219 / 222
第五章 再会編
エルザとの再会
しおりを挟む
バチン!と何かが弾けるような音がしたと思ったら、突然、毛むくじゃらの男が吹っ飛ばされ、木の幹に打ちつけられた。
「え…?」
リスティーナは何が起こったのか分からず、呆然とした。
肩に触れるが傷一つない。その時、リスティーナの肩から緑色の魔法陣が表れ、消滅した。
この魔法陣は…!リスティーナはこの魔法陣の色に見覚えがあった。エルザの魔法だ。
もしかして、これ…、術者と対象者のダメージを転換する魔法?
確か、この術式を魔法書の本で見たことがある。
これは、対象者が受けた傷を術者が代わりに引き受けるという身代わりの魔法陣だ。
そんな…!だとしたら、今頃、エルザが…!
そうしている間にも、男が唸り声を上げながら、起き上がる。
リスティーナは慌てて立ち上がると、そのまま駆け出した。
落ちた魔石を拾う余裕はなかった。
とにかく、今は逃げないと…!もう、手持ちの魔石は三つしかない。これで、何とか乗り切って…!
リスティーナの背後から迫ってくる音が聞こえる。追いつかれる…!リスティーナは魔石を握り締めた。
『土壁!』
背後からドゴッ!と何かが割れるような音がした。
思わず振り返れば、地面からいきなり、巨大な土の壁が現れた。
この、土魔法は…!リスティーナは思わず辺りを見回した。
「エルザ!?」
「ティナ様!」
懐かしい声がした。反射的に見上げると、金髪に染めた長い髪を靡かせた美少女が魔法で空を飛んでいた。間違いない。エルザだ。
「エルザ!」
リスティーナはぱあっと顔を輝かせた。
エルザはリスティーナの目の前まで飛んでいくと、スタッと隙のない身のこなしで着地する。
「ティナ様!ご無事ですか!?」
「うん!私は大丈夫!あの、それより、さっき…、!」
リスティーナはさっきの魔法陣のことを聞こうとしたが、エルザの肩を見て、息を呑んだ。
エルザの肩口が血で汚れている。すごい血だ。服の上からでも分かる位の血の量だった。
「エルザ!やっぱり、怪我しているのね!見せて!」
「!てぃ、ティナ様…。私の事は…、」
「いいから!」
リスティーナはエルザの肩口の服を切り裂き、傷口を確認する。
ひどい傷…!噛み跡から血が流れている。
エルザはこれだけの傷を負っていたのに手当てすることなく、真っ先に私の所に来てくれたんだ。
エルザ…!リスティーナはこみ上げる感情をグッと押さえつけ、すぐに応急処置をした。
持っていたハンカチを切り裂き、それを止血代わりにして、傷口に巻きつけた。
良かった。とりあえず、血は止まった。
「ティナ様!ティナ様のハンカチが汚れてしまいます!」
「そんなのどうでもいい!さっきの攻撃、エルザが身代わりに受けてくれたんでしょう?ごめんね。痛かったでしょう?」
「なっ…、ティナ様が謝る必要はありません!私が勝手にしたことです。」
「エルザ…。ありがとう…。」
リスティーナが感謝を込めて、お礼を言うと、エルザは頬を染めた。
「い、いいえ!そんな…!こんな事でお役に立てるのなら、幾らでも…!ティナ様の為なら、手足の一本や二本失っても惜しくありません!」
