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第三章 立志編
ミルク粥
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「うあああああああ!」
「ルーファス様!」
飛び起きたルーファスはハアハア、と肩で息をした。
汗が身体に張り付いて気持ち悪い。手が震える。
…手?ルーファスはバッと自分の手を見つめた。手がある。両腕どちらも。傷一つついてない。
ルーファスはまじまじと自分の両手を見つめる。
そうだ!足は…!慌てて、掛け布を捲ると、足も付け根から爪先までちゃんとある。
「ルーファス様。あの…、大丈夫ですか?ずっと魘されていたみたいですけど…、また悪い夢でも…?」
「夢…。」
リスティーナの声にルーファスは呆然と呟いた。
あれは夢だったのか?あんなにも…、生々しく、強烈な感覚がしたのに…?
まるで現実に起こったような痛みだった。今も腕と足が疼くような痛みがする。
本当にあれは夢なのか?
ルーファスはあの時の血の匂いと手足を失った感触を思い出し、吐き気を催した。
「うっ…!」
思わず口を手で抑える。リスティーナは慌てて、嘔吐用の器と水を持ってきた。
「ルーファス様!こちらを!」
リスティーナが持ってきた器にルーファスはえずき、嘔吐した。
リスティーナはそんなルーファスの背中を懸命に摩り、心配そうに見つめている。
「ルーファス様。よろしければ、これで口の中をゆすいでください。」
リスティーナが差し出した水の入ったグラスを受け取り、口の中をゆすいだ。
気持ちが悪い…。頭がくらくらする。
「すまない…。みっともない所を見せたな。」
「そんな事…!ルーファス様にみっともない所なんてありません。それに、ルーファス様は私が倒れた時もこうして、看病して下さったではありませんか。」
そう言って、リスティーナは嫌な顔一つせず、ルーファスの吐物で汚れた口元をハンカチで拭ってくれる。ルーファスの顔色を見て、リスティーナはルーファスの顔を両手で包み込むように挟むと、心配そうに眉根を寄せた。
「ルーファス様。何だか顔色がすごく青白くなっています。唇も真っ青ですし…。もしかしたら、貧血かもしれません。お医者様をお呼びしましょうか?」
「…大丈夫、だ。休めば治るから…。」
「でも…、」
「それより、リスティーナ。手を繋いでいてくれないか…?」
リスティーナはルーファスに言われるがままに手を握った。
「ルーファス様。さっきは随分と魘されていたみたいですけど…、一体どんな夢を…?もしかして、また怖い亡霊達に襲われていたのですか?」
リスティーナは以前、ルーファスが自分が見た悪夢について話してくれた時にそう言っていたことを思い出し、ルーファスに訊ねた。
「今度の夢は…、両手と両脚を斬られた夢だった。」
「ッ!両手と両脚を…!?」
「暗闇の中で…、風を切るような音がしたと思ったら…、俺は手足を失っていた。あの感触が妙に生々しくて、忘れられない。」
ルーファスは天井を見つめながら、そう呟き、リスティーナに視線を移した。
「たかが、夢ごときでこんなに怯えるだなんて俺は情けない男だ。」
「そんな事ありません!誰だって、そんな夢を見たら、怖いに決まっています!わ、私だって、怖い夢を見て、ルーファス様の前で泣いてしまったこともありましたし…。」
「君は女性で俺は男だ。…男の癖に女々しいとは思わないのか?」
「怖い夢に男も女も関係ないです。男の人でも幽霊とか虫が苦手な人もいますし、女だからとか男だからというのはあくまでも一般論であって、人それぞれ苦手な物や分野はあると思います。」
「そんな事を言う女性は君が初めてだ。」
