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第四章 覚醒編
ルーファスの死
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頭が割れそうに痛い。
心臓がドクドクと脈打ち、激しい鼓動をしていく。
ギシギシ、と骨が軋むような音がしていく。
ゴホッゴホッと激しく咳をする度に身体中に激痛が走り、ルーファスは口から血を吐いた。
喉元からヒュー、ヒュー、と音が鳴る。
息が…、苦しい。
視界が歪み、自分の血管と心臓の鼓動の音が耳元で聞こえるような錯覚に陥る。
何だこれは…!?俺の身体の中は一体、何が起こっているんだ!?
キーンと耳鳴りがする。鼓膜が破れそうだ…!
バキバキ、と何かが砕けるような音がしていく。
次いで全身に走る激痛…。細胞が…、組織が…、壊れていくような…!
「ううっ…!ああああ……!」」
ビキビキ、と不気味な音を立てて、顔に激痛が走る。
片側にしか刻まれていなかった黒い紋様が侵食し、顔全体を覆いつくした。
どんどん濃く、どす黒い色に染まっていく。全身にも黒い紋様が刻まれていく。
その度に鋭い刃物で身を斬られるような痛みが走り、ルーファスは悲鳴を上げた。
ドクン、ドクンと脈打っていた心臓の鼓動が速まっていく。
熱い…!痛い!まるで生きたまま身体を焼かれているかのようだ…!
ジュウウ…、と焼けるような音が耳元で聞こえる。
ドクッ!ドクッ!ドクッ!とありえない速度で脈が速まっていく。
全身が黒い紋様で覆いつくされたその時…、激痛はピークに達した。
「ぐあああああああ!」
一際、ルーファスの身体が大きく跳ね上がった。
目の前が暗くなっていく…。
リスティーナの手からルーファスの手がパタッと力なく、滑り落ちた。
「ルーファス様…?」
黒い紋様がルーファスの顔を全て覆いつくしたと思ったら、ルーファスの身体がビクンと跳ねあがり、そのまま動かなくなった。……息をしていない。
ルーファスは瞳孔が開いたまま動かない。
血色もなくなり、まるで死人のように青褪めている。
何より、さっきまで感じていた体温が失われている。
リスティーナは青褪めた。
まさか…、震える手でルーファスの心臓に手を当てる。…止まっている。
ロジャーがルーファスの脈に触れる。
「ッ…!」
息を吞んだロジャーは力なく項垂れ、弱弱しく首を横に振った。
「脈が止まってます。坊ちゃ、殿下は…、もう…、」
その先は言葉に出なかった。ロジャーの声が震えている。
「そんな…!」
「殿下!嘘でしょう!?こんな…!」
愕然とするルカと泣き出すリリアナ。スザンヌは口元を手で覆い、言葉を失った。
ロジャーの言葉にリスティーナは一瞬、頭の中が真っ白になるが…、すぐにルーファスの胸に手を当てて、心臓マッサージをした。
「リスティーナ様!?」
「大丈夫…!まだ…!」
きっと、助かる…!
心臓が止まった人でも心肺蘇生をすれば、助かったという実例があるのだから…!
だから、大丈夫!自分に言い聞かせるようにリスティーナは心臓マッサージを続けた。
心臓マッサージを止めて、ルーファスに口づける。スウ、と息を吹き込み、人工呼吸をする。
…反応がない。リスティーナはもう一度…!と心臓マッサージを続けた。
このまま続ければ、もう一度息を吹き返してくれる筈…!