「何言ってるの!駄目よ!そんなの…!お願いだから、そんな悲しいことは言わないで。エルザは女の子なんだから、身体を大事にして。」
エルザの言葉にリスティーナは慌てて、止めた。
エルザなら、本当にやりかねない。エルザはいつも自分よりも私の為に無茶ばかりするから…。
リスティーナはエルザの手を握り締めて、身体を大事にして欲しいと懇願した。
リスティーナに手を握られたエルザは興奮したように瞳を輝かせ、頷いた。
「はい!ティナ様!…ああ。ティナ様のぬくもり…。三か月ぶりのこの感触…!」
エルザはリスティーナの握った手にスリスリ、と頬を摺り寄せた。
あっ…、しまった。つい手を握ってしまったけど、この手、さっき血の水たまりで汚れたんだった…。
どうしよう…!今更、離してとも言えないし…。
…後でエルザに今日は顔を念入りに洗うように言っておこう。
「ティナ様。咄嗟に魔法を使ってしまいましたが、よかったのでしょうか?」
「ええ。助かったわ。ありがとう。エルザ。」
リスティーナの言葉にエルザは嬉しそうに口元を緩ませた。
「これ位でしたら、お安い御用です!あの、それより、こいつは一体、何者なんです?動物なんですか?人間のようにも見えますけど…。」
「私もよく分からないのだけれど…。多分、人間なんだと思う。この人…、ルーファス様の弟を殺した犯人かもしれないの。」
「ルーファス殿下の…?」
「とにかく、早くここを離れないと…。エルザ、歩けそう?」
早く屋敷に戻って、エルザの傷の手当てをしないと…。
あの獣のような男が襲ってこない内に…。
「ええ。大丈夫で…、」
そこまで言いかけて、エルザはハッ!と焦った表情で土の壁に視線を向ける。微かに土の壁に亀裂が走っていた。
「ティナ様!」
エルザがリスティーナを突き飛ばした。それと同時にバキバキ!と音がして、壁が破壊された。
突き飛ばされたリスティーナは地面を転がる。
『風刃!』
エルザ…!リスティーナは慌てて上体を起こす。
見れば、土の壁を突き破った毛むくじゃらの男が今にもエルザに襲い掛かろうとしていた。
が、エルザは風魔法で撃退しようとしている。男が迫るより先にエルザの魔法の方が早かった。
風魔法は的確に当たり、男の手足を切り裂いていくが、男は攻撃が当たっても倒れることも足を止める事もなく、そのままエルザに突進していく。
「なっ…!?」
予想外の動きにエルザも面食らった。そのまま接近を許してしまい、男の爪がエルザを引き裂いた。
「あうっ…!」
「エルザ!」
鮮血が辺りに飛び散った。肩から胸を切り裂かれ、エルザは地面に倒れ込んだ。
男が再度、爪を振り上げるのを見て、リスティーナは地面に落ちてた石を拾うと、それを投げつけた。
「エルザから離れて!」
ガツンッ!と石が男の頭に当たった。男の標的がリスティーナに変わった。
何か…、何か武器になりそうなものは…、リスティーナは咄嗟に地面に落ちていた木の枝を手に取った。
人間の腕の太さほどの大きな木の枝…。これなら…!
