ここは猫町3番地の3 ~凶器を探しています~

菱沼あゆ

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凶器を探しています

間違い探しか

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 将生が意地で頼んだクリームソーダを飲んでいる間も、店には常連さんたちが出たり入ったりしていた。

「あー、今日は外、暑いわ~。
 琳ちゃん、アイスコーヒー」

「暑いわ~。
 琳ちゃん、アイスのほうじ茶ラテねー」

「……あったか?
 アイスのほうじ茶ラテ」

 目の前にあったメニューを見ながら将生は呟く。

「そもそも、ほうじ茶ラテがないんですが」
と苦笑いしながら、琳は、

 ほうじ茶パックのでいいかな、と呟きながら淹れている。

 まあ、なんだかんだで、此処は平和だな、と思ったとき、今度は習い事帰りの常連さんたちが押し寄せてきた。

「琳ちゃん、となり町で殺人事件があったらしいよー。
 アイスコーヒーね」

 ……平和だな。

「琳ちゃん、となり町で何度も男の人が殴られて……。
 あっ、カルピスね」

 ……平和だな。

 っていうか、カルピス、たまに子どもたちに出してるが、メニューにあったか!?

 だが、琳は冷蔵庫からカルピスを出してくる。

「琳ちゃん、アイスコーヒー。
 そういえば、となり町でさ……」

「殺人事件があったんですよね、聞きました~」

 苦笑いして琳が言ったとき、新たに入ってきたおじさんが、
「冷やし飴ね」
と言った。

 冷やし飴!?

 琳と思わず、スマホで調べる。

「ば、麦芽水飴を溶いて生姜を入れる……。
 麦芽水飴?」

 フリーズする琳に窓際に座ったおじさんは笑って言った。

「あー、ごめんごめん。
 ないよね。

 じゃあ、冷たい甘酒。
 おっ、庭、また変わったんだねえ」

 冷たい甘酒もないだろう、と思ったのだが、琳は冷蔵庫の前にしゃがんで言う。

「あ、ありました。
 ちょうどおじいちゃんがくれた紙パック入りのが。

 甘酒は飲む点滴っていうくらい身体にいいんだって言って分けてくれたんですっ」

 そのとき、また誰かが入ってきた。

「琳ちゃん、たこ焼き……」

 それはさすがにないだろうっ? と振り向くと、濃厚なソースと青ノリの香り漂う大きなビニール袋を手にしたおばあちゃんが立っていた。

「買ってきたから、みんなで食べよう。
 宝生さんも」

「あっ、ありがとうございます~っ」
と琳が言い、結局店に居たみんなで、そのたこ焼きをいただいた。



「あ、また庭変わったね」

 たこ焼きを食べたあと、ソースの匂いを抜こうと大きく窓を開けながら、おばさんの一人が言った。

「何処が変わったんですか?
 いつも思うんですが、みなさん、よくわかりますね。

 この間の二宮金次郎くらいならわかりますが」

 俺にはちょっと……とそのわずかな変化の原因がわからず将生が言うと、おばさんたちは言う。

「だって、私たちは、いつも庭見ながらしゃべってるから、ちょっとでも変わると気づくけど。

 宝生さんは気づかないわよねえ。
 いつもずっと違うとこ見てるから」

 確かに~、となにがおかしいのか、みんな笑っていた。


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