ここは猫町3番地の3 ~凶器を探しています~

菱沼あゆ

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凶器を探しています

ちょっと天然な人なんですよ

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 何処が変わったのか、琳ちゃんに教えてもらいなよ~と言われ、将生は琳と二人で庭に出ていた。

 いつも通り、店は放置だがいいのかとか。

 俺は監察医務院に戻るところだったんじゃないのか。
 俺、いいのか?

とか思いながらも、将生は琳と眩しい日差しの中、庭を歩く。

「変わったのは、此処ですよ」

 小道の途中で琳が足を止めた。

 幾つもの鉢がそこに並んでいた。

 っていうか、あっちにもこっちにも、いろんな植物の鉢がある。

「……二、三個増えたところで、わからないだろう」

「いえ、一個です」

 これです、と琳はひとつの鉢を指差した。

 背の高い植物で、たくさんの細長い黒い実が鈴なりになっている。

 ……わかるか、これ一個とか、と将生はかなり広い庭を見渡した。

「これ、海外で大人気らしいんですよ」

「……何故、日本で人気ない。
 っていうか、なんか見覚えあるぞ、これ。

 雑草じゃないのかっ?」

 その辺でよく見るぞ、と将生は言った。

「でも、海外では人気らしいんですよ」
と琳は繰り返す。

「これ、タケニグサって言うんですよ」

 そのとき、風が吹き、たくさんの細長い実がぶつかりあって、微かな音がした。

 その音を聞いて笑いながら、琳が言う。

「こういう音がするので、ササヤキグサとも言うんですよ」

「珍しいな、お前が名前を知っているとは」

 さては、毒草、と思った将生は正しかった。

「でも、そんなに強い毒ではないですよ」
と琳は笑う。

「しかし、海外で人気だとしても、その辺にたくさんあるのに、造園業者がわざわざ鉢に入れて、持ってくる意味はどの辺に」

 なにも書かれていないが、ネームプレートも刺さっている。

 それを見ながら琳が言った。

「外国の方のおうちに持っていくようにとか」

「……お前、外国の方じゃないだろうが」
 
 そのとき、あれ? と琳が言った。

「この鉢、スコップが刺さったままですね」

 鉢にはリングつきの支柱が立っていて、縄でもそれらを縛ってある。

 わさわさと増えすぎた植物が周りに広がらないようにやってあるようだ。

 その密集した植物の裏側に、よく見れば、スコップが刺さっていた。

 錆びて使い古したようなスコップを見た琳は、

「造園業者さんのかな?
 ちょっと天然な人なんですよね~」
と言いながら、琳はスマホで電話しはじめる。

 すぐに、はいはい~と若い感じの男の声が聞こえてきた。

「あのー、さっきの鉢、スコップ刺さったままでしたよ」

「え? どんなスコップですか?」

 琳が形状を説明すると、はははは、と造園業者は笑い、

「すみません。
 置いておいてください。

 今度取りに行きます。
 使われててもいいですよ」
と言って、電話を切った。

「使っててもいいそうです」

 そう言いながら、琳が鉢からそのスコップを抜く。

 水をやったあとなのか、スコップの埋もれていた部分についている土は黒く湿って見えた。



 また忘れ物しちゃったな。

 猫町3番地担当の造園業者、水宗みずむねは、琳との電話を切ったあと、よいしょ、とトラックに乗ろうとした。

 ショッキングピンクの可愛いトラックだ。

 デザイナーをしている社長の娘が描いたというゾウのゆるキャラが白い線だけで描かれている。

 何故、ゾウ……。

 まさか、造園業者だから?

 エンは何処に……と思ったとき、
「ねえ」
と背後から声がした。

 グレーのパーカーを着た若い男が立っていた。

 フードをかぶっているので顔が見えない。

 なにかの犯人っ? と水宗は思った。

 たまに琳と話すせいで洗脳されているのか。

 いつも少し遅めの昼ごはんを食堂でサスペンス見ながら食べているせいか。

 彼は少し高めの声で言う。

「あんたが悪いんだよ。
 あんたのせいだ」

 そのままきびすを返し、行ってしまう。

「待って、君っ」

 なんか怖い、と思いながら、水宗は彼に向かい呼びかけたが、そのまま走っていってしまった。

 
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