お願い…!息をして…!必死に心肺蘇生を繰り返すリスティーナだったが、ルーファスはピクリ、とも動かない。何度も何度も…、続けた。もう何回したのかすら分からない。
腕の傷口が開いて、血が滴り落ちる。
「リスティーナ様…。もう…、もうやめてください…!」
スザンヌがそんなリスティーナを見て、涙ながらに必死に懇願する。
それでも、リスティーナは手を止めなかった。
「リスティーナ様…。もう、いいのです。もう、これ以上は…、」
ロジャーは涙声でそう言うと、リスティーナを止めた。
「大丈夫!きっと、まだ…!助かるから…!」
さっきの噛まれた腕から血がダラダラと流れ出る。
痛みで感覚が麻痺しているのかもう痛覚も感じなくなってきた。
ロジャーは怪我をしていないリスティーナの腕をそっと掴んで止めた。
「もう、十分です。リスティーナ様。最後にあなたのような方に看取られて、殿下も悔いはないでしょう。もう…、眠らせてあげてください。」
「何、言って…、まだ…!まだルーファス様は死んでません!このまま、続ければきっと、また息を吹き返すから…!だから…!」
「殿下はもう亡くなられたんです!リスティーナ様だって、分かっているのでしょう!?」
いつも冷静なロジャーから大声でそう叫ばれ、リスティーナは開きかけた口を閉ざした。
ロジャーから手を離されても、リスティーナはその手を動かすことはできなかった。
ルーファスを見下ろす。息をせず、ピクリとも動かないルーファスがそこにはいた。
「あなたのことは、殿下から頼まれています。殿下は最後までリスティーナ様の身を案じていました。
リスティーナ様が穏やかで幸せに過ごせるようにと願う殿下のそのお気持ちを…、どうか心に留めてください。最後にお別れの挨拶をして下さいませんか?」
ロジャーの言葉にリスティーナは頷くことができない。
お別れ?何の?最後…?
私の幸せはルーファス様の傍にいることだった。
そのルーファス様がいないのに、どうやって幸せになれというの?
「ルーファス様…。」
リスティーナは震える手をルーファスの頬に伸ばした。
…冷たい。氷のように冷えた身体。
本当に死んでいるんだ。その時、漸くリスティーナはルーファスが亡くなったのだと実感した。
「……や…、」
リスティーナは現実を受け入れられないように首を横に振った。
「い、嫌…!嫌…!目を開けて…!ルーファス様!」
リスティーナは冷たくなったルーファスの亡骸に縋りついた。
「死なないで!私を…、一人にしないで!」
ボロボロと涙が零れ落ちる。
「約束…、したじゃないですか…。湖に連れて行ってくれるって…!私と一緒に生きてくれるって…!」
置いて行かないで!死なないで!そんなリスティーナの声に彼は答えてくれない。
リスティーナはルーファスの身体に縋りついて声を上げて、泣き続けた。
そんなリスティーナに誰も何も言わなかった。
気が付けば、リスティーナは自分の部屋の隅で丸くなり、床に座り込んでいた。
あれ…?私、どうしてたんだっけ?
あ…、そうか。さっきのは夢だったんだ。悪い夢を見ていたのね。
早く…、ルーファス様の所に戻らないと…、
リスティーナはヨロッとふらつく身体で立ち上がろうとした。
「スザンヌさん。その…、リスティーナ様の様子はどうですか?」
「あれから、ずっと抜け殻のようになってしまって…、こちらの言葉にも碌に反応してくれないの。食事も全然召し上がってくれなくて…、」
「殿下の葬儀には…、出られそうですか?」
「分からない…。」
リスティーナはルカとスザンヌの会話を聞き、ルーファスが死んだのが夢ではなく、現実だったのだと思い知り、思考が停止した。
夢じゃない…。あれは、紛れもない現実…。ああ。そうだ…。あの時のルーファス様の身体…、冷たかった。
ルーファスの手を触れた時の冷たさを思い出し、リスティーナは自分の手をジッと見つめた。
あの時の感触…。まだこの手が覚えている。
リスティーナは膝から崩れ落ちて、床に座り込んだ。
「ルー、ファス…、様…。」
ジワッと涙が滲み、ポタポタと床に雫が滴り落ちる。
ルーファス様はもうこの世にいない…。
どうして…?どうして、ルーファス様が死ななくてはいけなかったの?
あんなに必死にお祈りしたのに…!これがルーファス様の運命だったというの?
そうだとしたら、あんまりだ…!こんなの、ひどすぎる!
どうして、ルーファス様ばかりがこんな目に遭わないといけないの!
あんなにも誠実で優しい人がどうしてこんな過酷な運命を強いられるの!
