203 / 222
第四章 覚醒編
闇の勇者
しおりを挟む
「さて…、ルーファス。さっきも説明した通り、リスティーナはアリスティア様に君を助けて欲しいと願った。だけど、この契約は双方の同意がないと、叶えられない。だから、ルーファス。今、ここで決めるんだ。このまま死ぬか、それとも、生きるか。」
「ッ!」
生きるか、死ぬか…。そんなの…、決まっている。
神でも悪魔でも構わない。何でもいい。誰でもいい。もう一度、リスティーナに会う事ができるのなら…!
ルーファスは迷わずに答えを決めた。
「俺は…、こんな所では死ねない。約束したんだ。リスティーナと…。」
一緒に生きると…。約束、した…。
「生きたい…!俺はまだ…、死にたくない。」
「そうか。分かった。君は生きたいと望むんだね。」
ミハイルは嬉しそうに笑うと、それなら…、とルーファスに手を差し出した。
「ルーファス。僕と契約しない?」
「契約?何の?」
「大精霊の契約っていったら、一つしかないでしょ?古の契約を使ったとはいえ、これで君は、僕の試練に最後まで耐え抜いた。合格だよ。ルーファス。」
合格…?一体、何の話だ?
ミハイルはルーファスの瞳をジッと見つめ、ニコッと微笑んだ。
「僕の加護を君に与えよう。つまりね…、僕は君を闇の勇者として認めようと思うんだ。」
「は…?」
ミハイルの言葉をルーファスは呆然と呟く。俺が…、闇の、勇者?
一瞬、幻聴かと思った。だけど、今、確かにミハイルは言った。俺を闇の勇者として認めると…。
有り得ない…。俺が勇者になんてなれる訳がない。
「な、何を言っているんだ?俺が勇者…?俺が勇者なんて何かの間違いだろう。俺より、力の強い魔力保持者なんて他にも…、」
動揺のあまり、声が震えた。
そうだ。俺以外にも強い魔力持ちなんてたくさんいる。
そんなルーファスの言葉をミハイルがいいや、と首を横に振った。
「いいや。君以外には有り得ないよ。…ルーファス。君は強くなった。試練を乗り越え、覚醒した君は誰よりも強くなった。大精霊の僕が言うんだ。自信を持つといい。」
「俺は…、勇者なんて器じゃない。」
ルーファスは思わず視線を下に落とした。
俺には勇者なんて肩書きは重すぎる。その責務を果たせる自信がない。
「まあ、嫌ならいいよ。でも、勇者にならないというのなら…、君はどっちにしろ、死ぬよ?それでも、いいの?」
「ッ!?」
ルーファスは思わずバッと顔を上げて、ミハイルを見た。
「な、何故?さっき、お互いの同意があれば願いは叶うと…。」
「そうだね。確かに君の命は助かるよ。でも、それは一時的なものだ。勇者にならずに、今の身体のまま生き返った所ですぐに死んでしまう。さっきも説明したように君の古い肉体はもうボロボロなんだ。
そのままの身体で生き続けるのは限界がある。
折角、リスティーナが古の契約を使ってまで君を助けても、それじゃ意味がないでしょ?」
「あっ…、」
そうか。このまま助かったとしても、今までと同じ体のままだと、どちらにしろ、俺はまたすぐに死ぬ。
この先もずっとリスティーナと生きるためには、勇者になるしか道はない。その事実に気付かされた。
どうやら、俺には最初から勇者になるという選択肢しか残されていないようだ。
勇者という地位に興味はないが、生き残るにはもうこれしか道はない。
「勇者になれば、君はこの先も生き続けられる。新しい肉体に作り替えられて、器を手に入れた君は最強だ。体力のなさに悩むこともないし、ベッドで寝たきりになる事もない。好きな子と太陽の下で散歩することだってできるし、湖に行く事だってできる。旅行に行く事だってできる。好きな子を守る事だってできるんだ。」
確かに…。ミハイルの言う通りだ。
勇者になれば、リスティーナを守れる力が手に入るし、これからもリスティーナと生きることができる。
そう考えれば、勇者になるのも悪くない。
やってやろうじゃないか。ルーファスは覚悟を決めた。
「闇の勇者になる申し出…、受け入れよう。」
ルーファスの言葉にミハイルは嬉しそうに笑うと、
「じゃあ…、契約を交わそう。ルーファス。手を出して。」
そう促され、ルーファスは右手を差し出した。
ミハイルはルーファスに向かって、スッと指差すと、声を張り上げた。
「闇の大精霊、ミハイルの名にかけて、ここに宣言する。ルーファス・ド・ローゼンハイム。君こそが僕の加護と寵愛を受ける者。七番目の最後の勇者、闇の勇者として認める!第四代目の闇の勇者の誕生をここに宣言する!」