ルーファスはそう言って、リスティーナを見て、笑った。眩しそうにこちらを見つめる眼差しにリスティーナは少し気恥ずかしさを感じた。その気恥ずかしさを誤魔化すようにリスティーナは話題を変えた。
「そ、そういえば、私、聞いたことがあります。夢はその人の深層心理を表したり、何かを暗示しているものなのだと。時には、神のお告げを指し示すこともあるのだとも。きっと、ルーファス様の夢にも何か意味があるのではないでしょうか?」
「…暗示、か。何を意味するのかはさっぱり分からないが…。」
ルーファスはそう言って、溜息を吐き、疲れたような表情をした。
「リスティーナ。また…、あの子守唄を歌ってくれないか?」
「は、はい!勿論です。」
リスティーナはルーファスの言葉に微笑んで、彼の手を握り、子守唄を口ずさんだ。
気が付いたら、ルーファスは寝息を立てて、眠っていた。
さっきよりも寝顔が穏やかだ。良かった。魘されているわけではなさそう。
ホッとすると、リスティーナも眠くなってきてしまった。
ウトウトと微睡ながら、リスティーナもルーファスの隣に横になり、そっと目を閉じた。
聖石。女神がこの世に残したといわれている古代遺物の一つ。
創造神の娘であり、古代ルーミティナ国が信仰する守護神でもある女神アリスティア。
女神アリスティアは古代ルーミティナ国の初代女王ペネロペにこの石を授けたといわれている。
聖石とは、女神アリスティアが自身の力の一部を注いだ特別な石のことを指す。
聖石は神聖力がエネルギーとなり、強大な力が秘められている。
その聖石は代々、巫女が保管し、管理してきた。
聖石は、透明の石に虹色の光を放つ美しい石だといわれている。
神秘の力を宿した聖石は国の結界の礎となり、国を守ってきた宝だった。
聖石の力は絶大で過去には聖石の力を使って莫大な魔力量を得た者や不治の病の治癒、死者の蘇生も可能にしたことがあるらしい。
その為、魔術師や錬金術師の間では聖石は幻の石と呼ばれ、聖石を手に入れようと求める者が後を絶たないという。
しかし、古代ルーミティナ国が滅んだ時に聖石は行方が分からなくなり、現代でも見つかっていない。
巫女が人知れず持ち去った、敵国の手に渡らないように破壊した、あるいは今でも古代ルーミティナ国の遺跡のどこかに隠されていると諸説あるが、実際のところは不明のままだ。
聖石は古代遺物の一つとして有名だが、他にも古代遺物はある。
光の聖剣、魔導書、太陽のペンダント。
聖石と同じく女神の力が込められたこの古代遺物は直系の巫女の一族が継承してきた。
そして、それらも未だに見つかっていない。
ルーファスはパタン、と本を閉じた。
聖石。名前だけは聞いたことがある。ただの伝説上の石かと思っていたが…。
もしかしたら、この大陸のどこかにまだ眠っているのかもしれない。
聖石を手に入れることができれば…、もしかしたら、俺の呪いも解けるかもしれない。
それに、聖石を使えば、リスティーナを守れるだけの力だって…、
その時、部屋の外に気配を感じ、ルーファスは急いで本を隠した。
「ルーファス様。お食事を持ってきました。」
「リスティーナ。」
リスティーナがワゴンを押して、部屋に入ってきた。
「…いつもすまないな。君にこんな使用人のような真似事をさせて。」
「いいのです。私が好きでしていることですから。」
ルーファスの離宮はあまり使用人がいないため、人手が足りていない。
王宮から派遣される使用人もルーファスの世話をするのを嫌がる為、ほとんど仕事をしない。
その為、どうしても古参の使用人…、ロジャーを筆頭としたリリアナ達にその仕事量が回ってくる。
つまり、ロジャー達は普通の使用人よりも仕事量が多いのだ。
