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弐 当たりクジ

疲れ果てなくとも、たどり着けます

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「そりゃあ、僕だろう」

 あやかしの美女が帰ったあとやってきたイケメン狐にその話をすると、笑ってそう言ってきた。

「……あの美女さんが、あなたは信用できないと言ってましたよ」
と言ってやると、

「それはたぶん、キヨはなだね。
 信用できないのはあっちの方だよ」
と言ってイケメン狐は笑っている。

 なんだろう。
 お互い、気心が知れているからこそ、罵り合っている感じだ。

 玄人と馴染みの客みたいな、と思いながら、壱花は訊いた。

「そういえば、お名前知りませんでした」
とイケメン狐を見て言うと、

高尾たかおだよ。
 呑気だねえ、化け化けちゃん。

 相手の名前は早くに手に入れておくもんだよ。
 その魂を握れるからね」
と言ったあとで、

「さあ、今日はなにをして遊ぼうか」
とにやりと笑って言ってくる。

「いやあの~、私、店番に来てるんで」
と言いながら気がついた。

 何故、すぐに、この人が冨樫さんと似ていると気づかなかったのか。

 表情が違うんだな、全然、とまじまじと高尾を見ながら壱花は思う。

 あくまでもクール。
 時折、さげすむように見下ろしてくるところがたまらないと一部の女子に熱狂的な人気のある冨樫さんと、何処か艶っぽいこのイケメン狐、高尾さん。

 表情と受ける雰囲気が全然違うから、その顔立ちが似ていることに気づけなかったのだ。

「あのー、人間のご兄弟とかいらっしゃったりしないですよね?」
と思わず訊くと、高尾は笑う。

「そりゃいるかもしれないよねー。
 うちの親がよそで作った、人間との間の子とか。

 安倍晴明だって、狐の子だろ」

 うーん。
 でも、冨樫さんにあやかしっぽいところはないけどなーと思ったとき、ガラガラ戸が開いて、倫太郎が現れた。

「すまん。
 遅くなったな」

 今では基本、この店は壱花がやっているので、倫太郎は帰りはともかく、来るときは、転移せずに歩いてくることが多いのだ。

 普通の人間なら、疲れ果てて迷い込まねば来られないようだが、倫太郎はいつでも自由自在に来られるようだった。

「なんだよ、お前。
 来なくてよかったのに。

 今夜も僕と化け化けちゃんで楽しい夜を過ごそうと思ってたのにさ」

 肩に回った高尾の手を払いながら、壱花は言った。

「まぎらわしい言い方しないでくさいよ~。
 一晩中、賭け事に付き合わされてるだけじゃないですか」

 やはり、あやかし狐、化かされて、騙されているっ、と思ったが、高尾に、

「いいじゃん、別に。
 だって、いつも最終的には、君が僕から楽しく小銭を巻き上げてるよね」
と言われてしまう。

「そいつ、意外に勝負運があるからな」
と恨みがましく倫太郎が言ってきた。

 前回、江戸すごろくで壱花が勝ったことをちょっと根に持っているようだった。

 意外に大人気ないな……と思いながら、店に入ってきた疲れたサラリーマンに、
「いらっしゃいませー」
と言う。

 サラリーマンは串にささった甘辛いイカをポットで、それとキンキンに冷えたビールを買っていった。

「やっぱり、よく売れますね、ビール」

「ああ」

「疲れたサラリーマンにはよく冷えたビールですよっ。
 どんな疲れも吹き飛びますよっ」

「じゃあ、社内にキンキンに冷えたビールを置いておいたら、もっと馬車馬のように社員を働かせても大丈夫かな」

 帰っていく疲れたサラリーマンを見ながら倫太郎が恐ろしいことを呟いている。

「……疲れないためには、こういう経営者をほうむるのが一番な気がして来ましたよ」

 社内ではとても言えないが。
 この異次元の世界ではオッケーか、と思って言ってみた。


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