男がリスティーナに襲い掛かろうとするが…、その足をエルザが掴んだ。
「…ティ、ナ様に手を出す、なっ…!」
男はエルザの頭を掴むと、そのまま地面に強打した。
「カハッ…!」
「エルザ!止めて!…止めなさい!」
リスティーナがそう叫んだ瞬間、カッと身体が熱くなり、ビリビリと空気が震えるような音がした。
風も吹いていないのに、ブワッと髪が舞い上がる。
エルザの頭を掴んでいた毛むくじゃらの男はピクッと動きを止めた。
頭を打った衝撃で意識が朦朧としながらもエルザはリスティーナに視線を向ける。
揺れる視界の中でエルザはリスティーナの瞳の色が桃色に変わっているのを見た。
ティナ…様…。
一瞬、男の動きが止まった。
リスティーナは走って木の枝を振り上げると、思いっきり男に向かって振り下ろした。
が、動きが止まっていた筈の男はグルン、とありえない角度で首を曲げて、木の枝に噛みつくと、そのまま木の枝を粉々に粉砕してしまう。
リスティーナは空いていた片手で魔石を投げつけた。木の枝の攻撃はフェイントでしかない。こっちが本命だ。
割れた緑の魔石から植物の蔓のようなものが飛び出し、男を拘束する。
その隙にリスティーナは地面に放り投げられたエルザに駆け寄ると、
「エルザ!しっかりして!」
「ティ、ナ様…。逃げて…。」
「分かってる!さあ、逃げるのよ!」
リスティーナはエルザの肩に手を回し、立ち上がって歩き出す。
「だ、め、です…。ティナ様…。わたしを置いて…、逃げて…。」
「嫌よ!そんなことできない!」
が、エルザは怪我が酷いせいか自力で立って歩くことができなかった。
リスティーナは魔石を取り出して割った。
魔石の力で身体強化と加速魔法をかけ、エルザを背負って運ぶ。
が、途中で魔石の効果が切れてしまい、リスティーナは抱えきれずに地面に倒れ込んでしまう。
倒れ込んだ際に膝や手首に擦り傷を負うが、リスティーナはすぐに立ち上がると、エルザの脇の下に手を入れて、引きずるように進んでいく。
「お願い!エルザ!頑張って!」
早く…!早くしないと…!
「ティナ、様…。お願い、です…。ティナ様だけでも逃げて…。私は足手纏いですから…。」
「嫌よ!エルザが死ぬなんて嫌!」
見捨てる事なんてできない。だって、物心ついた頃から、ずっと一緒だった。
エルザがいたから、寂しくなんてなかった。辛い時も悲しい時も苦しい時もエルザが傍にいてくれた。
それがどれだけ嬉しかったか…。
エルザには、何度も助けられた。私が男の人に襲われかけた時も魔法で撃退してくれた。
私に魔力を貸してくれた。私にたくさんの事を教えてくれた。エルザは私にとって、大切な家族のような存在だ。そんな子を見捨てるなんてできない!
「ティナ、様…。」
その時、蔓魔法の拘束を引きちぎったのだろう。あの男が獣のような唸り声を上げながら、追ってきた。
駄目…!リスティーナはエルザを庇うように覆いかぶさった。
ギュッと目を瞑る。死を覚悟したその時、リスティーナは脳裏にルーファスの姿が浮かんだ。
最後に…、ルーファス様に会いたかった…!
「ッ、ルーファス様!」
ザン!最後の一人を仕留め、ルーファスは剣についた血を払い、鞘に収めた。
辺りには黒ずくめのフードを被った男達の死体が転がっている。
複数の男の気配と殺気を感じてきてみれば、これだ。
全く…。次から次へと…。
予想はしていたが、まさか二日続けて、刺客を差し向けられるとはな…。
グイッと返り血を拭い、ルーファスは血で汚れた自分の身体を見下ろす。
早くリスティーナの所に戻りたいが…。その前に綺麗にしておかないとな…。
こんな姿で戻ったら、リスティーナを怖がらせてしまう。
洗浄魔法と乾燥魔法で血で汚れた身体を綺麗にしていく。
『ルーファス!大変!大変だよ!』
その時、闇の妖精達が焦った様子でルーファスの所にやって来た。
「どうした?そんなに慌てて…、」
ルーファスはあらかじめ妖精達にリスティーナの傍にいるように頼んでおいたのだ。
まさか…、ルーファスは嫌な予感がした。
『リスティーナが…!』
その後に続いた言葉にルーファスはすぐさま全速力で駆け出した。
「え…?」
リスティーナは何が起こったのか分からず、呆然とした。
肩に触れるが傷一つない。その時、リスティーナの肩から緑色の魔法陣が表れ、消滅した。
この魔法陣は…!リスティーナはこの魔法陣の色に見覚えがあった。エルザの魔法だ。
もしかして、これ…、術者と対象者のダメージを転換する魔法?
確か、この術式を魔法書の本で見たことがある。
これは、対象者が受けた傷を術者が代わりに引き受けるという身代わりの魔法陣だ。
そんな…!だとしたら、今頃、エルザが…!