リスティーナも母国でかなり切り詰めた暮らしをしていたからその苦労は分かる。
掃除に洗濯、料理、庭の手入れ…。使用人の仕事は山程ある。
だから、できるだけロジャー達の負担を軽くしたくて、リスティーナも自分ができる事は率先して手伝うようにしている。
幸い、母国にいた頃もエルザ達と一緒に掃除や洗濯、料理はしていたので何の問題もなかった。
最悪、城から追い出されても一人で生きていける術を身に着けておこうとしていたことだったがここで役に立つとは思わなかった。
一通りの家事を教えてくれた母のニーナにリスティーナは心の底から感謝した。
リスティーナがルーファスの目の前に朝食を置くと、彼はそれに視線を移した。
「これは…、ミルク粥か?」
「はい。ルーファス様はまだ病み上がりですし、消化のいいものでしたら食べやすいかと思って。」
「君も同じものを食べるのか?」
ルーファスはリスティーナの分の食事も自分と同じことに気付いて、そう問いかけた。
「君は病人ではないのだし、無理して俺に合わせなくても…、」
「いいんです。私もミルク粥を食べたい気分だったので。」
そう言って、リスティーナは微笑んだ。
「熱いので気を付けてくださいね。」
リスティーナはスプーンを置いて、ルーファスにそう言って、朝食を促した。
ルーファスはスプーンを掴もうとするが、指が震えて、上手くスプーンを握ることができずにいる。
それに気付いたリスティーナはすぐにスプーンを手に取ると、粥を掬ってフウフウ、と息を吹いて冷ますとそれをルーファスに差し出した。
「ルーファス様。どうぞ。」
「っ!」
ルーファスは戸惑ったような表情を浮かべ、視線を左右に彷徨わせた。
「ルーファス様?あの、もしかして、あまりお腹が空いていらっしゃらないのですか?」
「い、いや…。そんな事はないが…、」
「それなら、是非、一口だけでも召し上がってみてください。昨日もほとんど口にしていなかったので少しでも食べて栄養をつけないと…、」
ルーファスは躊躇したがゆっくりと口を開けて、リスティーナの差し出した粥を一口、口に含んだ。
食べてくれた!リスティーナはぱああ、と顔を輝かせた。
「…この味…。もしかして、これは君が作ったのか?」
「は、はい。そうです。あの、よく分かりましたね。も、もしかして!不味かったでしょうか!?」
一瞬、リスティーナはヒヤリとした。一応、味見をしたから大丈夫と思ったんだけど…!
「いや。そんな事ない。…ただ、前に君が作ってくれたスープと同じ味がしたから…。」
そう言って、ルーファスはリスティーナに視線を合わせ、優しく微笑んでくれた。
「君の料理は…、優しい味がする。前に食べたスープも、このミルク粥もどれも美味い。君は料理上手なんだな。」
「あ、ありがとうございます。…ルーファス様のお口に合ったなら良かったです。」
ルーファスの言葉が嬉しくて、リスティーナは顔が赤くなり、俯いた。
嬉しい…。私の作った料理美味しいと思ってくれているんだ。
「ルーファス様!」
飛び起きたルーファスはハアハア、と肩で息をした。
汗が身体に張り付いて気持ち悪い。手が震える。
…手?ルーファスはバッと自分の手を見つめた。手がある。両腕どちらも。傷一つついてない。
ルーファスはまじまじと自分の両手を見つめる。
そうだ!足は…!慌てて、掛け布を捲ると、足も付け根から爪先までちゃんとある。
「ルーファス様。あの…、大丈夫ですか?ずっと魘されていたみたいですけど…、また悪い夢でも…?」
「夢…。」
リスティーナの声にルーファスは呆然と呟いた。
あれは夢だったのか?あんなにも…、生々しく、強烈な感覚がしたのに…?
まるで現実に起こったような痛みだった。今も腕と足が疼くような痛みがする。
本当にあれは夢なのか?