そう宣言した直後、ミハイルの指から黒い光が放たれ、ルーファスの右手の甲にシュルシュル、と黒い紋章が刻まれる。闇の勇者の証である紋章だ。
「これで、君は名実ともに闇の勇者となった。おめでとう。ルーファス。これで、君は勇者の仲間入りだ。きっと、近い内に魔法省や教会から召集がかかるだろうから、それまでは…、」
「待ってくれ。一つ、頼みがある。俺が勇者であることを…、暫くの間、伏せて貰うことはできないか?」
「ん?構わないけど…、そんなに長期間は無理だよ。せいぜい、一週間が限度だ。」
「十分だ。」
周囲に勇者だと知られる前に、俺にはやるべくことがある。
「覚醒したばかりだから、まだ魔力のコントロールが難しいと思うけど…、練習を重ねていけば、魔力に身体が馴染んで使いこなしていくようになると思うから、頑張って。」
「ああ。分かった。」
できるかどうかは分からないが…、やってみよう。だが…、まだ実感が沸かないな。
紋章を刻まれたが、まだ自分の体の変化が分からない。
そういえば、ここは意識だけを刈り取られた空間だといっていたな。分からないのも当然か。
「あ、そうだ。実は、君が飼っているあの黒猫の事だけど…。あれは、ただの猫じゃなくて、君の魔力が具現化した存在だから、目が覚めたら、一度身体に取り込んでね。」
「は?」
ミハイルの言葉にルーファスは思わずポカンとした。
ノエルは猫ではない?ノエルは俺の魔力が形になったもの?
そんなことが可能なのか?
「覚えてないかな?ノエルが殺された時、君は感情が抑制できずに魔力が暴走してしまったんだ。」
「!あの時の…!」
忘れたことなんて一度もない。今でも脳裏に焼き付いている程、覚えている。
その後、弟殺しの濡れ衣を着せられ、死刑にされそうになった所を暴風が巻き起こり、王の間が滅茶苦茶な惨状になった。あれは、俺の魔力が暴走してしまって起こったことだったのか?
「周りは呪いだ何だって言ってたけど、あれはよくある魔力事故だ。冷静に考えれば、分かりそうなことなんだけどね。人間って突拍子もない事が起こると、すぐに冷静さを失って、混乱状態に陥るから。
だから、誰もあの現象が魔力暴走だと気付かなかった。」
確かにそうだ。感情の乱れで魔力が暴走してしまうという事例は多く存在する。
魔力暴走すると、命を落とす危険性もある。
周囲の人間を巻き込んで多数の死者を出したという魔力事故も過去にはあった位だ。
魔力暴走とはそれ位、恐ろしい事件として認知されている。
「でも、本能的に自分の身は守ってたんだね。だから、あの時、ルーファスだけは傷一つなかったんだよ。本来、試練を与えた君は魔力が使えないようになってたんだけど…、君は魔力が強すぎて、感情が乱れると、無意識に魔法を使ってしまったんだ。あのまま魔力を君の体に留まらせていたら、いずれ取り返しがつかないことになる。かといって、全ての魔力を取り出してしまえば、君は魔力切れを起こして、死んでしまう。だから、一時的に魔力を半分外に出したんだ。」
「俺の魔力を外に出してできたものが、ノエル…なのか?」
「正解。いってしまえば、ノエルは君の魔力の分身みたいなもんだよ。だから、ノエルは君と同じ色を持っているでしょう?」
「た、確かに…。」
そうだ。ノエルは俺と同じオッドアイで目の色も一致している。毛色だって俺の髪と同じ黒だ。
偶然かと思っていたが、そうではなかったのか。
まさか、ノエルが俺の魔力の分身だなんて考えもしなかった。
「もしかして、シグルド達にも…?」
「うん。シグルド達も魔力の分身があったよ。そうそう。この魔力の分身は鍛えていけば、進化して成長していくから、試してみるといいよ。ただし、やり過ぎは禁物だよ。」
「鍛えるとは具体的に何をすればいいんだ?」
「とりあえず、一度、魔力を全部身体に取り込んで、身体に馴染ませる。まずはそこからだね。そもそも、魔力の分身を作るのってかなり難しい術式だから、最初からできるもんじゃないよ。ああ。安心して。魔力を取り込むのはその対象に触れるだけだから、簡単だよ。
とにかく、最初は、魔力をコントロールして、ひたすら魔法の訓練をすることだ。使える魔法が増えれば増える程、どんどんレベルアップしていくから、その後で魔力の分身を作ってみるといいよ。エレン達もそうやってきたからさ。」
「エレン達も…、そうか…。」
エレン達も鍛錬して、あそこまで強くなったんだな。
彼らは無事に冥界に戻れただろうか?
