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第四章 覚醒編
革命軍
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「おい。聞いたか?また、革命軍が勝ったらしいぞ。」
「すげえよな!この前も五百人の討伐隊を返り討ちにしたっていうし…。」
「このままいけば、革命軍が王家を倒してくれるかもしれないぞ。」
街は革命軍の噂で持ちきりだった。
メイネシアで鼠の大量発生が出た直後…、王家を倒そうという声が上がり、革命軍が立ち上がったのだ。
革命軍といっても、しょせんは平民の集まり。国王と貴族達はすぐに武力で鎮圧できると軽視していた。しかし、革命軍は少数にも関わらず、王家の軍隊に勝利した。
革命軍の数よりも遥かに上回る数の兵を差し向けたにも関わらず、国王軍は敗走したのだ。
その後も国王は革命軍を鎮圧するために兵を派遣したが革命軍はどの戦いでも勝利した。
次々と村や街を陥落していく革命軍に民達は内心思った。彼らならば…、今の王家に勝てるかもしれない。
重税と悪政により、苦しい生活をしていた国民のほとんどが国王を憎んでいた。
民達のほとんどは今の国王ではなく、革命軍が勝利することを願った。
中には、革命軍への入隊を希望する平民も出てくる程だ。
今までにない事態に国王も流石に危機感を覚え、革命軍を何とか殲滅しようと画策しているがどの策も失敗に終わっている。
焦った国王は王国でも最強と名高い騎士に革命軍の討伐を依頼したが、討伐を依頼された騎士はその翌日に怪我を負い、討伐に行けなくなってしまった。
折角の切り札も使えなくなってしまい、現在の王宮は荒れに荒れている。
きっと、今も王と重臣達は会議を開いて論議している事だろう。
革命軍の噂を耳にしながら、エルザはおかしそうに笑った。
「今頃、会議室は混乱しているでしょうね。あー、見て見たかったなあ。あの糞国王の慌てふためく姿を…。」
「同感。エルザにも見せてあげたかったよ。あたしが討伐に行けないって知った時のあの顔…。フフッ…、ざまあみろだな。正直、笑いを堪えるの大変だった。」
そう言って、エルザに同調したように笑うのは、背中まで伸びた長い黒髪を一つ結びにして、すらりとした体つきをした長身の女性だ。
腰には二本の剣を提げている。腕には包帯を巻き、三角巾で固定されていた。
「よくやったわ。アリア。グスタフも間抜けよね。アリアが怪我なんてする訳ないのに。その包帯もどうせ、フェイクなんでしょ?」
「ご名答。」
アリア、と呼ばれた女は包帯と三角巾を外すと、ヒラヒラと手を振って見せた。
どう見ても、折れている様には見えない。
「折角、これからって時に革命軍と戦うのはまずいからな。」
「彼らは私達の目的を果たす為の大事な駒だもの。ここで革命軍が倒れたら今までしたことが全部、水の泡になってしまう。それだけは避けないと…。」
「そうだな。革命軍には王家を倒すまでは頑張ってもらわないと…。それにしても、革命軍は思った以上に強いみたいで安心したよ。」
街道を歩いていたエルザとアリアは少しずつ人気のない裏路地に入っていく。
「そうね。定期的に革命軍に情報は流していたけど、まさかここまで使えるとは思ってなかったわ。」
「そういえば、革命軍のリーダーって謎に包まれているけどエルザは知っているのか?」
「全然。噂では女だとかいわれているらしいけど…。調べてみても、何も出てこないのよね。出自も不明だし…。分かっていることはとんでもない美形だってこと。その美貌で貴族や商人の男達を落として、軍資金や武器の調達をしてきているらしいわ。」
「へえ。成程。女の武器を使ってここまでのし上がって来たって訳か。」
「それだけじゃないわ。その女、魔力も高いらしくて、独自の研究で魔道具の武器を開発して、実戦に取り入れているって話よ。」
「ああ。そういえば、革命軍の使う武器に翻弄されて、王家の兵が敗走したって新聞でも報道されていたな。中々、優秀な女じゃないか。」
「今の王家をぶっ潰してくれるなら、何でもいいわ。それより、アリア。次の段階についてだけど、革命軍はこちらの読み通り、例の伯爵家を襲撃する計画を立ててるわ。」
「ああ。不当に税金を上げて贅沢三昧しているっていうあの悪名高い伯爵一家か。で、次の段階って?」
「この屋敷の見取り図を革命軍に届けるの。革命軍の兵士に混じって、この紙を上手くあいつらに…、」
そう言って、エルザが一枚の紙を取り出した。
その時、アリアが剣の鞘に手をかけた。
エルザもピクッと反応する。
お互い視線を合わせる。
そのまま、何事もなかったように歩き続ける。
すると、二人の背後から足音が聞こえた。
…誰かに尾けられている。足音は二つ…。エルザとアリアは視線を交わす。
この足音…。相当の手練れだ。
足音がほとんどしない。私達ですら、最初は気付けなかった。
これは…、気を引き締めて取り掛からないとね。
ー準備はいい?