ルーファスはあの時の血の匂いと手足を失った感触を思い出し、吐き気を催した。
「うっ…!」
思わず口を手で抑える。リスティーナは慌てて、嘔吐用の器と水を持ってきた。
「ルーファス様!こちらを!」
リスティーナが持ってきた器にルーファスはえずき、嘔吐した。
リスティーナはそんなルーファスの背中を懸命に摩り、心配そうに見つめている。
「ルーファス様。よろしければ、これで口の中をゆすいでください。」
リスティーナが差し出した水の入ったグラスを受け取り、口の中をゆすいだ。
気持ちが悪い…。頭がくらくらする。
「すまない…。みっともない所を見せたな。」
「そんな事…!ルーファス様にみっともない所なんてありません。それに、ルーファス様は私が倒れた時もこうして、看病して下さったではありませんか。」
そう言って、リスティーナは嫌な顔一つせず、ルーファスの吐物で汚れた口元をハンカチで拭ってくれる。ルーファスの顔色を見て、リスティーナはルーファスの顔を両手で包み込むように挟むと、心配そうに眉根を寄せた。
「ルーファス様。何だか顔色がすごく青白くなっています。唇も真っ青ですし…。もしかしたら、貧血かもしれません。お医者様をお呼びしましょうか?」
「…大丈夫、だ。休めば治るから…。」
「でも…、」
「それより、リスティーナ。手を繋いでいてくれないか…?」
リスティーナはルーファスに言われるがままに手を握った。
「ルーファス様。さっきは随分と魘されていたみたいですけど…、一体どんな夢を…?もしかして、また怖い亡霊達に襲われていたのですか?」
リスティーナは以前、ルーファスが自分が見た悪夢について話してくれた時にそう言っていたことを思い出し、ルーファスに訊ねた。
「今度の夢は…、両手と両脚を斬られた夢だった。」
「ッ!両手と両脚を…!?」
「暗闇の中で…、風を切るような音がしたと思ったら…、俺は手足を失っていた。あの感触が妙に生々しくて、忘れられない。」
ルーファスは天井を見つめながら、そう呟き、リスティーナに視線を移した。
「たかが、夢ごときでこんなに怯えるだなんて俺は情けない男だ。」
「そんな事ありません!誰だって、そんな夢を見たら、怖いに決まっています!わ、私だって、怖い夢を見て、ルーファス様の前で泣いてしまったこともありましたし…。」
「君は女性で俺は男だ。…男の癖に女々しいとは思わないのか?」
「怖い夢に男も女も関係ないです。男の人でも幽霊とか虫が苦手な人もいますし、女だからとか男だからというのはあくまでも一般論であって、人それぞれ苦手な物や分野はあると思います。」
「そんな事を言う女性は君が初めてだ。」
ルーファスはそう言って、リスティーナを見て、笑った。眩しそうにこちらを見つめる眼差しにリスティーナは少し気恥ずかしさを感じた。その気恥ずかしさを誤魔化すようにリスティーナは話題を変えた。
「そ、そういえば、私、聞いたことがあります。夢はその人の深層心理を表したり、何かを暗示しているものなのだと。時には、神のお告げを指し示すこともあるのだとも。きっと、ルーファス様の夢にも何か意味があるのではないでしょうか?」
「…暗示、か。何を意味するのかはさっぱり分からないが…。」
ルーファスはそう言って、溜息を吐き、疲れたような表情をした。
「リスティーナ。また…、あの子守唄を歌ってくれないか?」
「は、はい!勿論です。」
リスティーナはルーファスの言葉に微笑んで、彼の手を握り、子守唄を口ずさんだ。
気が付いたら、ルーファスは寝息を立てて、眠っていた。
さっきよりも寝顔が穏やかだ。良かった。魘されているわけではなさそう。
ホッとすると、リスティーナも眠くなってきてしまった。
ウトウトと微睡ながら、リスティーナもルーファスの隣に横になり、そっと目を閉じた。
聖石。女神がこの世に残したといわれている古代遺物の一つ。
創造神の娘であり、古代ルーミティナ国が信仰する守護神でもある女神アリスティア。
女神アリスティアは古代ルーミティナ国の初代女王ペネロペにこの石を授けたといわれている。
聖石とは、女神アリスティアが自身の力の一部を注いだ特別な石のことを指す。
聖石は神聖力がエネルギーとなり、強大な力が秘められている。
その聖石は代々、巫女が保管し、管理してきた。
聖石は、透明の石に虹色の光を放つ美しい石だといわれている。
神秘の力を宿した聖石は国の結界の礎となり、国を守ってきた宝だった。
聖石の力は絶大で過去には聖石の力を使って莫大な魔力量を得た者や不治の病の治癒、死者の蘇生も可能にしたことがあるらしい。
その為、魔術師や錬金術師の間では聖石は幻の石と呼ばれ、聖石を手に入れようと求める者が後を絶たないという。
しかし、古代ルーミティナ国が滅んだ時に聖石は行方が分からなくなり、現代でも見つかっていない。
巫女が人知れず持ち去った、敵国の手に渡らないように破壊した、あるいは今でも古代ルーミティナ国の遺跡のどこかに隠されていると諸説あるが、実際のところは不明のままだ。
聖石は古代遺物の一つとして有名だが、他にも古代遺物はある。
光の聖剣、魔導書、太陽のペンダント。
聖石と同じく女神の力が込められたこの古代遺物は直系の巫女の一族が継承してきた。
そして、それらも未だに見つかっていない。
ルーファスはパタン、と本を閉じた。
聖石。名前だけは聞いたことがある。ただの伝説上の石かと思っていたが…。
もしかしたら、この大陸のどこかにまだ眠っているのかもしれない。
聖石を手に入れることができれば…、もしかしたら、俺の呪いも解けるかもしれない。
それに、聖石を使えば、リスティーナを守れるだけの力だって…、
その時、部屋の外に気配を感じ、ルーファスは急いで本を隠した。
「ルーファス様。お食事を持ってきました。」
「リスティーナ。」
リスティーナがワゴンを押して、部屋に入ってきた。
「…いつもすまないな。君にこんな使用人のような真似事をさせて。」
「いいのです。私が好きでしていることですから。」
ルーファスの離宮はあまり使用人がいないため、人手が足りていない。
王宮から派遣される使用人もルーファスの世話をするのを嫌がる為、ほとんど仕事をしない。
その為、どうしても古参の使用人…、ロジャーを筆頭としたリリアナ達にその仕事量が回ってくる。
つまり、ロジャー達は普通の使用人よりも仕事量が多いのだ。
リスティーナも母国でかなり切り詰めた暮らしをしていたからその苦労は分かる。
掃除に洗濯、料理、庭の手入れ…。使用人の仕事は山程ある。
だから、できるだけロジャー達の負担を軽くしたくて、リスティーナも自分ができる事は率先して手伝うようにしている。
幸い、母国にいた頃もエルザ達と一緒に掃除や洗濯、料理はしていたので何の問題もなかった。
最悪、城から追い出されても一人で生きていける術を身に着けておこうとしていたことだったがここで役に立つとは思わなかった。
一通りの家事を教えてくれた母のニーナにリスティーナは心の底から感謝した。
リスティーナがルーファスの目の前に朝食を置くと、彼はそれに視線を移した。
「これは…、ミルク粥か?」
「はい。ルーファス様はまだ病み上がりですし、消化のいいものでしたら食べやすいかと思って。」
「君も同じものを食べるのか?」
ルーファスはリスティーナの分の食事も自分と同じことに気付いて、そう問いかけた。
「君は病人ではないのだし、無理して俺に合わせなくても…、」
「いいんです。私もミルク粥を食べたい気分だったので。」
そう言って、リスティーナは微笑んだ。
「熱いので気を付けてくださいね。」
リスティーナはスプーンを置いて、ルーファスにそう言って、朝食を促した。
ルーファスはスプーンを掴もうとするが、指が震えて、上手くスプーンを握ることができずにいる。
それに気付いたリスティーナはすぐにスプーンを手に取ると、粥を掬ってフウフウ、と息を吹いて冷ますとそれをルーファスに差し出した。
「ルーファス様。どうぞ。」
「っ!」
ルーファスは戸惑ったような表情を浮かべ、視線を左右に彷徨わせた。
「ルーファス様?あの、もしかして、あまりお腹が空いていらっしゃらないのですか?」
「い、いや…。そんな事はないが…、」
「それなら、是非、一口だけでも召し上がってみてください。昨日もほとんど口にしていなかったので少しでも食べて栄養をつけないと…、」
ルーファスは躊躇したがゆっくりと口を開けて、リスティーナの差し出した粥を一口、口に含んだ。
食べてくれた!リスティーナはぱああ、と顔を輝かせた。
「…この味…。もしかして、これは君が作ったのか?」
「は、はい。そうです。あの、よく分かりましたね。も、もしかして!不味かったでしょうか!?」
一瞬、リスティーナはヒヤリとした。一応、味見をしたから大丈夫と思ったんだけど…!
「いや。そんな事ない。…ただ、前に君が作ってくれたスープと同じ味がしたから…。」
そう言って、ルーファスはリスティーナに視線を合わせ、優しく微笑んでくれた。
「君の料理は…、優しい味がする。前に食べたスープも、このミルク粥もどれも美味い。君は料理上手なんだな。」
「あ、ありがとうございます。…ルーファス様のお口に合ったなら良かったです。」
ルーファスの言葉が嬉しくて、リスティーナは顔が赤くなり、俯いた。
嬉しい…。私の作った料理美味しいと思ってくれているんだ。
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