無欠の王子様だ。
呪いにかからなければ、次期皇帝として期待されていただろうに…。
リスティーナはルーファスの置かれた境遇を思うと、胸が痛んだ。
呪いによって、ルーファス様は輝かしい未来を失ってしまった。
エルザの言っていたことが本当なら、ルーファス様に悪意を持って誰かが呪いをかけたということになる。もし、それが事実だったとしたら、何て酷い!ルーファス様の人生を何だと思っているのだろうか。
「ローゼンハイムはルーファス王子を含め、四人の王子がいます。他の王子を支持する貴族の誰かか、貴族派。もしくは、他国の人間の仕業か…。
ああいう王宮では王位を巡って血みどろな陰謀や争いが絶えませんし…。
そういえば、ハロルド皇帝の妾や側室が流産したという話もよく耳にします。」
「そうなの?」
「はい。しかも、流産した女は一人や二人じゃありませんし。あまりにも不自然すぎます。真相は不明ですけど、きな臭い匂いがしますね。」
エルザの言う通りだ。
リスティーナは立場上、そういった争いとは無縁で過ごしてきた。
リスティーナは王女であるし、側室の子だから王位継承権もない。王妃や姉王女に嫌がらせをされたりはしたが、命を狙われたことはなかった。…危うく死にかけたことはあったが。でも、それは殺意を抱いた犯行ではなかった。
つまり、ルーファス様は何らかの陰謀に巻き込まれ、狙われたという事?
「でも、これはあくまでもわたしの推測なので…。確信はありません。…あ。そうだ。ティナ様。話を戻しますけど、呪いを解く方法として、もう一つだけ方法があります。闇属性の魔力保持者からの協力が得られればもしかしたら、呪いを解けるかもしれません。」
「闇属性の?闇の属性持ちなら、呪いを解くことができるの?」
「はい。闇属性持ちは、呪いを解除する魔法が使えるそうです。ただ、闇魔法の使い手は千年に一人しか生まれないと聞くので見つかるかどうか…、」
闇の属性持ちは光の属性持ちよりも少なく、希少な存在だ。
光魔法の使い手は百年に一人しか生まれないと言われているが闇魔法の使い手は千年に一人しか生まれないといわれている。
何せ、最後に闇属性持ちが確認されているのは千年も前の話だ。
最後に闇魔法の使い手として有名なのは、闇の勇者、クリームヒルト。
三代目の闇の勇者として名を残した女性。勇者に選ばれるのは男であることが多い中、女性である彼女が勇者として選ばれた。歴代勇者の中でも女性が選ばれることはとても珍しい事だった。
しかし、彼女の死後、闇魔法の使い手は未だに見つかっていない。
絶望的な状況にリスティーナは落ち込んだ。
「ティナ様。私の方でも探ってみますから、どうか気を落とさずに。」
「エルザ…。ありがとう。」
エルザがいなければこの事実にも気付かなかった。少しずつ手がかりを掴めている気がする。
でも、ルーファス様に残された時間は少ない。
「とりあえず、今後はルーファス王子が力を使わないように注意して下さい。多分ですけど、この呪いは力を使えば使う程、寿命を削っているみたいなので。」
「分かったわ。」
エルザの言葉にリスティーナは頷いた。
「ティナ様。無事だったとはいえ、まだお疲れでしょう?ルーファス王子の呪いについては、わたしも調べておきますから、ティナ様はゆっくりお休みください!…スザンヌ。ちょっと相談があるんだけどいいかしら?」
リスティーナには明るい笑顔で言うが、スザンヌに話しかける声はどこか低く、冷たく聞こえる。口元は笑っているが目が笑っていない。スザンヌは思わず、ヒッ!と悲鳴を上げそうになった。
全力で拒否したかった。だって、目を見ればすぐに分かる。エルザ、すごい怒っている…。
スザンヌは今すぐ逃げ出したかった。だが、そんな事すれば後が怖い。だから、スザンヌは覚悟を決めた。
「わ、分かったわ。で、では、姫様。私は少し失礼しますね。姫様はゆっくり休んで下さいませ。」
「ありがとう。スザンヌ。」
リスティーナは重い足取りの落ち込んだ様子のスザンヌを不思議がりながら見送った。
何だか元気なかったけど大丈夫かしら?もしかして、私を看病したせいで疲れちゃったのかな?