ーいつでも、大丈夫。
会話を聞かれる可能性もある為、目と目で会話をする。
長い付き合いだ。目を合わせれば何を伝えたいか位、分かる。
エルザはコクン、と頷く。
その直後、エルザとアリアはバッとお互い背を向けて、それぞれ反対方向に向かって駆け出した。
「!」
いきなり走り出した二人に慌てて、尾行していた二人組が後を追った。
二人組は二手に別れて、エルザとアリアを追いかける。
エルザはタタッと走りながら、背後に意識を向ける。
やっぱり…、素人じゃない。それに…、魔法もそこそこ使えるようね。
私と同じ加速魔法を使っている。今まで私が相手にしていた雑魚共とは一味違う。
面白いじゃない。
エルザはフッと好戦的に笑い、魔法を発動する。
『蔓の枷ヴァインシャークス』
エルザが呪文を唱えた瞬間、地面から植物の蔓が飛び出し、追っ手に襲い掛かる。
「ッ!」
が、追っ手は寸での所で蔓の触手を交わし、後ろに後退した。
へえ。私の攻撃を避けるなんて、やるわね。
エルザはタッと駆け出した。植物魔法で作り出した蔓の触手を土台にして、タンッ!タンッ!と足で蹴り上げ、フワッと宙に舞い、相手に接近する。
蔓の攻撃に気をとられていた相手はエルザの接近に反応が遅れた。
気付けば、エルザは目前に迫っていた。
慌てて、距離を取ろうとする相手の胸をそのまま足で踏みつけ、地面に押し倒す。
「あっ…!」
バサッと追っ手の黒いフードが外れる。
紺色の長い髪が地面に広がる。追っ手は女だった。
色白の肌に目鼻立ちの整った若い女だ。
地面に押し倒したと同時に蔓魔法で女の手足を拘束する。
暴れれば、暴れる程、戒めが強くなるようにしている。
ググッと蔓魔法の拘束が手首に食い込み、女は顔を歪めた。
エルザは女を踏みつけた足に力を込める。
「何故、私を尾けるの?目的は何?」
「ま、待って下さい…!エルザ様!は、話を聞いて下さい…!」
「ッ!」
私の名前を知っている?この女…、一体、何者?
そう疑問を抱いていると、コツコツと足音が聞こえる。
「エルザ。」
アリアが縄で縛り上げた男を連れてきた。紺色の髪を無造作に刈り上げ、日に焼けた肌と筋肉質な体つきをした精悍な男だ。
「苦戦している様だったら、加勢しようかと思ったが…、大丈夫みたいだな。」
「当然でしょ。」
アリアの言葉にエルザがフフン、と得意げに答える。
すると、アリアが捕まえてきた男がエルザの足元にいる女を見て、
「リーシャ!手前、リーシャに何をしやがった!この、糞女!」
紺色の髪の男がエルザを鋭く睨みつけた。この女、リーシャっていうのね。
この反応…。もしかして、恋人か何か?それより…、
エルザはスッと女の身体から足を退けると、そのまま加速魔法で男の目の前に移動すると、ガッと男の顎を掴み、そのまま男を持ち上げた。
「グッ…!」
「誰が…、糞女だって…?」
ギリギリ、と音を立てながら、エルザはドスの効いた低い声で聞き返した。
ちなみに相手の男は長身のアリアよりも遥かに高い。加えて、服の上からでも鍛えられたのが分かる程に立派な体格の持ち主だ。そんな男をエルザは細腕で易々と持ち上げた。
「こんな可憐でか弱い美少女によくもそんな事が言えたものね!」
「エルザ。か弱い美少女は男を素手で持ち上げたりしない。それより、そろそろ放してやれ。これ以上、やるとそいつの顎が砕けるぞ。」
「兄さん!」
拘束されていた女が声を上げる。
兄さん?ってことは、この二人…、兄妹?