「何故…、ですか…?女神様…。」
リスティーナはそう呟かずにはいられなかった。
「答えて下さい…!」
答えなんて返ってこない。そう分かっていても、問いたださずにはいられなかった。
心臓がドクドクと脈打ち、激しい鼓動をしていく。
ギシギシ、と骨が軋むような音がしていく。
ゴホッゴホッと激しく咳をする度に身体中に激痛が走り、ルーファスは口から血を吐いた。
喉元からヒュー、ヒュー、と音が鳴る。
息が…、苦しい。
視界が歪み、自分の血管と心臓の鼓動の音が耳元で聞こえるような錯覚に陥る。
何だこれは…!?俺の身体の中は一体、何が起こっているんだ!?
キーンと耳鳴りがする。鼓膜が破れそうだ…!
バキバキ、と何かが砕けるような音がしていく。
次いで全身に走る激痛…。細胞が…、組織が…、壊れていくような…!
「ううっ…!ああああ……!」」
ビキビキ、と不気味な音を立てて、顔に激痛が走る。
片側にしか刻まれていなかった黒い紋様が侵食し、顔全体を覆いつくした。
どんどん濃く、どす黒い色に染まっていく。全身にも黒い紋様が刻まれていく。
その度に鋭い刃物で身を斬られるような痛みが走り、ルーファスは悲鳴を上げた。
ドクン、ドクンと脈打っていた心臓の鼓動が速まっていく。
熱い…!痛い!まるで生きたまま身体を焼かれているかのようだ…!
ジュウウ…、と焼けるような音が耳元で聞こえる。
ドクッ!ドクッ!ドクッ!とありえない速度で脈が速まっていく。
全身が黒い紋様で覆いつくされたその時…、激痛はピークに達した。
「ぐあああああああ!」
一際、ルーファスの身体が大きく跳ね上がった。
目の前が暗くなっていく…。
リスティーナの手からルーファスの手がパタッと力なく、滑り落ちた。
「ルーファス様…?」
黒い紋様がルーファスの顔を全て覆いつくしたと思ったら、ルーファスの身体がビクンと跳ねあがり、そのまま動かなくなった。……息をしていない。
ルーファスは瞳孔が開いたまま動かない。
血色もなくなり、まるで死人のように青褪めている。
何より、さっきまで感じていた体温が失われている。
リスティーナは青褪めた。
まさか…、震える手でルーファスの心臓に手を当てる。…止まっている。
ロジャーがルーファスの脈に触れる。
「ッ…!」
息を吞んだロジャーは力なく項垂れ、弱弱しく首を横に振った。
「脈が止まってます。坊ちゃ、殿下は…、もう…、」
その先は言葉に出なかった。ロジャーの声が震えている。
「そんな…!」
「殿下!嘘でしょう!?こんな…!」
愕然とするルカと泣き出すリリアナ。スザンヌは口元を手で覆い、言葉を失った。
ロジャーの言葉にリスティーナは一瞬、頭の中が真っ白になるが…、すぐにルーファスの胸に手を当てて、心臓マッサージをした。
「リスティーナ様!?」
「大丈夫…!まだ…!」
きっと、助かる…!
心臓が止まった人でも心肺蘇生をすれば、助かったという実例があるのだから…!
だから、大丈夫!自分に言い聞かせるようにリスティーナは心臓マッサージを続けた。
心臓マッサージを止めて、ルーファスに口づける。スウ、と息を吹き込み、人工呼吸をする。
…反応がない。リスティーナはもう一度…!と心臓マッサージを続けた。
このまま続ければ、もう一度息を吹き返してくれる筈…!