せめて、最後に挨拶をしておきたかった。
「そうそう。エレン達なら、まだあの場所にいるよ。最後に挨拶をしてくるといいよ。」
「…え。いいのか?」
「うん。いいよ。あの三人も最後に君に伝えたいことがあるだろうし…。」
そう言って、ミハイルは何もない空間に手を翳した。
すると、大きな穴が現れ、穴の向こうには、森に囲まれた白い墓が見えた。
「ここを通って行けば、向こう側に行けるよ。」
「…ああ。ありがとう。」
ルーファスは穴に向かい、一歩、足を踏み出した。
「ルーファス。」
その時、背後から声を掛けられ、振り向いた。
「きっと、君は…、歴代史上最強の勇者になる。でも…、一つだけ僕から忠告するよ。」
漆黒の瞳がルーファスの目を見据えた。
「君は勇者になった。だけど、勇者というのは光にもなるし、影にもなる。高みを目指すか、身の破滅か。そのどちらか一つだ。特に闇の勇者は他の勇者と違って特殊な存在だ。勇者達の中で一番強いけど、同時に脆い。そんな両極端な一面を持っている。闇の勇者は勇者達の中で一番闇落ちしやすい傾向にあるんだ。闇魔法は精神に左右するものが多いからね。つまり、精神的に強くないと、この魔法は使いこなせない。だから、ルーファス。使い方には十分に気を付けるんだよ。この力は君を守る盾でもあり、自らを貫く剣にもなる。それを決して、忘れないで。」
高みを目指すか、身の破滅…。
元より、勇者の道を選んだ時点で真っ当な人生を送れるとは思っていない。
勇者というものは決して、綺麗なだけの世界ではないことは容易に想像がつく。
そんな事はとっくに覚悟の上だ。それでも、俺は…、リスティーナと共に生きていきたい。
「…ああ。分かった。忠告に感謝する。」
ルーファスの返答にミハイルはフッと安心したように笑った。
ミハイルはそのまま闇に溶け込んで消えていった。
「ッ!」
生きるか、死ぬか…。そんなの…、決まっている。
神でも悪魔でも構わない。何でもいい。誰でもいい。もう一度、リスティーナに会う事ができるのなら…!
ルーファスは迷わずに答えを決めた。
「俺は…、こんな所では死ねない。約束したんだ。リスティーナと…。」
一緒に生きると…。約束、した…。
「生きたい…!俺はまだ…、死にたくない。」
「そうか。分かった。君は生きたいと望むんだね。」
ミハイルは嬉しそうに笑うと、それなら…、とルーファスに手を差し出した。
「ルーファス。僕と契約しない?」
「契約?何の?」
「大精霊の契約っていったら、一つしかないでしょ?古の契約を使ったとはいえ、これで君は、僕の試練に最後まで耐え抜いた。合格だよ。ルーファス。」
合格…?一体、何の話だ?
ミハイルはルーファスの瞳をジッと見つめ、ニコッと微笑んだ。
「僕の加護を君に与えよう。つまりね…、僕は君を闇の勇者として認めようと思うんだ。」
「は…?」
ミハイルの言葉をルーファスは呆然と呟く。俺が…、闇の、勇者?
