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壱 江戸すごろく
社長の呪いを解きましょうっ!
しおりを挟む「社長は呪いにかかって、ここにいるというより、なにか心残りがあって、ここに囚われているんじゃないですかね?」
そう壱花は言ってみた。
「人を霊みたいに言うな……」
と倫太郎は言うが。
「実は駄菓子を食べてみたかったとか」
「いや、嫌いだ」
「駄菓子屋で、もんじゃ焼きを食べてみたかったとか」
「この店は、もんじゃはやっていない」
と言ったあとで、倫太郎は言う。
「昔の駄菓子屋は結構いろんなものを売ってたらしいな。
衛生管理もなってない状態で食べ物を出してたから、当時の駄菓子屋とか海の家とかで食べるのは命がけだったらしいぞ」
それでも、子どもたちは親に内緒にしてでも買いに行っていたようだが、と言う倫太郎に、
「命をかけても食べたい。
それが駄菓子なんですね」
と壱花はしみじみと言った。
そんな壱花を見ていた倫太郎が、ふいに、
「……わかったよ」
と言ってきた。
「お前の言う通り、もしかしたら、俺の中に『駄菓子を食べてみたかった子どもの俺』がいて、ここに執着しているのかもしれない。
念のため、食べてみることにしよう」
「ほんとですか?
なんにします?」
「……なんかお前の店みたいだが、俺が店主だからな」
と抜け出したいと言うわりには、店主ヅラをする。
意外と子どもみたいだな、と壱花は思った。
仕事のときは即決即断揺らがないし、細かいことをぐだぐだ言う人ではないのに。
まあ、それはそれで格好いいが。
こういう方が親しみがわくな、と思って、ちょっと笑ってしまう。
レジ近くのお菓子をガサガサ漁っていた倫太郎は、
「これなら食えそうな気がする」
と言って、きな粉系のお菓子を引っ張り出してきた。
「私、おごりますよ」
社長の初駄菓子記念に、と思いながら笑って言ったが、
「駄菓子の先輩ヅラすんな。
自分で払う」
と言われてしまう。
……なんだ、駄菓子の先輩ヅラって。
倫太郎は、
「粉が飛び出してきそうだな」
と言いながら開け、
「手が汚れるな」
と言いながら、棒に刺さったきな粉の菓子を引っ張り出していた。
「うるさいですね、このお坊っちゃまは」
と思わず、口に出して言ってしまう。
「お前、それ職場で言ったら、ぶん殴るからな」
と言われたので、
ここなら言ってもいいのだろうか……と思ってしまったが。
「うん。
うまいじゃないか。
まるで、きな粉もちだ。
いや、これなら、普通にきな粉もちを食べた方がいいんじゃないか?
その方が量もあるし」
「いやいや。
きな粉もち作るの、大変でしょ?
これだったら、街中でふと、きな粉もちが食べたくなったとき、食べられるじゃないですか」
「街中でふと、きな粉もち食べたくなるときって、どんなときだ……」
ほんとうに細かいおぼっちゃまだ……と思う壱花の側で、倫太郎は言う。
「ちょっと待て。
それ以前に、全然、呪いが解けてないじゃないか。
やっぱり、駄菓子が食べたくて、ここにいるわけじゃないんじゃないか?」
「えー?
じゃあ、別のものですかね~?」
と壱花は少し腰を浮かして、店内の物を見回す。
天井からぶら下がっている玩具類が視界に入った。
「あ、駄菓子屋の玩具で遊んでみたかったのかもしれませんよ、お友だちと」
「……何度も言うようだが、友だちはいたからな。
お前の頭の中の俺がどんな感じか気になるぞ」
と言う倫太郎を、まあまあ、となだめ、奥の座敷ですごろくをすることになった。
妖怪すごろくだ。
「私、買いますよ。
これ、浮世絵っぽくて飾るのにも良さそうだし。
江戸時代にも流行ってたらしいですね、妖怪すごろく」
「まさしく江戸の品だな。
百種怪談妖物双六。
歌川芳員の作だ」
なにかの図録で見たことがある、このおぼっちゃまは言う。
この双六は出た目の数ほど進むのではなく、出た目の場所へ飛ぶらしい。
ふりだしは子どもたちが百物語をしている絵だ。
「じゃあ、社長なので、社長からどうぞ」
「なんだそれはありがたがれと言うのか」
一番手が必ず勝つわけじゃないだろと小憎らしいことを言ったあとで、
「レディファーストだ。
お前からやれ」
と言ってくる。
「俺は紳士だからな」
いや、紳士がこんなところで、あやかしの客が来ないか店先を窺いながら、妖怪すごろくしない気がするのだが……。
「ありがとうございます。
でもじゃあ、じゃんけんで」
と言ったが、やはり運が強いのか、倫太郎が勝った。
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