悪い事をしてしまった。スザンヌには後日、お休みをたくさんあげないと…。
リスティーナは見当違いの勘違いをして、再び横になった。
ルーファス様…。今夜、来て下さるかしら?後でスザンヌに聞いてみよう。
次にルーファス様に会ったら、お礼を言わないと…。
リスティーナはそんな事を考えながら、そっと目を閉じた。
「何よあれは!?ルーファス王子…!一体、どんな手を使って、姫様を誑かしたの!」
リスティーナの部屋から出て行った直後、エルザはスザンヌに噛みついた。鏡越しでもエルザの怒りが伝わってくる。怖い。怖すぎる。目が殺気に満ち溢れている。
「え、エルザ。ちょっと落ち着いて…、」
「落ち着けですって!?これが落ち着いていられる!?ルーファス王子め…!よくも、わたしの姫様に…!許せない!」
ガジガジと爪を噛んで怒りを顕わにするエルザにスザンヌは、
「あ、あのね。エルザ。でも、ルーファス殿下は…、」
「そもそも!スザンヌ!あなたがいながら、どうして姫様があんな状態になってしまったの!あなた、一体今まで何していたの!どうせ、そいつも今までの男達と一緒で姫様の顔と身体が目当てなんでしょ!」
「ッ、違うわ!エルザ。あなた、間違っている。」
スザンヌの否定の言葉にエルザは眉を顰めた。
「どういう意味?」
「あたしも…、つい最近までは姫様の気持ちが分からなかった。でもね…、傍にいれば分かるのよ。姫様がどれだけ殿下を慕っているのかが。目が、表情が、言葉が全てを語っているの。でも、それは姫様だけじゃない。きっと、殿下も同じ気持ちを姫様に抱いているのだと思うの…。あの二人は両想いなんじゃないかって。」
「あの冷酷王子が?ハッ!スザンヌ!あなた、自分が何を言っているのか分かっているの!?あいつは、大国の王子なのよ!貴族や王族が今まで姫様に何をしたのか忘れたの!?」
「エルザ!確かにルーファス殿下は今まで姫様を虐げた人達と同じ立場の人間よ。でも!殿下は確かに初めは姫様に冷たかったけど、理不尽に虐げたことは一度もなかったし、姫様を人並みに扱ってくれているわ!平民の血を引いているとか、小国の王女だからといって蔑んだことは一度もなかった!」
エルザは無表情のまま、黙ってスザンヌの話を聞いた。
「だから、姫様は殿下に惹かれたのよ。それに、あなただって気づいているのでしょう?