一瞬、幻聴かと思った。だけど、今、確かにミハイルは言った。俺を闇の勇者として認めると…。
有り得ない…。俺が勇者になんてなれる訳がない。
「な、何を言っているんだ?俺が勇者…?俺が勇者なんて何かの間違いだろう。俺より、力の強い魔力保持者なんて他にも…、」
動揺のあまり、声が震えた。
そうだ。俺以外にも強い魔力持ちなんてたくさんいる。
そんなルーファスの言葉をミハイルがいいや、と首を横に振った。
「いいや。君以外には有り得ないよ。…ルーファス。君は強くなった。試練を乗り越え、覚醒した君は誰よりも強くなった。大精霊の僕が言うんだ。自信を持つといい。」
「俺は…、勇者なんて器じゃない。」
ルーファスは思わず視線を下に落とした。
俺には勇者なんて肩書きは重すぎる。その責務を果たせる自信がない。
「まあ、嫌ならいいよ。でも、勇者にならないというのなら…、君はどっちにしろ、死ぬよ?それでも、いいの?」
「ッ!?」
ルーファスは思わずバッと顔を上げて、ミハイルを見た。
「な、何故?さっき、お互いの同意があれば願いは叶うと…。」
「そうだね。確かに君の命は助かるよ。でも、それは一時的なものだ。勇者にならずに、今の身体のまま生き返った所ですぐに死んでしまう。さっきも説明したように君の古い肉体はもうボロボロなんだ。
そのままの身体で生き続けるのは限界がある。
折角、リスティーナが古の契約を使ってまで君を助けても、それじゃ意味がないでしょ?」
「あっ…、」
そうか。このまま助かったとしても、今までと同じ体のままだと、どちらにしろ、俺はまたすぐに死ぬ。
この先もずっとリスティーナと生きるためには、勇者になるしか道はない。その事実に気付かされた。
どうやら、俺には最初から勇者になるという選択肢しか残されていないようだ。
勇者という地位に興味はないが、生き残るにはもうこれしか道はない。
「勇者になれば、君はこの先も生き続けられる。新しい肉体に作り替えられて、器を手に入れた君は最強だ。体力のなさに悩むこともないし、ベッドで寝たきりになる事もない。好きな子と太陽の下で散歩することだってできるし、湖に行く事だってできる。旅行に行く事だってできる。好きな子を守る事だってできるんだ。」
確かに…。ミハイルの言う通りだ。
勇者になれば、リスティーナを守れる力が手に入るし、これからもリスティーナと生きることができる。
そう考えれば、勇者になるのも悪くない。
やってやろうじゃないか。ルーファスは覚悟を決めた。
「闇の勇者になる申し出…、受け入れよう。」
ルーファスの言葉にミハイルは嬉しそうに笑うと、
「じゃあ…、契約を交わそう。ルーファス。手を出して。」
そう促され、ルーファスは右手を差し出した。
ミハイルはルーファスに向かって、スッと指差すと、声を張り上げた。
「闇の大精霊、ミハイルの名にかけて、ここに宣言する。ルーファス・ド・ローゼンハイム。君こそが僕の加護と寵愛を受ける者。七番目の最後の勇者、闇の勇者として認める!第四代目の闇の勇者の誕生をここに宣言する!」
そう宣言した直後、ミハイルの指から黒い光が放たれ、ルーファスの右手の甲にシュルシュル、と黒い紋章が刻まれる。闇の勇者の証である紋章だ。
「これで、君は名実ともに闇の勇者となった。おめでとう。ルーファス。これで、君は勇者の仲間入りだ。きっと、近い内に魔法省や教会から召集がかかるだろうから、それまでは…、」
「待ってくれ。一つ、頼みがある。俺が勇者であることを…、暫くの間、伏せて貰うことはできないか?」
「ん?構わないけど…、そんなに長期間は無理だよ。せいぜい、一週間が限度だ。」
「十分だ。」
周囲に勇者だと知られる前に、俺にはやるべくことがある。
「覚醒したばかりだから、まだ魔力のコントロールが難しいと思うけど…、練習を重ねていけば、魔力に身体が馴染んで使いこなしていくようになると思うから、頑張って。」
「ああ。分かった。」
できるかどうかは分からないが…、やってみよう。だが…、まだ実感が沸かないな。
紋章を刻まれたが、まだ自分の体の変化が分からない。
そういえば、ここは意識だけを刈り取られた空間だといっていたな。分からないのも当然か。
「あ、そうだ。実は、君が飼っているあの黒猫の事だけど…。あれは、ただの猫じゃなくて、君の魔力が具現化した存在だから、目が覚めたら、一度身体に取り込んでね。」
「は?」
ミハイルの言葉にルーファスは思わずポカンとした。
ノエルは猫ではない?ノエルは俺の魔力が形になったもの?
そんなことが可能なのか?
「覚えてないかな?ノエルが殺された時、君は感情が抑制できずに魔力が暴走してしまったんだ。」
「!あの時の…!」
忘れたことなんて一度もない。今でも脳裏に焼き付いている程、覚えている。
その後、弟殺しの濡れ衣を着せられ、死刑にされそうになった所を暴風が巻き起こり、王の間が滅茶苦茶な惨状になった。あれは、俺の魔力が暴走してしまって起こったことだったのか?