そうしている間にも、男が唸り声を上げながら、起き上がる。
リスティーナは慌てて立ち上がると、そのまま駆け出した。
落ちた魔石を拾う余裕はなかった。
とにかく、今は逃げないと…!もう、手持ちの魔石は三つしかない。これで、何とか乗り切って…!
リスティーナの背後から迫ってくる音が聞こえる。追いつかれる…!リスティーナは魔石を握り締めた。
『土壁!』
背後からドゴッ!と何かが割れるような音がした。
思わず振り返れば、地面からいきなり、巨大な土の壁が現れた。
この、土魔法は…!リスティーナは思わず辺りを見回した。
「エルザ!?」
「ティナ様!」
懐かしい声がした。反射的に見上げると、金髪に染めた長い髪を靡かせた美少女が魔法で空を飛んでいた。間違いない。エルザだ。
「エルザ!」
リスティーナはぱあっと顔を輝かせた。
エルザはリスティーナの目の前まで飛んでいくと、スタッと隙のない身のこなしで着地する。
「ティナ様!ご無事ですか!?」
「うん!私は大丈夫!あの、それより、さっき…、!」
リスティーナはさっきの魔法陣のことを聞こうとしたが、エルザの肩を見て、息を呑んだ。
エルザの肩口が血で汚れている。すごい血だ。服の上からでも分かる位の血の量だった。
「エルザ!やっぱり、怪我しているのね!見せて!」
「!てぃ、ティナ様…。私の事は…、」
「いいから!」
リスティーナはエルザの肩口の服を切り裂き、傷口を確認する。
ひどい傷…!噛み跡から血が流れている。
エルザはこれだけの傷を負っていたのに手当てすることなく、真っ先に私の所に来てくれたんだ。
エルザ…!リスティーナはこみ上げる感情をグッと押さえつけ、すぐに応急処置をした。
持っていたハンカチを切り裂き、それを止血代わりにして、傷口に巻きつけた。
良かった。とりあえず、血は止まった。
「ティナ様!ティナ様のハンカチが汚れてしまいます!」
「そんなのどうでもいい!さっきの攻撃、エルザが身代わりに受けてくれたんでしょう?ごめんね。痛かったでしょう?」
「なっ…、ティナ様が謝る必要はありません!私が勝手にしたことです。」
「エルザ…。ありがとう…。」
リスティーナが感謝を込めて、お礼を言うと、エルザは頬を染めた。
「い、いいえ!そんな…!こんな事でお役に立てるのなら、幾らでも…!ティナ様の為なら、手足の一本や二本失っても惜しくありません!」
「何言ってるの!駄目よ!そんなの…!お願いだから、そんな悲しいことは言わないで。エルザは女の子なんだから、身体を大事にして。」
エルザの言葉にリスティーナは慌てて、止めた。
エルザなら、本当にやりかねない。エルザはいつも自分よりも私の為に無茶ばかりするから…。
リスティーナはエルザの手を握り締めて、身体を大事にして欲しいと懇願した。
リスティーナに手を握られたエルザは興奮したように瞳を輝かせ、頷いた。
「はい!ティナ様!…ああ。ティナ様のぬくもり…。三か月ぶりのこの感触…!」
エルザはリスティーナの握った手にスリスリ、と頬を摺り寄せた。
あっ…、しまった。つい手を握ってしまったけど、この手、さっき血の水たまりで汚れたんだった…。
どうしよう…!今更、離してとも言えないし…。
…後でエルザに今日は顔を念入りに洗うように言っておこう。
「ティナ様。咄嗟に魔法を使ってしまいましたが、よかったのでしょうか?」
「ええ。助かったわ。ありがとう。エルザ。」
リスティーナの言葉にエルザは嬉しそうに口元を緩ませた。
「これ位でしたら、お安い御用です!あの、それより、こいつは一体、何者なんです?動物なんですか?人間のようにも見えますけど…。」
「私もよく分からないのだけれど…。多分、人間なんだと思う。この人…、ルーファス様の弟を殺した犯人かもしれないの。」