姫様が顔や身体目当ての男なんかに惑わされたりしないって。
今までそういった男達に酷い目に遭わされた姫様がそんな下心を持った男達に惹かれる筈がない。
殿下が本当に顔と身体目当てなら、姫様に幾らでも無理強いできる立場にある。でも、彼はそれを強要しない。そんな人、今までいた?」
「フン!どうだが。それもそいつの策略なんじゃないの?」
エルザはスザンヌの言葉を聞いても警戒心を露にして、ルーファスへの不信と疑念を隠そうともしない。
「それに、ルーファス王子って噂じゃ女に相手にされてないんでしょう?本当は姫様でなくても、女なら、誰でも良かったんじゃないの?たまたま近くにいたのが姫様で手を出しやすかっただけとか。姫様は優しいから…。そこに付け込んだとしか思えないわ。」
「エルザ。殿下はそんな人じゃないわ。それにあなた、殿下の事何も知らないでしょう。よく知りもしないのに相手をこうだと決めつけるのはよくないことだわ。そうでしょう?」
「っ…、そこで姫様の言葉を持ち出すのは狡いわよ。」
「エルザの気持ちはあたしも分かるわ。あたしもずっと殿下を疑っていたから。本当に姫様を彼に任せてもいいのかって。姫様の秘密を知っても尚、姫様を守ってくれるという確信はなかった。秘密を知ったら、殿下は姫様に牙を剥くんじゃないかって…。」
エルザはふと、リスティーナの会話を思い出した。
古代ルーミティナ国の歴史に通じており、巫女の知識もあるルーファス王子。
リスティーナはああ言っていたが、巫女に詳しいのはやはり、巫女狩りと同じ思想を持っているのではないか。まさか、その王子、姫様の秘密に気づいたんじゃ…、
「ルーファス王子は姫様の秘密に勘づいてないでしょうね?」
「ええ。今のところは。」
エルザはガリッと爪を噛んだ。ルーファス王子はあのローザの婚約者だった男。油断は禁物だ。何とかバレないように手を打たないと…。
「厄介だわ…。まさか、あの王子が巫女に詳しいだなんて…。まずいわね。そいつが姫様の正体に気付いたら…、」
「ねえ、エルザ。一つ相談があるのだけれど…、」
「相談?」
「その…、姫様の秘密を殿下に話してみるのはどう?」
「何ですって!?スザンヌ!あなた、正気!?」
スザンヌの言葉にエルザは目を剥いた。
「姫様を危険に晒す気!?そいつが姫様の血肉を求めて、姫様を殺したらどうするの!最悪、死よりも苦しい目に遭わされるかもしれないのよ!あなたは姫様を殺すつもり!?」
「でも…、エルザ。殿下は本当に姫様の事を…、」
「百歩譲って、本当にそいつが姫様を好きだという気持ちが本物だったとしても、そんなの今だけよ!
人間ってのは、自分の欲望の為なら、何でもする浅ましい生き物なの!
姫様の秘密に気付いたら、ルーファス王子は自分の呪いを解くために姫様を殺すかもしれない。そんなの、絶対に許さないわ!」
「殿下はそんな事しないわ!だって、殿下は…!自分の身を顧みることなく、姫様の命を救ってくれたのよ!?」
「…何ですって?」
「ごめん。もっと早くに話すべきだったんだけど…、あの時のあなた姫様の容態しか確認しなかったし、全然話を聞いてくれるような状態じゃなかったから…。」
スザンヌはそう言って、謝った。
「どういうこと?」
「実は…、」
スザンヌはエルザに何があったのかを話した。
「そんな…。一人も助かった子はいないの?」
エルザは首を横に振った。
「わたしが把握している限りは一人もいません。その原因も…、不明のままです。」
原因さえ分かれば何か手掛かりが掴めるかと思ったのに…。リスティーナは落胆した。