エルザはパッと手を放す。地面に膝をつき、咳き込む男をまじまじと見下ろす。
「え…。こいつら、兄妹なのか?」
似てない…。と呟くアリアにエルザも頷いた。
この二人、髪色以外、全く似てないのだ。
「ゴホッ…!リーシャ…。無事か…?」
「兄さん!私なら、大丈夫!」
ふうん。この二人、随分仲が良いのね。こんな状況でも兄は妹の方を心配している。
口を割らなかったら、女を人質に取れば、簡単に口を割りそうね。
とりあえず、まずは…、
「あなた…。どうして、私を知っているの?」
エルザは女に問いかけた。兄よりもこっちの妹の方が冷静な性格をしている様に見えたからだ。
聞き出すなら、妹から話を聞く方が早そうだ。
「…知っています。エルザ様。アリア様。…まずは、謝罪を。あのような形で尾行してしまい、申し訳ありません。」
女はそう言って、拘束された状態で謝罪した。この女…、アリアも知っているのね。
随分と詳しいのね。警戒するエルザに女は話し続けた。
「お二人が警戒するのも無理はありません。ですが、私達は危害を加えるつもりで尾行していた訳ではありません。私達は…、お二人に会わせたい人がいるため、接触を図っていただけなのです。」
「会わせたい人?」
「説明するよりも…、こちらを見た方が早いでしょう。エルザ様。私の服の内側のポケットに手紙が入っています。それを読んで下さい。」
エルザは警戒しながらも、女のポケットに手を入れる。
確かに手紙があった。宛名は私と母様の名が記されている。
一体、誰から…?そう思って、差出人の名前を見ると、エルザは目を見開いた。
「ッ!?」
「エルザ?」
「…そん、な…。まさか…、本当に…?」
エルザは動揺したあまり、アリアの声に反応することもできず、震える手で手紙の封を切った。
そこに書かれた手紙の内容に目を走らせると…、ギュッと手紙を握り締め、エルザは俯いた。
「エルザ。どうしたんだ?一体、何が…、」
「…って。」
「エルザ?」
「連れてって!今すぐ!」
エルザはすぐに魔法を解いて、女を自由にした。そのまま、ガッと肩を掴んで詰め寄る。
「今すぐあなたの主人に会わせて!」
「ちょ、エルザ!?」
「はい。元より、そのつもりです。」
女はコクン、と頷き、エルザの目を見つめると、
「総司令官もお待ちしています。どうぞ、こちらへ。…ご案内します。」
そう言って、女は恭しく、一礼する。
その手首には四つ葉のクローバーのブレスレットが光っていた。
「すげえよな!この前も五百人の討伐隊を返り討ちにしたっていうし…。」
「このままいけば、革命軍が王家を倒してくれるかもしれないぞ。」
街は革命軍の噂で持ちきりだった。
メイネシアで鼠の大量発生が出た直後…、王家を倒そうという声が上がり、革命軍が立ち上がったのだ。
革命軍といっても、しょせんは平民の集まり。国王と貴族達はすぐに武力で鎮圧できると軽視していた。しかし、革命軍は少数にも関わらず、王家の軍隊に勝利した。
革命軍の数よりも遥かに上回る数の兵を差し向けたにも関わらず、国王軍は敗走したのだ。
その後も国王は革命軍を鎮圧するために兵を派遣したが革命軍はどの戦いでも勝利した。
次々と村や街を陥落していく革命軍に民達は内心思った。彼らならば…、今の王家に勝てるかもしれない。
重税と悪政により、苦しい生活をしていた国民のほとんどが国王を憎んでいた。
民達のほとんどは今の国王ではなく、革命軍が勝利することを願った。
中には、革命軍への入隊を希望する平民も出てくる程だ。
今までにない事態に国王も流石に危機感を覚え、革命軍を何とか殲滅しようと画策しているがどの策も失敗に終わっている。
焦った国王は王国でも最強と名高い騎士に革命軍の討伐を依頼したが、討伐を依頼された騎士はその翌日に怪我を負い、討伐に行けなくなってしまった。
折角の切り札も使えなくなってしまい、現在の王宮は荒れに荒れている。
きっと、今も王と重臣達は会議を開いて論議している事だろう。
革命軍の噂を耳にしながら、エルザはおかしそうに笑った。
「今頃、会議室は混乱しているでしょうね。あー、見て見たかったなあ。あの糞国王の慌てふためく姿を…。」
「同感。エルザにも見せてあげたかったよ。あたしが討伐に行けないって知った時のあの顔…。フフッ…、ざまあみろだな。正直、笑いを堪えるの大変だった。」
そう言って、エルザに同調したように笑うのは、背中まで伸びた長い黒髪を一つ結びにして、すらりとした体つきをした長身の女性だ。
腰には二本の剣を提げている。腕には包帯を巻き、三角巾で固定されていた。