お願い…!息をして…!必死に心肺蘇生を繰り返すリスティーナだったが、ルーファスはピクリ、とも動かない。何度も何度も…、続けた。もう何回したのかすら分からない。
腕の傷口が開いて、血が滴り落ちる。
「リスティーナ様…。もう…、もうやめてください…!」
スザンヌがそんなリスティーナを見て、涙ながらに必死に懇願する。
それでも、リスティーナは手を止めなかった。
「リスティーナ様…。もう、いいのです。もう、これ以上は…、」
ロジャーは涙声でそう言うと、リスティーナを止めた。
「大丈夫!きっと、まだ…!助かるから…!」
さっきの噛まれた腕から血がダラダラと流れ出る。
痛みで感覚が麻痺しているのかもう痛覚も感じなくなってきた。
ロジャーは怪我をしていないリスティーナの腕をそっと掴んで止めた。
「もう、十分です。リスティーナ様。最後にあなたのような方に看取られて、殿下も悔いはないでしょう。もう…、眠らせてあげてください。」
「何、言って…、まだ…!まだルーファス様は死んでません!このまま、続ければきっと、また息を吹き返すから…!だから…!」
「殿下はもう亡くなられたんです!リスティーナ様だって、分かっているのでしょう!?」
いつも冷静なロジャーから大声でそう叫ばれ、リスティーナは開きかけた口を閉ざした。
ロジャーから手を離されても、リスティーナはその手を動かすことはできなかった。
ルーファスを見下ろす。息をせず、ピクリとも動かないルーファスがそこにはいた。
「あなたのことは、殿下から頼まれています。殿下は最後までリスティーナ様の身を案じていました。
リスティーナ様が穏やかで幸せに過ごせるようにと願う殿下のそのお気持ちを…、どうか心に留めてください。最後にお別れの挨拶をして下さいませんか?」
ロジャーの言葉にリスティーナは頷くことができない。
お別れ?何の?最後…?
私の幸せはルーファス様の傍にいることだった。
そのルーファス様がいないのに、どうやって幸せになれというの?
「ルーファス様…。」
リスティーナは震える手をルーファスの頬に伸ばした。
…冷たい。氷のように冷えた身体。
本当に死んでいるんだ。その時、漸くリスティーナはルーファスが亡くなったのだと実感した。
「……や…、」
リスティーナは現実を受け入れられないように首を横に振った。
「い、嫌…!嫌…!目を開けて…!ルーファス様!」
リスティーナは冷たくなったルーファスの亡骸に縋りついた。
「死なないで!私を…、一人にしないで!」
ボロボロと涙が零れ落ちる。
「約束…、したじゃないですか…。湖に連れて行ってくれるって…!私と一緒に生きてくれるって…!」
置いて行かないで!死なないで!そんなリスティーナの声に彼は答えてくれない。
リスティーナはルーファスの身体に縋りついて声を上げて、泣き続けた。
そんなリスティーナに誰も何も言わなかった。
気が付けば、リスティーナは自分の部屋の隅で丸くなり、床に座り込んでいた。
あれ…?私、どうしてたんだっけ?
あ…、そうか。さっきのは夢だったんだ。悪い夢を見ていたのね。
早く…、ルーファス様の所に戻らないと…、
リスティーナはヨロッとふらつく身体で立ち上がろうとした。
「スザンヌさん。その…、リスティーナ様の様子はどうですか?」
「あれから、ずっと抜け殻のようになってしまって…、こちらの言葉にも碌に反応してくれないの。食事も全然召し上がってくれなくて…、」
「殿下の葬儀には…、出られそうですか?」
「分からない…。」
リスティーナはルカとスザンヌの会話を聞き、ルーファスが死んだのが夢ではなく、現実だったのだと思い知り、思考が停止した。
夢じゃない…。あれは、紛れもない現実…。ああ。そうだ…。あの時のルーファス様の身体…、冷たかった。
ルーファスの手を触れた時の冷たさを思い出し、リスティーナは自分の手をジッと見つめた。
あの時の感触…。まだこの手が覚えている。
リスティーナは膝から崩れ落ちて、床に座り込んだ。
「ルー、ファス…、様…。」
ジワッと涙が滲み、ポタポタと床に雫が滴り落ちる。
ルーファス様はもうこの世にいない…。
どうして…?どうして、ルーファス様が死ななくてはいけなかったの?
あんなに必死にお祈りしたのに…!これがルーファス様の運命だったというの?
そうだとしたら、あんまりだ…!こんなの、ひどすぎる!
どうして、ルーファス様ばかりがこんな目に遭わないといけないの!
あんなにも誠実で優しい人がどうしてこんな過酷な運命を強いられるの!
「何故…、ですか…?女神様…。」
リスティーナはそう呟かずにはいられなかった。
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