「ルーファス殿下の…?」
「とにかく、早くここを離れないと…。エルザ、歩けそう?」
早く屋敷に戻って、エルザの傷の手当てをしないと…。
あの獣のような男が襲ってこない内に…。
「ええ。大丈夫で…、」
そこまで言いかけて、エルザはハッ!と焦った表情で土の壁に視線を向ける。微かに土の壁に亀裂が走っていた。
「ティナ様!」
エルザがリスティーナを突き飛ばした。それと同時にバキバキ!と音がして、壁が破壊された。
突き飛ばされたリスティーナは地面を転がる。
『風刃!』
エルザ…!リスティーナは慌てて上体を起こす。
見れば、土の壁を突き破った毛むくじゃらの男が今にもエルザに襲い掛かろうとしていた。
が、エルザは風魔法で撃退しようとしている。男が迫るより先にエルザの魔法の方が早かった。
風魔法は的確に当たり、男の手足を切り裂いていくが、男は攻撃が当たっても倒れることも足を止める事もなく、そのままエルザに突進していく。
「なっ…!?」
予想外の動きにエルザも面食らった。そのまま接近を許してしまい、男の爪がエルザを引き裂いた。
「あうっ…!」
「エルザ!」
鮮血が辺りに飛び散った。肩から胸を切り裂かれ、エルザは地面に倒れ込んだ。
男が再度、爪を振り上げるのを見て、リスティーナは地面に落ちてた石を拾うと、それを投げつけた。
「エルザから離れて!」
ガツンッ!と石が男の頭に当たった。男の標的がリスティーナに変わった。
何か…、何か武器になりそうなものは…、リスティーナは咄嗟に地面に落ちていた木の枝を手に取った。
人間の腕の太さほどの大きな木の枝…。これなら…!
男がリスティーナに襲い掛かろうとするが…、その足をエルザが掴んだ。
「…ティ、ナ様に手を出す、なっ…!」
男はエルザの頭を掴むと、そのまま地面に強打した。
「カハッ…!」
「エルザ!止めて!…止めなさい!」
リスティーナがそう叫んだ瞬間、カッと身体が熱くなり、ビリビリと空気が震えるような音がした。
風も吹いていないのに、ブワッと髪が舞い上がる。
エルザの頭を掴んでいた毛むくじゃらの男はピクッと動きを止めた。
頭を打った衝撃で意識が朦朧としながらもエルザはリスティーナに視線を向ける。
揺れる視界の中でエルザはリスティーナの瞳の色が桃色に変わっているのを見た。
ティナ…様…。
一瞬、男の動きが止まった。
リスティーナは走って木の枝を振り上げると、思いっきり男に向かって振り下ろした。
が、動きが止まっていた筈の男はグルン、とありえない角度で首を曲げて、木の枝に噛みつくと、そのまま木の枝を粉々に粉砕してしまう。
リスティーナは空いていた片手で魔石を投げつけた。木の枝の攻撃はフェイントでしかない。こっちが本命だ。
割れた緑の魔石から植物の蔓のようなものが飛び出し、男を拘束する。
その隙にリスティーナは地面に放り投げられたエルザに駆け寄ると、
「エルザ!しっかりして!」
「ティ、ナ様…。逃げて…。」
「分かってる!さあ、逃げるのよ!」
リスティーナはエルザの肩に手を回し、立ち上がって歩き出す。
「だ、め、です…。ティナ様…。わたしを置いて…、逃げて…。」
「嫌よ!そんなことできない!」
が、エルザは怪我が酷いせいか自力で立って歩くことができなかった。
リスティーナは魔石を取り出して割った。
魔石の力で身体強化と加速魔法をかけ、エルザを背負って運ぶ。
が、途中で魔石の効果が切れてしまい、リスティーナは抱えきれずに地面に倒れ込んでしまう。
倒れ込んだ際に膝や手首に擦り傷を負うが、リスティーナはすぐに立ち上がると、エルザの脇の下に手を入れて、引きずるように進んでいく。
「お願い!エルザ!頑張って!」
早く…!早くしないと…!