「よくやったわ。アリア。グスタフも間抜けよね。アリアが怪我なんてする訳ないのに。その包帯もどうせ、フェイクなんでしょ?」
「ご名答。」
アリア、と呼ばれた女は包帯と三角巾を外すと、ヒラヒラと手を振って見せた。
どう見ても、折れている様には見えない。
「折角、これからって時に革命軍と戦うのはまずいからな。」
「彼らは私達の目的を果たす為の大事な駒だもの。ここで革命軍が倒れたら今までしたことが全部、水の泡になってしまう。それだけは避けないと…。」
「そうだな。革命軍には王家を倒すまでは頑張ってもらわないと…。それにしても、革命軍は思った以上に強いみたいで安心したよ。」
街道を歩いていたエルザとアリアは少しずつ人気のない裏路地に入っていく。
「そうね。定期的に革命軍に情報は流していたけど、まさかここまで使えるとは思ってなかったわ。」
「そういえば、革命軍のリーダーって謎に包まれているけどエルザは知っているのか?」
「全然。噂では女だとかいわれているらしいけど…。調べてみても、何も出てこないのよね。出自も不明だし…。分かっていることはとんでもない美形だってこと。その美貌で貴族や商人の男達を落として、軍資金や武器の調達をしてきているらしいわ。」
「へえ。成程。女の武器を使ってここまでのし上がって来たって訳か。」
「それだけじゃないわ。その女、魔力も高いらしくて、独自の研究で魔道具の武器を開発して、実戦に取り入れているって話よ。」
「ああ。そういえば、革命軍の使う武器に翻弄されて、王家の兵が敗走したって新聞でも報道されていたな。中々、優秀な女じゃないか。」
「今の王家をぶっ潰してくれるなら、何でもいいわ。それより、アリア。次の段階についてだけど、革命軍はこちらの読み通り、例の伯爵家を襲撃する計画を立ててるわ。」
「ああ。不当に税金を上げて贅沢三昧しているっていうあの悪名高い伯爵一家か。で、次の段階って?」
「この屋敷の見取り図を革命軍に届けるの。革命軍の兵士に混じって、この紙を上手くあいつらに…、」
そう言って、エルザが一枚の紙を取り出した。
その時、アリアが剣の鞘に手をかけた。
エルザもピクッと反応する。
お互い視線を合わせる。
そのまま、何事もなかったように歩き続ける。
すると、二人の背後から足音が聞こえた。
…誰かに尾けられている。足音は二つ…。エルザとアリアは視線を交わす。
この足音…。相当の手練れだ。
足音がほとんどしない。私達ですら、最初は気付けなかった。
これは…、気を引き締めて取り掛からないとね。
ー準備はいい?
ーいつでも、大丈夫。
会話を聞かれる可能性もある為、目と目で会話をする。
長い付き合いだ。目を合わせれば何を伝えたいか位、分かる。
エルザはコクン、と頷く。
その直後、エルザとアリアはバッとお互い背を向けて、それぞれ反対方向に向かって駆け出した。
「!」
いきなり走り出した二人に慌てて、尾行していた二人組が後を追った。
二人組は二手に別れて、エルザとアリアを追いかける。
エルザはタタッと走りながら、背後に意識を向ける。
やっぱり…、素人じゃない。それに…、魔法もそこそこ使えるようね。
私と同じ加速魔法を使っている。今まで私が相手にしていた雑魚共とは一味違う。
面白いじゃない。
エルザはフッと好戦的に笑い、魔法を発動する。
『蔓の枷ヴァインシャークス』
エルザが呪文を唱えた瞬間、地面から植物の蔓が飛び出し、追っ手に襲い掛かる。
「ッ!」
が、追っ手は寸での所で蔓の触手を交わし、後ろに後退した。
へえ。私の攻撃を避けるなんて、やるわね。
エルザはタッと駆け出した。植物魔法で作り出した蔓の触手を土台にして、タンッ!タンッ!と足で蹴り上げ、フワッと宙に舞い、相手に接近する。
蔓の攻撃に気をとられていた相手はエルザの接近に反応が遅れた。
気付けば、エルザは目前に迫っていた。
慌てて、距離を取ろうとする相手の胸をそのまま足で踏みつけ、地面に押し倒す。
「あっ…!」
バサッと追っ手の黒いフードが外れる。
紺色の長い髪が地面に広がる。追っ手は女だった。
色白の肌に目鼻立ちの整った若い女だ。
地面に押し倒したと同時に蔓魔法で女の手足を拘束する。
暴れれば、暴れる程、戒めが強くなるようにしている。
ググッと蔓魔法の拘束が手首に食い込み、女は顔を歪めた。
エルザは女を踏みつけた足に力を込める。
「何故、私を尾けるの?目的は何?」
「ま、待って下さい…!エルザ様!は、話を聞いて下さい…!」
「ッ!」
私の名前を知っている?この女…、一体、何者?