「呪術者を探そうにも手がかりがないですし…、これ程の強力な呪いは見たことがありません。もしかしたら、術者は既に亡くなっている可能性もあります。」
「え、そうなの?でも、術者が亡くなったら、呪いは消滅するんじゃ…、」
「普通はそうです。でも、強力な呪いは術者が死してなお、消えない呪いも存在します。それに、呪術の中には術者が自らの命と引き換えに呪いを発動するという例もあります。もしかしたら、ルーファス王子の呪いもそういった類の呪いかもしれません。」
「自分の命と引き換えに?ど、どうしてルーファス様にそんな恐ろしい呪いを…?」
「これはあくまでわたしの推測ですけど…、ルーファス王子が呪いにかかる前は、彼は王位継承権第一位だったと聞いたことがあります。あのハロルド皇帝もルーファス王子を次期皇帝に指名しようと考えていたとか。もしかして、ルーファス王子が呪われたのは、彼が次期皇帝に選ばれるのを阻止するために何者かがしたことなのでは?」
「ルーファス様が王位継承権第一位!?」
「はい。彼は第二王子ではありますが、第一王子は側室の子。正妃の子であるルーファス王子の方が次期皇帝にふさわしいと多くの貴族がルーファス王子を支持していたそうです。」
確かに…。エルザの言葉は最もだ。
血筋と家柄を重んじる貴族達からすれば、ルーファス様は正統な王位継承者。ルーファス様を支持するのは自然な事だ。側室の子というだけで王位継承権が与えられない王族もいる位だし。
王妃様は人間性に問題はあるが出自は他国の王女だ。
その息子であるルーファス様も高貴な血筋の持ち主なのだから。
「何より、ルーファス王子は兄王子よりも遥かに優秀だったみたいです。
生まれた時から高い魔力を持ち、頭脳明晰で幼い頃から神童と謳われていたとか。
それに、剣の腕も優秀だったみたいです。六才で剣を習い始めたらしいですけど、兄王子との初めての手合わせでルーファス王子は一撃でダグラス王子を倒してしまったとか。
そんなルーファス王子を先代皇帝の時代から仕えている重臣達はケルヴィン皇帝の再来だって、ルーファス王子を持て囃したそうです。」
「そうだったの…。ルーファス様ってそんなに凄い能力があったのね。」
魔力もあって、頭も良く、剣の腕も強いだなんて、凄すぎる。まさに完全無欠の王子様だ。
呪いにかからなければ、次期皇帝として期待されていただろうに…。
リスティーナはルーファスの置かれた境遇を思うと、胸が痛んだ。
呪いによって、ルーファス様は輝かしい未来を失ってしまった。
エルザの言っていたことが本当なら、ルーファス様に悪意を持って誰かが呪いをかけたということになる。もし、それが事実だったとしたら、何て酷い!ルーファス様の人生を何だと思っているのだろうか。
「ローゼンハイムはルーファス王子を含め、四人の王子がいます。他の王子を支持する貴族の誰かか、貴族派。もしくは、他国の人間の仕業か…。
ああいう王宮では王位を巡って血みどろな陰謀や争いが絶えませんし…。
そういえば、ハロルド皇帝の妾や側室が流産したという話もよく耳にします。」
「そうなの?」
「はい。しかも、流産した女は一人や二人じゃありませんし。あまりにも不自然すぎます。真相は不明ですけど、きな臭い匂いがしますね。」
エルザの言う通りだ。
リスティーナは立場上、そういった争いとは無縁で過ごしてきた。
リスティーナは王女であるし、側室の子だから王位継承権もない。王妃や姉王女に嫌がらせをされたりはしたが、命を狙われたことはなかった。…危うく死にかけたことはあったが。でも、それは殺意を抱いた犯行ではなかった。
つまり、ルーファス様は何らかの陰謀に巻き込まれ、狙われたという事?