「ティナ、様…。お願い、です…。ティナ様だけでも逃げて…。私は足手纏いですから…。」
「嫌よ!エルザが死ぬなんて嫌!」
見捨てる事なんてできない。だって、物心ついた頃から、ずっと一緒だった。
エルザがいたから、寂しくなんてなかった。辛い時も悲しい時も苦しい時もエルザが傍にいてくれた。
それがどれだけ嬉しかったか…。
エルザには、何度も助けられた。私が男の人に襲われかけた時も魔法で撃退してくれた。
私に魔力を貸してくれた。私にたくさんの事を教えてくれた。エルザは私にとって、大切な家族のような存在だ。そんな子を見捨てるなんてできない!
「ティナ、様…。」
その時、蔓魔法の拘束を引きちぎったのだろう。あの男が獣のような唸り声を上げながら、追ってきた。
駄目…!リスティーナはエルザを庇うように覆いかぶさった。
ギュッと目を瞑る。死を覚悟したその時、リスティーナは脳裏にルーファスの姿が浮かんだ。
最後に…、ルーファス様に会いたかった…!
「ッ、ルーファス様!」
ザン!最後の一人を仕留め、ルーファスは剣についた血を払い、鞘に収めた。
辺りには黒ずくめのフードを被った男達の死体が転がっている。
複数の男の気配と殺気を感じてきてみれば、これだ。
全く…。次から次へと…。
予想はしていたが、まさか二日続けて、刺客を差し向けられるとはな…。
グイッと返り血を拭い、ルーファスは血で汚れた自分の身体を見下ろす。
早くリスティーナの所に戻りたいが…。その前に綺麗にしておかないとな…。
こんな姿で戻ったら、リスティーナを怖がらせてしまう。
洗浄魔法と乾燥魔法で血で汚れた身体を綺麗にしていく。
『ルーファス!大変!大変だよ!』
その時、闇の妖精達が焦った様子でルーファスの所にやって来た。
「どうした?そんなに慌てて…、」
ルーファスはあらかじめ妖精達にリスティーナの傍にいるように頼んでおいたのだ。
まさか…、ルーファスは嫌な予感がした。
『リスティーナが…!』
その後に続いた言葉にルーファスはすぐさま全速力で駆け出した。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
辺境伯と幼妻の秘め事
睡眠不足
恋愛
父に虐げられていた23歳下のジュリアを守るため、形だけ娶った辺境伯のニコラス。それから5年近くが経過し、ジュリアは美しい女性に成長した。そんなある日、ニコラスはジュリアから本当の妻にしてほしいと迫られる。
途中まで書いていた話のストックが無くなったので、本来書きたかったヒロインが成長した後の話であるこちらを上げさせてもらいます。
*元の話を読まなくても全く問題ありません。
*15歳で成人となる世界です。
*異世界な上にヒーローは人外の血を引いています。
*なかなか本番にいきません
虐げられた出戻り姫は、こじらせ騎士の執愛に甘く捕らわれる
無憂
恋愛
旧題:水面に映る月影は――出戻り姫と銀の騎士
和平のために、隣国の大公に嫁いでいた末姫が、未亡人になって帰国した。わずか十二歳の妹を四十も年上の大公に嫁がせ、国のために犠牲を強いたことに自責の念を抱く王太子は、今度こそ幸福な結婚をと、信頼する側近の騎士に降嫁させようと考える。だが、騎士にはすでに生涯を誓った相手がいた。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる