あやかし駄菓子屋商店街 化け化け壱花 ~ただいま社長と残業中です~

菱沼あゆ

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参 付喪神

狸じゃないのか

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 岡山駅に降り立つと倫太郎が振り向き、言ってきた。

「そうだ。
 お前、せっかく来たんだから、ホテルじゃなくて、おばあさんのところに泊まってもいいんだぞ」

 おばあさん孝行してやれと言う。

「いやでも、朝になったら、私消えてるじゃないですか。
 夜もいきなり消えるだろうし」
と壱花は苦笑いする。

「夜と朝、ジョギングをしていると言え」

 そして、俺のホテルから走って戻れ、と言われてしまう。

「まあ確かに……。
 おばあちゃん朝早いから、起きるまでに戻るとすると。

 電車もバスもないから、走るか、タクシーに乗るかしかなさそうですね。

 でも、ホテルからおばあちゃんとこに戻るには山をひとつ越えないといけないので。

 結局のところ、タクシーしかないわけですよね~」
と壱花が言ったとき、冨樫が真面目な顔で、

「このアリバイ作りは金がかかりそうだな」
と言ってきた。

 いや、なんのアリバイだ……と思いながら、壱花は言う。

「そういえば、最近、社長のところで目覚めてばかりなので、自分のアパートって、ほとんど帰ってないんですよね」

 アパートにいるのは、ほぼ、休みの日の昼間だけだ。

「だったら、もう……」
と冨樫はなにかを言いかけやめる。

 なんだろうな、と思ったのだが。

 腕時計をチラと見た冨樫は、
「遅れると困るので、ホテルに荷物を預けに行きましょうか」
と言って、サッサと歩き出してしまった。



「いや~、緊張したあとに、山とか見るとホッとしますね~」

「お前、側に座ってただけなのに、なに緊張したんだ」

 もれなく倫太郎に罵られながら、壱花は二人とともに、祖母、千代子ちよこの家へと向かっていた。

 無事今日の会議が終わったので、岡山駅から桃太郎線と呼ばれる吉備線のディーゼルカーに乗ったのだ。

 朱色の懐かしい感じのするディーゼルカーだ。

 壱花は機嫌よく言う。

「この電車、久しぶりです。
 大抵、親の車で来るので。

 酢こんぶ食べますか?」
とまだ残っていた酢こんぶを差し出して、

「酢こんぶばっかり食えるか」

「遠足ではしゃぐ子どもか……」
と二人がかりで罵倒されたが、楽しかった。

「どうします?
 明るいうちに吉備津神社とか行ってみますか?」
と壱花は訊いた。

 会議は早くに終わったので、まだ三時だ。

「いや、おばあさんのところに先に挨拶に行こう。
 落ち着かないだろう」
と倫太郎が言う。

 わかりました。
 ありがとうございます、と言って、今度はバスに乗った。

 都会っ子な冨樫がだんだん沈黙してくる。

 心細そうに窓の外を見ながら、
「何処に連れ去られるんでしょうね……」
と呟き出した。

 さっきまで学生さんたちも乗ってたりして賑やかだったのに、だんだん、老人だけになり、その老人もいなくなり、窓の外には山と田畑ばかり見え始めたからだろう。

「……この田畑は誰が耕してるんでしょうね」

「狸じゃないのか?」

 あやかしと長く時を過ごしている倫太郎は、どんどんバスが田舎に向かおうとも特に動じず、適当に返事をしている。

「ああ、家が見えましたよ。
 こんなところに住んでいる人は、きっとなにかの罪を犯して逃げてきたんでしょうね」

「狸じゃないのか?」

 ……冨樫さん、社長。

 その話の展開具合だと、うちのおばあちゃんはなにかの罪を犯して逃げてきた人か、狸、ということになってしまいますが。

 そう思ったとき、倫太郎が窓の外を見るフリをしてなにごとか考えているのに気がついた。

 さっきの会議のことだろうかと思ったが違った。

「やはり、店の中を掘り返してみるか……」
と大事な仕事の決断でもしているかのような、見惚れてしまいそうな顔で呟いている。

 まあ、ある意味、店も仕事だが。

「掘り返してどうするんですか?」
と壱花が訊くと、

「ガム探すのに決まってるだろう」
と言う。

 どうやら、コーヒーガムと梅ガムを探そうとしているようだった。

「……おばあちゃんちとか、おばあちゃんちの近くの商店とかにならあるかもですね」

 復刻版なら辛うじて食べられるかもですよ、と壱花は呟く。



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