「でも、これはあくまでもわたしの推測なので…。確信はありません。…あ。そうだ。ティナ様。話を戻しますけど、呪いを解く方法として、もう一つだけ方法があります。闇属性の魔力保持者からの協力が得られればもしかしたら、呪いを解けるかもしれません。」
「闇属性の?闇の属性持ちなら、呪いを解くことができるの?」
「はい。闇属性持ちは、呪いを解除する魔法が使えるそうです。ただ、闇魔法の使い手は千年に一人しか生まれないと聞くので見つかるかどうか…、」
闇の属性持ちは光の属性持ちよりも少なく、希少な存在だ。
光魔法の使い手は百年に一人しか生まれないと言われているが闇魔法の使い手は千年に一人しか生まれないといわれている。
何せ、最後に闇属性持ちが確認されているのは千年も前の話だ。
最後に闇魔法の使い手として有名なのは、闇の勇者、クリームヒルト。
三代目の闇の勇者として名を残した女性。勇者に選ばれるのは男であることが多い中、女性である彼女が勇者として選ばれた。歴代勇者の中でも女性が選ばれることはとても珍しい事だった。
しかし、彼女の死後、闇魔法の使い手は未だに見つかっていない。
絶望的な状況にリスティーナは落ち込んだ。
「ティナ様。私の方でも探ってみますから、どうか気を落とさずに。」
「エルザ…。ありがとう。」
エルザがいなければこの事実にも気付かなかった。少しずつ手がかりを掴めている気がする。
でも、ルーファス様に残された時間は少ない。
「とりあえず、今後はルーファス王子が力を使わないように注意して下さい。多分ですけど、この呪いは力を使えば使う程、寿命を削っているみたいなので。」
「分かったわ。」
エルザの言葉にリスティーナは頷いた。
「ティナ様。無事だったとはいえ、まだお疲れでしょう?ルーファス王子の呪いについては、わたしも調べておきますから、ティナ様はゆっくりお休みください!…スザンヌ。ちょっと相談があるんだけどいいかしら?」
リスティーナには明るい笑顔で言うが、スザンヌに話しかける声はどこか低く、冷たく聞こえる。口元は笑っているが目が笑っていない。スザンヌは思わず、ヒッ!と悲鳴を上げそうになった。
全力で拒否したかった。だって、目を見ればすぐに分かる。エルザ、すごい怒っている…。
スザンヌは今すぐ逃げ出したかった。だが、そんな事すれば後が怖い。だから、スザンヌは覚悟を決めた。
「わ、分かったわ。で、では、姫様。私は少し失礼しますね。姫様はゆっくり休んで下さいませ。」
「ありがとう。スザンヌ。」
リスティーナは重い足取りの落ち込んだ様子のスザンヌを不思議がりながら見送った。
何だか元気なかったけど大丈夫かしら?もしかして、私を看病したせいで疲れちゃったのかな?
悪い事をしてしまった。スザンヌには後日、お休みをたくさんあげないと…。
リスティーナは見当違いの勘違いをして、再び横になった。
ルーファス様…。今夜、来て下さるかしら?後でスザンヌに聞いてみよう。
次にルーファス様に会ったら、お礼を言わないと…。
リスティーナはそんな事を考えながら、そっと目を閉じた。
「何よあれは!?ルーファス王子…!一体、どんな手を使って、姫様を誑かしたの!」
リスティーナの部屋から出て行った直後、エルザはスザンヌに噛みついた。鏡越しでもエルザの怒りが伝わってくる。怖い。怖すぎる。目が殺気に満ち溢れている。
「え、エルザ。ちょっと落ち着いて…、」
「落ち着けですって!?これが落ち着いていられる!?ルーファス王子め…!よくも、わたしの姫様に…!許せない!」
ガジガジと爪を噛んで怒りを顕わにするエルザにスザンヌは、
「あ、あのね。エルザ。でも、ルーファス殿下は…、」
「そもそも!スザンヌ!あなたがいながら、どうして姫様があんな状態になってしまったの!あなた、一体今まで何していたの!どうせ、そいつも今までの男達と一緒で姫様の顔と身体が目当てなんでしょ!」
「ッ、違うわ!エルザ。あなた、間違っている。」
スザンヌの否定の言葉にエルザは眉を顰めた。
「どういう意味?」
「あたしも…、つい最近までは姫様の気持ちが分からなかった。でもね…、傍にいれば分かるのよ。姫様がどれだけ殿下を慕っているのかが。目が、表情が、言葉が全てを語っているの。でも、それは姫様だけじゃない。きっと、殿下も同じ気持ちを姫様に抱いているのだと思うの…。あの二人は両想いなんじゃないかって。」
「あの冷酷王子が?ハッ!スザンヌ!あなた、自分が何を言っているのか分かっているの!?あいつは、大国の王子なのよ!貴族や王族が今まで姫様に何をしたのか忘れたの!?」
「エルザ!確かにルーファス殿下は今まで姫様を虐げた人達と同じ立場の人間よ。でも!殿下は確かに初めは姫様に冷たかったけど、理不尽に虐げたことは一度もなかったし、姫様を人並みに扱ってくれているわ!平民の血を引いているとか、小国の王女だからといって蔑んだことは一度もなかった!」
エルザは無表情のまま、黙ってスザンヌの話を聞いた。
「だから、姫様は殿下に惹かれたのよ。それに、あなただって気づいているのでしょう?
姫様が顔や身体目当ての男なんかに惑わされたりしないって。
今までそういった男達に酷い目に遭わされた姫様がそんな下心を持った男達に惹かれる筈がない。
殿下が本当に顔と身体目当てなら、姫様に幾らでも無理強いできる立場にある。でも、彼はそれを強要しない。そんな人、今までいた?」
「フン!どうだが。それもそいつの策略なんじゃないの?」
エルザはスザンヌの言葉を聞いても警戒心を露にして、ルーファスへの不信と疑念を隠そうともしない。
「それに、ルーファス王子って噂じゃ女に相手にされてないんでしょう?本当は姫様でなくても、女なら、誰でも良かったんじゃないの?たまたま近くにいたのが姫様で手を出しやすかっただけとか。姫様は優しいから…。そこに付け込んだとしか思えないわ。」
「エルザ。殿下はそんな人じゃないわ。それにあなた、殿下の事何も知らないでしょう。よく知りもしないのに相手をこうだと決めつけるのはよくないことだわ。そうでしょう?」
「っ…、そこで姫様の言葉を持ち出すのは狡いわよ。」
「エルザの気持ちはあたしも分かるわ。あたしもずっと殿下を疑っていたから。本当に姫様を彼に任せてもいいのかって。姫様の秘密を知っても尚、姫様を守ってくれるという確信はなかった。秘密を知ったら、殿下は姫様に牙を剥くんじゃないかって…。」
エルザはふと、リスティーナの会話を思い出した。
古代ルーミティナ国の歴史に通じており、巫女の知識もあるルーファス王子。
リスティーナはああ言っていたが、巫女に詳しいのはやはり、巫女狩りと同じ思想を持っているのではないか。まさか、その王子、姫様の秘密に気づいたんじゃ…、
「ルーファス王子は姫様の秘密に勘づいてないでしょうね?」
「ええ。今のところは。」
エルザはガリッと爪を噛んだ。ルーファス王子はあのローザの婚約者だった男。油断は禁物だ。何とかバレないように手を打たないと…。
「厄介だわ…。まさか、あの王子が巫女に詳しいだなんて…。まずいわね。そいつが姫様の正体に気付いたら…、」
「ねえ、エルザ。一つ相談があるのだけれど…、」
「相談?」
「その…、姫様の秘密を殿下に話してみるのはどう?」
「何ですって!?スザンヌ!あなた、正気!?」
スザンヌの言葉にエルザは目を剥いた。
「姫様を危険に晒す気!?そいつが姫様の血肉を求めて、姫様を殺したらどうするの!最悪、死よりも苦しい目に遭わされるかもしれないのよ!あなたは姫様を殺すつもり!?」
「でも…、エルザ。殿下は本当に姫様の事を…、」
「百歩譲って、本当にそいつが姫様を好きだという気持ちが本物だったとしても、そんなの今だけよ!
人間ってのは、自分の欲望の為なら、何でもする浅ましい生き物なの!
姫様の秘密に気付いたら、ルーファス王子は自分の呪いを解くために姫様を殺すかもしれない。そんなの、絶対に許さないわ!」
「殿下はそんな事しないわ!だって、殿下は…!自分の身を顧みることなく、姫様の命を救ってくれたのよ!?」
「…何ですって?」
「ごめん。もっと早くに話すべきだったんだけど…、あの時のあなた姫様の容態しか確認しなかったし、全然話を聞いてくれるような状態じゃなかったから…。」
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