そう疑問を抱いていると、コツコツと足音が聞こえる。
「エルザ。」
アリアが縄で縛り上げた男を連れてきた。紺色の髪を無造作に刈り上げ、日に焼けた肌と筋肉質な体つきをした精悍な男だ。
「苦戦している様だったら、加勢しようかと思ったが…、大丈夫みたいだな。」
「当然でしょ。」
アリアの言葉にエルザがフフン、と得意げに答える。
すると、アリアが捕まえてきた男がエルザの足元にいる女を見て、
「リーシャ!手前、リーシャに何をしやがった!この、糞女!」
紺色の髪の男がエルザを鋭く睨みつけた。この女、リーシャっていうのね。
この反応…。もしかして、恋人か何か?それより…、
エルザはスッと女の身体から足を退けると、そのまま加速魔法で男の目の前に移動すると、ガッと男の顎を掴み、そのまま男を持ち上げた。
「グッ…!」
「誰が…、糞女だって…?」
ギリギリ、と音を立てながら、エルザはドスの効いた低い声で聞き返した。
ちなみに相手の男は長身のアリアよりも遥かに高い。加えて、服の上からでも鍛えられたのが分かる程に立派な体格の持ち主だ。そんな男をエルザは細腕で易々と持ち上げた。
「こんな可憐でか弱い美少女によくもそんな事が言えたものね!」
「エルザ。か弱い美少女は男を素手で持ち上げたりしない。それより、そろそろ放してやれ。これ以上、やるとそいつの顎が砕けるぞ。」
「兄さん!」
拘束されていた女が声を上げる。
兄さん?ってことは、この二人…、兄妹?
エルザはパッと手を放す。地面に膝をつき、咳き込む男をまじまじと見下ろす。
「え…。こいつら、兄妹なのか?」
似てない…。と呟くアリアにエルザも頷いた。
この二人、髪色以外、全く似てないのだ。
「ゴホッ…!リーシャ…。無事か…?」
「兄さん!私なら、大丈夫!」
ふうん。この二人、随分仲が良いのね。こんな状況でも兄は妹の方を心配している。
口を割らなかったら、女を人質に取れば、簡単に口を割りそうね。
とりあえず、まずは…、
「あなた…。どうして、私を知っているの?」
エルザは女に問いかけた。兄よりもこっちの妹の方が冷静な性格をしている様に見えたからだ。
聞き出すなら、妹から話を聞く方が早そうだ。
「…知っています。エルザ様。アリア様。…まずは、謝罪を。あのような形で尾行してしまい、申し訳ありません。」
女はそう言って、拘束された状態で謝罪した。この女…、アリアも知っているのね。
随分と詳しいのね。警戒するエルザに女は話し続けた。
「お二人が警戒するのも無理はありません。ですが、私達は危害を加えるつもりで尾行していた訳ではありません。私達は…、お二人に会わせたい人がいるため、接触を図っていただけなのです。」
「会わせたい人?」
「説明するよりも…、こちらを見た方が早いでしょう。エルザ様。私の服の内側のポケットに手紙が入っています。それを読んで下さい。」
エルザは警戒しながらも、女のポケットに手を入れる。
確かに手紙があった。宛名は私と母様の名が記されている。
一体、誰から…?そう思って、差出人の名前を見ると、エルザは目を見開いた。
「ッ!?」
「エルザ?」
「…そん、な…。まさか…、本当に…?」
エルザは動揺したあまり、アリアの声に反応することもできず、震える手で手紙の封を切った。
そこに書かれた手紙の内容に目を走らせると…、ギュッと手紙を握り締め、エルザは俯いた。
「エルザ。どうしたんだ?一体、何が…、」
「…って。」
「エルザ?」
「連れてって!今すぐ!」
エルザはすぐに魔法を解いて、女を自由にした。そのまま、ガッと肩を掴んで詰め寄る。
「今すぐあなたの主人に会わせて!」
「ちょ、エルザ!?」
「はい。元より、そのつもりです。」
女はコクン、と頷き、エルザの目を見つめると、
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