「周りは呪いだ何だって言ってたけど、あれはよくある魔力事故だ。冷静に考えれば、分かりそうなことなんだけどね。人間って突拍子もない事が起こると、すぐに冷静さを失って、混乱状態に陥るから。
だから、誰もあの現象が魔力暴走だと気付かなかった。」
確かにそうだ。感情の乱れで魔力が暴走してしまうという事例は多く存在する。
魔力暴走すると、命を落とす危険性もある。
周囲の人間を巻き込んで多数の死者を出したという魔力事故も過去にはあった位だ。
魔力暴走とはそれ位、恐ろしい事件として認知されている。
「でも、本能的に自分の身は守ってたんだね。だから、あの時、ルーファスだけは傷一つなかったんだよ。本来、試練を与えた君は魔力が使えないようになってたんだけど…、君は魔力が強すぎて、感情が乱れると、無意識に魔法を使ってしまったんだ。あのまま魔力を君の体に留まらせていたら、いずれ取り返しがつかないことになる。かといって、全ての魔力を取り出してしまえば、君は魔力切れを起こして、死んでしまう。だから、一時的に魔力を半分外に出したんだ。」
「俺の魔力を外に出してできたものが、ノエル…なのか?」
「正解。いってしまえば、ノエルは君の魔力の分身みたいなもんだよ。だから、ノエルは君と同じ色を持っているでしょう?」
「た、確かに…。」
そうだ。ノエルは俺と同じオッドアイで目の色も一致している。毛色だって俺の髪と同じ黒だ。
偶然かと思っていたが、そうではなかったのか。
まさか、ノエルが俺の魔力の分身だなんて考えもしなかった。
「もしかして、シグルド達にも…?」
「うん。シグルド達も魔力の分身があったよ。そうそう。この魔力の分身は鍛えていけば、進化して成長していくから、試してみるといいよ。ただし、やり過ぎは禁物だよ。」
「鍛えるとは具体的に何をすればいいんだ?」
「とりあえず、一度、魔力を全部身体に取り込んで、身体に馴染ませる。まずはそこからだね。そもそも、魔力の分身を作るのってかなり難しい術式だから、最初からできるもんじゃないよ。ああ。安心して。魔力を取り込むのはその対象に触れるだけだから、簡単だよ。
とにかく、最初は、魔力をコントロールして、ひたすら魔法の訓練をすることだ。使える魔法が増えれば増える程、どんどんレベルアップしていくから、その後で魔力の分身を作ってみるといいよ。エレン達もそうやってきたからさ。」
「エレン達も…、そうか…。」
エレン達も鍛錬して、あそこまで強くなったんだな。
彼らは無事に冥界に戻れただろうか?
せめて、最後に挨拶をしておきたかった。
「そうそう。エレン達なら、まだあの場所にいるよ。最後に挨拶をしてくるといいよ。」
「…え。いいのか?」
「うん。いいよ。あの三人も最後に君に伝えたいことがあるだろうし…。」
そう言って、ミハイルは何もない空間に手を翳した。
すると、大きな穴が現れ、穴の向こうには、森に囲まれた白い墓が見えた。
「ここを通って行けば、向こう側に行けるよ。」
「…ああ。ありがとう。」
ルーファスは穴に向かい、一歩、足を踏み出した。
「ルーファス。」
その時、背後から声を掛けられ、振り向いた。
「きっと、君は…、歴代史上最強の勇者になる。でも…、一つだけ僕から忠告するよ。」
漆黒の瞳がルーファスの目を見据えた。
「君は勇者になった。だけど、勇者というのは光にもなるし、影にもなる。高みを目指すか、身の破滅か。そのどちらか一つだ。特に闇の勇者は他の勇者と違って特殊な存在だ。勇者達の中で一番強いけど、同時に脆い。そんな両極端な一面を持っている。闇の勇者は勇者達の中で一番闇落ちしやすい傾向にあるんだ。闇魔法は精神に左右するものが多いからね。つまり、精神的に強くないと、この魔法は使いこなせない。だから、ルーファス。使い方には十分に気を付けるんだよ。この力は君を守る盾でもあり、自らを貫く剣にもなる。それを決して、忘れないで。」
高みを目指すか、身の破滅…。
元より、勇者の道を選んだ時点で真っ当な人生を送れるとは思っていない。
勇者というものは決して、綺麗なだけの世界ではないことは容易に想像がつく。
そんな事はとっくに覚悟の上だ。それでも、俺は…、リスティーナと共に生きていきたい。
「…ああ。分かった。忠告に感謝する。」
ルーファスの返答にミハイルはフッと安心したように笑った。
ミハイルはそのまま闇に溶け込んで消えていった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
売られた先は潔癖侯爵とその弟でした
しゃーりん
恋愛
貧乏伯爵令嬢ルビーナの元に縁談が来た。
潔癖で有名な25歳の侯爵である。
多額の援助と引き換えに嫁ぐことになった。
お飾りの嫁になる覚悟のもと、嫁いだ先でのありえない生活に流されて順応するお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる